一輪の白百合をあなたへ

まぁ

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第十一章

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「もし何か疑わしい事があるのならどんな罪でも受けます。ですが私は何も知らないのです!信じて下さい!主上!」
 泣きつく蓮華を背に承大師は「主上!」と言って冠耀の元に幾つかの品を差し出した。壺や腕輪に指輪。それらの中から一つを叩き割り、承大師は毒を検分する棒を割った物の擦り付けた。
「色が黒に変わりました。毒です」
 それを見た蓮華は「そんな」と声を漏らす。他の玉もまた毒が検出された。壺の中は他国では堕胎薬として有名な薬草が入っている。
「蓮華。これらは本当に知らない品なのか?」
「知りません!それらの品は商人から渡されただけで、そのような恐ろしいものがこの玉聖宮にあったなんて……私は……」
「詳しい話は獄清殿ごくせいねんで聞く。丞黄じょうき。この品を持って来た商人を洗い出せ」
「承知致しました」


 慌ただしい一夜が明ける。事件については翌朝の朝議で知るところとなる。朝廷内にいる偉家の者はいない。皆処罰の対象となったからだ。
「結局のところ蓮華様の身の潔白だけは証明されたのよね」
 炎珠えんじゅをあやしていた莉春が侍女の風華ふうかに尋ねた。
「はい。ですが偉家繋がりでもあるのでしばらくは写経を命じられているとか?」
「でもこれで蓮華様は後ろ盾を失ったのよね」
 御史台は禁軍に抑えられ、賄賂に関与した者は掖庭えきていの獄に入れられた。そして偉家の者が住んでいた偉府は封鎖され、実質蓮華はその名だけが後宮にある状態となっていた。
「武器の売買は一番お金になるとは聞いた事があるけど、偉家はそうして莫大な資産を得ていた。謀反を起こす気はなかった」
「そう言われていますね。ですが事実莉春様は狙われたわけです。今後も気を付けて下さい」
 簪の件は盈月えいげつの口から聞いた。まさかと思ったが、もしあの時王梁寿おうりょうじゅに渡していなかったらと思うと寒気がした。だがそれとは知らず蓮華が送ったのもまた事実だ。
「だから私は主上に蓮華様は本当に知らなかったのかもしれません。と言ったの」
 他者が他者を引き落とそうと策を暗躍するのが後宮だが、莉春は無駄な争いなど望まない。ここで炎珠を育てていけたらいい。それだけが願いなのだ。


 数日後。賄賂などに関与した者は全て処刑となる通達があった。だが罪を犯していない者達は遠く離れた地に流刑となった。偉家が消えた朝廷は静かなものだが、それも一時の事だ。すぐに元の朝廷に戻る。
 そんな中、罪に問われず今も後宮にいる事を許された蓮華への対応は反転した。家を失いただそこにいるだけの蓮華は、玉聖宮から出ず、日がな呆然としている。全てを失った蓮華の元に皇后侯鄭妃こうていひがやって来たのはとある日の夜も更けた頃だった。
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