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第十章
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「いやー」
僕や富沢の冷たい瞳に対し、倉本は取り繕うと必死だった。
「その、何というか、口が滑ってさー」
嘘だ。得々と自ら話し出したのだ。
倉本はそう言う奴である。
「許せ! ジュース奢るから」
ち、と僕は舌打ちした。
本当ならこの大愚挙をもっと追求し、ジュースなどという安いモノではなく、もっとしっかり形のあるものをせしめようと考えていたのだが、僕は実は優しい人間なのだ。
「1.5リットルね」
「ひでえ! 御崎、お前人間か?」
優しい人間だ。
と、このような経緯があり、その日の僕はそんなに機嫌が良くなかった。
五時限、全ての受業が終わるとすぐに帰宅を選択した。
学校の方も、今日からテストの採点週間で、三号棟の二階と三階は生徒立ち入り禁止、という神経過敏状態だ。
昨日のようなアウチなマネをしたら、今度はどんな問題が起こるか判らない。
夕日の中素早く鞄に勉強道具類を入れると、にやにやと笑う倉本が待っていた。
「さあ、行きましょう御崎様」
倉本は僕には許されたが、その後富沢や谷村さんにさらに責められ、結局『全員従者一週間の刑』に処された。
今は僕の鞄持ちだ。
「うむ、良きに計らえ」
「ははー」
調子の良い倉本は結構ノリノリで、恭しく鞄を受け取る。
僕の足は軽かった。
鞄の重さ分、引力が減ったのだ。
「ちょっと、ちょ、待てよ」
反対に増えた倉本は必死だが、刑罰故に仕方のないことだ。
「はあはあ、しかし、まさかあんなにあいつら怒るとはな」
「無理ないだろ」
「冷たいなー、御崎君」
「え? なんだって?」
「……御崎さまっ!」
両肩に鞄を提げる倉本は破れかぶれ気味だ。
確かに富沢は少し怒りすぎな気もする。伝聞によると昼休みに体育館裏に倉本を呼びつけ、胸ぐらを掴んだそうだ。
富沢にとっては教師に怒られたことより、スポーツマン硬派と認知されている自分が、『杏参り』を女の子と行った不名誉で軟弱な事実を、他の生徒に知られたくなかったのだろう。
確かに行動が女子的だ。
だからそう言うラブイベントは、自分達だけで行えば良かったのだ。
「ああ、コンビニ寄るからね、倉本くん」
「げ」という顔を僕に向ける。
「い、いや、ジュースは……来月にしてくんない? 今月キツくて」
くんない。来月になったら「なにそれ?」とコイツは惚けるのだ。
「か弱い俺が、かわいそうだろ!」
はたから聞いたら『なんだコイツ』と思う台詞を、倉本は平気で叫んだ。
案の定、玄関で靴を履き替えていた生徒達が、白く光る瞳を向けてくる。
僕や富沢の冷たい瞳に対し、倉本は取り繕うと必死だった。
「その、何というか、口が滑ってさー」
嘘だ。得々と自ら話し出したのだ。
倉本はそう言う奴である。
「許せ! ジュース奢るから」
ち、と僕は舌打ちした。
本当ならこの大愚挙をもっと追求し、ジュースなどという安いモノではなく、もっとしっかり形のあるものをせしめようと考えていたのだが、僕は実は優しい人間なのだ。
「1.5リットルね」
「ひでえ! 御崎、お前人間か?」
優しい人間だ。
と、このような経緯があり、その日の僕はそんなに機嫌が良くなかった。
五時限、全ての受業が終わるとすぐに帰宅を選択した。
学校の方も、今日からテストの採点週間で、三号棟の二階と三階は生徒立ち入り禁止、という神経過敏状態だ。
昨日のようなアウチなマネをしたら、今度はどんな問題が起こるか判らない。
夕日の中素早く鞄に勉強道具類を入れると、にやにやと笑う倉本が待っていた。
「さあ、行きましょう御崎様」
倉本は僕には許されたが、その後富沢や谷村さんにさらに責められ、結局『全員従者一週間の刑』に処された。
今は僕の鞄持ちだ。
「うむ、良きに計らえ」
「ははー」
調子の良い倉本は結構ノリノリで、恭しく鞄を受け取る。
僕の足は軽かった。
鞄の重さ分、引力が減ったのだ。
「ちょっと、ちょ、待てよ」
反対に増えた倉本は必死だが、刑罰故に仕方のないことだ。
「はあはあ、しかし、まさかあんなにあいつら怒るとはな」
「無理ないだろ」
「冷たいなー、御崎君」
「え? なんだって?」
「……御崎さまっ!」
両肩に鞄を提げる倉本は破れかぶれ気味だ。
確かに富沢は少し怒りすぎな気もする。伝聞によると昼休みに体育館裏に倉本を呼びつけ、胸ぐらを掴んだそうだ。
富沢にとっては教師に怒られたことより、スポーツマン硬派と認知されている自分が、『杏参り』を女の子と行った不名誉で軟弱な事実を、他の生徒に知られたくなかったのだろう。
確かに行動が女子的だ。
だからそう言うラブイベントは、自分達だけで行えば良かったのだ。
「ああ、コンビニ寄るからね、倉本くん」
「げ」という顔を僕に向ける。
「い、いや、ジュースは……来月にしてくんない? 今月キツくて」
くんない。来月になったら「なにそれ?」とコイツは惚けるのだ。
「か弱い俺が、かわいそうだろ!」
はたから聞いたら『なんだコイツ』と思う台詞を、倉本は平気で叫んだ。
案の定、玄関で靴を履き替えていた生徒達が、白く光る瞳を向けてくる。
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