夜明けの歌

コウハクホタル

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朝が来ない。

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その日は風が冷たかった。妹におつかいを頼まれたその帰り道、僕は美しいものを見た。
「綺麗だなぁ。」
無意識に出た言葉だった。もう千年も夜が続いているので、意識していなかったが、海の上にぽっかりと浮かぶ月は、それはそれは、美しいものだった。僕は、少しでも月に近づきたくて、コンクリートの階段を早足で下り、浜辺に降りた。

吸い込まれそうな程に黒い空に、白く輝く月。その眺めに、僕は見惚れた。
ふと右を見ると、そこには、僕と同じくらいの歳に見える少女がいた。少女は、僕に気づいていないのか、ずっと月を見ていた。
「綺麗だと思わない?」
少女は月を見上げながら言った。僕は、少女が急に話しだしたことに、少し驚き、何も言えずにいた。
「ねぇ、綺麗だと思わない?」
あなたに聞いてるんだけど。と少女は僕の方を見て言った。
「うん、綺麗だと思う。」
僕は月を見上げながら言った。
「でも、君の方がもっと綺麗だよ。」
僕がそう言うと、少女は顔を赤らめた。
「バカじゃないの⁉︎誰も私のこと聞いてないじゃない。ナンパするなら、もっと上手くやってよね!」
怒られてしまった。 自分でも、何故こんなことを言ったのか、分からない。
ただ、その少女は、本当に美しかった。
「ごめん、変なこと言って。」
「変なことって何よ! じゃあ、私が綺麗だってのは、嘘だったの⁉︎」
また怒らせてしまった。しかし、綺麗だと思ったのは嘘じゃない。 海風に揺れる白く長い髪、透き通るような肌、青い目も、見れば見る程、綺麗だった。 
「プフッ、アハハ アハハハ!」
さっきまで怒っていたと思えば、今度は笑い始めた。
「あなた面白い人なのね。こんなに面白いのは久しぶりかも。」
僕が、なんて言えば良いのか、分からずにいると、
「ぎゅ~!」
少女がいきなり、僕に抱きついてきた。
「本当に面白い人。それに、とっても良い匂い。」
僕のお腹に、顔を埋めたまま、少女は言った。
「ちょ、ちょっと!」
少女はまだ、顔を埋めたままだ。
「ねぇ、離してよ。」
しかし、少女は離さない。そして、ゆっくりと、埋めていた顔を上げた。
「えっ?」
少女の頬を、涙が流れていた。少女は泣いていた。そして、青い目で僕を見つめたまま、
「私の名前はカグヤ。あなたの名前は?」
そう聞かれ、僕は答える。
「僕の名前はカオル。」
「カオル…うん、いい名前ね。」
そう言ってカグヤは、また僕のお腹に、顔を埋める。服が濡れていくのがわかった。 その時、僕は、そう遠くない未来、とんでもないことが起こりそうな気がした。
「私ね、月から来たんだよ。」
ほらね。
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