仕事をしたくない臆病な転生最強冒険者 と 仕事をさせたい才色兼備の受付嬢

ななよ廻る

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第4話ー① ドラゴン退治はしたくない……けど 1/2

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 エラーブルの屋敷でラパンがお世話になってから三日後。
 南地区『高級居住区』の端っこにあるこじんまりとした、屋敷と呼ぶには小さな一軒家がラパンの住居となった。
 外壁はひび割れ、蔦が絡まっていて、少々おどろおどろしくもあるが、それでも『高級居住区』にある家だ。価格は高い。

 本来であれば『高級居住区』外の一般的な住宅をにするつもりだったが、普段からお世話になっているエラーブルに「高級居住区内にしてください」とお願いされては、突っぱねるわけにはいかなかった。

 小さいながらも建付けはしっかりとした我が城に満足していたのは、引っ越す当日までであった。翌日、居間に足を運んだラパンは、頬を引きつかせる。

「あの……」
「いかがしましたか? ラパン様」
「いかがしましたかって」

 ラパンは一人暮らしである。エラーブルと違い、使用人を雇ってはいない。なのに、雇ってもいないメイドが寛いでいる事態に、頭を抱えたくなった。

「人の家でどうして紅茶を飲んでいるんですか?」
「私が淹れたからです」

 常識かのように語るのは、ソファーに座って優雅に紅茶を飲んでいるエラーブルのメイド、アデライドだ。
 以前会った時と変わらぬエプロンドレス姿のアデライドだが、その雰囲気はメイドというよりも気品さのある令嬢である。
 ラパンがエラーブルの屋敷でお世話になっていた時に面倒を見てもらっていたのだが、メイド好きな彼をして苦手意識を刷り込まれた相手である。

「先日は私がお世話をしたのです。今度はラパン様がもてなしても罰は当たらないのではございませんか?」
「ひっ!」

 カップをソーサーに戻し、ねめつけられたラパンは扉に影に隠れてガタガタと震える。
 天敵に遭遇した草食動物そのままである。

「うぅ、不法侵入……」
「そんな些末事はどうでもいいですわ」
「よくないぃ」
「近々、エラーブル様の誕生日なのは知っておりますの?」
「誕生……日……?」

 電源が切れた機械のように、ラパンは動かなくなってしまう。こてん、と首を傾げる。

「日を跨ぐと年老いるという……あの?」
「貴方が誕生日に良い思い出ないことだけは分かりましたわ」

 期待はしていなかったのだろうが、想像の斜め上をいったラパンの答えに、アデライドは渋面を作る。

「ちなみに、いくつに?」
「あら」

 ラパンにとっては流れに沿った、純粋な疑問でしかなったのだが、アデライドの反応は顕著であった。牙を剥くかのように、歯を見せ笑う。

「女性に年齢を聞く勇気がありましたのね? 指一本で構いませんわよ?」
「いやぁああああっ!!」

 詰められてしまうと両手を背中に隠し、涙を浮かべて後退る。

「お仕置きは後にして」
「痛くしないでぇ」
「次の誕生日を迎えれば二十三になりますわね」
「二十三!?」

 声を上げて驚愕するラパンに、アデライドの目がすーっと細まる。

「それはどういう驚きでしょうか? 主を侮辱したのであれば、指で済ませませんわよ?」
「侮辱してません! 許して!」

 土下座しそうな勢いで縮こまるラパン。これが王国最強の冒険者だというのだから、他の冒険者が見たら天を仰ぐだろう。

「わ、私より少し上ぐらいだと思っていたので」
「貴方、おいくつですの?」
「十七です」
「……十二、よくて十三ぐらいかと」
「童顔のチビですみませんん」

 身近な女性は軒並みラパンより背が高い。それは、周囲の女性の背が高いわけではなく、ラパンの背が低いからだ。さらに童顔ときたら、幼い子供と間違えられても無理はない。

 泣きべそをかく子供そのままのラパンは、ふと目の前のメイドの年齢が気になった。思わず、顔を上げてアデライドを見つめたが、直ぐに伏せ直す。

「……」
「うふふ。黙ったのは賢明ですわね。ただ、悟らせた罰ですわ。首でよろしくってよ」
「主より罰が重い……!」

 口にしなかったのに、という抗議をラパンは上げられなかった。
 顔を青くし、目尻の涙をこんもりさせる。

「けど、二十三って、結婚はしないんですか? 一般的な女性でも遅いぐらいなのに、エラーブルさんは貴族ですよね?」
「えぇ、男爵ですわ」
「それはもういいです。結婚とかせっつかれそうなものですけど」
「エラーブル様のお相手が気になるのかしら? それとも、立候補?」
「好奇心!」

 そんな気は一切ないと、ぶんぶんと勢い良く首を左右に振ってラパンは否定する。これ以上の失言は本当に首を狩られかねないと必死だ。

「ふふふ。猫をも殺すといいますわね。ウサギも死ぬのかしら?」
「もうやだぁ、おうちかえるぅ」
「貴方の家はここですわよ」

 的確な指摘であるが、不法侵入した挙句どこからか持ってきた紅茶セットで家主以上に憩《いこ》うメイドには、ラパンも言われたくはなかっただろう。

「まぁ、そういうことですので」

 楚々と微笑むアデライド。
 立ち上がり、優雅なお辞儀カーテシーをする姿は、ラパンの憧れる清楚なメイドさんそのものだ。

「ご協力、お願いいたします。――ラパン様?」
「ひゃ、ひゃい」

 尽くす者とは到底思えない威圧に、ラパンは声を裏返した。

 ■■

『こっちの依頼を――』
『ワイルドボアが近くの村に――』
『サンダーバードが森に――』

 お昼過ぎの冒険者ギルド。
 この時間、本来であればギルド内に冒険者の数は少ない。ギルド内に併設された酒場が賑わうことはあれ、受付の仕事のピークは朝方と夕方だ。暇なわけではないが、冒険者の数は目に見えて少なくなる。
 ……のだが、今日に限っては受付前のホールは未だに人垣と怒号でごった返していた。

「だぁー! なんでこんなに忙しいんですか!?」

 頭を抱えて、整っていた桃色髪をぐしゃぐしゃとかき乱すのはエラーブルの後輩受付嬢のリコだ。
 朝から続く終わらない受付業務に、彼女のストレスと疲労は限界にきていた。

「いっそ燃やすか……ギルド」
「やる気を燃やしてください」
「そんなもの朝で尽きましたよ~。お昼も行けてないんですよ~」
「一区切り付いたら休憩をいただきましょう」
「一区切り~? 長蛇の列ですけどぉ?」

 目の前には未だに増え続ける蛇のごとく伸びる客の列。冒険者だけに留まらず、新たな仕事を持ってきた依頼人までおり、一人捌く間に二人増えれば列が減ることはなく、蛇の胴はどこまでも伸び続けてしまう。
 雑談をしていると思われたのか、列に並ぶ強面の冒険者の一人が苛立たしそうに言う。

「おい、早く手続きを」
「うるせぇぶっ殺すぞ三下がぁ!」
「ひぃいっ!!」
「受付嬢が冒険者を脅さないでください」

 今にも掴みかかりそうな鬼の形相のリコに、モンスター退治を生業とする冒険者が悲鳴を上げる。
 吠える後輩に呆れた視線を送りつつ、ギルド内を一瞥したエラーブルは、

「はぁ……これは、帰れそうにありませんね」

 決まり切った未来を悟り、深くため息を付くのであった。

 ――

「書類仕事が終わらないぃ……」

 夜深く、都市『モストル』が寝静まった頃。
 蝋燭の淡い灯に照らされた受付で、グロッキー状態で机に倒れ込むリコ。だらけきった体とは裏腹に、黒色の瞳は怒りに燃えていた。

「あの野郎……絶対に許さん」
「上司が残って仕事をしていたら帰りづらいだろうという配慮らしいですよ」
「嘘だ! 最近子供ができたとかほざいてたからなぁ、早く帰りたかっただけだろうぉ」

 ウキウキで『僕は帰るから後は頑張ってくれたまえ』と意気揚々と帰っていくギルド長。ギルド内にいる職員全員が殺意と憎悪を向けていたのは言うまでもない。

「許せないよなぁ? やるか? やっちゃうか?」
「仕事しなさい」

 ペーパーナイフを握り、怪しい淀んだ目でリコはぼそりと零す。周囲で聞いていた職員も、同意するように各々の手にペンや短剣を持ち始めるのだから、ギルド長の命日も近いかもしれない。

「ちぇー。ラパンさんがもうちょっと協力的だったらな~」

 そもそも、こうして忙しいのはモストル近郊の森を超えた場所にある山脈にとある大型のモンスターが住み着いたことに起因している。
 そのモンスターから逃げ出しているのか、モストル近辺でモンスターが大量に発生しているのだ。忙しくもなる。

 現在、大型モンスターを退治するために会議が行われているが、舵が壊れた帆船状態。
 そんな難事を唯一単独で解決できるであろう冒険者がモストルには居た。彼にどうにかしてほしいと願うのは、当然の流れだ。

「あまり依頼を受けたくないようですから」
「私だって仕事したくないわい! はぁ~大富豪のイケメンで家事でもなんでもやってくれる男と結婚したい」
「手を動かせ?」

 結局、彼女たち職員はほとんどの者が泊まり込み。翌日、清々しく血色のよいギルド長が出勤した際、どんなことが起こったのかはギルド職員だけが知る悲しい事件である。
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