ラブレター~ラブレターを貰ったからには君のため、君の敵を全部倒す! それが僕の回答だ!

イチカ

文字の大きさ
3 / 13

第一章 2

しおりを挟む
 彼女だった。
 榎本麻美(えのもと あさみ)……同級生で同じ高校の同じ二年一組だ。
 榎本の白い顔が、街灯に照らされては闇に消え、再び街灯で明らかになり近づいてくる。

 剛は一つ大きく息を吸うと、シャベルを背に隠し道路に飛び出した。
 ききっ、と嘲笑うような金属音が響き、榎本の自転車は止まる。
「何よ! 危ないだろ! このバカが!」
 彼女らしく突然の出来事にも罵声。
「あん?」自転車のライトが剛に当たっていた。
「何だ、史垣か、なんでこんなとこにいんの? あんた」
 剛は相も変わらず苛々とした彼女の問いに答える必要を感じなかった。
「どうしてあんなことをした!」
 ただ自分の疑問をぶつける。
「はあ? 何言ってんの? あんた頭大丈夫」
 剛の目の前が赤くなる。こめかみで蠢く血管を感じた。
「何で美咲に酷いことをしたんだ!」
 榎本麻美は他の二人と美咲をいじめていた。学校で美咲は涙の日々を送った。
 だが剛はその時何も出来なかった。
 カビのように、教室の隅にいただけだ。
「何でそんなことあんたに言わなきゃならないわけ? 邪魔なんだけど、早く消えてくんない」 普段の剛なら不機嫌な榎本に震え上がっただろう。だが今は美咲からラブレターを貰っている。
「答えろ、どうして美咲をいじめた」
 ち、と榎本は舌打ちする。
「ウザかったからよ、もういいでしょ」
 見下すような榎本に、剛は頷いた。
「ああ、お前はもういい」
 次の瞬間、剛はシャベルを榎本の顔面に向かって振り抜いていた。
 野球の要領だ。
 がちゃ、と意外にも固い音がして、次にがしゃりと自転車が転倒する。
「ああ」剛は嘆息した。
 やはりシャベルは汚れた。
 榎本の血に。
「うえぇ、うえぇ」榎本は潰れた鼻から血と鼻水を垂れ流し、何か呼吸のような言語のような意味不明の音を口から漏らしている。
「お前がそうなったのはウザかったからだ」
 軽い足取りで剛が近づくと、「ひいぃ」と倒れた榎本が逃げるように這う。
「思い知れ」
「ちょっと待って!」
 前歯を数本失った榎本が停止を求めるが、もう知ったことではない。
 剛はシャベルを縦にして榎本に振り下ろした。
 ざっくりと鋼鉄色のシャベルは榎本の頭に突き刺さる。
 ぴゅー、と血が何かのショーみたいに吹き上がった。
 剛は素早く避ける。
 こんな奴の汚い汁で汚れたくない。
「はい一人」
 剛が肩をすくめると、背後で沈黙していた美咲がため息を吐いた。
 彼女の目には涙が堪っている。
 剛は少し慌てる。これは全て美咲のためだ。
「仕方ないんだよ美咲、これは仕方がないことなんだ。今行われている学校内の殺し合いに置いて殺されないために」
「殺し合い?」
「ああそうだ……知っているかい? 今中高生の自殺が急増しているらしい、何故か、沢山の要因があるだろう、だが俺が考えるのは学校での人間関係だ……つまりいじめ」
 その身で思い知っている美咲が身震いする。
「いいかい、今僕等は殺し合っているのさ、学校を舞台にして……なんだっけあの映画……そう! バトル・ロワイヤルなんてとっくに始まっている、俺達は学校に命がけで通わなければならない、そんな時代だ」
 剛は歯を食いしばった。
「教師や教育委員会なんて助けてくれない、奴らは見て見ぬフリさ。自殺者が出ても学校に責任はなかった、と第三者委員会とやらがほざくだけだ。俺達は自分を守るためにヤらなければならない。俺達の敵、俺達をいじめる奴らを殺していかなければならない、そうしないと楽しい学園生活なんて夢だし、命を奪われるまで苦しめられる」
 剛の指が真っ直ぐ血が止まりつつある榎本の死体を指す。
「こいつは君をいじめた。人権と尊厳を踏みにじり、命を絶つ可能性を知りながら。だったら思い知らせないとならない。いつまでも殺す側にい続けられる訳じゃないと……そう、これはれっきとした正当防衛なんだ! わかったかい?」
 こくん、と美咲が頷いた。
「よし」と剛は笑みを作り、ぐんにゃり倒れている榎本麻美に近づいた。
 ポケットからスマートフォンを取り出し、榎本の死体の指紋を使って起動させる。
 後は指紋認証からパスワードへと切り替えて設定を済ませると、自分のズボンのポケットにしまう。
 これからが骨だ。
 剛は周囲を見回した。今更だが時間故人気はない。
 あの場所まで運ぶのは簡単だ。
 彼は榎本の脇に手を入れると、屍を引きずる。
 簡単にはいかない。死んだ人間は結構重い。
「美咲、手伝って」
 声をかけると彼女は足の方へと回った。
 息を合わせて死体を動かす。
 先程とあまり変わらない。仕方ない、美咲は女の子だし自分をいじめていた奴の死体なんて触りたくないのだろう。
 剛は苦労しながら榎本を公園へと運んだ。
 ここを襲撃場所にした理由、それは土の地面の公園が近場にあるからだ。
 やはり人気のない公園の一角に死体を運んだ剛は、シャベルを取りに帰ってからそれで公園の片隅、トイレの裏を掘り出した。
 この公園は普段は子供を連れた若い母親や、ジョギングするおじさんで賑わうが、トイレの裏の土が変色していても気に掛けないだろう。
 時間を掛けまあまあの穴を掘った剛は、榎本を蹴り入れると埋めた。
「はあ」と一仕事終えた彼は、シャベルを地面に突き刺し額の汗を拭う。
「後は自転車だけど、防犯登録のステッカーを剥がして駅前にでも放置しよう」
 彼等はそれを全て終えると、再び自転車に乗る。
「シャベルをきれいに洗わないとな」  
 剛が呟くと、美咲は無理に微笑んでくれた。
「さあ、今日は帰ろう」
「うん」
 二人の自転車は走り出す。
 闇も同時に走り出した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

処理中です...