ようこそあやかし屋敷

まぁ

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「あの……何がなんだかさっぱり……」
 混乱する夏菜。すると千庄が「すみません」と言って謝る。
「もう少し詳しくお話しなくてはわかりませんね。まぁ、見てわかるでしょうが、こまももえもここにいる仁も人ではありません。狐のあやかしなんです」
「はっ?あやかし……?」
 あの背の高い金髪の人は仁と言う人物。そしてこまともえは狐のあやかし。言われてみれば耳も尻尾にも納得がいく。だがどうしてこの千庄という人はそんなあやかしを前にして平然としているのだろうか。
「この風代神社は元々は厄除けの神社でした。それがいつしかあやかし達の集まる場所になって……」
「えっと……千庄さんはここの神主さんなんですよね?だから平気なんですか?」
「まぁ、初めは驚きましたが今は平気ですね。私は元々都会で医学生をしていたんですが、たまたま寄ったこの神社で仁に出会い、神主になるよう言われまして今に至ります」
 普通の人間にはあやかしは見えないらしい。たまたま仁を見る事が出来た千庄に声をかけた事がこの神社の神主としての始まりらしいが、医学生という事は医者の卵ではないのか。そんな非科学的なものを信じるものだろうか。むしろ自分の目にもあやかしが見えるこの現状をどう受け止めればいいのか。またさらに混乱してきた。
「俺が千庄に声をかけたのは、この神社の再建を願ってだよ。俺達の姿を見る事が出来る奴なんてそういないしな。だからこいつを無理やりこちらに引き込んだってわけだ」
「仁の言う通りかな。ここは田舎だけど、神社そのものは厄除けの加護を持つからね。力としては強いんだよ。このままでいるとこの土地は悪鬼羅刹の温床となって、この地に災いが起こるって言われて」
「それでここに?医学に道は?」
「まぁ、断たれる事にはなったけど、ここでの生活は存外楽しくてね。後悔してないよ」
 言われて見れば、千庄に困った風な感じはしなかった。だが夏菜は違う。おおいに困っている。いきなりあやかしが見えたり違う世界だと言われたり。
「そうだ!ここは私の知る世界ではないってどういう事ですか?」
「あぁそうでしたね。それじゃあこれを見て下さい」
 そう言って千庄はカレンダーを指察した。その日付を見て夏菜は驚いた。そこには西暦で1920年と記されている。
「1920年……大正?ここは大正時代?」
 か細い歴史を掘り起こした夏菜。まさか自分が大正時代にタイムスリップしているとは思いもせず、このまま派手に倒れこんでしまいそうになった。
「夏菜さんの服装や、こまやもえが連れて来たって聞いてもしかしたらと思ったんですよ」
「こいつらや俺は人間じゃないからな。人間にはない不思議な力ってのがある。本来俺達だけなら磁場の座標軸さえ合わせればどの時代にも行けるんだが、人間を連れて来たとなれば少々厄介だ」
「つ、つまり……私は元の時代に戻れないって事ですか?」
「戻れないかどうかは調べてみないとわからない。だが少々時間はかかるな。何せこれまでにない事だから」
 この現実をどう受け止めればいいのからない。もし元の世界に戻る事が出来なければどうなるのだろう。両親にも親友にも会う事が出来ない。しかもこの時代は夏菜には考えられないような過酷な時代がやって来るはずだ。
「お願い!どうにかして私を家に帰して!」
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