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記憶の片隅に。
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月から見える世界は途方もなく広く、どれだけ手を広げても、収まりきるものでは無い。
「ねぇお母さん、あの青い星は何?」
幼い頃、まだその頃は元気だった母に聞いてみた。母は私の小さな頭を撫でながら、優しい声で教えてくれた。
「あの星はね、地球って言うの。」
地球…私は何故かその言葉を酷く愛するようになった。毎日、地球にまつわる文献を読み、地球で暮らす自分の姿を想像した。
「お母さん!地球にはね、海っていう大きな塩の塊があるんだって!」
私は、地球について何か新しい知識を得ると、すぐに母に報告していた。母はいつも忙しい中、私の話を最後まで聴いてくれた。私が話すことなんて全部、母も知っていることだっただろうけど、母は学者だった。
「カグヤ、ちょっと出かけましょうか。」
私の10歳の誕生日、母が言った。母が私と一緒に何処かへ出かけることなど、ほとんど無かった。寂しくなかった…と言えば嘘になる。しかし、私は仕事をしている母が好きだった。汚れ一つない白衣を着て、分厚い資料に目を通す姿に憧れた。
「どこに行くの?」
私はわくわくしていた。
「地球に行きましょう。」
私は感激で涙が出た。本来なら、月の民が地球に行くことは、控えるべきなのだが、母が特別に許可を貰ったらしい。
「地球に行ってからの約束が二つありまーす。」
母が言う約束とは、地球の人と必要以上に関係を持たないこと。そして、
「絶対に日の光に当たらないこと。」
その時の私には、この言葉の意味が理解できなかった。ただ、母が言うには、月の民が日の光に当たると死んでしまうらしい。
「とは言っても、今の地球はずっと真夜中だけどね。」
母は私の知らない事をたくさん知っていた。私も母のようになりたかった。母に手を引かれ、私は歩いた。
月から地球に行くには、船に乗っていく。月だけに生える特別な木を使った特別な船。私と母は、船からどんどん遠くなる月を見た。私は月に手を振った。そんな私を、母は温かい目で見ていたと思う。
「着いたー!!」
森の中に船は降りた。私は船から豪快にジャンプした。着地に失敗し、手を擦りむいて泣いたことを覚えている。そんな時も、母が私を撫でてくれた。それだけで、私はとても嬉しかった。
「じゃあカグヤ、まずはどこに行きましょうか。」
母に聞かれ、私は大きな声で言った。
「海!!海に行きたい!」
「じゃあ、行きましょうか。」
母は私の手を優しく握り、歩き出した。私もそのあとをついて行く。
海というものを初めて見た。塩の塊だと書いてあったので、もっと固く、岩のようなものを想像していた。しかし、目の前に広がるのは、地平の先まで広がる水。私には、大きな水溜りに見えた。
「お母さん、これが海?」
私は、その大きな水溜りから少しだけ、水をすくって飲んだ。
「うぇ~、しょっぱい!」
舌が痺れそうになった。そんな私を見て、母は笑いながら言った。
「この星にはね、私達が知らないものがたくさんあるの。お母さん達みたいな学者が調べてるけど、それでもまだまだ分からないことだらけなの。」
その言葉が今でも、心の中で私に語りかけている気がする。私はその時、母のような学者になりたいと強く思った。
私は少し冒険をしてみたくなった。母に許可をもらい、辺りを探索してみた。海の上には私達の月が輝いていた。
「プフッ、アハハアハハ!」
海のそばには沢山の砂があると聞いていた。私は靴を脱ぎ、素足のままで走り出した。砂に足が埋もれて、上手く走れない。しかし、柔らかい砂がとても気持ちよく、悪い気はしなかった。文献には、砂の上を、ハサミを持った生物が歩いていたと書いてあった。母の言った通り、まだまだ知らないことだらけだ。私はますます地球の魅力に感動させられ、地球の虜になっていたのだ。
どれだけ走っただろうか。走り疲れた私は、その場にぺたんと座りこんだ。遠くには小さくなった母の姿が見えた。私は母に手を振った。母も私に手を振った。
(ほんとうにいい所だなぁ)
ふと私は右を見る。そこには、私と同じくらいの歳に見える男の子がいた。
(地球の人かなぁ)
私は母との二つの約束のうち、一つを思い出した。
(地球人とは必要以上に関係を持たないこと…でも、ちょっと話しかけるくらいなら大丈夫だよね。)
私は自分にそう言い聞かせ、話しかけた。
「あなたも海を見に来たの?」
男の子はこくんと頷き言った。
「月が好きなんだ。」
男の子の言葉に、月出身の私は少し嬉しくなった。
「どうして月ぐ好きなの?」
「僕は暗い所が苦手なんだ。でも、月はこの暗い世界を唯一照らしてくれてるから…かな?」
よく分からないけど。と男の子は言った。
「君もこの月が綺麗だと思う?」
今度は男の子から聞いてきた。突然の質問に私は戸惑ったが、
「うん、すっごく綺麗だと思う!」
と答え、少しドヤ顔をする。海に月が写り、揺れていた。
「じゃあ、僕もう帰らないと。」
男の子はそう言ったとほぼ同時に、
「カオル~!」
遠くで誰かがそう言った。男の子は、その声がする方に走っていった。見ると、男の子が走った先に、他にも何人かの地球人がいた。
(カオルか…)
私は、生まれて初めての不思議な気持ちになった。
地球からの帰り道。私は母にもたれかかり、眠っていた。なんの根拠も無いけれど、これからもずっと母といられる気がしていた。けれど、その日はすぐにやってきた。
ある日、私の家に見知らぬおばあさんがやってきた。そのおばあさんは、母と何かを真剣に話していた。母は時折涙を流していた。そのとき、私は母の涙を初めて見たと思う。
3時間ほど二人は話していた。おばあさんが帰った後、母は私の頭をゆっくりと撫でた。けれど、その手は震えていた。母は涙を静かに流しながら言った。
「カグヤ、あなたが月の巫女に選ばれたの…」
月の巫女にについては、私も知っている。月の巫女に選ばれるということが、何を意味するのかも。
母は私を抱きしめて言った。
「絶対に守るから…必ず。」
月の巫女に選ばれるということ…それは、表向きはとても誇り高く、めでたい事と言われる。しかし、
「お母さん…私死んじゃうの?」
使命を果たし死ぬ事でもあるのだ。
「ねぇお母さん、あの青い星は何?」
幼い頃、まだその頃は元気だった母に聞いてみた。母は私の小さな頭を撫でながら、優しい声で教えてくれた。
「あの星はね、地球って言うの。」
地球…私は何故かその言葉を酷く愛するようになった。毎日、地球にまつわる文献を読み、地球で暮らす自分の姿を想像した。
「お母さん!地球にはね、海っていう大きな塩の塊があるんだって!」
私は、地球について何か新しい知識を得ると、すぐに母に報告していた。母はいつも忙しい中、私の話を最後まで聴いてくれた。私が話すことなんて全部、母も知っていることだっただろうけど、母は学者だった。
「カグヤ、ちょっと出かけましょうか。」
私の10歳の誕生日、母が言った。母が私と一緒に何処かへ出かけることなど、ほとんど無かった。寂しくなかった…と言えば嘘になる。しかし、私は仕事をしている母が好きだった。汚れ一つない白衣を着て、分厚い資料に目を通す姿に憧れた。
「どこに行くの?」
私はわくわくしていた。
「地球に行きましょう。」
私は感激で涙が出た。本来なら、月の民が地球に行くことは、控えるべきなのだが、母が特別に許可を貰ったらしい。
「地球に行ってからの約束が二つありまーす。」
母が言う約束とは、地球の人と必要以上に関係を持たないこと。そして、
「絶対に日の光に当たらないこと。」
その時の私には、この言葉の意味が理解できなかった。ただ、母が言うには、月の民が日の光に当たると死んでしまうらしい。
「とは言っても、今の地球はずっと真夜中だけどね。」
母は私の知らない事をたくさん知っていた。私も母のようになりたかった。母に手を引かれ、私は歩いた。
月から地球に行くには、船に乗っていく。月だけに生える特別な木を使った特別な船。私と母は、船からどんどん遠くなる月を見た。私は月に手を振った。そんな私を、母は温かい目で見ていたと思う。
「着いたー!!」
森の中に船は降りた。私は船から豪快にジャンプした。着地に失敗し、手を擦りむいて泣いたことを覚えている。そんな時も、母が私を撫でてくれた。それだけで、私はとても嬉しかった。
「じゃあカグヤ、まずはどこに行きましょうか。」
母に聞かれ、私は大きな声で言った。
「海!!海に行きたい!」
「じゃあ、行きましょうか。」
母は私の手を優しく握り、歩き出した。私もそのあとをついて行く。
海というものを初めて見た。塩の塊だと書いてあったので、もっと固く、岩のようなものを想像していた。しかし、目の前に広がるのは、地平の先まで広がる水。私には、大きな水溜りに見えた。
「お母さん、これが海?」
私は、その大きな水溜りから少しだけ、水をすくって飲んだ。
「うぇ~、しょっぱい!」
舌が痺れそうになった。そんな私を見て、母は笑いながら言った。
「この星にはね、私達が知らないものがたくさんあるの。お母さん達みたいな学者が調べてるけど、それでもまだまだ分からないことだらけなの。」
その言葉が今でも、心の中で私に語りかけている気がする。私はその時、母のような学者になりたいと強く思った。
私は少し冒険をしてみたくなった。母に許可をもらい、辺りを探索してみた。海の上には私達の月が輝いていた。
「プフッ、アハハアハハ!」
海のそばには沢山の砂があると聞いていた。私は靴を脱ぎ、素足のままで走り出した。砂に足が埋もれて、上手く走れない。しかし、柔らかい砂がとても気持ちよく、悪い気はしなかった。文献には、砂の上を、ハサミを持った生物が歩いていたと書いてあった。母の言った通り、まだまだ知らないことだらけだ。私はますます地球の魅力に感動させられ、地球の虜になっていたのだ。
どれだけ走っただろうか。走り疲れた私は、その場にぺたんと座りこんだ。遠くには小さくなった母の姿が見えた。私は母に手を振った。母も私に手を振った。
(ほんとうにいい所だなぁ)
ふと私は右を見る。そこには、私と同じくらいの歳に見える男の子がいた。
(地球の人かなぁ)
私は母との二つの約束のうち、一つを思い出した。
(地球人とは必要以上に関係を持たないこと…でも、ちょっと話しかけるくらいなら大丈夫だよね。)
私は自分にそう言い聞かせ、話しかけた。
「あなたも海を見に来たの?」
男の子はこくんと頷き言った。
「月が好きなんだ。」
男の子の言葉に、月出身の私は少し嬉しくなった。
「どうして月ぐ好きなの?」
「僕は暗い所が苦手なんだ。でも、月はこの暗い世界を唯一照らしてくれてるから…かな?」
よく分からないけど。と男の子は言った。
「君もこの月が綺麗だと思う?」
今度は男の子から聞いてきた。突然の質問に私は戸惑ったが、
「うん、すっごく綺麗だと思う!」
と答え、少しドヤ顔をする。海に月が写り、揺れていた。
「じゃあ、僕もう帰らないと。」
男の子はそう言ったとほぼ同時に、
「カオル~!」
遠くで誰かがそう言った。男の子は、その声がする方に走っていった。見ると、男の子が走った先に、他にも何人かの地球人がいた。
(カオルか…)
私は、生まれて初めての不思議な気持ちになった。
地球からの帰り道。私は母にもたれかかり、眠っていた。なんの根拠も無いけれど、これからもずっと母といられる気がしていた。けれど、その日はすぐにやってきた。
ある日、私の家に見知らぬおばあさんがやってきた。そのおばあさんは、母と何かを真剣に話していた。母は時折涙を流していた。そのとき、私は母の涙を初めて見たと思う。
3時間ほど二人は話していた。おばあさんが帰った後、母は私の頭をゆっくりと撫でた。けれど、その手は震えていた。母は涙を静かに流しながら言った。
「カグヤ、あなたが月の巫女に選ばれたの…」
月の巫女にについては、私も知っている。月の巫女に選ばれるということが、何を意味するのかも。
母は私を抱きしめて言った。
「絶対に守るから…必ず。」
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