仕事をしたくない臆病な転生最強冒険者 と 仕事をさせたい才色兼備の受付嬢

ななよ廻る

文字の大きさ
2 / 9

第2話 ゴロツキと戦いたくない

しおりを挟む

 辺境都市『モストル』の西地区。
 かつては居住区であった地域は、五年前に起こったモンスターの襲撃によって廃墟と化していた。
 残った住居に住み着いたのは、冒険者崩れのならず者ばかり。
 故に『冒険者の墓場』と呼ばれるこの場所で、一人の少年が瓦礫の上で正座をしていた。
 彼の正面には、均整の取れた体型をした美しい黒髪の女性が立っている。あたかも見下すように冷たい蒼い瞳を向けていた。

「ラパン様。なにをしていらっしゃるのですか?」
「これは、やむにやまれぬ事情がございまして」
「事情、ですか。では、その事情とやらをご説明していただけますでしょうか?」

 優しく子供を諭すような口調でありながら、その声はどこまでも冷たかった。

「たかがゴキブリのために住んでいた家を跡形もなく壊してしまうご事情とやらを」
「怖かったんだもんっ!!」

 ぶわっと、涙を溢れさせ叫ぶラパン。
 ラパンとエラーブルがいるのは、西地区にあるラパンの住居――のあった更地。
 木片や壁片などといった建物の残骸が小さな山を作っている。とてもではないが、先程まで住居があったとは思えない有様だ。巨大なモンスターに踏んづけられたかのようだ。

「だって、あの名前を呼ぶのも恐ろしい奴が壁を這っていたんです! カサカサカサカサ!」

 想像しているのか、ラパンは恐ろしいと体を震わせる。

「それだれでも生理的に受け付けないのに、飛んだんですよ! 私の顔面目掛けて!」

 モザイクを掛けたくなるほど、生理的に受け付けられない黒い物体。それが飛んできた瞬間、目を白くしたラパンの理性はプツリと切れた。

「……気が付いたら、魔法でドカンって……やってて」
「住まいを全壊させてしまった、そういうわけですね?」
「……はい」

 ラパンは怒られた子供のように小さくしょぼくれる。流石にこの惨状は情けないと感じているようだ。
 ここ最近、ギルドに来なかったラパンを心配して様子を見に来たエラーブルは、あまりの事態に頭痛でもするかのように額を押さえる。

「はぁ……たかだか虫一匹にこの体たらく。本当に王国唯一のS級冒険者なのでしょうか」
「たぶん?」
「少しは自覚を持て?」
「……はい」

 ズーンと、ラパンは暗く沈んでいく。

「一週間も冒険者ギルドに顔を出さずに何をやっているかと思えば。住む場所もないのでは、依頼どころではありませんね」
「それはつまり、依頼を受けなくてもいいと?」
「そんなわけないでしょう。働いてください」

 嬉しそうに瞳をキラキラさせたラパンの希望を無情にも切り捨てる。それはそれ。これはこれ。

「ともかく、こんな残骸の山の上でお話もするものではありません。とりあえず、私の――」
「おっ、誰かと思えば冒険者ギルドの美人さんじゃねぇか」

 現れたのは薄汚れた冒険者風の男が二人。
 無精ひげを伸ばし、清潔感の欠片もない、貧相な装備をしている見るからに冒険者崩れのゴロツキだ。
 手には刃の欠けた短剣を持ち、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていた。

「へへへっ、こんな危ねぇ場所でなぁにしてるんだぁ?」
「そうだぜお姉さん。じゃないと、俺たちみたいな優しいお兄さんに襲われちまうぜ?」
「……これはまた、分かりやすい冒険者崩れですね」

 そのまま絵に描いたかのようだ。
 恐らくはこの西地区に来て日が浅いのだろう。なせわなら、西地区に住む古株たちのほとんどは『ラビット・スキン』に近付かない。兎のように小さく矮小なラパンを恐れているからだ。
 『冒険者の墓場』の恐怖の象徴である『臆病な兎の皮を被った竜ラビット・スキン』は、

「ひぃいいいっ!!」
「……何故、私の後ろに隠れているのでしょうか。冒険者の前に殿方でしょう。前に出てください」
「やだぁ!」

 女性を盾にして震えていた。

「おーー」

 涙目で凶悪な人相をしたならず者二人を見たラパンは叫ぶ。

「犯されるぅううううっ!?」
「なんでだよてめぇじゃねぇよ!?」

 さしもの二人を襲おうとしていた男もつっこまずにいられなかったようだ。

「どう考えてもそっちの姉ちゃんだろう!? なんで男なんぞ襲わなきゃいけねぇんだよ!?」
「知ってるんだぞぉ!? ゴロツキってのは、裏路地とか人通りの少ない場所で都合良く待ち構えては、か弱い女性をなぶるんだぁ!」

 わーっと、勢いに任せてラパンは、これからされるであろう行為を語る。

「嫌だと叫ぶ女性に対して『げへへ、泣いても誰も助けはこねぇよ?』って言って、良く分からない薬を取り出して『これがなんだか分かるか?』って笑いながら無理矢理飲ませるんだろぉ!? これで堕ちない女はいないとか言って! そのくせ薬のせいだからって快楽に身を任せると『あれは、ただの水だ』とかのたまって『知らない男に犯されて喜ぶ変態だな』って下卑た笑いを浮かべて最終的にゴミみたいにポイ捨てするんだぁ!!」
「い、いや、なにもそこまでしようとは……」
「この変態強姦魔! 白いお薬とか言い出すんだろうぉ!?」
「言わねぇよ!?」

 爛れた妄想を脳内から駄々洩れさせるラパンに、エラーブルが声を掛ける。その声に温度はない。

「ラパン様」
「なんですか!? 今構っている余裕ありませんよ!?」
「そんなことをされるかもしれないと思いながら、女性を盾にして隠れているのですか?」

 刹那、空気が張り詰めた。
 ポタリ、ポタリと、ラパンの顎を伝って汗が滴り落ちる。雨でも降っているかのように、乾いていた地面が濡れていく。

「…………違いますよ?」
「では、ご質問させていただきます。もし、私を差し出せば逃げて良いと言われたら、どうしましたか?」
「……………………………………………………………………渡しませんよ?」
「間《ま》」

 とてもではないが、エラーブルの顔を見れないラパン。
 一体どのような表情をしているのか。彼女の背に隠れているラパンには分からない。……分からないが、ゴロツキ達が恐れ戦く程の形相をしていることだけは確かであった。
 ラパンはゴクリと唾を飲み込んだ。

「このゴロツキめ! エラーブルさんを襲うとするなんて不届きな奴らだ! 私が退治してやろう!」
「勢いで誤魔化す気ですね……最低」
「早く掛かってこいよぉ!? 泣くぞぉ!」

 武器も持てずにエラーブルの前に出て啖呵を切る。振り向けば死ぬかのような必死さだ。
 その変わり身にたじろぐならず者たちであったが、ラパンの焦りようを見て逆に冷静になったか、当初の目的を思い出したらしい。

「なにがなんだかよくわからんが、上等だ! お前をぶっ殺して女は頂いていくぜ!」
「やぁだぁあああっ!? 顔が怖いぃいいいっ!!」
「ぶっ殺すぞクソガキ!!」

 恫喝が怖かったのか、ラパンはわんわんと泣き出してしまう。情緒不安定にも程がある。

「念のためご忠告しておきますが、逃走をオススメ致します」
「へ?」

 関わりたくないとラパンを含めた三人から距離を取っていたエラーブルが、半眼で告げる。
 なんのことだと間の抜けた声を男が上げた瞬間――西地区に本日二度目の轟音が鳴り響いた。


 建物の残骸すらなくなり、完全なる更地となった元ラパンの住処。
 唯一、転がっているのは白目を剥いてボロ雑巾のようになったゴロツキが二人。

「生きていますか。思ったより頑丈ですね」

 微かに息をする男たちは後で衛兵に突き出そうと決めたエラーブルは、暁に染まる空を見上げ、膝を抱えて黄昏る家なき子へと振り返る。

「はぁ……これからどうやって生きていけばいいのか」
「そもそも、S級冒険者がいつまでも西地区の『冒険者の墓場』に住まないでください」

 五年前の事件のせいで、そもそも売買すら停止されている土地だ。ラパンがこの地に来て冒険者になったのは三年前。どのように住むに至ったのかさえエラーブルには分からない。

「お金は腐るほどあるのですから、引っ越せばよかったでしょう」
「だって」

 不貞腐れた幼子のように、ラパンは唇を結ぶ。

「引っ越し先で馴染めるか不安だったんですもん」
「環境が変わると馴染めない猫かなにかですか」

 深く息を吐き出すエラーブルは、ラパンの手を取って立ち上がらせると、そのまま引っ張って歩き出す。
 解けぬようにぎゅっと手を握られ、ラパンの顔が暁色に染め上がる。

「行きますよ」
「ど、どこに? あの、ていうか、手が……っ」
「私の家です」
「へ?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~

きよらかなこころ
ファンタジー
 シンゴはある日、事故で死んだ。  どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。  転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。  弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

処理中です...