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たとえ地球が滅びても
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試練~明かされる過去~
消灯後、俺と栄喜はそれぞれベットの上で、ヘッドフォンをして今日の訓練の映像を見ていた。俺と栄喜は見る観点が違うから、別々に見た方がいいってことになったんだ。俺は、映像を見て皆が本当にすごいと改めて思っていた。健人は、必死でパソコンと俺たちを見ながら叫んでいる。その時に、紫のイノセントが出たのが分かった。栄喜も、俺をとっさに守ってくれようとして、明さん自身に攻撃した時赤いイノセントが出ている。智も同じだ。栄喜を守るため、攻撃した時に赤いイノセントが出ていて、多分、ロボが壊されたとき冷静に判断して脱出した時に青いイノセントが出たんだ。そして桜・・・。桜は、たとえ新人類の機体であっても攻撃をすることなんてなかった。でも、桜は明さんに攻撃しようとした。ピンクのシールドが作れるほど体力が残っていなかったのに、それでも桜は動いた。そして赤いイノセントが出現した・・・。俺はじっと映像を見つめていた。俺が明さんの攻撃を覚悟して目を閉じていた時、桜は泣き叫んで黒い壁に突っ込もうとしていた。それを無理矢理、健人と栄喜が抑えている。それでも、その二人を振り払おうとしている桜。桜はずっと俺を見てたって言ってたけれど、俺だってずっと桜を見ていた。でも、映像の桜は、今までに見たことのない桜だった。桜は俺を守るためにここに来てくれた。それなのに俺は・・・。映像を見ながら、桜がずっと俺にくっついていたのを思い出した。
俺は、桜へメールを打とうと思った。でも、なんて打てば良いか分からない。俺は落ち着いて昔からの事を考えた。改まって謝るのも、少しおかしい気がする。でも桜の心を少しでも楽にしたくて、俺はメールを打ち始めた。いつもインカムの通信で連絡を取り合ってるから、見る以外にあまりメール機能を使わない俺は少し手間取った。
「えーっと、・・・も、う、だ、い、じょ、う、ぶ、だ、か、ら、き、げ、ん、な、お、し、て・・・っと。変換は・・・これだな。あとは・・・これがハートだな。三個くらいつけたら許してくれるかな?・・・よし!送信!」
俺は栄喜がヘッドフォンをつけていてくれてよかったと思った。だって、メールなんて普段打たないおかげで、落ち着いて声に出しながらじゃないと打てなかったから。すぐに返信が来た。そこには、何個ハートをつけても許してあげないって書いてあったけれど、笑顔でアッカンベーをする動く絵文字がついていた。それを見て俺は自然に笑っていたけれど、不意にまたポケットのイノセントアームが熱くなっているのに気が付いた。いつから熱くなっていたんだろう?まさか、また色が出るのかな?
俺はベットから降りると、上で映像を見ながらパソコンをいじっている栄喜に合図をした。ヘッドフォンをとる栄喜。
「どうかしたのか?」
「あのさ、また、イノセントアームが熱くなってるんだ。もしかしてと思って。」
「・・・そうだな。起動させてみろよ。」
「おう。イノセントアーム・セット!」
戦闘服姿になって俺は驚いた。俺には四色目の・・・青色が追加されていた。解除をして無言で栄喜を見る俺。
「青は、智の出現から見ると冷静に考えて行動した時に出るようだな。お前、分析でもしてたのか?」
「いや・・・分析というか、桜に・・・。」
俺はなぜか口ごもった。桜にメールしただけなのに、なんで口ごもってるんだろう?
「まっ、よかったな。これで、四色じゃん。」
栄喜が少し意地悪っぽく笑った。その顔を見て少しむくれる俺。
「この時間だったら大丈夫だろうから、健人と幸多さんにメールしておくよ。健人も明日からの訓練について考えているだろうし、いつも幸多さん達への連絡を健人にさせるのも悪いだろ。」
そう言って栄喜がパソコンでメールを打ち始めた。早い・・・・。
「どうした?じっと見て・・・。」
「いや・・・お前、メール打つの早いな・・・。」
「分析・研究部隊ではこれが普通だよ。お前、メール打ってたのか?」
「べっ・・別にいいだろ!」
そう言ってベットに戻って行く俺。
「機嫌直せって。ちなみに、赤のイノセントについて、俺、ちょっと勘違いしていたかも。」
「勘違い?」
「そう。今日の映像を分析していて思ったんだ。俺は今まで、赤は攻撃力が強いから、真っ直ぐで迷いのない人・・・まぁ典型的にお前だよな。そんな人に出やすいと思っていたんだ。それは間違いではないんだけど、それだけじゃない。赤は、強い覚悟を決めた時にも出る色だと思うんだ。桜が一番分かりやすいだろ。質問は?」
「そう・・・だよな。桜は機体にも攻撃しないくらい優しい奴なのに、明さんに向かって行ったんだよな・・・。」
「そういう事。じゃ、俺はまたヘッドフォンつけるな。また何かあったら合図して。」
「分かった・・・。」
俺は、改めて映像を見た。・・・そして、いつか必ず桜を安心させられるようになりたいと思った。
マスター室
「泉に、青いイノセントが出現したそうです。」
明の隣に立っている幸多が言った。明は、ソファーでくつろいでいる。
「へぇー、あいつに青がねぇ。でも、ちょうどよかったじゃん。これで候補者全員、四色以上のイノセントを扱えるようになったんだから、文句なしじゃない?しかも結構バランス良く。これが偶然なのか、あいつの影響なのか、本当に人って分からないねー。それで、おねぇ、そのあたしの提案書、どうなの?」
明が楽しそうに言った。
春日は黙って、明の渡した資料を読んでいる。春日の机にハーブティーを置く照。
「明は、何にする?」
「あたしは、照お手製のいつものブレンドで。」
「肯定しました。幸多は?」
「俺はいいよ。ありがとう、照。」
照がハーブティーを入れ始める。
「明、確かにこの方法なら、今までより効率も良いし今のアース・ライトに合っていると思うわ。でも、この方法をとるっていうことは、今までのアース・ライトからやり方が大きく変わる。政府に提出する前に、ちゃんと創設者のお父様に意見をもらわないと。」
「あ、それなら全部メールしといたよ。」
「答えは?」
春日の言葉に、明が苦笑する。
「ちょうどシロタエギクが綺麗に咲いたから、他の花と合わせて送るって。銀(ぎん)白色(はくしょく)に見える茎や葉が私みたいでしょって。画像がついてた。それだけ。ちなみにシロタエギクの花言葉はあなたを支える。一つだと目立たない花だけれど、アレンジメントをするときとかはアクセントになる大事な花だね。なんともパパらしい答え方だね。」
照が明の前にハーブティーを置いた。
「それなら、良いんだけど・・・。一つ、気になる所があるんだけれど。」
「何?」
「この部分よ。」
春日が、明に印をつけた資料を見せる。
「そこ?照が入る予定だけど。っていうか、ちゃんと書いたと思うけれど。」
「それは読んだわ。私が聞きたいのは、あなたたち二人がどこに入るのか。」
春日の声が、少し怒った声になる。全く動じずに、ハーブティーを飲む明。
「照の入れてくれるものは相変わらず美味しいねー。おねぇもそんなに血圧上げずに、照のハーブティー飲みながらのんびりやろうよ。せっかく照がおねぇ用のブレンドをしてくれたんだから。」
「話をそらさないで!」
明がコップを置いた。真剣な目で、春日を見る明。
「平和交渉、上手くいってないんじゃない?」
「・・・・・。」
「幸也(ゆきや)さん、平和交渉役を外されたらしいね。」
「・・・なんでそんなこと・・・・。」
「あたし達だって一応レジェントだからね。そんな大事なことくらい、政府から連絡があるに決まってるでしょ。」
「・・・・・明、この前から、何を考えているの?」
「それは逆にあたしが聞きたいね。はっきり言って、おねぇだけじゃ何しても無駄だよ。後任はどうせ幸多にでも任せるつもりなんだろうけれど、あたしが気が付かないとでも思った?残念だけれど、あたし達はもうあたし達なりの準備を進めてる。・・・で、残された期間は?」
明が春日を睨み付けた。
「・・・・早ければ・・・一か月後。引き延ばせるだけ、引き延ばすつもり。」
「で、その後は?」
「・・・・・・。」
「はっきり言う。このアース・ライトに何より必要なのは、暖かくて優しい、究極の守りの白いイノセント。政府から見ても、あたしとおねぇ、どっちが必要かそんなの明白。なんのためにあたしがその計画書を作ったのか、それくらい考えたら分かると思うんだけれど。パパだって、何も言わなかったけれど分かってるはず。」
明の言葉に、春日が黙って歯を食いしばる。目には、涙が浮かんでいた。ハーブティーを一気に飲み干すと幸多を見る明。
「栄喜には、今後、今明が計画している場所に政府の文句なく入れるため、俺なりの試練を与えようと思います。早ければ二週間、遅くても三週間で結果を出すつもりです。」
「じゃ、今日の話し合いはしゅうりょーう。あたし、今日は結構疲れてるんだよね。あいつらのおかげで。じゃあねー!」
「待って!明!」
春日の声に、明は笑顔で手を振ると幸多と共に出て行った。
「・・・実はね、照・・・あたしにも、お父様からメールが届いたの・・・。」
春日は涙を流しながら、照にパソコンの画面を見せた。そこには、花の写真が四枚貼ってあり、その下には、温室でカモミールが沢山育ったから照くんのブレンド用に送るね。あと春の花ではハナニラが咲いたよ。今、秋の花も一生懸命温室を調整して育てていたんだけれど、ハマギクとオキザリスが綺麗に咲いたよ。と書かれている。
「カモミールの花言葉は、苦難に耐える。ハナニラは悲しい別れ。オキザリスは輝く心。ハマギクは逆境に立ち向かう・・・・。お父様は、明の意見が正しいという結論を出したことに間違いはない。何が言いたいのかも分かる。でも・・・私は・・・・。」
泣いている春日の肩に、照が肩を置いた。
「俺にも、覚悟はできていません。でも・・・明達は止められません。それが・・・二人が・・・本気で出した答えで・・・覚悟だって・・・。」
照も、声を詰まらせながら言った。
早速次の日から始めた俺たち用のプログラムは、想像していたよりずっと難しいものだった。午後から始めても、一日三回やろうと思ったらすぐ夜になってしまう。俺たちは使える色が増えた分、できることも増えたわけだから、その練習もしたい。
「これは結構きついな。少し、時間とやり方を変えた方がいいかもな。」
三回のシミュレーションを終えた後に息を切らしながら栄喜が言った。
「そうだな。この動き・・・多分、今の明さん達レジェントとマスターの動きに加えて、昔の四人の動きも組み込まれている。いわば、ここで最も強い人達とのシミュレーションだ・・・。でも、これはまだ軽い方だと思う。幸多さんは、データを見ながらどんどんレベルを上げてくる気だと思う。」
健人がパソコンを操作しながら言った。
「それなら、朝からここに来てやれるだけやって、それぞれの訓練をした方が良い。いや、それぞれの訓練をするだけの時間や体力もこれじゃ残らないな。・・・もう自主訓練をするんじゃなくて、徹底的にこのプログラムを使って体で覚えて鍛えろってことかもな・・・。」
「俺もそう思う。」
栄喜の言葉に、健人がうなずいた。俺と智、桜は声が出せるほど体力も残っていなかった。
こうして俺たちはやり方を変更して、次の日からは朝から徹底的にプログラムを実行した。一回一回、健人と栄喜が分析してアドバイスをくれる。皆でずっと自主訓練をしていたせいか、俺たちは練習をしなくてもシミュレーション中に技ができるようになったりもした。プログラムは健人の言った通り、どんどんレベルが上がっていく。でも、俺たちは誰一人弱音を吐かず、頑張った。
そんなある日、朝食を食べているときに幸多さんから俺たち全員にメールが届いた。今から第二研究所の、二階の資料室の奥にある幸多さんの研究室に来いとのことだった。健人が無言で何度も読み返していた。栄喜も首をかしげている。
「どうかしたのか?」
俺は二人に聞いた。
「いや・・・、この場所に研究室があるのは知っていたんだけど、ここって今は使われていないから・・・。」
栄喜が言った。
「元々は、幸多さんが専用に使っていたんだ。でも今は幸多さん専用ラボが三階にあるし、かなりの設備が整った研究室だけれど、ずっと幸多さんはカギを閉めていたんだ。あそこは・・・特別な場所だから。」
健人の声が少し暗くなった。
「健人くんや栄喜が呼ばれるのは分かるけれど、なんで私たちも呼ばれたんだろうね?」
智が首をかしげた。
「分からないけれど、とりあえず食べ終わったら行ってみよう。」
栄喜の言葉に俺たちはうなずくと、急いで朝食を食べて呼ばれた場所に向かった。
研究室に入る前、俺たちは全員不安そうに顔を見合わせたけれど、肩を組んで丸くなった。これ、あの訓練の後からプログラムをする前や、夜に解散する前とか節目節目にやるようになったんだ。これをすると、なぜか皆心が軽くなる気がするから。
俺たちは覚悟を決めて研究室の中に入った。
「うわぁ!」
中に入った途端、ぽっぽの大きな体が見えて俺は驚いて思わず声を上げた。
「ぽっぽっ。」
ぽっぽは首をかしげながら鳴いている。
「ぽっぽ、その子達は遊びに来たんじゃないんだよ。おいで。」
ぽっぽが明さんの声がする方に移動した。俺たちは中に入った。幸多さんは机の前の椅子に座っていて、明さんは四台あるパソコンを避けて机の上に座っている。机の上の広さもかなりあったけれど、それ以上に驚いたのはその奥に、訓練室のような部屋があったことだ。後、その奥にも扉がある。
「悪いな。突然呼び出して。」
幸多さんが俺たちを見ながら話し始めた。明さんはぽっぽをなでながら聞いているけれど、いつもと違ってあまり怖い顔をしていない。そのせいか分からないけれど、幸多さんがいつもより怖く感じる。
「率直に言わせてもらうけれど、お前たちの成長はアース・ライトの中で一番だ。新しいイノセントがどんどん出現して、その上連携まで上手くとれている。健人に送ってもらっているデータを見て、俺たちはやり方を変えることにした。今だからできること、今じゃないとできないことをやろうと思う。」
俺たちは黙って聞いていた。
「栄喜、お前、本気で研究者になろうと今でも思っているか?」
幸多さんの言葉に、栄喜は黙ってうなずいた。
「だったら、お前に課題を出す。ただこの課題は今のお前一人にやらせるには重いし、このメンバーはお互いを支え合えると思うから一緒にやることを許可する。これが何か分かるな?」
そう言うと幸多さんは、机の引き出しから二つのものを出した。一つは、明さんの戦闘を初めて見たときに明さんの使っていた弓矢のような武器で、もう一つは紛れもなく明さんがいつも戦闘服で使っている手袋だ。
「これは、俺が明だけのために開発したものだ。栄喜、お前にここまでのものを作れとは言わないが、俺を納得させるだけの新しい武器を、お前に開発することを命じる。この研究所を好きに使っていい。一週間後に、どれだけのものができているか一度チェックをする。期間が短いと思うのは甘い。戦場では常に新しいものが求められる。これは、ある意味俺からの試験だ。」
幸多さんの言葉に、俺たちは驚いた。
「お前が本気で研究者になりたいなら、今からでも始めろ。戦闘シミュレーション訓練室での訓練については、プログラムを大幅に変える。全員今日はやらなくていいが、明日からは一日一回でいいからやれ。その中で見えてくるものもあるはずだ。俺からはそれだけだ。問題ないな?」
幸多さんが栄喜をじっと見た。栄喜は静かにうなずいた。それを見た幸多さんは立ち上がると、黙って研究室から出て行った。幸多さんが明さんより先に動くなんて、ましてやおいていくなんて初めて見た。苦笑しながら机から降りる明さん。
「幸多はここが嫌いな上、分析・研究に関しては厳しいからねー。あたしは戦闘以外にはあんまり厳しくないから、特別にヒントをあげる。幸多には内緒な。まず、さっき幸多の言った全ての言葉の意味をしっかりと考えること。後は・・・そうだな、こいつ用のものを開発してやるのが良いんじゃない?」
明さんが俺を指さした。突然の言葉に俺は驚いたけれど、栄喜は黙って聞いている。
「まっ、ここで調べられるだけのものを調べつくして、考えて考えて考え抜くんだね。それでもどうにもなりそうになかったら、またヒントをあげるかもね。じゃあねー。ぽっぽ、行くよ。」
そう言うと、明さんはぽっぽを連れて出て行った。
「突然・・・・だな・・・。」
俺が言った。
「うん・・・かなり厳しいね・・・。」
智も俺と同じことになっている。桜は黙って心配そうにしている。
その時、健人が俺と栄喜の肩を無理矢理両腕で抱えて、智に合図をした。また丸くなる俺たち。
「大丈夫。皆で一緒に考えよう。俺も・・・知っていることを全部話してでも協力するから。なっ。」
健人が笑って言った。健人の言葉に驚いたし、知っていることを全部話すってことは健人にとって簡単な事じゃないはずだ。でも、健人は笑っている。俺は、その顔を見て自分が覚悟を決めた時の事を思い出した。
「俺たち、ここまで皆でやってきたじゃん。やろうぜ、皆で!」
俺も笑って言った。栄喜の表情が軽くなって、うなずいた。
「じゃあ、とにかくまずは今までの武器について読めるだけの資料を読んでみる。皆、色々と頼ると思うけど、よろしくな。」
栄喜が言った。
「何を今さら!当たり前だよ!!」
智が笑って言った。桜も笑顔でうなずいた。
そして栄喜は資料を集めに外に出て行った。健人は、パソコンで出せるだけの資料を出すと言って作業を始めた。俺たちは奥のドアが気になって、訓練室の中に入ってみた。なんだか、俺たちの訓練している所と雰囲気が違う。奥の扉を開けると、台所があった。少し意外だったけど、考えている時間もないと思った俺たちは、外に出て俺は栄喜の資料を運んだり、智と桜は栄喜の読んでいるもの以外を読んで使えるものがないか調べていた。
あっという間に昼になったけれど、栄喜は集中している。
「栄喜、昼飯に行こうぜ。自主訓練が始まった時、皆で食うことを一番大事にしていたのはお前だろ。」
俺は栄喜に向かって言った。栄喜は顔を上げたけれど、あまり乗り気ではない様子だ。栄喜のそんな姿を見るのは初めてだし、その顔を見てこの試験がどれだけ難しいものなのかが分かった。
「ねぇねぇ、せっかく奥に台所があるんだから、私と桜でレシピと食材をもらってきて、一緒に作るからここで食べられるようにしよ!そうしたら、皆で食べられるし栄喜も移動の時間とかかけなくても済むでしょ。味は保障しないけどね!」
智が笑顔で言った。智を見てうなずく桜。
「なら、俺も食材運びとか手伝いに行くよ。実は、昔照さんから料理とか教えてもらったこともあるからさ。」
健人が少し照れながら言った。
「じゃあ、決定!ちょっと三人で食堂まで行ってくるから、泉と栄喜は作業を続けて。」
智が笑顔で言うと、外に出ようとした。
「ごめんな・・・。」
栄喜の言葉に、智が笑顔で振り返った。
「私たちは家族、でしょ!」
そう言うと、三人は研究室から出て行った。
「栄喜、どうしたんだよ。お前らしくない顔して。たまには俺も頼ってくれよ。役には立てないけど。」
「いや・・・武器自体の構想や、作り方なら頭にあるんだよ。あとはそれを一番お前の使いやすいものにすることだけなんだけど・・・。明さんがくれたヒント・・・幸多さんの言葉の全ての意味・・・それが分からなくて。」
「難しいことばかっりだったよな。でも、俺が一番頭に残っているのは、今だからできること、今じゃないとできないことって所。俺からしたら同じ意味に聞こえるんだけれど、なんで幸多さんは分けて言ったんだろうな。」
「・・・・・そうか・・・。泉、お前最高だ!」
栄喜の突然の言葉に、俺は驚いた。
「今、戦闘に俺たちは出ていないだろ?つまり、俺が集中して研究ができるのは今だからできる。そして、俺たちは他のチームよりはるかに上のことをやっている。他のチームも訓練でレベルを上げないといけないわけだから、その間の今じゃないとできない。つまり、本気で研究者になるために何かするなら今しかないってことだと思う!」
「さすが栄喜だな!じゃあさ、明さんはなんで俺用の武器を作ることをヒントにしたんだろう?だって、武器って皆使うだろ。別に俺用じゃなくても良いと思うんだけどな。」
「そうだよな・・・。研究者は、武器を開発するけど実際に使うのは戦闘員だろ?そういう意味では分かるんだけれど、だったら桜だって戦闘員だし、俺だって戦闘員も兼ねてる。だから分からない。」
「そもそも、なんで幸多さんは明さんだけの武器を作ったのかな?黒いイノセントと関係があるのかもしれないけれど・・・。でも、他の戦闘員でも使えないことはないはずだよな。・・・健人に聞くのがいいかな?」
「いや、今はまだ良いよ。俺、今の泉の言葉で自分が何を考えなきゃいけないのか分かった気がするんだ。だから、もう少し自分で考えてみるよ。」
「俺、少しは役に立てたかな?」
「少しどころか、最高だって言っただろ。質問は?」
栄喜がいつもの口調に戻ったから、俺は少し安心した。でも、俺の言葉のなにが良かったのかは分からなかった。
智と桜と健人は戻ってくるなり、奥の台所で楽しそうに昼食を作っている。俺は、
邪魔したら悪いから栄喜の資料の整理や言われた資料を持ってくる手伝いをしていた。
「じゃじゃ~ん!!できたよ!私たちの特製カレーと、サラダ!・・・って言っても、ほとんど健人くんがやってくれたんだけどね。」
智が笑顔で言った。俺たちは全員休憩にして、訓練室で丸くなって座ってカレーを食べ始めた。・・・うまい・・・。食堂で食べるものより、物凄くうまい!!
「すげー!!これ、マジでうまい!」
俺が言った。
「私たち・・・健人くんに言われるままやっただけだから・・・。」
桜が笑って言った。
「照さん、料理とか上手いから。特にカレーはね。」
「そうなんだ!やっぱり、照さんって一番なぞの人物な気がする。物凄くすごいのは分かるんだけれど、一番つかめないって感じ・・・。」
智が考えながら言った。
「・・・ありがとな。」
栄喜が言った。俺たちは笑顔で答えた。
それから四日間、俺たちは朝シミュレーションの訓練をして、それからすぐに栄喜の手伝いをした。栄喜の作ってくれている武器はもう大分形になっていて、俺は本当にすごいと思っていたんだけれど、日に日に栄喜が悩んでいる顔をしている。でも、栄喜は必死だったから俺たちは手伝うことしかできなかった。
四日目の夜。
「皆、疲れて寝ちゃったね。はい、これ、飲んでみてくれる?」
智が栄喜の前にカップを置きながら言った。二人以外は全員、第二研究所で作業をしながら眠っていた。
「智も、そろそろ休めよ。・・・これは?」
「とりあえず、飲んでみて。」
言われた通りに黙って飲む栄喜。
「うん。すごくうまい・・・。なんだか落ち着く香りと味だな。」
栄喜の言葉に笑顔になる智。
「どうしたんだ、これ?」
「実はね・・・。今日、資料を見ていた時、周りに誰もいないのを確認したように明さんが来てね、栄喜が根詰めてるようだからってこの資料をくれたの。照さんのノートを分かりやすくまとめてくれたらしいんだけれど、色んなハーブティーの入れ方が書いてあったんだ。試しに、気持ちが落ち着くっていうハーブティーを入れてみたんだ。」
「そうなんだ・・・。明さんって、戦闘以外の時は本当に優しいんだな。」
「そうだね。私も驚いた。・・・大変かもしれないけれど、私たちにできることは全部やるから。今までだってそうだったんだから。大丈夫だよ。」
智の言葉に、栄喜が少し笑ってうなずいた。
五日目の朝。
俺は皆でシミュレーションをした後、栄喜に映像資料室の動画を持ってきてほしいと言われて、自分のパソコンにいれてから第二研究所前の芝生で健人と桜を待っていた。二人は昼の食材を取りに行っているから、待ち合わせて戻ることにしたんだ。
そういえば、ここで健人は泣いていたんだよな・・・。俺は、なんとなく慰霊碑に近づくと、初めて慰霊碑をちゃんと見た。そこには驚くほど数多くの名前が書いてあって、栄喜の言っていたように自分が何も知らないことを感じさせられた。
「なにしてんだ?」
明さんの声に、俺は驚いて振り返った。明さんは、綺麗な器に沢山の花が入ったものを二つ持っている。第二研究所の前に幸多さんとぽっぽがいるけれど、こっちを見ていない。
「あの・・・健人と桜と待ち合わせをしていて・・・。」
慌てて俺が言ったけれど、その間に明さんは慰霊碑の前にまた一つ花を置き、あの四角い棒の前にも花を置くと俺の隣に来た。
「ここに書いてある全員を、あたしは知ってる。全員、あたしが助けられなかった人達だから。」
明さんの言葉に、俺は何も言えなかった。
「戦争が再開されてからは一人も死人が出てないからね。戦闘服も進化して、武器も進化した。実力は前と比べて大幅に低いのに、向こうも無人機しか送ってこないからなんとかなってる。・・・あたし達の頃はね、直接新人類が機体を動かしていることが普通だったし、それに加えて無人機もいた。」
そう言うと明さんが俺を見た。
「誰よりも、そして手っ取り早く強くなる方法、教えてやろうか?」
俺は、何も言えなかった。いつもの明さんとは雰囲気が違ったから。でも、その方法が知りたくて俺はゆっくりとうなずいた。
「そうだな・・・お前の場合は、桜が目の前で新人類に殺されたらなれると思うよ。」
俺は、衝撃で固まった。
「想像してみな。桜が新人類に殺されて、ショックで油断した智は攻撃を受けて大怪我。健人は責任を感じてお前を避けるようになる。栄喜はやっきになって研究に打ち込み、部屋にも帰ってこない。・・・そうなれば、お前は誰よりも戦闘で強くなれる。憎しみは、迷いなく戦う力になるから。」
明さんの言葉に、俺は震えていた。想像しているだけなのに、怖くてたまらない。俺は、皆を守りたくて強くなりたい。ここの本質だって、そういう事なんだってなんとなく分かってきてた。明さんはそれに反する事を言っている。でも・・・その皆が戦争でそうなったら・・・?俺は、段々と息が苦しくなって足が立たなくなってきた。明さんは、そんな俺をちらりと見ると無言で去って行った。俺は、そのまま膝をついた。震えが止まらない。
「泉、どうしたんだ!?」
どれくらい時間がたったのかも分からなかったけれど、健人の声が聞こえて、健人が慌てて俺を覗き込んでいるのが分かった。桜も驚いて俺のすぐ隣に座って俺を見ている。
「俺・・・俺・・・・・・。」
何か言いたいのに、声が出ない。健人が、チラリと慰霊碑の前の花を見た。
「明さんに、何か言われたんだな?」
俺は健人の言葉に答えられなかった。下を向いて、息の苦しさと頭の混乱と戦っていた。
「桜、これ、俺が持って行ってすぐ戻ってくるから、泉のこと頼む。二人にも説明してくるから。」
「わかった・・・。」
二人の声と健人の走る音が聞こえた。
「泉・・・。」
桜が、俺の背中をさすりながら抱きしめてくれた。
「大丈夫。大丈夫だよ・・・。私がいるから・・・。絶対に泉を守ってあげるから・・・。」
その言葉に、俺は安心と恐怖が入り混じった。そして最初の特別訓練を思い出した。もし、俺をかばって桜が死んだら・・・?俺は桜を抱きしめた。
「・・・・俺・・・皆が・・・お前がいなくなったらどうしよう・・・・・。」
「大丈夫、誰もいなくならないよ・・・。皆、泉のそばにいるよ・・・。」
桜の声と暖かさ。
「桜、泉!」
栄喜の声がする。
「立てるか?俺たちで支えるから。」
健人の声。俺は二人に両脇を支えられて歩いた。
「・・・ごめん・・・栄喜・・・大事な時に・・・・。」
「何言ってるんだよ。こんなお前をほうっておけるわけないだろ。俺の方はもう完成が近い。だから心配するな。質問は?」
「・・・・・。」
俺は、三人に連れられて研究室に戻った。俺を見た智は、すぐに台所に入って行った。俺は、椅子に座らされたけれど、混乱でどうすればいいのか分からなかった。
「泉、明さんに何を言われたのか言えるか?」
健人の声に、俺はゆっくりと首を横に振った。口に出すのが怖かった。考えただけでもこんなに怖いのに、健人はその体験をしていることくらい分かる。・・・俺は今まで何度も戦闘に出たけれど、そんな事考えたことなかった・・・。自分が強いと勘違いして、皆に支えてもらっていることにすら気が付いてなかった・・・。
智が台所から出てきた。湯気の出ているカップを俺の前に置く。
「桜、ちょっと熱いけど、無理矢理にでも泉に飲ませてみて。」
智の声が聞こえる。桜が、俺の手でカップを持たせてくれて、ゆっくりと中身を飲ませてくれた。俺は自分が落ち着いていくのが分かったけれど、意識が段々と遠のいていった。
「智・・・何を飲ませたの?」
栄喜と健人が第二研究所で使っている仮眠用ベットに泉を運んだ後、桜が言った。
「照さんのノートに書いてあった、混乱した時に良いっていうハーブティー・・・。眠気もきて、ゆっくり寝られる作用もあるって書いてあったから・・・。今の泉にはそれが必要だと思って。」
「智の判断は正しいよ。照さんは、明さんと春日さんのために沢山のオリジナルブレンドを作っていたから。その中から一番良いものを選べるのは、智だからできることだと思う。」
健人が言った。
「俺の見たかった映像はパソコンにとってきてくれているんだろうし、その映像だけ泉のパソコンから見るから、今日はゆっくりと泉は寝かせてやろう。何があったのか分からないけれど、こんな泉を見るのは初めてだ。桜、何か聞いてないか?」
「私も・・・こんな泉、見たことない・・・。でも・・・すごく怯えているのが分かった。私たちがいなくなったらどうしようって、言ってた・・・。」
「・・・明さんが、きっと泉に戦争への恐怖を感じさせることを言ったんだろうな。場所も場所だったし・・・。・・・明日、最後の日だし、シミュレーションを休ませてくれないか頼んでみる。栄喜も、武器がちゃんと使えるかここでやってみた方がいいだろ?」
「そうだな・・・。いつも悪いな、健人。」
「いや、俺はやりたくてやってるから。皆が家族って言ってくれるのが本当に嬉しいから。」
健人が少し笑って言った。
「俺、ちょっと明さんの所まで行ってくるよ。」
健人は真面目な顔になると立ち上がった。
「行ってくるって・・・。明さんは三階にいるんだよ?あそこは明さん達三人とマスターしか行けないんじゃ・・・。」
「あの・・・実は俺も入れるんだ。今は、本当に必要な時しか入ったらいけないって言われているけれど、泉をこのままにしておけないから。行ってくる。」
智の言葉に少し申し訳なさそうに健人が言った。
「健人に頼もう。俺たちは、俺たちのやるべきことをやっているから。戻ってきたら、また話し合おう。質問は?」
栄喜の言葉にうなずくと、健人は出て行った。
幸多のラボ
「幸多さん、明さん、いらっしゃいますか?健人です。」
「いるけど。入っていいぞ。」
「失礼します。」
健人がラボに入った。幸多がパソコンから健人に向き直る。明はいつものようにベットで横になっている。
「どうした?武器のことなら、明後日まで何も言わないぞ。」
幸多の言葉に首を振る健人。
「明さん、泉に何を言ったんですか?」
少し怒ったような声で、健人が明を見ながら言った。
「べっつにぃ~。本当の事、教えてあげただけ。だって、あいつ強くなりたいって言ってたじゃん。だからその方法を教えてあげただけ。」
「あんな泉は初めて見ます!泉が耐えられない事を言われたのは見て分かります!今、泉は照さんのオリジナルブレンドのハーブティーで寝させました。明日は、シミュレーションに出せれません。明日の俺たちのシミュレーション訓練は、休ませてもらいます!」
健人が明に怒って言った。
「どんな状態でも、戦わなきゃいけないのが戦闘員だと思うけれど。」
明が真面目な顔になって健人に言った。
「その通りです。でも、一人に全てを背負わすのは違うはずです!誰かが出られないときは皆でカバーする。それがここの本当の姿のはずです!!」
健人が叫んだ。幸多は黙ってやり取りを見ている。
「・・・分かったよ。明日と明後日は全員やらなくて良い。明後日は幸多がつくったものを見に行くからね。健人があいつのためにあたしに対してそこまで怒るなんてね。人生、何が起こるか分からないな。あたしは寂しいよ。健人が急に大人になったようで。」
「・・・・・・。」
「ただ、あれだけの言葉でそこまでなるなんて、あいつは変わったんだな。今のあいつは本当に仲間を大切だと思ってる。だからこそ、言ったんだよ。」
「何をですか?」
「要約すると、桜が殺されて皆バラバラになったら強くなれるって。」
「・・・・・。昔と今は違います。俺は、誰も殺させないしバラバラにもなりません。失礼します。」
健人が少し暗い顔になって言うと、ラボから出て行った。
「あーあ。本当に成長しやがって。」
「今のタイミングで言うなんて、栄喜を助けているように見えるけど。・・・照のハーブティーのレシピについても。」
幸多が明に言った。
「あたしは優しいんだよ~ん。」
明が布団の中に隠れた。幸多はため息をつくと、パソコンに向き直った。
「私が殺されて、皆がバラバラになったら・・・強くなれる・・・?」
桜が驚いて言った。うなずく健人。
「要は、新人類に憎しみを向ければ、新人類と躊躇なく戦えるだろ?復讐のために。でも、そんな事しても心は楽にならないし、安らぎの日は来ない。そもそもここは新人類に敵意を向ける場所ではない。明さんはそれを伝えたかったんだろうけれど、泉には重すぎる。確かに、休戦になる前の戦争は多くの人が犠牲になって、明さんは今でもそれを背負っている。・・・俺も、両親が死んでる。俺も新人類が憎かった。それでここに来たんだけれど、明さん達が俺にここの本質を背中で教えてくれたから・・・。」
健人がうつむいた。
「泉・・・・。私、どうしたら・・・。」
泣きそうになっている桜を、智が抱きしめた。
「・・・明日、本当は泉に武器を使ってみてほしかったんだけれど・・・。無理だろうな。」
栄喜が言った。
「栄喜くん・・・泉は・・・やると思う・・・。きっと・・・自分の心を隠して・・・。泉は、単純に見えて・・・。」
桜が智の胸に顔を隠しながら言った。
「・・・いつも通りにしよう。その毎日が、一番大切な時間だと思うから。」
健人が言った。全員が、うなずいた。
六日目の昼。
「泉、どうだ?使い心地は。」
「おう!使いやすいし、俺にぴったりの武器だと思う!」
俺は笑顔で言った。朝起きた俺は、なんで自分が寝ているのか覚えていなかったけれど、皆が普通にしてくれていたから安心して栄喜の武器を試していた。朝、また智が何か飲ませてくれて、俺は少し気持ちが落ち着いていた。この時間がなくなると思うと、怖くてたまらない。でも・・・だから、この時間が何よりも大切で幸せな時間だってことも分かってきた。
健人がパソコンを見ながらうなずいている。
「後は、幸多さんが認めてくれるかどうかだな・・・。」
栄喜が言った。
「大丈夫だって!こんなに使いやすい武器、絶対に認められるよ!」
俺は笑って言った。
そしてついに七日目の朝、幸多さんと明さんとぽっぽ、それに照さんもやってきた。
「照さん!あの・・・ハーブティー、とても役に立ちました。ありがとうございました。」
智が頭を下げた。
「よかったよ。あれは、俺が明とマスター、幸多のために必死になって色々作ったものでね。それが大事な後輩に受け継がれるのは嬉しいよ。」
照さんが笑顔で言った。
「じゃあ、見せてもらおうか。栄喜。」
幸多さんが栄喜を見た。うなずく栄喜。そして栄喜の開発した武器を出した。先端が細くて槍の形になっている、名付けてイノセントスピアー。長さも調節できるし、ソードとガン、両方の機能も付いている。俺からしたら、物凄いと思うんだけれど・・・。幸多さんは黙って色々見たり使ったりした後、イノセントスピアーを置いた。
「武器としては言うことなしの発明だな。泉の攻撃的な戦い方にも合っているし、他の戦闘員でも使いやすいだろう。でも、俺はこれをまだ認められない。」
幸多さんの言葉に、栄喜の顔が凍り付いた。
「栄喜、お前は、新人類を倒したくてここに来たのか?お前はなんのために研究をする?もう一度よく考えろ。三日後、また見に来る。このイノセントスピアーを、俺の認められるものにしてみろ。」
幸多さんはそう言うと、そのまま出て行った。
「栄喜、君は言っていたよね。研究は人を幸せにするものを作れるって。確かに、今作っているのは武器。決して人を幸せにするものではないかもしれない。でも、繋がることはあるはずだよ。周りを良く見てごらん。君の大切な人たちを。」
照さんは笑ってそう言うと、部屋から出た。
「照、ほとんど答え教えてるし。まっ、あたしからも答えに繋がるものをあげるよ。健人があたしにこいつのことで怒ってきたからね。それなりの覚悟があるんだろ?健人。」
明さんが俺の事を見た後、健人に言った。健人、俺の事でそんな事してくれたんだ・・・。栄喜はかなりショックを受けた顔でうつむいている。健人は明さんに対してうなずいた。
それを見ると、明さんは栄喜の首に何かぶら下げた。それを見て驚く栄喜。
「重要資料室の入室許可書だ。健人が、大切なことを教えてくれるはず。それとな・・・。」
明さんが栄喜の肩に手を置いた。
「幸多があたしのものを作るのに、一か月以上はかかってる。何度も失敗して、何度もやり直して、やっと出来上がった。一度、あれくらい言われたくらいで落ち込んでたら、研究者にはなれないよ。」
明さんは、健人に目配せすると出て行った。
「重要資料室・・・。絶対に持ち出し禁止で、秘密事項の情報もある所だろ・・・?そんな所に、俺たちが入っていいのか・・・?」
栄喜が許可証を見ながら言った。
「明さんが考えていること、なんとなく分かった。栄喜、皆で行こう。ショックなものばかりだと思うけれど、皆で乗り越えよう。全部、皆に分かるように説明するから。」
そう言うと健人はまた丸くなる体制になった。全員で肩を組む。
「私たちは家族!健人くんの言う通り、皆で乗り越えよう。栄喜、今自分のやっていることに自信を持って!あなたは今誰よりも幸多さんに認められてるんだから!」
智が笑顔で言った。栄喜も、笑ってうなずいた。
俺たちは全員で重要資料室へ行った。入室許可書を当てて、中に入る。中には、沢山の資料があった。
「皆にも分かるように、映像で大事だと思うことを説明しながら見せるよ。皆が知りたいこともあると思う。」
健人の言葉に全員がうなずいた。
「まず・・・これが、昔の・・・新人類と地球人が分かれる前の映像だよ。」
そう言うと健人は一つの映像を再生し始めた。
「はーい、今回の、笑顔の花を咲かせようパーティーのちっちゃなプロデューサーさん、お願いしまーす。」
男の人の声と、女の子と男の子二人、それにぽっぽが映った。
「この映像を撮った人がアース・ライトの創設者。明さんと春日さんのお父さんだよ。この女の子が明さん、右の男の子が幸多さんで左の男の子は海(かい)輝(き)さんっていって、新人類になった人なんだ・・・。このパーティーは、新人類と地球人に分かれる前に、最後に行われた仲の良い人達でのパーティー。」
健人が説明をはさんでくれる。
「はーい!総合プロデューサーの明、12歳でーす!こっちがアシスタントの幸多と海輝でーす!そしてこの子は、森でお友達になったぽっぽちゃんでーす!これから、パーティーの準備の進み具合をレポートしまーす!」
今とは全く違う明さんの笑顔。明るくて、とても楽しそうだ。
「まずは、飾りつけ担当の照でーす!」
「いや・・・俺は映さなくていいから・・・。」
「もう!しょうがないなぁ!次に、お料理担当の、おねぇちゃんと幸也さんのラブラブカップルでーす!」
カメラが、春日さんと男の人を映した。
「明、余計な事言わないで。」
春日さんは今と全く違った。冷たい印象で、すこしきつい感じだ。
「明ちゃん、張り切ってるね。俺たちも頑張らなきゃね。」
幸也さんと言われた人が笑顔で言った。
「この人は、幸也さん。春日さんの恋人だったんだけれど・・・この人も新人類になることになったんだ。必要だと思う部分だけ映すね。」
健人の声。健人はリモコンで映像を早送りした。次に映し出されたのは、明さん達三人が温室のような所で、沢山の花を切っていた。
「パパ、本当に好きな花を使っちゃっていいの?」
明さんがカメラに向かって言った。
「もちろん。明がプロデューサーさんだからね。でもね、明。大事な事を知っておいてほしい。」
「何?」
「今、明は自分で花を選んでいると思うけれど、違うんだよ。花が、明を選ぶんだよ。花には分かるんだよ。自分を一番輝かせてくれるのが誰か。」
「うん!じゃあ、いっぱいお花を飾るよー!!」
明さんが元気よく幸多さんと海輝さんに言った。
また、健人が早送りした。次に映されたのは、パーティーらしい光景だった。皆、楽しそうに笑っている。でも、どこか寂しそうだ。春日さんと幸也さんは、ずっと二人で手を握って話をしている。少し離れた所に、照さんがいた。
「プロデューサーさん、パーティーは大成功ですな!」
明さん達三人が映された。明さんは可愛いドレスを着ていて、幸多さん達もパーティー用の服を着ている。
「うん!笑顔の花がいっぱいだね!離れ離れになっても、みんなずーっと仲良しだね!」
笑って明さんが言った。
「・・・そうだね。じゃあ、ここでプロデューサーさん、将来の夢を教えてくださーい。」
明さんは少し考えて、笑顔で言った。
「あたし、また、こうやってみんなが楽しめるものをプロデュースしたい!それから、一番の夢はね・・・。」
そう言うと、幸多さんと海輝さんの腕に手を回して、三人でくっついた。
「あたし、二人のお嫁さんになる!それでね、まず白のドレスを着て、海輝とはピンクのドレスで、幸多とは黄色のドレスを着て、それで三人と皆でパーティーをするんだ!!」
明さんはものすごく笑っているけれど、海輝さんと幸多さんはその上で火花を散らしているのが分かる。
「ははは・・・。それは、良い夢だね。明、今日の事を忘れないで。明一人だと、このパーティーは成功しなかったよね?傍で手伝ってくれる人たちがいて、そして来てくれて楽しんでくれる人たちがいる。みんなが支え合って出来上がったパーティーなんだよ。」
「うん!!絶対に忘れないよ!」
健人が映像を止めた。
「明さんと春日さんのお父さんは元々植物学者で、色んな研究をしていたんだ。そして、当時の世界政府の一人でもあった。だけど、植物が好きな二人のお父さんは移住しない道を選んだ。・・・でも、戦争が始まろうとした時に、新人類と戦う組織を造ることを世界政府から命じられたんだ。それで、できたのがアース・ライト。・・・これからは、ちょっと衝撃的な映像を見せるね。」
健人が別の映像を流す。それは、戦いの映像だった。
「これが昔の明さん達。イノセントアームを開発したお父さんは、それを使える人間を戦わせるしかなかった。明さんと春日さんは、無敵の二人と言われた戦闘員だったんだ。あの頃、戦闘員はサポートロボの操縦もしていた。照さんはロボの操縦がこの頃からうまくて、幸多さんはどっちも兼ねていたんだ。今よりロボの数が少なかったし、そもそも戦闘服や武器も今ほどのものじゃなかったんだ。でも・・・さっき見せた映像の通り、皆にとって新人類は敵じゃない。だから皆すごく苦しんでいたと思う。」
俺たちは戦いを見つめていた。俺たちの戦いなんて比じゃない。新人類の乗った機体何台もと、無人機を相手に少ない人数とオペレーターの声で戦っている。
「明!もっと冷静に戦って!」
春日さんの声。
「分かってるよ!ぽっぽ、行くよ!!」
明さんはこの時からぽっぽに乗っている。そして・・・春日さんと明さん、今と正反対だ。明さんは、まるで俺が戦っていた時のように突っ込んでいて、春日さんがサポートをしている。
健人が映像を止めた。
「ごめん、ここからは、俺、見れない。この日、俺の父親が死んだんだ。そして俺は、新人類に復讐したくて隠れてこっそりここに来た。俺が10歳の時だった。すぐに見つかったんだけど・・・。その時の映像がこれ。」
健人がまた別の映像を再生した。
「俺は、ここに入って戦いたいんだ!」
幼い健人が叫んでいる。
「でもね、健人くん・・・ここは14歳にならないと入れないんだよ・・・。」
男の人が、困っている女の人と春日さんと説得をしている。声で分かったけれど、明さん達のお父さんだ。そして女の人は健人の母親だと思った。
「だけど、俺はイノセントアームをセットできる!イノセントアーム・セット!」
健人が戦闘服姿になった。赤いイノセントがついている。
「健人くん、それをどこで・・・。」
驚いている三人。
「父さんのやつを形見としてもらったんだ!戦闘服になれるんだから、俺も戦える!」
「でもね・・・健人くん、君の悲しみは分かるけれど、ここは、新人類を憎んで戦う場所じゃ・・・」
「待ってください。」
明さんの声がした。映像に、明さんと幸多さん、照さんが映る。
「その子は、分析・研究部隊に入れてあげてください。それなら、お母さんと一緒にいられます。普段の生活は、あたし達が責任をもって面倒見ます。ここに来てしまった時点で、ドームには返せないはずです。」
明さんが言った。
「明!あなた自分が何を言っているのか分かっているの!?ここは、新人類から地球を守る正義の場所でも、新人類を憎んで戦う場所でもないじゃない!ここは地球の光・・・地球に生きる人たち一人一人の輝きを守る所!そして私たちの大事な仲間を守るために戦ってるんでしょ!!あなたはそれを誰よりも分かっているはず!」
春日さんが言った。とてもきつい言い方で、春日さんだとは思えない。
「分かってる。外から見た地球が例え昔のように輝いていなくても、あたし達皆一人一人は輝きを秘めている。だからここの名前はアース・ライト。分かってるからこそお願いしたいの。だって、ここにいる皆は家族でしょ?・・・母親が子供といることは悪いことですか?」
明さんがお父さんに言った。お父さんはじっと考えた末、明さんを見た。
「明、本当に責任をもって面倒を見られるんだね?」
「はい。約束します。」
「分かった。戦闘中は、絶対にお母さんのそばにいるように。それ以外は、明たちの誰かと必ず一緒にいるんだよ。それが約束できるなら、政府に内緒で君をメンバーに入れよう。」
お父さんの言葉に、幼い健人は黙ってうなずいた。
映像を止める健人。
「こうして俺はここに入った。それからずっと、明さんにくっついてたんだ。明さんの真似ばかりして、トレーニングや、戦闘訓練も明さんがしてくれた。そして、その暖かさで俺はここの意味を少しずつ理解できた。明さんはいつも笑っていて、皆の中心にいた。逆に春日さんは今と違って厳しくて、明さんとは相部屋で仲良くしていたみたいだけど、外では一人の事が多かったんだ。」
俺たちは黙って健人の声を聞いていた。
「智の最初の試験の時さ、昔の事例って明さん言っただろ?あれ・・・実は俺が人質になったんだ。その時の映像を流すけれど、けっこうきついかも。」
健人が映像を再生した。そこには衝撃の光景が映っていた。何人もの人が倒れていたり怪我をしていて、ロボも壊れている。戦闘終了後のようだった。そして、倒れている一人に救護機を当てている照さん。その横で、明さんが大声で泣いている。ぽっぽが明さんにすり寄っている。
「起きてよぅ!もうこれ以上友達が死ぬのは嫌だぁー!!お願いだから、起きてよぉー!!」
幸多さんが走ってきた。後ろに健人もいる。幸多さんは黙って明さんを抱きしめた。泣き続ける明さん。照さんは、救護機を止めると幸多さんに向かって首を振った。
「明。ここは戦場。一人一人の死に涙を流していたらきりがない。いい加減にしなさい。」
春日さんが通りすがりに言った。本当に、今の春日さんだと思えない。その時。新人類らしい人が全身むき出しだけれどまだ動けたらしい機体で、一瞬で健人をさらった。それを見て、瞬時に動く明さん達。でも、健人の首にナイフが突きつけられ、空中で動けなくなった。
「このガキの命が惜しければ、すぐに降伏しな!!どうせ地球はもう滅びるんだ!!みっともない星をさらすのもいい加減にしろ!!」
新人類の女の人が言った。
「待て!一人殺したいなら、あたしを殺せ。あたしとそのガキ、どっちを殺した方がお前の得になるか、一目瞭然だろ。その代り、ここは降伏しない!あたしは逃げない。その証拠に・・・。」
明さんがぽっぽに乗って目の前にいた。そしてイノセントアームを解除すると、投げ捨てて生身の体になった。涙は止まっている。
「へぇー。あんた、新人類の中でも噂の戦闘員じゃん。あんたがいなくなれば、戦力は一気に落ちる。そして私がもし殺されても、私は英雄になれる!!」
そう言うと、女の人は明さんにナイフを振り上げた。一直線に胸を狙う。明さんは微動だにしなかった。女の人は、ギリギリでナイフを止めた。手が震えている。明さんがその手をつかんだ。
「あたしとお前の覚悟を一緒にするな!!」
明さんが叫んだその時、隙をついて健人が機体を止めたのが分かった。
「このガキ!!」
落ちかけた機体に乗った女の人は、健人をつかむと思いっきり下に投げた。明さんは瞬時にぽっぽから飛んで健人を包むように抱きしめて、背中から下に落ちて行った。ぽっぽが動こうとしたが、新人類の女の人がぽっぽに飛び乗り押さえつけて行かせないようにしている。
幸多さんと照さんが、壊れたロボから無理矢理防護マットを取り出して受け止めようとしているけど、二人とも生身。落ちる・・・!その瞬間に、ピンクの光が二人をキャッチした。そして防護マットに落ちた。受け止めたのは、春日さんだった。
映像が止まった。
「この時、春日さんにピンクのイノセントが出現したことによって俺たちは無事だった。それで、俺はますます明さんから離れなくなった。次に、黒いイノセントと白いイノセントが出現した時の映像だけど・・・。二人の映像を分けて同時に流すね。皆、覚悟はいいな?」
健人の言葉に、俺たちは黙ってうなずいた。
「新人類が、総攻撃をかけてきています!!次々に世界中の支部が陥落しています!ここも危ないです!」
健人の母親の声がした。
「全員、本部のシールド内で守りを固めるんだ!ここが陥落したら地球は終わりだ!」
お父さんの声。
大量の新人類の機体が本部を襲う中、本部のシールドの外で明さんと・・・海輝さんが向かい合って立っていた。
「明、久しぶりだね。」
「海輝・・・なんで・・・・?」
「ごめんな。俺、機械に詳しかっただろ?そのせいで向こうの新しい政府に無理矢理機体を作らされて・・・。でも、俺は明を守りたい。ずっとそれだけは思ってた。この奇襲してきている機体には、全て俺の心臓と連動している爆弾がついている。俺は、たとえ滅びる前の星でも地球が・・・明が大好きだ。だから・・・。」
海輝さんが銃を取り出すと、明さんを抱きしめた。海輝さんの持つ銃は、自分の胸に当たっている。
「嫌だ!海輝!何考えてるの!?せっかくまた会えたのに!離して!お願い!!」
明さんが泣き叫んでいる。幸多さんが、シールドから飛び出してきた。
「海輝・・・!どうして・・・!!」
「幸多・・・明をよろしくな・・・いつか、また三人で・・・・」
そう言うと、海輝さんは自分の胸を打った。崩れ落ちる海輝さんと共に、新人類の機体が爆発を始めた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
明さんから、一気に黒い光が放出された。その光は、新人類の機体の破片を粉々にする。幸多さんが、ピンクのイノセントのシールドを使って必死に明さんに近づこうとしている。春日さんも、シールドの外に飛び出そうとしていて、それを照さんが必死で抑えている。
「照!!離して!明が!明が!!あかるぅぅぅー!!」
春日さんが叫んだ瞬間、春日さんからは白い光が放たれた。その光は、本部を包み込み、明さん達も包み込んだ。
映像が止まる。桜が俺にくっついてきた。桜は涙を流していた。
「今のが、休戦になった本当の理由。黒いイノセントは、悲しみ、憎しみ、苦しみ・・・全ての負の感情の固まりだと言われている。海輝さんが死んだショックで、明さんは黒いイノセントを発動させた。同時に、明さんを失いたくない、守りたいっていう春日さんの強い気持ちが、白いイノセント・・・究極の守りのイノセントを発動させたんだ。慰霊碑の近くに、四角い棒があるだろ?あそこは実は海輝さんのお墓なんだ。でも、世界政府は、明さんが戦争を休戦にしたことにした。そして・・・黒いイノセントを持つ明さんを超重要危険人物に指定した。」
また映像が始まった。今栄喜が使っている、研究室だ・・・。研究室の中にベットがあって、沢山の機械をつけられた明さんが寝ている。
「明さんは、イノセントの制御服を着せられてこの研究室に閉じ込められていた。この時の制御服は、全てのイノセントを抑えてしまう。つまり、感情を消されてしまっていたんだ。」
健人が説明する。
「政府は、明さんが全てを消し去る黒いイノセントをコントロールできるようになれば最強の兵器になると言った。俺はそれが許せなかった。もちろん、皆も・・・。でも政府には何も言えなかった。そして、春日さんと幸多さんはずっと明さんの傍にいて、照さんも三人のために沢山のハーブティーをブレンドして作ったり、明さんが好きだったカレーを中心に色んなものを作っていた。俺もその時に手伝わせてもらってたんだ。でも、明さんは笑うことも怒ることも・・・話すこともできなくなっていた。そんな明さんを見て、幸多さんは黒いイノセントだけを抑えてコントロールできるものを必死に開発しようとした。」
健人が映像を切り替えた。研究室で、幸多さんが必死になってパソコンを操作したり文献を読んだり、メモをしている。眠気がなくなるサプリが机に転がっている。
「幸多・・・少しは休まないと・・・。もう何日も寝ていないじゃないか・・・。」
照さんが、幸多さんに近づいた。幸多さんが、拳を机に叩きつけた。
「できないんだよ!明を守るものが!!どうしても必要なんだ!明を守れて笑顔を取り戻せるものが!!」
幸多さんの目から涙がこぼれた。
「幸多・・・・。」
「どうしたらいいんだよ!!教えてくれよ、海輝!!」
幸多さんの叫び声。映像が止まった。
「この後しばらくして、やっと幸多さんは黒いイノセントだけを制御することのできる服・・・今の明さんの戦闘服や明さん専用の武器の元となるものを開発した。政府はその功績と戦争中の幸多さん達の功績を讃えて、それまでになかったレジェントという階級ができた。幸多さんは全ての、照さんはサポート戦闘員のレジェント・・・そして、明さんは超重要危険人物とされながら戦闘レジェントになった。・・・俺の母さんは、そんな状況に耐えられず自ら命を絶った。そして全てに責任を感じた明さん達のお父さんは、明さんの世話をしてる時に今のように優しさが目立っていて、誰よりもここの本質を理解したうえで究極の守りを持った春日さんをマスターにして、一人ここを去った。ドームにも戻らず、今はどこにいるのか俺も分からない。」
「明さんは、それからどこへ・・・?」
栄喜が聞いた。
「危険人物の上、真実を知っていた明さんはドームには帰れなかった。だけど政府の言った兵器になるっていう言葉が皆許せなくて、明さんを解放してあげたかった。それで、明さんの最初に言っていた夢・・・。明さんは、ここから少し離れた幸多さんと海輝さんとよく遊んでいた思い出の神社で、ドームの中のイベントプロデューサーをしていたんだ。春日さんの進めでね。でも、いつでも戦闘に戻ってこられるようにはしていたみたいだけど・・・。明さんは皆と・・・幸多さんに責任を感じさせないため自分の戦闘服をデザインした。実は、黒のイノセントは使うだけでかなり体に負担をかける・・・。だから、明さんが戻ってくることは幸多さんや照さん、春日さんにとって本当に苦しいことだったと思う。俺も正直苦しかった。これが、俺の知っていることだよ。まだまだ沢山資料はあるけれど、このくらいにしておくね。」
健人が資料を片づけると、俺たちは外に出た。栄喜は、自分の作った武器を手に取って見つめていた。俺は、何も言えずに考えていた。明さんの黒いイノセントが出現した時と、訓練の時に桜の泣き叫んでいた映像が重なった。もしあの時、俺が死んでいたら、桜にも・・・?桜は、俺にくっついたままだった。無言で涙を流している。健人が、少し申し訳なさそうな顔をしていた。
「健人くん、一番辛いのは健人くんだよね。ありがとう。分かりやすく説明してくれて。」
智が少し笑って言った。健人が、少し安心したようにうなずいた。智はそれからすぐに、作ってみたいハーブティーがあると言って台所に入って行った。
「栄喜・・・大丈夫か?」
俺は武器を見つめ続けている栄喜に言った。
「・・・俺さ、新人類の機体を倒すのに効率の良い物ばかり考えていた。もし、俺たちが離れ離れになって、戦わなきゃいけなくなったら、これは友達にむけられるかもしれないものなんだって気が付いた。俺が・・・研究者がつくらないといけないのは、誰かを幸せにできるもの・・・。それができないなら、せめて大切な人を守るものを作らないといけなかったんだ・・・。俺、この機能を大幅に変える。泉が使いやすくて・・・とっさにシールドを作るのが苦手な泉を守れるように、泉も皆を守れるようなものを作る。やっと分かった。明さんが言った泉の武器を作れってヒントの理由。大切な人のためにつくらないと、意味がなかったんだ。」
栄喜が言った。俺たちは、黙ってうなずくことしかできなかった。突然、栄喜が驚いた顔でイノセントアームを取り出した。そして俺たちを見る。俺たちは、なんとなく意味が分かってまたうなずいた。栄喜がイノセントアームをセットした。栄喜に、緑のイノセントが追加されていた。ちょうどその時、智が全員分のカップを持って台所から出てきた。智は、栄喜の戦闘服を見て何も言わずにほほ笑んだ。栄喜が黙って解除した。
「あのね、照さんが、初めてブレンドしたっていうハーブティーを入れてみたの。説明に書いてあったのは、明さんを見て苦しんでいる春日さんと幸多さん、そして明さん自身のために照さんが何かできないか考えてできたものって書いてあった。それ以外に書いてなかったし、どういう意味か今まで分からなかったから・・・。」
俺たちは、皆でハーブティーを飲んだ。今まで智が飲ませてくれたものより美味しいとは思えなかったけれど・・・あの映像を見て、このハーブティーができた意味を考えると、とても暖かくて優しい味がした。
それから栄喜はまた作業に没頭し始めた。健人もパソコンでチェックをしながら手伝っている。俺は、くっついていた桜に手を回して抱き寄せた。大切な人が、こうやって傍にいてくれることが嬉しくて、そして失うのが怖くて・・・。でも、明さんは休戦になるまで笑っていたんだ。それは、一分一秒のこの瞬間の幸せを大切にして生きていたからなんだとやっと分かった。戦闘訓練を厳しくした理由も・・・。
「泉・・・大丈夫・・・?」
桜が心配そうに俺を見上げていた。
「お前こそ。」
俺は桜に笑った。桜が、俺を見て安心したようにうなずいた。
次の日からもまた、俺たちは朝からシミュレーション訓練をすると、栄喜の武器を何度も試した。栄喜は戦闘能力はもちろんのこと、とっさに強化されたシールドが作られる機能や、俺が苦手な周りにシールドを張ることを簡単にできる機能をつけてくれた。俺が一番使いやすいように、そしてシールドの正確さや強度を何度も何度も試して、直して、また試してを繰り返した。健人は常にデータをとってアドバイスをしていたし、智もいつも休憩の時には色んなものを作ってくれた。桜は、シールドに関して沢山のデータを栄喜に託していた。こうして全員が協力して、幸多さんの来るギリギリまで粘って出来上がったのが、俺専用のイノセントスピアーだった。
俺たちは、幸多さんが武器を見て試したりデータをとっているのを無言で見つめていた。照さんも来ていたし、明さんは機嫌がよさそうにしていた。ぽっぽがなぜか俺たちに近づいてきて、鳴いたり覗き込んだりする。
「ぽっぽは、昔からこの部屋に来る人は遊んでくれる人だと思っているんだよ。」
俺たちはどうしていいか分からなかったけれど、照さんが笑って言った。
幸多さんが武器を置いた。俺たちに緊張が走る。
「・・・これは、これからも泉の変化や環境に合わせてどんどん改良できるものだな。だからこそ、泉専用の武器として使うことだ。この試験は一応合格。ただしこれをゴールだと思うな。研究にゴールはない。」
幸多さんはそう言うと、部屋から出て行った。照さんも、栄喜と俺たちに笑ってうなずいてくれると、幸多さんの後を追った。明さんは、なぜか残っていた。
「とりあえず、おめでとう。重要資料室の許可書、返してもらうよ。」
明さんが少し笑いながら言った。無言で頭を下げながら、許可書を渡す栄喜。
「あんたはかなりの努力家だ。ここに来なければ、武器なんて作らなくて済んだのにな。」
明さんの言葉。そうだよな・・・栄喜は研究で人を幸せにしたいのに、ここで作られるものは全て戦争に関わりがあるものだもんな・・・。救護機だって、戦闘に合わせて改良されていくし・・・。今なら、明さんの言葉が分かるような気がした。
「まっ、でも今ちょっと機嫌が良いから、あんた達が知りたかった事、教えてあげる。」
そう言うと明さんは笑った。訓練の時とは全く違う、優しい笑顔だった。
「あんた達、なんで自分たちに黄色のイノセントが出現したのか分からなかっただろ?黄色のイノセントはな、自分以外の相手を理解したい、そして仲良くなりたい・・・そんな調和を望む心が生み出すもの。人は誰しも、性格も特徴も考え方も違う。それでもお互いの良い所、悪い所を受け入れて共に歩む。その知らず知らずの覚悟の気持ちが出現理由だ。ついでに教えとくと、それが発展したものがピンクのイノセント。人を愛する気持ちが生む色だ。恋愛のことだけじゃない。・・・この子がピンクのイノセントを出す前、あたしが、後ろにアース・ライトの人間がいると思えって言ったら、この子顔つきが変わっただろ?そういう、ここの人たちを・・・地球を愛せる心が、ピンクのイノセントを出現させるんだ。」
明さんは、そう言うと俺を見た。
「慰霊碑の前でのことは謝るよ。戦争が続く限り必ず憎しみや悲しみで苦しむ時がくる。そんな時、今の幸せを忘れずに・・・ここの本質を忘れずに戦えるように少し悩ませようと思ったんだ。自分の死より、仲間の死の方があたしは怖かったからな。でもあたしが思っている以上にあんたは優しくて、大分苦しんだようだから。」
明さんはそう言うと、ぽっぽを連れて出て行った。俺たちはしばらく無言だったけれど、少しして皆で栄喜に飛びついた。栄喜も、すごく嬉しそうにしていた。俺たち全員が笑っているこの瞬間・・・これが一番の幸せな時間なんだって思った。
幸多のラボ
「見事、合格したね。」
照が笑って言った。でも、声は悲しそうだ。
「明が大分ヒントをやったみたいだからな。健人が言うまで、俺は照のハーブティーのレシピを渡したことを知らなかったんだから。」
幸多が明を見た。聞こえない振りをする明。
「それより!あたしも完成したよ。作ったのは幸多だけど、新しいレジェントの戦闘服!やっぱり女の子は可愛くしたいよね!」
明がそう言って幸多を見ると、幸多がパソコンを操作して照に見せた。
「うん・・・すごく良いと思うよ。」
照がうなずきながら言った。
「後、これも届いたんだ!今はあたしの部屋にあるけどね。」
そう言って自分のパソコンを照に見せる。照は、悲しそうに笑ってうなずいた。
「パパにもこの写真を送ったんだ。相変わらず花の写真と花の名前しか返って来なかったけどね。春の花のアツモリソウ。夏の花のサギソウとセンニチコウ。花言葉は、君を忘れない、夢でもあなたを想う、変わらない愛情・・・。今どこにいるのか聞いたけど、結局教えてくれなかったよ。ドームにいないのに、どうやって温室を作ってこんなに花を育てているんだろうね。」
明が笑って言った。照は、こらえきれないように下を向いた。
「・・・照、今、おねぇちゃんに必要なのは照だよ。あたし知ってるんだから。照が昔からおねぇちゃんが好きな事。それに、今後のアース・ライトにも照は必要不可欠。・・・後は、全部任せたからね。」
明が優しくほほ笑んで言った。幸多が照の肩に手を置いた。照が幸多の顔を見ると、幸多は黙ってうなずいた。
消灯後、俺と栄喜はそれぞれベットの上で、ヘッドフォンをして今日の訓練の映像を見ていた。俺と栄喜は見る観点が違うから、別々に見た方がいいってことになったんだ。俺は、映像を見て皆が本当にすごいと改めて思っていた。健人は、必死でパソコンと俺たちを見ながら叫んでいる。その時に、紫のイノセントが出たのが分かった。栄喜も、俺をとっさに守ってくれようとして、明さん自身に攻撃した時赤いイノセントが出ている。智も同じだ。栄喜を守るため、攻撃した時に赤いイノセントが出ていて、多分、ロボが壊されたとき冷静に判断して脱出した時に青いイノセントが出たんだ。そして桜・・・。桜は、たとえ新人類の機体であっても攻撃をすることなんてなかった。でも、桜は明さんに攻撃しようとした。ピンクのシールドが作れるほど体力が残っていなかったのに、それでも桜は動いた。そして赤いイノセントが出現した・・・。俺はじっと映像を見つめていた。俺が明さんの攻撃を覚悟して目を閉じていた時、桜は泣き叫んで黒い壁に突っ込もうとしていた。それを無理矢理、健人と栄喜が抑えている。それでも、その二人を振り払おうとしている桜。桜はずっと俺を見てたって言ってたけれど、俺だってずっと桜を見ていた。でも、映像の桜は、今までに見たことのない桜だった。桜は俺を守るためにここに来てくれた。それなのに俺は・・・。映像を見ながら、桜がずっと俺にくっついていたのを思い出した。
俺は、桜へメールを打とうと思った。でも、なんて打てば良いか分からない。俺は落ち着いて昔からの事を考えた。改まって謝るのも、少しおかしい気がする。でも桜の心を少しでも楽にしたくて、俺はメールを打ち始めた。いつもインカムの通信で連絡を取り合ってるから、見る以外にあまりメール機能を使わない俺は少し手間取った。
「えーっと、・・・も、う、だ、い、じょ、う、ぶ、だ、か、ら、き、げ、ん、な、お、し、て・・・っと。変換は・・・これだな。あとは・・・これがハートだな。三個くらいつけたら許してくれるかな?・・・よし!送信!」
俺は栄喜がヘッドフォンをつけていてくれてよかったと思った。だって、メールなんて普段打たないおかげで、落ち着いて声に出しながらじゃないと打てなかったから。すぐに返信が来た。そこには、何個ハートをつけても許してあげないって書いてあったけれど、笑顔でアッカンベーをする動く絵文字がついていた。それを見て俺は自然に笑っていたけれど、不意にまたポケットのイノセントアームが熱くなっているのに気が付いた。いつから熱くなっていたんだろう?まさか、また色が出るのかな?
俺はベットから降りると、上で映像を見ながらパソコンをいじっている栄喜に合図をした。ヘッドフォンをとる栄喜。
「どうかしたのか?」
「あのさ、また、イノセントアームが熱くなってるんだ。もしかしてと思って。」
「・・・そうだな。起動させてみろよ。」
「おう。イノセントアーム・セット!」
戦闘服姿になって俺は驚いた。俺には四色目の・・・青色が追加されていた。解除をして無言で栄喜を見る俺。
「青は、智の出現から見ると冷静に考えて行動した時に出るようだな。お前、分析でもしてたのか?」
「いや・・・分析というか、桜に・・・。」
俺はなぜか口ごもった。桜にメールしただけなのに、なんで口ごもってるんだろう?
「まっ、よかったな。これで、四色じゃん。」
栄喜が少し意地悪っぽく笑った。その顔を見て少しむくれる俺。
「この時間だったら大丈夫だろうから、健人と幸多さんにメールしておくよ。健人も明日からの訓練について考えているだろうし、いつも幸多さん達への連絡を健人にさせるのも悪いだろ。」
そう言って栄喜がパソコンでメールを打ち始めた。早い・・・・。
「どうした?じっと見て・・・。」
「いや・・・お前、メール打つの早いな・・・。」
「分析・研究部隊ではこれが普通だよ。お前、メール打ってたのか?」
「べっ・・別にいいだろ!」
そう言ってベットに戻って行く俺。
「機嫌直せって。ちなみに、赤のイノセントについて、俺、ちょっと勘違いしていたかも。」
「勘違い?」
「そう。今日の映像を分析していて思ったんだ。俺は今まで、赤は攻撃力が強いから、真っ直ぐで迷いのない人・・・まぁ典型的にお前だよな。そんな人に出やすいと思っていたんだ。それは間違いではないんだけど、それだけじゃない。赤は、強い覚悟を決めた時にも出る色だと思うんだ。桜が一番分かりやすいだろ。質問は?」
「そう・・・だよな。桜は機体にも攻撃しないくらい優しい奴なのに、明さんに向かって行ったんだよな・・・。」
「そういう事。じゃ、俺はまたヘッドフォンつけるな。また何かあったら合図して。」
「分かった・・・。」
俺は、改めて映像を見た。・・・そして、いつか必ず桜を安心させられるようになりたいと思った。
マスター室
「泉に、青いイノセントが出現したそうです。」
明の隣に立っている幸多が言った。明は、ソファーでくつろいでいる。
「へぇー、あいつに青がねぇ。でも、ちょうどよかったじゃん。これで候補者全員、四色以上のイノセントを扱えるようになったんだから、文句なしじゃない?しかも結構バランス良く。これが偶然なのか、あいつの影響なのか、本当に人って分からないねー。それで、おねぇ、そのあたしの提案書、どうなの?」
明が楽しそうに言った。
春日は黙って、明の渡した資料を読んでいる。春日の机にハーブティーを置く照。
「明は、何にする?」
「あたしは、照お手製のいつものブレンドで。」
「肯定しました。幸多は?」
「俺はいいよ。ありがとう、照。」
照がハーブティーを入れ始める。
「明、確かにこの方法なら、今までより効率も良いし今のアース・ライトに合っていると思うわ。でも、この方法をとるっていうことは、今までのアース・ライトからやり方が大きく変わる。政府に提出する前に、ちゃんと創設者のお父様に意見をもらわないと。」
「あ、それなら全部メールしといたよ。」
「答えは?」
春日の言葉に、明が苦笑する。
「ちょうどシロタエギクが綺麗に咲いたから、他の花と合わせて送るって。銀(ぎん)白色(はくしょく)に見える茎や葉が私みたいでしょって。画像がついてた。それだけ。ちなみにシロタエギクの花言葉はあなたを支える。一つだと目立たない花だけれど、アレンジメントをするときとかはアクセントになる大事な花だね。なんともパパらしい答え方だね。」
照が明の前にハーブティーを置いた。
「それなら、良いんだけど・・・。一つ、気になる所があるんだけれど。」
「何?」
「この部分よ。」
春日が、明に印をつけた資料を見せる。
「そこ?照が入る予定だけど。っていうか、ちゃんと書いたと思うけれど。」
「それは読んだわ。私が聞きたいのは、あなたたち二人がどこに入るのか。」
春日の声が、少し怒った声になる。全く動じずに、ハーブティーを飲む明。
「照の入れてくれるものは相変わらず美味しいねー。おねぇもそんなに血圧上げずに、照のハーブティー飲みながらのんびりやろうよ。せっかく照がおねぇ用のブレンドをしてくれたんだから。」
「話をそらさないで!」
明がコップを置いた。真剣な目で、春日を見る明。
「平和交渉、上手くいってないんじゃない?」
「・・・・・。」
「幸也(ゆきや)さん、平和交渉役を外されたらしいね。」
「・・・なんでそんなこと・・・・。」
「あたし達だって一応レジェントだからね。そんな大事なことくらい、政府から連絡があるに決まってるでしょ。」
「・・・・・明、この前から、何を考えているの?」
「それは逆にあたしが聞きたいね。はっきり言って、おねぇだけじゃ何しても無駄だよ。後任はどうせ幸多にでも任せるつもりなんだろうけれど、あたしが気が付かないとでも思った?残念だけれど、あたし達はもうあたし達なりの準備を進めてる。・・・で、残された期間は?」
明が春日を睨み付けた。
「・・・・早ければ・・・一か月後。引き延ばせるだけ、引き延ばすつもり。」
「で、その後は?」
「・・・・・・。」
「はっきり言う。このアース・ライトに何より必要なのは、暖かくて優しい、究極の守りの白いイノセント。政府から見ても、あたしとおねぇ、どっちが必要かそんなの明白。なんのためにあたしがその計画書を作ったのか、それくらい考えたら分かると思うんだけれど。パパだって、何も言わなかったけれど分かってるはず。」
明の言葉に、春日が黙って歯を食いしばる。目には、涙が浮かんでいた。ハーブティーを一気に飲み干すと幸多を見る明。
「栄喜には、今後、今明が計画している場所に政府の文句なく入れるため、俺なりの試練を与えようと思います。早ければ二週間、遅くても三週間で結果を出すつもりです。」
「じゃ、今日の話し合いはしゅうりょーう。あたし、今日は結構疲れてるんだよね。あいつらのおかげで。じゃあねー!」
「待って!明!」
春日の声に、明は笑顔で手を振ると幸多と共に出て行った。
「・・・実はね、照・・・あたしにも、お父様からメールが届いたの・・・。」
春日は涙を流しながら、照にパソコンの画面を見せた。そこには、花の写真が四枚貼ってあり、その下には、温室でカモミールが沢山育ったから照くんのブレンド用に送るね。あと春の花ではハナニラが咲いたよ。今、秋の花も一生懸命温室を調整して育てていたんだけれど、ハマギクとオキザリスが綺麗に咲いたよ。と書かれている。
「カモミールの花言葉は、苦難に耐える。ハナニラは悲しい別れ。オキザリスは輝く心。ハマギクは逆境に立ち向かう・・・・。お父様は、明の意見が正しいという結論を出したことに間違いはない。何が言いたいのかも分かる。でも・・・私は・・・・。」
泣いている春日の肩に、照が肩を置いた。
「俺にも、覚悟はできていません。でも・・・明達は止められません。それが・・・二人が・・・本気で出した答えで・・・覚悟だって・・・。」
照も、声を詰まらせながら言った。
早速次の日から始めた俺たち用のプログラムは、想像していたよりずっと難しいものだった。午後から始めても、一日三回やろうと思ったらすぐ夜になってしまう。俺たちは使える色が増えた分、できることも増えたわけだから、その練習もしたい。
「これは結構きついな。少し、時間とやり方を変えた方がいいかもな。」
三回のシミュレーションを終えた後に息を切らしながら栄喜が言った。
「そうだな。この動き・・・多分、今の明さん達レジェントとマスターの動きに加えて、昔の四人の動きも組み込まれている。いわば、ここで最も強い人達とのシミュレーションだ・・・。でも、これはまだ軽い方だと思う。幸多さんは、データを見ながらどんどんレベルを上げてくる気だと思う。」
健人がパソコンを操作しながら言った。
「それなら、朝からここに来てやれるだけやって、それぞれの訓練をした方が良い。いや、それぞれの訓練をするだけの時間や体力もこれじゃ残らないな。・・・もう自主訓練をするんじゃなくて、徹底的にこのプログラムを使って体で覚えて鍛えろってことかもな・・・。」
「俺もそう思う。」
栄喜の言葉に、健人がうなずいた。俺と智、桜は声が出せるほど体力も残っていなかった。
こうして俺たちはやり方を変更して、次の日からは朝から徹底的にプログラムを実行した。一回一回、健人と栄喜が分析してアドバイスをくれる。皆でずっと自主訓練をしていたせいか、俺たちは練習をしなくてもシミュレーション中に技ができるようになったりもした。プログラムは健人の言った通り、どんどんレベルが上がっていく。でも、俺たちは誰一人弱音を吐かず、頑張った。
そんなある日、朝食を食べているときに幸多さんから俺たち全員にメールが届いた。今から第二研究所の、二階の資料室の奥にある幸多さんの研究室に来いとのことだった。健人が無言で何度も読み返していた。栄喜も首をかしげている。
「どうかしたのか?」
俺は二人に聞いた。
「いや・・・、この場所に研究室があるのは知っていたんだけど、ここって今は使われていないから・・・。」
栄喜が言った。
「元々は、幸多さんが専用に使っていたんだ。でも今は幸多さん専用ラボが三階にあるし、かなりの設備が整った研究室だけれど、ずっと幸多さんはカギを閉めていたんだ。あそこは・・・特別な場所だから。」
健人の声が少し暗くなった。
「健人くんや栄喜が呼ばれるのは分かるけれど、なんで私たちも呼ばれたんだろうね?」
智が首をかしげた。
「分からないけれど、とりあえず食べ終わったら行ってみよう。」
栄喜の言葉に俺たちはうなずくと、急いで朝食を食べて呼ばれた場所に向かった。
研究室に入る前、俺たちは全員不安そうに顔を見合わせたけれど、肩を組んで丸くなった。これ、あの訓練の後からプログラムをする前や、夜に解散する前とか節目節目にやるようになったんだ。これをすると、なぜか皆心が軽くなる気がするから。
俺たちは覚悟を決めて研究室の中に入った。
「うわぁ!」
中に入った途端、ぽっぽの大きな体が見えて俺は驚いて思わず声を上げた。
「ぽっぽっ。」
ぽっぽは首をかしげながら鳴いている。
「ぽっぽ、その子達は遊びに来たんじゃないんだよ。おいで。」
ぽっぽが明さんの声がする方に移動した。俺たちは中に入った。幸多さんは机の前の椅子に座っていて、明さんは四台あるパソコンを避けて机の上に座っている。机の上の広さもかなりあったけれど、それ以上に驚いたのはその奥に、訓練室のような部屋があったことだ。後、その奥にも扉がある。
「悪いな。突然呼び出して。」
幸多さんが俺たちを見ながら話し始めた。明さんはぽっぽをなでながら聞いているけれど、いつもと違ってあまり怖い顔をしていない。そのせいか分からないけれど、幸多さんがいつもより怖く感じる。
「率直に言わせてもらうけれど、お前たちの成長はアース・ライトの中で一番だ。新しいイノセントがどんどん出現して、その上連携まで上手くとれている。健人に送ってもらっているデータを見て、俺たちはやり方を変えることにした。今だからできること、今じゃないとできないことをやろうと思う。」
俺たちは黙って聞いていた。
「栄喜、お前、本気で研究者になろうと今でも思っているか?」
幸多さんの言葉に、栄喜は黙ってうなずいた。
「だったら、お前に課題を出す。ただこの課題は今のお前一人にやらせるには重いし、このメンバーはお互いを支え合えると思うから一緒にやることを許可する。これが何か分かるな?」
そう言うと幸多さんは、机の引き出しから二つのものを出した。一つは、明さんの戦闘を初めて見たときに明さんの使っていた弓矢のような武器で、もう一つは紛れもなく明さんがいつも戦闘服で使っている手袋だ。
「これは、俺が明だけのために開発したものだ。栄喜、お前にここまでのものを作れとは言わないが、俺を納得させるだけの新しい武器を、お前に開発することを命じる。この研究所を好きに使っていい。一週間後に、どれだけのものができているか一度チェックをする。期間が短いと思うのは甘い。戦場では常に新しいものが求められる。これは、ある意味俺からの試験だ。」
幸多さんの言葉に、俺たちは驚いた。
「お前が本気で研究者になりたいなら、今からでも始めろ。戦闘シミュレーション訓練室での訓練については、プログラムを大幅に変える。全員今日はやらなくていいが、明日からは一日一回でいいからやれ。その中で見えてくるものもあるはずだ。俺からはそれだけだ。問題ないな?」
幸多さんが栄喜をじっと見た。栄喜は静かにうなずいた。それを見た幸多さんは立ち上がると、黙って研究室から出て行った。幸多さんが明さんより先に動くなんて、ましてやおいていくなんて初めて見た。苦笑しながら机から降りる明さん。
「幸多はここが嫌いな上、分析・研究に関しては厳しいからねー。あたしは戦闘以外にはあんまり厳しくないから、特別にヒントをあげる。幸多には内緒な。まず、さっき幸多の言った全ての言葉の意味をしっかりと考えること。後は・・・そうだな、こいつ用のものを開発してやるのが良いんじゃない?」
明さんが俺を指さした。突然の言葉に俺は驚いたけれど、栄喜は黙って聞いている。
「まっ、ここで調べられるだけのものを調べつくして、考えて考えて考え抜くんだね。それでもどうにもなりそうになかったら、またヒントをあげるかもね。じゃあねー。ぽっぽ、行くよ。」
そう言うと、明さんはぽっぽを連れて出て行った。
「突然・・・・だな・・・。」
俺が言った。
「うん・・・かなり厳しいね・・・。」
智も俺と同じことになっている。桜は黙って心配そうにしている。
その時、健人が俺と栄喜の肩を無理矢理両腕で抱えて、智に合図をした。また丸くなる俺たち。
「大丈夫。皆で一緒に考えよう。俺も・・・知っていることを全部話してでも協力するから。なっ。」
健人が笑って言った。健人の言葉に驚いたし、知っていることを全部話すってことは健人にとって簡単な事じゃないはずだ。でも、健人は笑っている。俺は、その顔を見て自分が覚悟を決めた時の事を思い出した。
「俺たち、ここまで皆でやってきたじゃん。やろうぜ、皆で!」
俺も笑って言った。栄喜の表情が軽くなって、うなずいた。
「じゃあ、とにかくまずは今までの武器について読めるだけの資料を読んでみる。皆、色々と頼ると思うけど、よろしくな。」
栄喜が言った。
「何を今さら!当たり前だよ!!」
智が笑って言った。桜も笑顔でうなずいた。
そして栄喜は資料を集めに外に出て行った。健人は、パソコンで出せるだけの資料を出すと言って作業を始めた。俺たちは奥のドアが気になって、訓練室の中に入ってみた。なんだか、俺たちの訓練している所と雰囲気が違う。奥の扉を開けると、台所があった。少し意外だったけど、考えている時間もないと思った俺たちは、外に出て俺は栄喜の資料を運んだり、智と桜は栄喜の読んでいるもの以外を読んで使えるものがないか調べていた。
あっという間に昼になったけれど、栄喜は集中している。
「栄喜、昼飯に行こうぜ。自主訓練が始まった時、皆で食うことを一番大事にしていたのはお前だろ。」
俺は栄喜に向かって言った。栄喜は顔を上げたけれど、あまり乗り気ではない様子だ。栄喜のそんな姿を見るのは初めてだし、その顔を見てこの試験がどれだけ難しいものなのかが分かった。
「ねぇねぇ、せっかく奥に台所があるんだから、私と桜でレシピと食材をもらってきて、一緒に作るからここで食べられるようにしよ!そうしたら、皆で食べられるし栄喜も移動の時間とかかけなくても済むでしょ。味は保障しないけどね!」
智が笑顔で言った。智を見てうなずく桜。
「なら、俺も食材運びとか手伝いに行くよ。実は、昔照さんから料理とか教えてもらったこともあるからさ。」
健人が少し照れながら言った。
「じゃあ、決定!ちょっと三人で食堂まで行ってくるから、泉と栄喜は作業を続けて。」
智が笑顔で言うと、外に出ようとした。
「ごめんな・・・。」
栄喜の言葉に、智が笑顔で振り返った。
「私たちは家族、でしょ!」
そう言うと、三人は研究室から出て行った。
「栄喜、どうしたんだよ。お前らしくない顔して。たまには俺も頼ってくれよ。役には立てないけど。」
「いや・・・武器自体の構想や、作り方なら頭にあるんだよ。あとはそれを一番お前の使いやすいものにすることだけなんだけど・・・。明さんがくれたヒント・・・幸多さんの言葉の全ての意味・・・それが分からなくて。」
「難しいことばかっりだったよな。でも、俺が一番頭に残っているのは、今だからできること、今じゃないとできないことって所。俺からしたら同じ意味に聞こえるんだけれど、なんで幸多さんは分けて言ったんだろうな。」
「・・・・・そうか・・・。泉、お前最高だ!」
栄喜の突然の言葉に、俺は驚いた。
「今、戦闘に俺たちは出ていないだろ?つまり、俺が集中して研究ができるのは今だからできる。そして、俺たちは他のチームよりはるかに上のことをやっている。他のチームも訓練でレベルを上げないといけないわけだから、その間の今じゃないとできない。つまり、本気で研究者になるために何かするなら今しかないってことだと思う!」
「さすが栄喜だな!じゃあさ、明さんはなんで俺用の武器を作ることをヒントにしたんだろう?だって、武器って皆使うだろ。別に俺用じゃなくても良いと思うんだけどな。」
「そうだよな・・・。研究者は、武器を開発するけど実際に使うのは戦闘員だろ?そういう意味では分かるんだけれど、だったら桜だって戦闘員だし、俺だって戦闘員も兼ねてる。だから分からない。」
「そもそも、なんで幸多さんは明さんだけの武器を作ったのかな?黒いイノセントと関係があるのかもしれないけれど・・・。でも、他の戦闘員でも使えないことはないはずだよな。・・・健人に聞くのがいいかな?」
「いや、今はまだ良いよ。俺、今の泉の言葉で自分が何を考えなきゃいけないのか分かった気がするんだ。だから、もう少し自分で考えてみるよ。」
「俺、少しは役に立てたかな?」
「少しどころか、最高だって言っただろ。質問は?」
栄喜がいつもの口調に戻ったから、俺は少し安心した。でも、俺の言葉のなにが良かったのかは分からなかった。
智と桜と健人は戻ってくるなり、奥の台所で楽しそうに昼食を作っている。俺は、
邪魔したら悪いから栄喜の資料の整理や言われた資料を持ってくる手伝いをしていた。
「じゃじゃ~ん!!できたよ!私たちの特製カレーと、サラダ!・・・って言っても、ほとんど健人くんがやってくれたんだけどね。」
智が笑顔で言った。俺たちは全員休憩にして、訓練室で丸くなって座ってカレーを食べ始めた。・・・うまい・・・。食堂で食べるものより、物凄くうまい!!
「すげー!!これ、マジでうまい!」
俺が言った。
「私たち・・・健人くんに言われるままやっただけだから・・・。」
桜が笑って言った。
「照さん、料理とか上手いから。特にカレーはね。」
「そうなんだ!やっぱり、照さんって一番なぞの人物な気がする。物凄くすごいのは分かるんだけれど、一番つかめないって感じ・・・。」
智が考えながら言った。
「・・・ありがとな。」
栄喜が言った。俺たちは笑顔で答えた。
それから四日間、俺たちは朝シミュレーションの訓練をして、それからすぐに栄喜の手伝いをした。栄喜の作ってくれている武器はもう大分形になっていて、俺は本当にすごいと思っていたんだけれど、日に日に栄喜が悩んでいる顔をしている。でも、栄喜は必死だったから俺たちは手伝うことしかできなかった。
四日目の夜。
「皆、疲れて寝ちゃったね。はい、これ、飲んでみてくれる?」
智が栄喜の前にカップを置きながら言った。二人以外は全員、第二研究所で作業をしながら眠っていた。
「智も、そろそろ休めよ。・・・これは?」
「とりあえず、飲んでみて。」
言われた通りに黙って飲む栄喜。
「うん。すごくうまい・・・。なんだか落ち着く香りと味だな。」
栄喜の言葉に笑顔になる智。
「どうしたんだ、これ?」
「実はね・・・。今日、資料を見ていた時、周りに誰もいないのを確認したように明さんが来てね、栄喜が根詰めてるようだからってこの資料をくれたの。照さんのノートを分かりやすくまとめてくれたらしいんだけれど、色んなハーブティーの入れ方が書いてあったんだ。試しに、気持ちが落ち着くっていうハーブティーを入れてみたんだ。」
「そうなんだ・・・。明さんって、戦闘以外の時は本当に優しいんだな。」
「そうだね。私も驚いた。・・・大変かもしれないけれど、私たちにできることは全部やるから。今までだってそうだったんだから。大丈夫だよ。」
智の言葉に、栄喜が少し笑ってうなずいた。
五日目の朝。
俺は皆でシミュレーションをした後、栄喜に映像資料室の動画を持ってきてほしいと言われて、自分のパソコンにいれてから第二研究所前の芝生で健人と桜を待っていた。二人は昼の食材を取りに行っているから、待ち合わせて戻ることにしたんだ。
そういえば、ここで健人は泣いていたんだよな・・・。俺は、なんとなく慰霊碑に近づくと、初めて慰霊碑をちゃんと見た。そこには驚くほど数多くの名前が書いてあって、栄喜の言っていたように自分が何も知らないことを感じさせられた。
「なにしてんだ?」
明さんの声に、俺は驚いて振り返った。明さんは、綺麗な器に沢山の花が入ったものを二つ持っている。第二研究所の前に幸多さんとぽっぽがいるけれど、こっちを見ていない。
「あの・・・健人と桜と待ち合わせをしていて・・・。」
慌てて俺が言ったけれど、その間に明さんは慰霊碑の前にまた一つ花を置き、あの四角い棒の前にも花を置くと俺の隣に来た。
「ここに書いてある全員を、あたしは知ってる。全員、あたしが助けられなかった人達だから。」
明さんの言葉に、俺は何も言えなかった。
「戦争が再開されてからは一人も死人が出てないからね。戦闘服も進化して、武器も進化した。実力は前と比べて大幅に低いのに、向こうも無人機しか送ってこないからなんとかなってる。・・・あたし達の頃はね、直接新人類が機体を動かしていることが普通だったし、それに加えて無人機もいた。」
そう言うと明さんが俺を見た。
「誰よりも、そして手っ取り早く強くなる方法、教えてやろうか?」
俺は、何も言えなかった。いつもの明さんとは雰囲気が違ったから。でも、その方法が知りたくて俺はゆっくりとうなずいた。
「そうだな・・・お前の場合は、桜が目の前で新人類に殺されたらなれると思うよ。」
俺は、衝撃で固まった。
「想像してみな。桜が新人類に殺されて、ショックで油断した智は攻撃を受けて大怪我。健人は責任を感じてお前を避けるようになる。栄喜はやっきになって研究に打ち込み、部屋にも帰ってこない。・・・そうなれば、お前は誰よりも戦闘で強くなれる。憎しみは、迷いなく戦う力になるから。」
明さんの言葉に、俺は震えていた。想像しているだけなのに、怖くてたまらない。俺は、皆を守りたくて強くなりたい。ここの本質だって、そういう事なんだってなんとなく分かってきてた。明さんはそれに反する事を言っている。でも・・・その皆が戦争でそうなったら・・・?俺は、段々と息が苦しくなって足が立たなくなってきた。明さんは、そんな俺をちらりと見ると無言で去って行った。俺は、そのまま膝をついた。震えが止まらない。
「泉、どうしたんだ!?」
どれくらい時間がたったのかも分からなかったけれど、健人の声が聞こえて、健人が慌てて俺を覗き込んでいるのが分かった。桜も驚いて俺のすぐ隣に座って俺を見ている。
「俺・・・俺・・・・・・。」
何か言いたいのに、声が出ない。健人が、チラリと慰霊碑の前の花を見た。
「明さんに、何か言われたんだな?」
俺は健人の言葉に答えられなかった。下を向いて、息の苦しさと頭の混乱と戦っていた。
「桜、これ、俺が持って行ってすぐ戻ってくるから、泉のこと頼む。二人にも説明してくるから。」
「わかった・・・。」
二人の声と健人の走る音が聞こえた。
「泉・・・。」
桜が、俺の背中をさすりながら抱きしめてくれた。
「大丈夫。大丈夫だよ・・・。私がいるから・・・。絶対に泉を守ってあげるから・・・。」
その言葉に、俺は安心と恐怖が入り混じった。そして最初の特別訓練を思い出した。もし、俺をかばって桜が死んだら・・・?俺は桜を抱きしめた。
「・・・・俺・・・皆が・・・お前がいなくなったらどうしよう・・・・・。」
「大丈夫、誰もいなくならないよ・・・。皆、泉のそばにいるよ・・・。」
桜の声と暖かさ。
「桜、泉!」
栄喜の声がする。
「立てるか?俺たちで支えるから。」
健人の声。俺は二人に両脇を支えられて歩いた。
「・・・ごめん・・・栄喜・・・大事な時に・・・・。」
「何言ってるんだよ。こんなお前をほうっておけるわけないだろ。俺の方はもう完成が近い。だから心配するな。質問は?」
「・・・・・。」
俺は、三人に連れられて研究室に戻った。俺を見た智は、すぐに台所に入って行った。俺は、椅子に座らされたけれど、混乱でどうすればいいのか分からなかった。
「泉、明さんに何を言われたのか言えるか?」
健人の声に、俺はゆっくりと首を横に振った。口に出すのが怖かった。考えただけでもこんなに怖いのに、健人はその体験をしていることくらい分かる。・・・俺は今まで何度も戦闘に出たけれど、そんな事考えたことなかった・・・。自分が強いと勘違いして、皆に支えてもらっていることにすら気が付いてなかった・・・。
智が台所から出てきた。湯気の出ているカップを俺の前に置く。
「桜、ちょっと熱いけど、無理矢理にでも泉に飲ませてみて。」
智の声が聞こえる。桜が、俺の手でカップを持たせてくれて、ゆっくりと中身を飲ませてくれた。俺は自分が落ち着いていくのが分かったけれど、意識が段々と遠のいていった。
「智・・・何を飲ませたの?」
栄喜と健人が第二研究所で使っている仮眠用ベットに泉を運んだ後、桜が言った。
「照さんのノートに書いてあった、混乱した時に良いっていうハーブティー・・・。眠気もきて、ゆっくり寝られる作用もあるって書いてあったから・・・。今の泉にはそれが必要だと思って。」
「智の判断は正しいよ。照さんは、明さんと春日さんのために沢山のオリジナルブレンドを作っていたから。その中から一番良いものを選べるのは、智だからできることだと思う。」
健人が言った。
「俺の見たかった映像はパソコンにとってきてくれているんだろうし、その映像だけ泉のパソコンから見るから、今日はゆっくりと泉は寝かせてやろう。何があったのか分からないけれど、こんな泉を見るのは初めてだ。桜、何か聞いてないか?」
「私も・・・こんな泉、見たことない・・・。でも・・・すごく怯えているのが分かった。私たちがいなくなったらどうしようって、言ってた・・・。」
「・・・明さんが、きっと泉に戦争への恐怖を感じさせることを言ったんだろうな。場所も場所だったし・・・。・・・明日、最後の日だし、シミュレーションを休ませてくれないか頼んでみる。栄喜も、武器がちゃんと使えるかここでやってみた方がいいだろ?」
「そうだな・・・。いつも悪いな、健人。」
「いや、俺はやりたくてやってるから。皆が家族って言ってくれるのが本当に嬉しいから。」
健人が少し笑って言った。
「俺、ちょっと明さんの所まで行ってくるよ。」
健人は真面目な顔になると立ち上がった。
「行ってくるって・・・。明さんは三階にいるんだよ?あそこは明さん達三人とマスターしか行けないんじゃ・・・。」
「あの・・・実は俺も入れるんだ。今は、本当に必要な時しか入ったらいけないって言われているけれど、泉をこのままにしておけないから。行ってくる。」
智の言葉に少し申し訳なさそうに健人が言った。
「健人に頼もう。俺たちは、俺たちのやるべきことをやっているから。戻ってきたら、また話し合おう。質問は?」
栄喜の言葉にうなずくと、健人は出て行った。
幸多のラボ
「幸多さん、明さん、いらっしゃいますか?健人です。」
「いるけど。入っていいぞ。」
「失礼します。」
健人がラボに入った。幸多がパソコンから健人に向き直る。明はいつものようにベットで横になっている。
「どうした?武器のことなら、明後日まで何も言わないぞ。」
幸多の言葉に首を振る健人。
「明さん、泉に何を言ったんですか?」
少し怒ったような声で、健人が明を見ながら言った。
「べっつにぃ~。本当の事、教えてあげただけ。だって、あいつ強くなりたいって言ってたじゃん。だからその方法を教えてあげただけ。」
「あんな泉は初めて見ます!泉が耐えられない事を言われたのは見て分かります!今、泉は照さんのオリジナルブレンドのハーブティーで寝させました。明日は、シミュレーションに出せれません。明日の俺たちのシミュレーション訓練は、休ませてもらいます!」
健人が明に怒って言った。
「どんな状態でも、戦わなきゃいけないのが戦闘員だと思うけれど。」
明が真面目な顔になって健人に言った。
「その通りです。でも、一人に全てを背負わすのは違うはずです!誰かが出られないときは皆でカバーする。それがここの本当の姿のはずです!!」
健人が叫んだ。幸多は黙ってやり取りを見ている。
「・・・分かったよ。明日と明後日は全員やらなくて良い。明後日は幸多がつくったものを見に行くからね。健人があいつのためにあたしに対してそこまで怒るなんてね。人生、何が起こるか分からないな。あたしは寂しいよ。健人が急に大人になったようで。」
「・・・・・・。」
「ただ、あれだけの言葉でそこまでなるなんて、あいつは変わったんだな。今のあいつは本当に仲間を大切だと思ってる。だからこそ、言ったんだよ。」
「何をですか?」
「要約すると、桜が殺されて皆バラバラになったら強くなれるって。」
「・・・・・。昔と今は違います。俺は、誰も殺させないしバラバラにもなりません。失礼します。」
健人が少し暗い顔になって言うと、ラボから出て行った。
「あーあ。本当に成長しやがって。」
「今のタイミングで言うなんて、栄喜を助けているように見えるけど。・・・照のハーブティーのレシピについても。」
幸多が明に言った。
「あたしは優しいんだよ~ん。」
明が布団の中に隠れた。幸多はため息をつくと、パソコンに向き直った。
「私が殺されて、皆がバラバラになったら・・・強くなれる・・・?」
桜が驚いて言った。うなずく健人。
「要は、新人類に憎しみを向ければ、新人類と躊躇なく戦えるだろ?復讐のために。でも、そんな事しても心は楽にならないし、安らぎの日は来ない。そもそもここは新人類に敵意を向ける場所ではない。明さんはそれを伝えたかったんだろうけれど、泉には重すぎる。確かに、休戦になる前の戦争は多くの人が犠牲になって、明さんは今でもそれを背負っている。・・・俺も、両親が死んでる。俺も新人類が憎かった。それでここに来たんだけれど、明さん達が俺にここの本質を背中で教えてくれたから・・・。」
健人がうつむいた。
「泉・・・・。私、どうしたら・・・。」
泣きそうになっている桜を、智が抱きしめた。
「・・・明日、本当は泉に武器を使ってみてほしかったんだけれど・・・。無理だろうな。」
栄喜が言った。
「栄喜くん・・・泉は・・・やると思う・・・。きっと・・・自分の心を隠して・・・。泉は、単純に見えて・・・。」
桜が智の胸に顔を隠しながら言った。
「・・・いつも通りにしよう。その毎日が、一番大切な時間だと思うから。」
健人が言った。全員が、うなずいた。
六日目の昼。
「泉、どうだ?使い心地は。」
「おう!使いやすいし、俺にぴったりの武器だと思う!」
俺は笑顔で言った。朝起きた俺は、なんで自分が寝ているのか覚えていなかったけれど、皆が普通にしてくれていたから安心して栄喜の武器を試していた。朝、また智が何か飲ませてくれて、俺は少し気持ちが落ち着いていた。この時間がなくなると思うと、怖くてたまらない。でも・・・だから、この時間が何よりも大切で幸せな時間だってことも分かってきた。
健人がパソコンを見ながらうなずいている。
「後は、幸多さんが認めてくれるかどうかだな・・・。」
栄喜が言った。
「大丈夫だって!こんなに使いやすい武器、絶対に認められるよ!」
俺は笑って言った。
そしてついに七日目の朝、幸多さんと明さんとぽっぽ、それに照さんもやってきた。
「照さん!あの・・・ハーブティー、とても役に立ちました。ありがとうございました。」
智が頭を下げた。
「よかったよ。あれは、俺が明とマスター、幸多のために必死になって色々作ったものでね。それが大事な後輩に受け継がれるのは嬉しいよ。」
照さんが笑顔で言った。
「じゃあ、見せてもらおうか。栄喜。」
幸多さんが栄喜を見た。うなずく栄喜。そして栄喜の開発した武器を出した。先端が細くて槍の形になっている、名付けてイノセントスピアー。長さも調節できるし、ソードとガン、両方の機能も付いている。俺からしたら、物凄いと思うんだけれど・・・。幸多さんは黙って色々見たり使ったりした後、イノセントスピアーを置いた。
「武器としては言うことなしの発明だな。泉の攻撃的な戦い方にも合っているし、他の戦闘員でも使いやすいだろう。でも、俺はこれをまだ認められない。」
幸多さんの言葉に、栄喜の顔が凍り付いた。
「栄喜、お前は、新人類を倒したくてここに来たのか?お前はなんのために研究をする?もう一度よく考えろ。三日後、また見に来る。このイノセントスピアーを、俺の認められるものにしてみろ。」
幸多さんはそう言うと、そのまま出て行った。
「栄喜、君は言っていたよね。研究は人を幸せにするものを作れるって。確かに、今作っているのは武器。決して人を幸せにするものではないかもしれない。でも、繋がることはあるはずだよ。周りを良く見てごらん。君の大切な人たちを。」
照さんは笑ってそう言うと、部屋から出た。
「照、ほとんど答え教えてるし。まっ、あたしからも答えに繋がるものをあげるよ。健人があたしにこいつのことで怒ってきたからね。それなりの覚悟があるんだろ?健人。」
明さんが俺の事を見た後、健人に言った。健人、俺の事でそんな事してくれたんだ・・・。栄喜はかなりショックを受けた顔でうつむいている。健人は明さんに対してうなずいた。
それを見ると、明さんは栄喜の首に何かぶら下げた。それを見て驚く栄喜。
「重要資料室の入室許可書だ。健人が、大切なことを教えてくれるはず。それとな・・・。」
明さんが栄喜の肩に手を置いた。
「幸多があたしのものを作るのに、一か月以上はかかってる。何度も失敗して、何度もやり直して、やっと出来上がった。一度、あれくらい言われたくらいで落ち込んでたら、研究者にはなれないよ。」
明さんは、健人に目配せすると出て行った。
「重要資料室・・・。絶対に持ち出し禁止で、秘密事項の情報もある所だろ・・・?そんな所に、俺たちが入っていいのか・・・?」
栄喜が許可証を見ながら言った。
「明さんが考えていること、なんとなく分かった。栄喜、皆で行こう。ショックなものばかりだと思うけれど、皆で乗り越えよう。全部、皆に分かるように説明するから。」
そう言うと健人はまた丸くなる体制になった。全員で肩を組む。
「私たちは家族!健人くんの言う通り、皆で乗り越えよう。栄喜、今自分のやっていることに自信を持って!あなたは今誰よりも幸多さんに認められてるんだから!」
智が笑顔で言った。栄喜も、笑ってうなずいた。
俺たちは全員で重要資料室へ行った。入室許可書を当てて、中に入る。中には、沢山の資料があった。
「皆にも分かるように、映像で大事だと思うことを説明しながら見せるよ。皆が知りたいこともあると思う。」
健人の言葉に全員がうなずいた。
「まず・・・これが、昔の・・・新人類と地球人が分かれる前の映像だよ。」
そう言うと健人は一つの映像を再生し始めた。
「はーい、今回の、笑顔の花を咲かせようパーティーのちっちゃなプロデューサーさん、お願いしまーす。」
男の人の声と、女の子と男の子二人、それにぽっぽが映った。
「この映像を撮った人がアース・ライトの創設者。明さんと春日さんのお父さんだよ。この女の子が明さん、右の男の子が幸多さんで左の男の子は海(かい)輝(き)さんっていって、新人類になった人なんだ・・・。このパーティーは、新人類と地球人に分かれる前に、最後に行われた仲の良い人達でのパーティー。」
健人が説明をはさんでくれる。
「はーい!総合プロデューサーの明、12歳でーす!こっちがアシスタントの幸多と海輝でーす!そしてこの子は、森でお友達になったぽっぽちゃんでーす!これから、パーティーの準備の進み具合をレポートしまーす!」
今とは全く違う明さんの笑顔。明るくて、とても楽しそうだ。
「まずは、飾りつけ担当の照でーす!」
「いや・・・俺は映さなくていいから・・・。」
「もう!しょうがないなぁ!次に、お料理担当の、おねぇちゃんと幸也さんのラブラブカップルでーす!」
カメラが、春日さんと男の人を映した。
「明、余計な事言わないで。」
春日さんは今と全く違った。冷たい印象で、すこしきつい感じだ。
「明ちゃん、張り切ってるね。俺たちも頑張らなきゃね。」
幸也さんと言われた人が笑顔で言った。
「この人は、幸也さん。春日さんの恋人だったんだけれど・・・この人も新人類になることになったんだ。必要だと思う部分だけ映すね。」
健人の声。健人はリモコンで映像を早送りした。次に映し出されたのは、明さん達三人が温室のような所で、沢山の花を切っていた。
「パパ、本当に好きな花を使っちゃっていいの?」
明さんがカメラに向かって言った。
「もちろん。明がプロデューサーさんだからね。でもね、明。大事な事を知っておいてほしい。」
「何?」
「今、明は自分で花を選んでいると思うけれど、違うんだよ。花が、明を選ぶんだよ。花には分かるんだよ。自分を一番輝かせてくれるのが誰か。」
「うん!じゃあ、いっぱいお花を飾るよー!!」
明さんが元気よく幸多さんと海輝さんに言った。
また、健人が早送りした。次に映されたのは、パーティーらしい光景だった。皆、楽しそうに笑っている。でも、どこか寂しそうだ。春日さんと幸也さんは、ずっと二人で手を握って話をしている。少し離れた所に、照さんがいた。
「プロデューサーさん、パーティーは大成功ですな!」
明さん達三人が映された。明さんは可愛いドレスを着ていて、幸多さん達もパーティー用の服を着ている。
「うん!笑顔の花がいっぱいだね!離れ離れになっても、みんなずーっと仲良しだね!」
笑って明さんが言った。
「・・・そうだね。じゃあ、ここでプロデューサーさん、将来の夢を教えてくださーい。」
明さんは少し考えて、笑顔で言った。
「あたし、また、こうやってみんなが楽しめるものをプロデュースしたい!それから、一番の夢はね・・・。」
そう言うと、幸多さんと海輝さんの腕に手を回して、三人でくっついた。
「あたし、二人のお嫁さんになる!それでね、まず白のドレスを着て、海輝とはピンクのドレスで、幸多とは黄色のドレスを着て、それで三人と皆でパーティーをするんだ!!」
明さんはものすごく笑っているけれど、海輝さんと幸多さんはその上で火花を散らしているのが分かる。
「ははは・・・。それは、良い夢だね。明、今日の事を忘れないで。明一人だと、このパーティーは成功しなかったよね?傍で手伝ってくれる人たちがいて、そして来てくれて楽しんでくれる人たちがいる。みんなが支え合って出来上がったパーティーなんだよ。」
「うん!!絶対に忘れないよ!」
健人が映像を止めた。
「明さんと春日さんのお父さんは元々植物学者で、色んな研究をしていたんだ。そして、当時の世界政府の一人でもあった。だけど、植物が好きな二人のお父さんは移住しない道を選んだ。・・・でも、戦争が始まろうとした時に、新人類と戦う組織を造ることを世界政府から命じられたんだ。それで、できたのがアース・ライト。・・・これからは、ちょっと衝撃的な映像を見せるね。」
健人が別の映像を流す。それは、戦いの映像だった。
「これが昔の明さん達。イノセントアームを開発したお父さんは、それを使える人間を戦わせるしかなかった。明さんと春日さんは、無敵の二人と言われた戦闘員だったんだ。あの頃、戦闘員はサポートロボの操縦もしていた。照さんはロボの操縦がこの頃からうまくて、幸多さんはどっちも兼ねていたんだ。今よりロボの数が少なかったし、そもそも戦闘服や武器も今ほどのものじゃなかったんだ。でも・・・さっき見せた映像の通り、皆にとって新人類は敵じゃない。だから皆すごく苦しんでいたと思う。」
俺たちは戦いを見つめていた。俺たちの戦いなんて比じゃない。新人類の乗った機体何台もと、無人機を相手に少ない人数とオペレーターの声で戦っている。
「明!もっと冷静に戦って!」
春日さんの声。
「分かってるよ!ぽっぽ、行くよ!!」
明さんはこの時からぽっぽに乗っている。そして・・・春日さんと明さん、今と正反対だ。明さんは、まるで俺が戦っていた時のように突っ込んでいて、春日さんがサポートをしている。
健人が映像を止めた。
「ごめん、ここからは、俺、見れない。この日、俺の父親が死んだんだ。そして俺は、新人類に復讐したくて隠れてこっそりここに来た。俺が10歳の時だった。すぐに見つかったんだけど・・・。その時の映像がこれ。」
健人がまた別の映像を再生した。
「俺は、ここに入って戦いたいんだ!」
幼い健人が叫んでいる。
「でもね、健人くん・・・ここは14歳にならないと入れないんだよ・・・。」
男の人が、困っている女の人と春日さんと説得をしている。声で分かったけれど、明さん達のお父さんだ。そして女の人は健人の母親だと思った。
「だけど、俺はイノセントアームをセットできる!イノセントアーム・セット!」
健人が戦闘服姿になった。赤いイノセントがついている。
「健人くん、それをどこで・・・。」
驚いている三人。
「父さんのやつを形見としてもらったんだ!戦闘服になれるんだから、俺も戦える!」
「でもね・・・健人くん、君の悲しみは分かるけれど、ここは、新人類を憎んで戦う場所じゃ・・・」
「待ってください。」
明さんの声がした。映像に、明さんと幸多さん、照さんが映る。
「その子は、分析・研究部隊に入れてあげてください。それなら、お母さんと一緒にいられます。普段の生活は、あたし達が責任をもって面倒見ます。ここに来てしまった時点で、ドームには返せないはずです。」
明さんが言った。
「明!あなた自分が何を言っているのか分かっているの!?ここは、新人類から地球を守る正義の場所でも、新人類を憎んで戦う場所でもないじゃない!ここは地球の光・・・地球に生きる人たち一人一人の輝きを守る所!そして私たちの大事な仲間を守るために戦ってるんでしょ!!あなたはそれを誰よりも分かっているはず!」
春日さんが言った。とてもきつい言い方で、春日さんだとは思えない。
「分かってる。外から見た地球が例え昔のように輝いていなくても、あたし達皆一人一人は輝きを秘めている。だからここの名前はアース・ライト。分かってるからこそお願いしたいの。だって、ここにいる皆は家族でしょ?・・・母親が子供といることは悪いことですか?」
明さんがお父さんに言った。お父さんはじっと考えた末、明さんを見た。
「明、本当に責任をもって面倒を見られるんだね?」
「はい。約束します。」
「分かった。戦闘中は、絶対にお母さんのそばにいるように。それ以外は、明たちの誰かと必ず一緒にいるんだよ。それが約束できるなら、政府に内緒で君をメンバーに入れよう。」
お父さんの言葉に、幼い健人は黙ってうなずいた。
映像を止める健人。
「こうして俺はここに入った。それからずっと、明さんにくっついてたんだ。明さんの真似ばかりして、トレーニングや、戦闘訓練も明さんがしてくれた。そして、その暖かさで俺はここの意味を少しずつ理解できた。明さんはいつも笑っていて、皆の中心にいた。逆に春日さんは今と違って厳しくて、明さんとは相部屋で仲良くしていたみたいだけど、外では一人の事が多かったんだ。」
俺たちは黙って健人の声を聞いていた。
「智の最初の試験の時さ、昔の事例って明さん言っただろ?あれ・・・実は俺が人質になったんだ。その時の映像を流すけれど、けっこうきついかも。」
健人が映像を再生した。そこには衝撃の光景が映っていた。何人もの人が倒れていたり怪我をしていて、ロボも壊れている。戦闘終了後のようだった。そして、倒れている一人に救護機を当てている照さん。その横で、明さんが大声で泣いている。ぽっぽが明さんにすり寄っている。
「起きてよぅ!もうこれ以上友達が死ぬのは嫌だぁー!!お願いだから、起きてよぉー!!」
幸多さんが走ってきた。後ろに健人もいる。幸多さんは黙って明さんを抱きしめた。泣き続ける明さん。照さんは、救護機を止めると幸多さんに向かって首を振った。
「明。ここは戦場。一人一人の死に涙を流していたらきりがない。いい加減にしなさい。」
春日さんが通りすがりに言った。本当に、今の春日さんだと思えない。その時。新人類らしい人が全身むき出しだけれどまだ動けたらしい機体で、一瞬で健人をさらった。それを見て、瞬時に動く明さん達。でも、健人の首にナイフが突きつけられ、空中で動けなくなった。
「このガキの命が惜しければ、すぐに降伏しな!!どうせ地球はもう滅びるんだ!!みっともない星をさらすのもいい加減にしろ!!」
新人類の女の人が言った。
「待て!一人殺したいなら、あたしを殺せ。あたしとそのガキ、どっちを殺した方がお前の得になるか、一目瞭然だろ。その代り、ここは降伏しない!あたしは逃げない。その証拠に・・・。」
明さんがぽっぽに乗って目の前にいた。そしてイノセントアームを解除すると、投げ捨てて生身の体になった。涙は止まっている。
「へぇー。あんた、新人類の中でも噂の戦闘員じゃん。あんたがいなくなれば、戦力は一気に落ちる。そして私がもし殺されても、私は英雄になれる!!」
そう言うと、女の人は明さんにナイフを振り上げた。一直線に胸を狙う。明さんは微動だにしなかった。女の人は、ギリギリでナイフを止めた。手が震えている。明さんがその手をつかんだ。
「あたしとお前の覚悟を一緒にするな!!」
明さんが叫んだその時、隙をついて健人が機体を止めたのが分かった。
「このガキ!!」
落ちかけた機体に乗った女の人は、健人をつかむと思いっきり下に投げた。明さんは瞬時にぽっぽから飛んで健人を包むように抱きしめて、背中から下に落ちて行った。ぽっぽが動こうとしたが、新人類の女の人がぽっぽに飛び乗り押さえつけて行かせないようにしている。
幸多さんと照さんが、壊れたロボから無理矢理防護マットを取り出して受け止めようとしているけど、二人とも生身。落ちる・・・!その瞬間に、ピンクの光が二人をキャッチした。そして防護マットに落ちた。受け止めたのは、春日さんだった。
映像が止まった。
「この時、春日さんにピンクのイノセントが出現したことによって俺たちは無事だった。それで、俺はますます明さんから離れなくなった。次に、黒いイノセントと白いイノセントが出現した時の映像だけど・・・。二人の映像を分けて同時に流すね。皆、覚悟はいいな?」
健人の言葉に、俺たちは黙ってうなずいた。
「新人類が、総攻撃をかけてきています!!次々に世界中の支部が陥落しています!ここも危ないです!」
健人の母親の声がした。
「全員、本部のシールド内で守りを固めるんだ!ここが陥落したら地球は終わりだ!」
お父さんの声。
大量の新人類の機体が本部を襲う中、本部のシールドの外で明さんと・・・海輝さんが向かい合って立っていた。
「明、久しぶりだね。」
「海輝・・・なんで・・・・?」
「ごめんな。俺、機械に詳しかっただろ?そのせいで向こうの新しい政府に無理矢理機体を作らされて・・・。でも、俺は明を守りたい。ずっとそれだけは思ってた。この奇襲してきている機体には、全て俺の心臓と連動している爆弾がついている。俺は、たとえ滅びる前の星でも地球が・・・明が大好きだ。だから・・・。」
海輝さんが銃を取り出すと、明さんを抱きしめた。海輝さんの持つ銃は、自分の胸に当たっている。
「嫌だ!海輝!何考えてるの!?せっかくまた会えたのに!離して!お願い!!」
明さんが泣き叫んでいる。幸多さんが、シールドから飛び出してきた。
「海輝・・・!どうして・・・!!」
「幸多・・・明をよろしくな・・・いつか、また三人で・・・・」
そう言うと、海輝さんは自分の胸を打った。崩れ落ちる海輝さんと共に、新人類の機体が爆発を始めた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
明さんから、一気に黒い光が放出された。その光は、新人類の機体の破片を粉々にする。幸多さんが、ピンクのイノセントのシールドを使って必死に明さんに近づこうとしている。春日さんも、シールドの外に飛び出そうとしていて、それを照さんが必死で抑えている。
「照!!離して!明が!明が!!あかるぅぅぅー!!」
春日さんが叫んだ瞬間、春日さんからは白い光が放たれた。その光は、本部を包み込み、明さん達も包み込んだ。
映像が止まる。桜が俺にくっついてきた。桜は涙を流していた。
「今のが、休戦になった本当の理由。黒いイノセントは、悲しみ、憎しみ、苦しみ・・・全ての負の感情の固まりだと言われている。海輝さんが死んだショックで、明さんは黒いイノセントを発動させた。同時に、明さんを失いたくない、守りたいっていう春日さんの強い気持ちが、白いイノセント・・・究極の守りのイノセントを発動させたんだ。慰霊碑の近くに、四角い棒があるだろ?あそこは実は海輝さんのお墓なんだ。でも、世界政府は、明さんが戦争を休戦にしたことにした。そして・・・黒いイノセントを持つ明さんを超重要危険人物に指定した。」
また映像が始まった。今栄喜が使っている、研究室だ・・・。研究室の中にベットがあって、沢山の機械をつけられた明さんが寝ている。
「明さんは、イノセントの制御服を着せられてこの研究室に閉じ込められていた。この時の制御服は、全てのイノセントを抑えてしまう。つまり、感情を消されてしまっていたんだ。」
健人が説明する。
「政府は、明さんが全てを消し去る黒いイノセントをコントロールできるようになれば最強の兵器になると言った。俺はそれが許せなかった。もちろん、皆も・・・。でも政府には何も言えなかった。そして、春日さんと幸多さんはずっと明さんの傍にいて、照さんも三人のために沢山のハーブティーをブレンドして作ったり、明さんが好きだったカレーを中心に色んなものを作っていた。俺もその時に手伝わせてもらってたんだ。でも、明さんは笑うことも怒ることも・・・話すこともできなくなっていた。そんな明さんを見て、幸多さんは黒いイノセントだけを抑えてコントロールできるものを必死に開発しようとした。」
健人が映像を切り替えた。研究室で、幸多さんが必死になってパソコンを操作したり文献を読んだり、メモをしている。眠気がなくなるサプリが机に転がっている。
「幸多・・・少しは休まないと・・・。もう何日も寝ていないじゃないか・・・。」
照さんが、幸多さんに近づいた。幸多さんが、拳を机に叩きつけた。
「できないんだよ!明を守るものが!!どうしても必要なんだ!明を守れて笑顔を取り戻せるものが!!」
幸多さんの目から涙がこぼれた。
「幸多・・・・。」
「どうしたらいいんだよ!!教えてくれよ、海輝!!」
幸多さんの叫び声。映像が止まった。
「この後しばらくして、やっと幸多さんは黒いイノセントだけを制御することのできる服・・・今の明さんの戦闘服や明さん専用の武器の元となるものを開発した。政府はその功績と戦争中の幸多さん達の功績を讃えて、それまでになかったレジェントという階級ができた。幸多さんは全ての、照さんはサポート戦闘員のレジェント・・・そして、明さんは超重要危険人物とされながら戦闘レジェントになった。・・・俺の母さんは、そんな状況に耐えられず自ら命を絶った。そして全てに責任を感じた明さん達のお父さんは、明さんの世話をしてる時に今のように優しさが目立っていて、誰よりもここの本質を理解したうえで究極の守りを持った春日さんをマスターにして、一人ここを去った。ドームにも戻らず、今はどこにいるのか俺も分からない。」
「明さんは、それからどこへ・・・?」
栄喜が聞いた。
「危険人物の上、真実を知っていた明さんはドームには帰れなかった。だけど政府の言った兵器になるっていう言葉が皆許せなくて、明さんを解放してあげたかった。それで、明さんの最初に言っていた夢・・・。明さんは、ここから少し離れた幸多さんと海輝さんとよく遊んでいた思い出の神社で、ドームの中のイベントプロデューサーをしていたんだ。春日さんの進めでね。でも、いつでも戦闘に戻ってこられるようにはしていたみたいだけど・・・。明さんは皆と・・・幸多さんに責任を感じさせないため自分の戦闘服をデザインした。実は、黒のイノセントは使うだけでかなり体に負担をかける・・・。だから、明さんが戻ってくることは幸多さんや照さん、春日さんにとって本当に苦しいことだったと思う。俺も正直苦しかった。これが、俺の知っていることだよ。まだまだ沢山資料はあるけれど、このくらいにしておくね。」
健人が資料を片づけると、俺たちは外に出た。栄喜は、自分の作った武器を手に取って見つめていた。俺は、何も言えずに考えていた。明さんの黒いイノセントが出現した時と、訓練の時に桜の泣き叫んでいた映像が重なった。もしあの時、俺が死んでいたら、桜にも・・・?桜は、俺にくっついたままだった。無言で涙を流している。健人が、少し申し訳なさそうな顔をしていた。
「健人くん、一番辛いのは健人くんだよね。ありがとう。分かりやすく説明してくれて。」
智が少し笑って言った。健人が、少し安心したようにうなずいた。智はそれからすぐに、作ってみたいハーブティーがあると言って台所に入って行った。
「栄喜・・・大丈夫か?」
俺は武器を見つめ続けている栄喜に言った。
「・・・俺さ、新人類の機体を倒すのに効率の良い物ばかり考えていた。もし、俺たちが離れ離れになって、戦わなきゃいけなくなったら、これは友達にむけられるかもしれないものなんだって気が付いた。俺が・・・研究者がつくらないといけないのは、誰かを幸せにできるもの・・・。それができないなら、せめて大切な人を守るものを作らないといけなかったんだ・・・。俺、この機能を大幅に変える。泉が使いやすくて・・・とっさにシールドを作るのが苦手な泉を守れるように、泉も皆を守れるようなものを作る。やっと分かった。明さんが言った泉の武器を作れってヒントの理由。大切な人のためにつくらないと、意味がなかったんだ。」
栄喜が言った。俺たちは、黙ってうなずくことしかできなかった。突然、栄喜が驚いた顔でイノセントアームを取り出した。そして俺たちを見る。俺たちは、なんとなく意味が分かってまたうなずいた。栄喜がイノセントアームをセットした。栄喜に、緑のイノセントが追加されていた。ちょうどその時、智が全員分のカップを持って台所から出てきた。智は、栄喜の戦闘服を見て何も言わずにほほ笑んだ。栄喜が黙って解除した。
「あのね、照さんが、初めてブレンドしたっていうハーブティーを入れてみたの。説明に書いてあったのは、明さんを見て苦しんでいる春日さんと幸多さん、そして明さん自身のために照さんが何かできないか考えてできたものって書いてあった。それ以外に書いてなかったし、どういう意味か今まで分からなかったから・・・。」
俺たちは、皆でハーブティーを飲んだ。今まで智が飲ませてくれたものより美味しいとは思えなかったけれど・・・あの映像を見て、このハーブティーができた意味を考えると、とても暖かくて優しい味がした。
それから栄喜はまた作業に没頭し始めた。健人もパソコンでチェックをしながら手伝っている。俺は、くっついていた桜に手を回して抱き寄せた。大切な人が、こうやって傍にいてくれることが嬉しくて、そして失うのが怖くて・・・。でも、明さんは休戦になるまで笑っていたんだ。それは、一分一秒のこの瞬間の幸せを大切にして生きていたからなんだとやっと分かった。戦闘訓練を厳しくした理由も・・・。
「泉・・・大丈夫・・・?」
桜が心配そうに俺を見上げていた。
「お前こそ。」
俺は桜に笑った。桜が、俺を見て安心したようにうなずいた。
次の日からもまた、俺たちは朝からシミュレーション訓練をすると、栄喜の武器を何度も試した。栄喜は戦闘能力はもちろんのこと、とっさに強化されたシールドが作られる機能や、俺が苦手な周りにシールドを張ることを簡単にできる機能をつけてくれた。俺が一番使いやすいように、そしてシールドの正確さや強度を何度も何度も試して、直して、また試してを繰り返した。健人は常にデータをとってアドバイスをしていたし、智もいつも休憩の時には色んなものを作ってくれた。桜は、シールドに関して沢山のデータを栄喜に託していた。こうして全員が協力して、幸多さんの来るギリギリまで粘って出来上がったのが、俺専用のイノセントスピアーだった。
俺たちは、幸多さんが武器を見て試したりデータをとっているのを無言で見つめていた。照さんも来ていたし、明さんは機嫌がよさそうにしていた。ぽっぽがなぜか俺たちに近づいてきて、鳴いたり覗き込んだりする。
「ぽっぽは、昔からこの部屋に来る人は遊んでくれる人だと思っているんだよ。」
俺たちはどうしていいか分からなかったけれど、照さんが笑って言った。
幸多さんが武器を置いた。俺たちに緊張が走る。
「・・・これは、これからも泉の変化や環境に合わせてどんどん改良できるものだな。だからこそ、泉専用の武器として使うことだ。この試験は一応合格。ただしこれをゴールだと思うな。研究にゴールはない。」
幸多さんはそう言うと、部屋から出て行った。照さんも、栄喜と俺たちに笑ってうなずいてくれると、幸多さんの後を追った。明さんは、なぜか残っていた。
「とりあえず、おめでとう。重要資料室の許可書、返してもらうよ。」
明さんが少し笑いながら言った。無言で頭を下げながら、許可書を渡す栄喜。
「あんたはかなりの努力家だ。ここに来なければ、武器なんて作らなくて済んだのにな。」
明さんの言葉。そうだよな・・・栄喜は研究で人を幸せにしたいのに、ここで作られるものは全て戦争に関わりがあるものだもんな・・・。救護機だって、戦闘に合わせて改良されていくし・・・。今なら、明さんの言葉が分かるような気がした。
「まっ、でも今ちょっと機嫌が良いから、あんた達が知りたかった事、教えてあげる。」
そう言うと明さんは笑った。訓練の時とは全く違う、優しい笑顔だった。
「あんた達、なんで自分たちに黄色のイノセントが出現したのか分からなかっただろ?黄色のイノセントはな、自分以外の相手を理解したい、そして仲良くなりたい・・・そんな調和を望む心が生み出すもの。人は誰しも、性格も特徴も考え方も違う。それでもお互いの良い所、悪い所を受け入れて共に歩む。その知らず知らずの覚悟の気持ちが出現理由だ。ついでに教えとくと、それが発展したものがピンクのイノセント。人を愛する気持ちが生む色だ。恋愛のことだけじゃない。・・・この子がピンクのイノセントを出す前、あたしが、後ろにアース・ライトの人間がいると思えって言ったら、この子顔つきが変わっただろ?そういう、ここの人たちを・・・地球を愛せる心が、ピンクのイノセントを出現させるんだ。」
明さんは、そう言うと俺を見た。
「慰霊碑の前でのことは謝るよ。戦争が続く限り必ず憎しみや悲しみで苦しむ時がくる。そんな時、今の幸せを忘れずに・・・ここの本質を忘れずに戦えるように少し悩ませようと思ったんだ。自分の死より、仲間の死の方があたしは怖かったからな。でもあたしが思っている以上にあんたは優しくて、大分苦しんだようだから。」
明さんはそう言うと、ぽっぽを連れて出て行った。俺たちはしばらく無言だったけれど、少しして皆で栄喜に飛びついた。栄喜も、すごく嬉しそうにしていた。俺たち全員が笑っているこの瞬間・・・これが一番の幸せな時間なんだって思った。
幸多のラボ
「見事、合格したね。」
照が笑って言った。でも、声は悲しそうだ。
「明が大分ヒントをやったみたいだからな。健人が言うまで、俺は照のハーブティーのレシピを渡したことを知らなかったんだから。」
幸多が明を見た。聞こえない振りをする明。
「それより!あたしも完成したよ。作ったのは幸多だけど、新しいレジェントの戦闘服!やっぱり女の子は可愛くしたいよね!」
明がそう言って幸多を見ると、幸多がパソコンを操作して照に見せた。
「うん・・・すごく良いと思うよ。」
照がうなずきながら言った。
「後、これも届いたんだ!今はあたしの部屋にあるけどね。」
そう言って自分のパソコンを照に見せる。照は、悲しそうに笑ってうなずいた。
「パパにもこの写真を送ったんだ。相変わらず花の写真と花の名前しか返って来なかったけどね。春の花のアツモリソウ。夏の花のサギソウとセンニチコウ。花言葉は、君を忘れない、夢でもあなたを想う、変わらない愛情・・・。今どこにいるのか聞いたけど、結局教えてくれなかったよ。ドームにいないのに、どうやって温室を作ってこんなに花を育てているんだろうね。」
明が笑って言った。照は、こらえきれないように下を向いた。
「・・・照、今、おねぇちゃんに必要なのは照だよ。あたし知ってるんだから。照が昔からおねぇちゃんが好きな事。それに、今後のアース・ライトにも照は必要不可欠。・・・後は、全部任せたからね。」
明が優しくほほ笑んで言った。幸多が照の肩に手を置いた。照が幸多の顔を見ると、幸多は黙ってうなずいた。
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「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
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