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「逆プロポーズとは発想がなかったなぁ……」
 どうにもプロポーズは男からという、普通ではあるが昔ながらの凝り固まった認識があった陽菜は、自宅ソファの上で胡座をかきながらうーんっと考えた。
「でもそうかぁ……私、アレンと結婚するんだよねぇ」
 実感が湧かないが、決意は出来ている。何の為の苦労だったのかを思い出すのだ。これからもっと辛い花嫁修行が待っているはずだ。但し、一般的な嫁姑の花嫁修行とは違い、社交界だのなんだのという花嫁修行だろうが。
 そんな風にアレコレ考えていると、ガチャっとドアが開く音が聞こえた。アレンが帰ってきたので、陽菜は玄関まで迎えに行った。
「お帰りなさいアレン」
「ただいま陽菜」
 ギュッと抱きしめると唇に軽くキスをする。
「ご飯できてるよ。それともお風呂にする?」
「なんかそのセリフすごくいいね!」
 あぁ、よくあるあるなあのセリフだなと思った。そこに「私」がないだけで、案外普通に使うのだなと思った。
「ここはお風呂でヒナと……って言いたいところだけど、お腹空いてるからご飯で」
「了解。それじゃあ手を洗って着替えてきて」
 準備の為にキッチンへと向かう。今日はコンソメスープとサラダ、鶏の照り焼きにバケットだ。合わせるお酒は白ワイン。
「なんだか普通だけど、それっぽい演出ではあるよね」
 狙ってこういうメニューしたわけではないが、逆プロポーズをするにはいい演出かもしれない。
 スーツから部屋着に着替えたアレンが席に着き、「いただきます!」と言って手を合わせて食べる。そこは日本人らしいなと思いながら、陽菜も「いただきます」と言って食べ始める。

 しばらく普通の会話をしながら食べている時、陽菜の中でここだと言うプロポーズポイントが巡ってきた。
「ねぇ、アレン……」
「どうしたの?ヒナ」
「これからも私と一緒にいてくれるんだよね?」
「そうだけど……」
「じゃあ私と結婚してくれる?」
「うんするよ」
 すっきりとしたアレンの返答に陽菜は「えっ?」となった、
「今ね。ちゃんとプロポーズする為に、いろいろとサプライズを考えてるんだ」
「ちょ、ちょっと待って!私今、逆プロポーズしたんだけど」
 さりげなさを装ってしてみたが、その意図が伝わっていないのか、案外あっさりしたものになった。
「そうなの?でもここは僕からしたいな。先を越されちゃったけど、きっとヒナは感動するよ」
 アレンの気持ちはわからなくもない。だが先程サプライズがどうとか言っていなかったか。
「もしやアレン……その為にヘリ借りたり、スカイツリーの権利手に入れたり、街中サプライズとか、周りを巻き込むような事考えてないでしょうね?」
「えっ?どうしてそれを?」
 やはり!と的中してしまった。そのどれをするのかはわからないが、とりあえず全て却下だ。
「そういうの喜ぶのは一部だけだから。私は普通の「結婚して下さい」だけでいいの」
「そうなの?うーん……女の人の価値観とか考えは難しい……」
「と言うわけで巻き込み系は却下ね」
 とりあえず先手は打てたはず。アレンは何やら頭を抱えているが、一般人の陽菜にとってはさりげない方が嬉しい。
 ただこの場合はもうさりげなさはない気もするが。
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