花が招く良縁

まぁ

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 西園寺慶と出会って翌週の休日に、花のお礼をする為と、もう一度物件を探す為、手にケーキの箱を持ち西園寺家の門を潜った。
「すみません。先週お世話になった山岸と言う者ですが…」
 玄関に備え付けられたチャイムは昭和の匂い漂うもので、カメラ機能などはついていない。しばらく待つと玄関の扉が開き、中から慶が姿を見せた。今日はラフなジーンズに薄手の長袖姿だった。慶は美奈穂を見ると「あぁ、先週の」と言って笑みを浮かべた。
「どうかなさったんですか?」
「えっと…先週のお礼をしたくて…これ、お口に合うかわかりませんがどうぞ!」
 そう言ってケーキの箱を差し出した美奈穂に慶は目を丸くして眉をしかめた。
「気になさらなくてもよかったのに…俺が行為でやった事ですよ」
「でも…あんな立派なお花貰って何もなしだと私も気が気じゃないので…」
 困惑しながらも箱を手にした慶に、美奈穂は「余計な事したかな?」と内心思ってしまった。だが慶は直ぐに笑みを浮かべた。
「どうせなら中に入って下さい。お茶出します」
「い、いえいえ!お礼に来ただけなので中にお邪魔するなんて!」
「お気になさらず。さぁどうぞ」
 スッと身を引き美奈穂に入るよう促す慶。少し困ってしまったが、美奈穂は「おじゃまします」と言って中に入った。古民家らしく中にある家具も古めかしいものが多かった。通された居間には掛け軸もあり、売れば相当な値打ちなのではないかとひそかに思った。
「今日は稽古もなかったのでちょうどよかったですよ」
「稽古…?」
「はい。俺が華道家なのは言いましたよね?」
「えぇ…」
「個展などのお仕事以外にも、ここで生花の稽古なんかも行ってるんですよ」
 だからこんなに広いお屋敷なのか…と美奈穂は一人納得した。部屋一つとっても相当の広さだ。だが、この家で見るのは慶一人だ。これだけ立派な家なのだから親元から離れてるとも考えられないし、前に祖父の時代からと言っていたので、慶の実家なのだろうが、とても静かだ。
「えっと…西園寺さんはここで一人住んでるんですか?」
「はい。祖父母は当の昔に亡くなってますし、両親は離婚してまして、父と二人でここに住んでました。ですが父も一昨年に癌で亡くなって…」
「すっ、すみません!失礼な事聞いて!」
「いいですよ。それよりえっと…」
「山岸…山岸美奈穂です」
「美奈穂さんですか。美奈穂さんは先週もこの辺りに来てましたが、どうかなさったんですか?」
 スッとお茶を出しながら聞いてきた慶に、美奈穂はちょっと躊躇しながらもこの近辺にあるアパートを探していたと話した。納得した慶は美奈穂を見ながら「成程」と呟いた。
「その住所でしたらここを出て右手方向に行った先になりますね」
「ありがとうございます!後で見て来ます!」
 教えて貰った住所は少し奥まった場所にあり、普通に探しにくい場所だと言った。
「よければ俺が案内しましょうか?」
「そ…そんな!大丈夫ですよ一人で!」
「でもホントにわかりにくい場所ですよ…」
 自分一人でなんとか見つけられたらいいのだが…そう思いながらも、また見つけられなかった時を考え、ここは素直に好意を受け取る事にした。
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