あと少しのところが足りない。

そらも

文字の大きさ
9 / 44

足りなさその9、 耐えられるはずなんてなかったのである。

しおりを挟む



「…えっ、えええっ!? なっなな何でっ、だって今飲んでたのは2本目なはずっ……えっ、もしかして知らぬ間に3本目に移って…!? ……い、いや数はあってる、確かにこれは2本目だ……え、じゃあ何で……??」



目の前で起こった事態に頭が混乱し、まさか頼人がマジックでも使ったのか…!? とありえないコトを考え、俺の飲み終わったものも含めてまわりの空になった缶を数えだすが……確かに今の今まで頼人が飲んでいたのは、『2本目』のビールであり。

机の下に転がった2本目の空のビール缶を手に取りながら、俺はもう片方の手でゆさゆさと机にほっぺたをくっつけ目を閉じている頼人の肩を揺するが。


「っ、おい…おいってば頼人、おいっ…お~い頼っ………だ、ダメだ…本気で寝てる……嘘だろ、だって3本で完落ちなはずじゃ……え、ええっ…???」
「……すぅー……」


やっぱり、もう完全に前回の3本目を飲み終わった後の時と、頼人はまったくの同じ状態であり。


――どうなってるんだ、一体。


「……さ、3本目じゃないのにこんなに熟睡してるって……もしかして、この前の時も…ほんとは2本目を飲んだ時点ですごく眠かったけど、初めての酒だったから無意識にたくさん飲んじゃってて……それで3本目で限界がきて糸がフッと切れちゃったってだけ……ってこと、なのか…?」


っ、わからない…わからないけど……現に今、2本目を飲み終わったと同時に頼人は深い眠りについている訳で。


「…ぅ、ん……」
「っ、この場合…は、どうしたら……」


『頼人には、飲ませるとしても酒は絶対2本までっ!!』を心に誓ったのは何だったのか。
くぅくぅと気持ちよさそうに寝こけている好きな相手の姿を見つめながら、本当にどうしたものか…と、考えを巡らす、けれど。



「――…って、いやそもそも別にいいじゃないかっ、頼人が3本で酔おうが2本で酔ってしまおうがさっ!!?」



そこで俺は、ハッと我に返る。


そうだ、悩むべくは『頼人が酒に弱い体質で、すぐに酔って全然起きないほど熟睡してしまう』ことではなくて、『そんな頼人を見て、意志の弱い俺が頼人が寝てるのをいいことに色々あらぬコトをしてしまった』ことなのだ。


頼人が酒に弱くすぐ寝てしまう体質だとしても、長時間酒を飲みながら一緒に喋ったりすることができないのは悲しいが、そのまま気持ちよく寝かせたままでいればいいだけのこと。


要は、俺が寝ている頼人に一切近づかなければいい話……なんだ。



「……とは、いえ……」

チラリ、と俺は横目で机に未だ突っ伏して眠りこけている頼人にそっと視線を送る。
『一切近づかない』としても、まさかこんな身体が痛くなりそうな体勢のまま、頼人を朝まで放っておくなんてありえない訳で。

「っ、でもべっ…ベッドは……」

だからといって、前回あんなコトをしてしまった自分のベッドに、頼人をまた運ぶというのも……それは、っ。

「や、でもでもやっぱりこのままじゃ……あっ、じゃあ予備の布団っ……いや、あれすっごい薄いしあんまりっ…」

そう、ものの数十秒もしない中で心内でめちゃくちゃぐるぐると色々な葛藤をしまくる俺であった、が。


「…ん、ぅん…っぁ……」
「え…って、あっあぶなっ――…」

ずるっ!! ……ガシッ!!!

「っ、…よ…よかった、頭打たなくて…ふぅ」
「………く、ぅ……」
「…ね、てる………っ、そうだ、やっぱりこのままじゃ危ないし、前みたいにベッドで寝かせようっ……だ、大丈夫、俺がしっかり耐えればいいだけのコトっ……運んだら、すぐにその場から離れてしまえば問題ない…ぜっ絶対イケる、大丈夫だから俺っ…!!」
「………」


突如、少しぐずついた声を漏らした頼人の身体が机からズレて体勢を崩しだしたため、俺は急いで頼人の身体を支えどうにか頭がぶつかりそうになることを回避させるのに成功したのだった。

ほっとした息を吐きながらも、やはりこのままにしておくわけにはいかないっ……と、俺は何度も自分に『大丈夫っ!!』言い聞かせ。


「んぐっ、ふんっ…!!」
「…ぅ…ん……」


ぐいっと前の時と同じくどうにか頼人の身体を持ち上げ、またもお姫様抱っこで自身のいつも寝てるベッドへとゆっくり運んでいき、そして。

ギシギシっ、ドサリっ…!! あの時と同じ体勢で、頼人をベッドの上に仰向けで寝かせた



――の、だけれど。



「……ん、っ……」
「―――…っ、ぁ……」


あ、ダメだ……違う、ダメだ、見ちゃダメだ、目を…今すぐ目を離さないと…じゃないと、じゃないとっ――


頭ではわかっていても、俺のベッドに――あんなコトをしてしまったその場所に、頼人がもう1度横たわっている姿を視界に捉えて、



「ふっ、頼人っ…頼人ぉ…♡♡♡」



意志の弱すぎる俺なんかが、耐えられるはずなんてなかったのである。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

お兄ちゃん大好きな弟の日常

ミクリ21
BL
僕の朝は早い。 お兄ちゃんを愛するために、早起きは絶対だ。 睡眠時間?ナニソレ美味しいの?

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...