花が招く良縁

まぁ

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 出会いは高校二年の時だった。相手は一年で入学式で見てから一目惚れした。この人と付き合いたい。そう思って一生懸命相手と共通点を作ったりした。日頃から陽気でよくある女子高生だった美奈穂だが、唯一自分の容姿には自信がなかった。だが、ここで彼を逃したくない。それほど真剣だった。だから頑張って告白をした。彼は受け入れてくれた。
 初めはもちろんお互い探り探りな感じの付き合いだったが、一つ一つ一線を越える度に相手は美奈穂の全てを受け入れてくれた。それから自分の容姿にも自信を持つ事が出来た。美奈穂はこれでもと言う程相手に惚れ込んだ。
 だが終わりは来た。美奈穂が短大に進んだと同時に、連絡も少なくなり、会う時間も極端になった。美奈穂にとって彼は全てだった。だから行けたはずの大学を蹴り、地元の短大に進んだほどだ。今思えば自分の人生を綺麗に棒に振るったな。莫迦だなと思うが、それでも失いたくなかった。別れは相手からだった。それでも美奈穂は食らいついた。それでも相手はもう美奈穂にこれっぽちも愛情がない。それから由美を通じて別れる事を決意した。由美が間に入ったのは、話が何一つ好転する事がないのを美奈穂に教えないといけないと思っていたからだ。
 別れてからしばらく元気のなかった美奈穂の側に由美はいてくれた。あの時はとても感謝した。そして思った。もうこれほどにまで燃える恋はする事がないだろう。
 勝手な決めつけかもしれないが、そう思った。それからの十年、いい人がいたとしても、美奈穂の心がときめく事はなかった。

「あっ…」
 ふと気が付くと時計は午前三時を回っていた。どうやらあのまま眠っていたようだ。
「らしくないな…しかも化粧したままだし…」
 忘れよう。そう思って立ち上がった美奈穂は、部屋着に着替え風呂に入ってからまた寝ようと思った。
「…慶さん…」
 襖を開けると、廊下で慶があぐらをかいてこちらを見ていた。
「落ち着いた?」
「は…はい…」
 絶対に美奈穂の行動はおかしかった。むしろ聞かれるのは当たり前だろうと美奈穂は腹を括る。祭り会場の時よりは幾分気持ち的に落ち着いて入る。だが、慶はずっとここにいたのだろうかとふと思った。
「あの…もしかしてずっといたんですか?」
「そりゃ…あんな取り乱した美奈穂さんは初めて見たし…」
「ちゃんと…話ます。その前にお風呂入っていいですか?」
 いつも通りの笑顔で「わかりました」と言った慶。美奈穂は風呂に行きシャワーだけ浴び慶がいるリビングに出た。出る前に鏡で自分の顔を見たときは正直に驚いた。目は充血し、瞼は腫れぼったい。こんなお化けのような顔を、暗がりとはいえ慶に見せたのかと思うと、ちょっと恥ずかしくなった。
 案の定慶は美奈穂に氷の入った袋をタオルで巻いたものを差し出してくれたので、食卓テーブルの椅子に座って目を冷やした。
「ホント…ご迷惑かけてすみませんでした」
「いや…なんとなくあの状況で何があったのか想像はつきますけど…何があったんですか?」
 美奈穂は意を決して過去の自分を話した。
「まさかあんな場所で元彼に会うとは思ってもなかですし…って、その前に十年前の事今だに引きずってるなんて話的にもかなり重いですよね…すみません…」
「いいですよ…それに美奈穂さんがそれほど相手の事を思ってたのがわかりましたから」
「笑っていいですよ。重いって!私ですら笑いそうになるんですから…いい加減前に進めよって…」
 やばい…話したらまた泣けてきた…
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