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事故物件は誰の部屋
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しおりを挟む「音羽さん、この依頼の話を詳しく聞こうと思うんですが、日にちの調整とかを頼んでも大丈夫ですか?」
「はい! 私が持ってきてしまったものなので……。場所はどうしましょう?」
「俺の寺でお願いします。こういう依頼って、お寺ってだけで安心したりするんで」
「良ければ、音羽さんも一緒に来る? 虎ちゃんも松子ちゃんも、音羽さんと凄く打ち解けているから。僕たちとも仲良くしてくれたら嬉しいし、同い年なんだから、敬語だって使わなくて良いよ?」
陽一が、笑顔で音羽を誘う。先を越されたくないと言いつつも、虎之助に自分たち以外の理解者ができたことが、本当に嬉しかったのだ。
「松子ちゃん、私も行って良いのかな?」
音羽は、松子を抱きしめて、問いかけた。
《もちろんよ。危険なことがあっても、私や三人が必ず守るわ。それに、私も音羽がいると嬉しいもの》
「音羽さんがいると嬉しいって。それに、危険なことがあったら守ってくれるとも言ってるよ」
陽一の気持ちがしっかりと伝わってきた安明が、音羽に対して敬語をなくす。
音羽は、笑って頷いたのだった。
※※※
「それで、金縛りに遭っても、それ以上は特にないし、触れられても怖くないんです。歩き回っていたり、視線を感じたりすることはあっても、姿は見えないですし。もし、前の女性がまだ普通に住んでいるだけなら、私は気にしないんです。ただ、あれから少し調べて、亡くなったことに気がついていない可能性とかっていうのもネットで見て、そうであったら放っておくのもいけないのかなって」
安明の寺で、愛が安明に説明をする。愛の隣には、愛の彼氏がいて、安明の後ろには、陽一、虎之助、音羽は松子を抱いて座っている。
「なるほど。日常生活に支障が出たり、怖くて家に帰りたくないということもないんですね」
「はい。だから本当は、こうやってご相談するのにも迷いがあったんですが……」
愛はそう言うと、チラリと彼氏を見る。
「大したことのないことで、友人のツテを頼ってしまいましたが、どうしても心配で。ネットの情報ではありますが、本人が気がついていないだけで影響されている、とかっていうのもあって……。なるべく早く、二人で住める物件を見つけて引っ越そうとは思っているんですが、お互いの職場の距離や広さの条件が合う場所がなかなか空かなくて」
「そうなんですね。今お話させて頂いた感じだと、何かに魅入られていたり、影響を受けているようではないので、安心してください。ただ、こちらの方でちょっと気になることがありまして」
安明が、相手を緊張させない仏スマイルで、話を進めていく。
「私たちは、依頼を聞いたときに、緊急性や必要性を考慮して、その依頼を受けるかどうか決めています。今回、この依頼を見たとき、緊急性や今すぐの必要性は特に感じなかったのですが、どうも金縛り等の現象を起こしているのが、前に亡くなった女性ではないような気がしたんです」
「へっ……? じゃあ、他にも誰か……?」
愛が、驚いた様子で彼氏を見たが、彼氏も驚いている。
「調べたときには、女性しか出てこなかったので……」
「ですので、一度家にお邪魔したいと思っているのですが、よろしいでしょうか? 人数が多いので申し訳ないですが、必要に応じて外で待ちますので」
「お願いしても良いですか? 愛のアパートは、値段の割に広いんです。本当なら、そこで少しは考えるべきだったのかもしれないですね」
愛の彼氏が、安明達に向かって頭を下げる。愛も、つられて頭を下げた。
《音羽が呼び込んだだけあって、良い二人じゃない》
「音羽さん、松子ちゃんが……」
陽一が、松子の言葉を、音羽にささやく。音羽は、少し嬉しそうに、松子を抱きしめた。
「なんだ。松子と音羽は本当に仲が良いな。いつも夜中のバイトの時、松子を一人で置いていくことに抵抗があったが、これからは音羽に預ければ良いな」
アパートに行く準備をしながら、虎之助が音羽に抱かれている松子を見ながら言った。
《あら、人形の私を置いていくことに抵抗があったのね》
「虎之助くんのアパートと私のアパートって、すぐ近くだもんね。私のところはオートロックがついているし、松子ちゃんがいたら安心するし、いつでも一緒にいるよ?」
「む。そうか。じゃあ礼として、うちのジムの筋トレ紹介冊子を持ってきてやろう。家でできる手軽な筋トレが載っている」
「それはいらないかな」
音羽の笑顔に、松子は安心した。前の耕也と違って、初めて依頼者の前に座り、しかもそれが自分が紹介した依頼者。かなり緊張していたのが、抱かれた腕から伝わってきていたのだ。
安明の運転する車に乗って、彼氏さんの車を追いかけて、四人と松子は愛のアパートに着いた。
虎之助はいつものリュックを背負ってはいるが、とくに警戒している様子はなく、《拳》ではなさそうな様子で歩いている。
「昔に比べて、虎ちゃんの《拳》が出るの、減ったよね」
案内の後ろに続きながら、陽一が安明に小さな声で言った。
「《拳》を出すほどの問題が少ないっていうのもそうだけれど、明らかに《筋トレ》の方がパワーアップしたから。ほとんどそっちで解決しちゃうしね」
「確かにねー。あ、今回、結界はどうしようか?」
「うーん、必要ないと思うけれど、状況に合わせていつでも出せるようにはしておこう」
「この部屋です。すみません、散らかっていますが、どうぞ」
愛と彼氏に促されて、四人と松子は中に入る。部屋は綺麗に片づいていて、光もしっかりと入っていて明るい。
ダイニングキッチンを通り部屋に案内された瞬間、松子がケラケラと笑った。
《なぁんだ。やっぱり、物件は関係なかったのね》
「だね……」
陽一も、驚いたように松子と同じ方向を見る。
「あ、あの……?」
愛が、少し不安そうにして、その視線の方向を見た。そこは、いつも視線を感じる場所だったからだ。この人達は「本物」だ。愛は、それを彼氏の耳元で伝える。
「前に住んでいて、亡くなったという女性は、やっぱりいないですね。むしろ、その女性はちゃんと行くべき場所に行っていると思いますよ」
「じゃあ、何が……?」
愛の彼氏の言葉を遮るように、いつものようにプロテインを作っていた虎之助が、愛がいつも視線を感じる部屋の隅に行くと、プロテインのカップをボンッ! と置いた。
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