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第十七章

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「ねえ! 今の見た? なぎちゃん、あれ……あれって、あれって!」
「……本当だもん、私見たもん、嘘なんか付いていない」
「ね、なぎちゃんも見たよね? 見たでしょ?」
「ちがう! 私、構ってほしいんじゃない! 寂しいから気を引いているんじゃない、本当に見たの!」
「なぎちゃんだって、なぎちゃんだって、見たんだよ、聞いてみな」
「……なぎちゃんなんかキラいだ! 私のことを信じてくれない」
「……なぎちゃんなんて、もういい!」

 
 放課後、僕は横目でじっと観察していた。
 一人荷物を丁寧な手つきで鞄に入れる、宮薙したうだ。
 ほっそりとした瀟洒な白い手が、黒い鞄に隠れたり見えたりを繰り返し、どうしてか僕の鼓動は早まった。
 相模さんは宮薙さんが見る『幽霊』は嘘だ、と断言している。ただ宮薙さんが目立ちたい、誰かの気を引きたいだけなのだと。
 だとしたらそれは失敗している。
 宮薙さんは現実に二年三組では孤立し、学校でも浮いている。
 幽霊を見て、幽霊と話せる。
 だからいつも幽霊と会話し、ぶつぶつと呟いている。
 誰が見ても気持ち悪い、引いてしまう行動だ。
 僕だって宮薙さんが、茫漠とした瞳で何もない空間と話している姿には、引く。
 だが、だけど……。
 僕は思い出す。
 かつてあり得ないモノを見た、と言い張りみんなに嘘つき呼ばわりされて、たった一人去っていった少女。
 僕に初めて出来た親友だった。
 あの時の記憶は鮮烈に、傷みとして残っていた。
 親友を失った傷み。
 僕は大きく息を吸うと、意を決して歩き出した。
「あ、あの」
「え」
 宮薙さんは突然話しかけられて、びくりと肩を震わせた。
「宮薙さん……そ、の」
「ああ、クラスメイトの……ごにょごにょさんっ」
 宮薙さんは穏やかに、にこにこしている。
「……今、言葉を濁したよね? 僕の名前知らないでしょ?」
「ちょっぴりミスです!」
 真っ赤になる宮薙さんがあまりにも可愛らしいので、僕の頬は緩んだ。
「僕は御崎なぎです」
「これはこれは、宮薙したうです、これからもよろしくお願いします」
 宮薙さんが深々と頭を下げるので、僕の調子は狂った。
 一体僕らは何をしているんだろう?
「ええっと、その、僕はさっきの話しを聞きたくて」
「さっき? 何のことです?」
 宮薙さんは怪訝に聞き返す。
「あの、『杏様』の呪いのこと」 
「何のことです? あなた誰でしたっけ?」
 今自己紹介したばかりなのに、宮薙さんは手を胸に置いて警戒し出した。
 僕はもう後悔した。

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