花が招く良縁

まぁ

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「はっ…?」
 朝から仕事の打ち合わせのあった慶は、近くのカフェで泉川洋二と会っていた。洋二は慶と美奈穂の間で合った事を聞いて驚いているようだ。手に持ったたばこを落としかけたくらいだ。
「いや…なんっていうか…魔が差したというか…」
「いやいやいや…今更キス一つで驚く歳でもないけど…」
「十分驚いてるだろ…」
「それもそうだな…うん。ちょっと状況を整理しようか…」
 一体二人の間に何があったのかと洋二はあれこれ慶に聞いて来る。慶は何故美奈穂があれほどにまで自分に自信がないのかや、過去の恋愛遍歴など、当たり触りないように話したつもりではいたが、話を聞き終わった洋二は渋い表情をしていた。
「なんか…思っていた以上に重いな…」
「まぁ…普通に考えたらそうだろうけど、でもあの状況を放って置けなかったのは事実だし…」
「まっ、他人様の恋愛云々は俺達が口を挟む事じゃないし…でもさ、魔が差したとか言ってキスしたとして、お前自身は美奈穂さんの事どう思ってるの?」
「そこなんだよねぇ…」
 腕を組み悩む慶。そんな慶を見て洋二は「ちょっと待て!」と慌てたような表情を見せる。今日のこいつはよく表情が変わるものだと心の中で慶は呟いた。
「おまっ…成り行きでキスしたのか?」
「そうなる…」
「はぁ…お前ってバカだろ?」
「何だよ急に…」
「いいか?恋愛慣れてる女なら、成り行きチューなんてしても本気にしないだろ。けど、美奈穂さんの場合は恋愛慣れしてないどころか黒歴史に近い恋愛遍歴を持ってる。相手からしたら本気として捉えるんじゃないのか?」
 それならそれで別に構わないと言う慶に対し、洋二は「阿保!」と言って打ち合わせに用意していた紙を丸めて慶の頭をポンッと叩いた。
「俺の予想では美奈穂さんって、遊びの恋愛と本気の恋愛を割り切る事が出来ないタイプだと思う」
「それで?」
「だから…相手の事真剣じゃないなら手を出すなって事…相手に手を出すなら全てを受け止める覚悟がいるって事だよ…」
 さすがは夜な夜な夜の町に繰り出してるだけあって洋二の言葉には真実味がある。だがそんなアホ面を具現化したかの表情をしている慶に洋二は畳み掛けた。
「お前…自分の胸に手を当ててみな…」
「なんだよ急に…」
「美奈穂さんの事…ちゃんと女の人として好きか?愛してるか?」
「お前の口からそういう言葉聞くとキモい…」
「やかましい!とにかく…美奈穂さんに対してちゃんと責任取れよ!莫迦!」
 この話はこれで終わり、「それじゃ…」と言って洋二は打ち合わせの話に切り替えた。
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