花が招く良縁

まぁ

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「まぁ…美奈穂さんは女性ですし、しかも会って二回目の相手だと普通は嫌ですよね。聞かなかった事にして下さい」
「はい…」
 とりあえずまた一から物件探しが始まった。自宅に戻った美奈穂はパソコンと睨めっこしながら美奈穂の条件に合う物件を探していた。すると丁度スマフォの電話がけたたましく鳴ったのでとった。
「はい」
『もしもし?元気してる?』
「うんしてるしてる!」
 電話の相手は高校からの親友である星野由美だった。
「どうかした?」
『いやぁ別に…これって用事はないんだけど、あんたイベント出ない?』
[イベント?どこでいつ?]
 美奈穂が頑なに家賃を気にする理由の一つ。それは趣味に投資する金額がそこそこするからだ。その趣味はコスプレイヤーであり、いろいろなイベントに出てはコスプレ衣装を着る。その衣装代も交通費もそれなりにする。地方ではあまり馴染がないコスプレイベントなので、どうしても開けた都会に行かなくてはいけない。
『えっとねぇ…ちょうどゴールデンウィークだけど、どうかな?場所は大阪だよ』
「あぁ…ちょっと今は難しいかも…引っ越し先探さないといけないし…」
『そっかぁ…実家出るんだったよね。そりゃ大変だ!』
 私もそろそろ考えないとなぁ…と由美は電話越しで言う。地方から出ず、近場就職をした大半は実家暮らしだ。美奈穂を含め由美もまた実家にお世話になっている。美奈穂は「聞いてよ!」と言って自分に合う物件にもう人が入っていた事などを話した。もちろん慶の事も…美奈穂にとって由美は唯一砕けた話の出来る人物なので、あった事などは包み隠さず話す。
『西園寺慶?ってあの華道家の息子の?』
「そうそう!うちの会社の上司も名前聞いて驚いてたけど、ホントに有名人なんだね」
『有名もなにも…その手の情報にあんたが鈍いだけでしょ?でもそっか…西園寺慶ねぇ…チャンスじゃん!』
「ちょっと!上司と同じ事言わないでよ!」
『でも真実でしょ?こんな偶然の出会い滅多にないし、アタックしなよアタック!』
 電話越しから聞こえる喜色の声に美奈穂はため息しか出ない。あれだけイケメンなら、彼女の一人や二人存在するのではないかと思い、由美に話してみたが、由美は真向から否定した。
『彼女いたら自分の家来ないかなんて言わないよ!さらっとそう言う事言ったんだったら…チャンスだと思うよ』
 普通に考えたらそうなのだろうが、美奈穂は何故か由美の言葉に乗る事が出来なかった。そんな曖昧な空返事ばかりの美奈穂に由美は「ん?」と言ってトーンを少し下げた。
『もしかして…まだ引きずってるとか?』
「それはないよ!うん!ないない!」
『そっかなぁ…?』
 由美が言っているのは美奈穂の元彼の事だろう。とは言ってももう十年も前の話だ。さすがに引きずってない。と電話では言うが、由美は信じていないようだ。
『あんたさぁ…あの頃って高校の時じゃん!あんなのよりもっといい人いっぱいいるよ』
「それはわかってるって…」
『心配だなぁ…あんたって昔は結構がつがつ行ってたのに、別れてから謙虚ってか恋に臆病になってるじゃん…心配するよ』
 学生時代はたしかに次から次へと恋多き女だったのは間違いないし否定はしない。だからと言って時間の流れと共にそれもどうでもよくなってはいる。口では言っているだけで、精神の方は由美の言うように臆病になってるのかもしれない。
『何度も言うようだけど、これはチャンスだよ。こじれたままでいたいならそれでいいだろうけど、前に進みたいなら西園寺慶を落とす!いい?』
「わかったわかった…」
 初めはコスプレイベントの話だったのに、いつの間にか西園寺慶の話にシフトしてしまった。とりあえず由美に後押しされ電話を切った美奈穂は、天井をじっと眺めた。
「チャンス…か…」
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