ようこそあやかし屋敷

まぁ

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 歪みの中に足を踏み入れてしばらくすると、あれほど夏菜を吸い込まんとしていた風は収まった。そして視界の先に見えたのは江戸時代のような風景。よく時代劇などで見た光景がそこには広がっていた。
「こ、ここがあやかしの世界?」
「そうだ。向こうと変わらなくてびっくりしたか?」
「いや、どちらかというともっと殺伐としたのを想像していたので……」
「あやかしと言えど、神も共存した世界で、生活する姿はあやかしも人間も変わらないですよ。皆生きる為に田を耕したり、苗を植えたりね」
 もう少し幽霊然とした荒廃した世界を想像していただけに驚いた。
 この世界の地形的は、人間の住む世界とはそう変わらないそうで、各々拠点となる場所に神が住んでいるらしい。
「人間の神様もいますよ。ただここからは遠いところですけどね」
「成程……なんとなく人間の言うところのあの世って感じですね」
「そうだな。簡単に言えばそうだろう。だからこちらに来たら還れないと言われてる」
 夏菜は今、天国とも地獄ともいえる場所にいるのかと思って二人に言うと、地獄はまた別の世界にあるのだそうだ。
「とりあえずお前が向かうのは俺達狐の長がいる社だ」
「へ?狐の長……?」
「そうだ。稲荷の取り締まりだな」
 まさかの稲荷総本山へと行く事になろうとは。だがここにいれば仁達は力が発揮できるのか、その姿をあやかしへと変えた。
「歩いてたら一日なんてあっという間だ。ほら、俺の背に乗れ」
「僕もこちらの方がいいですからこちらで向かいますよ」
 烏と狐のコンビ。なんともチープな感じだが、夏菜は少々遠慮をしながらも仁の背に乗る事にした。
「も、もふもふ……」
「何だ?」
「いえ、何にも!」
 思った以上の手触りに夏菜が感動していると、「それじゃ行くぞ!」と言って仁が駆ける。そのスピードは狐とは思えない程早い。これはしっかりと掴まっていないと振り落とされるレベルだ。


 しばらく風を切るように走った仁。正直周囲の外観などわからないうちに稲荷総本山に到着したのだ。
「こ、ここが……稲荷総本山?」
 そこは大きな神社と言ってしまったほうが簡単だ。大きな社を繋ぐように赤い漆が施された柱や橋は幾つかの社と繋がっている。
「仁様よくぞ戻られました」
「う、うわぁ!」
 どこから姿を見せたのか、こまともえ程の子供(尻尾耳付き)が現れた。それに驚いた夏菜は人の姿に戻った仁の後ろへと隠れた。
しろ様はいらっしゃるか?」
「いらっしゃいます。仁様のご帰還を心よりお待ちしております。ですがそちらの方は?」
「ちょっとした用があってな。こいつらも中に入れて欲しいんだが」
「えっと……少々お待ち下さい」
 スッと一瞬にして消えた子供に、夏菜は目を丸くしてばかりだ。仁曰く、総本山なので管理体制はとても厳しいらしい。本来稲荷や、稲荷に近しい狐以外この場に足を踏み入れる事は出来ないそうだ。これは京の烏天狗のところも同じなのだと言う。
 しばらく待つと、「話は聞いているとの事ですので、そちらの方もどうぞ」と子狐に言われ、中に入る許可が取れた。
「それじゃ白様の所へ行くか」
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