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第二章 神隠しを調査せよ
第14話 コハクが連れてきた幽霊・1
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神隠し事件を解決してから数日後。
冬夜やバイトに来ていた志季と一緒に昼食をとった後、コハクは猫姿で外へ遊びに行った。
だが、それから数時間して事務所に帰ってきたコハクの姿を見て、冬夜と志季は揃って瞠目したのである。
「コハク、その幽霊どうしたの!?」
そう、コハクが若い男性の幽霊を連れて帰ってきたのだ。見た目は三十代前半くらいだろうか。
「おやコハくん、とうとう取り憑かれたのか?」
ニヤニヤとわざとらしくそう言った志季に向けて、コハクは艶のある真っ黒な毛を逆立てた。
「違いますよ!」
「じゃあ幽霊の友達か?」
志季に聞かれ、今度は首を傾げる。
「友達……なんですかね? さっき会ったばかりなんですけど」
「何でそれをオレに聞くの。そもそもさっき会ったって何よ」
呆れたように志季が肩を竦める。
そこで冬夜も口を開いた。
「そうだよ。コハクはどうしてさっき会ったばかりの、この幽霊を連れてきたの?」
「あ、そうなんです! 志季さんのせいで話が逸れてました」
「オレのせいかよ」
志季はじとりとコハクを睨みつけたが、コハクはそれを意に介すことなく話を続ける。
「この幽霊さん困ってるんです。冬夜さま、助けてあげられませんか?」
「助ける?」
冬夜と志季が一緒になって首を捻ると、コハクは身振り手振りを交えつつ、懸命に説明を始めた。
「さっきまで近所の猫さんたちと遊びながら情報収集してきたんですけど」
「それはコハくんの通常運転じゃね? で、何か面白そうな情報はあったのか?」
「いえ、特に変わった情報はなかったです。あっ!」
コハクが何かを思い出したように顔を上げる。
「何かあったの?」
冬夜が優しく先を促すと、途端にコハクの表情が明るくなった。
「はい! 裏のミケさんのところで子猫が生まれました!」
「へえ、それはおめでたいね」
嬉しそうなコハクの様子に、冬夜も目を細める。
「いや、今はその情報いらんだろ」
確かにめでたいけども、そう言って、志季がすかさずツッコミを入れた。
「で、その後は?」
そんな志季に冬夜は苦笑しながら、さらに続きを聞こうとする。
「えっと、その帰りにこの幽霊さんと出会ったんです」
「そこまではわかったけど、困ってるってどういうこと?」
「この幽霊さん、自分がどうしてここにいるのかわからないそうなんです」
コハクが自身の隣にいる男性に顔を向けると、男性は大きく頷く。どうやら本当に困っているようである。
「わからない?」
冬夜と志季は、またも揃って大きく首を傾げた。
「そうです。それで、冬夜さまと志季さんなら助けてあげられると思って連れてきました」
コハクの隣で男性が必死になって、何度も首を縦に振る。
「ああ、突然幽霊になって混乱することってあるよね」
なるほどねぇ、と冬夜も一緒になって頷いた。
「アンタはまるで自分のことのように言うんだな。幽霊になったことあんのかよ……」
「まあ、それは置いといて。あなたは自分が幽霊になってることはわかってるの?」
志季の言葉を華麗にスルーした冬夜が、まっすぐ男性を見つめる。
そこで、ようやく男性が口を開いた。
「はい、コハクくんに聞きました」
「そのわりにはずいぶんと落ち着いてるんだな。普通、自分が幽霊になってたら驚かない?」
「言われてみて、『ああ、そうか』と何だか腑に落ちたんですよね」
志季に問われ、男性は照れたように頭を掻き、苦笑した。
「つまり、自分が幽霊になってるのはわかったけど、どうしてこの場所にいるのかがわからないってことかな?」
「そうです、そういうことなんです!」
冬夜の納得したような言葉に、男性が勢いよく前のめりになってまた何度も頷く。
「なら話は早いよね。まずは亡くなった時の状況を確認させてもらうけどいいかな?」
「はい。よろしくお願いします!」
冬夜に聞かれた男性が、今度は深々と頭を下げた。
「うん、じゃあやるよ」
男性の意思を確認した冬夜は大きく深呼吸する。次には、顔を上げた男性の額に手をかざした。
(えっと、どれどれ……)
目を閉じた冬夜の脳裏に、様々なイメージが浮かぶ。
車の中に響く、楽しそうな家族の笑い声。ここまではとても幸せそうだった。
だが、それから少しして響く急ブレーキの音に、冬夜がわずかに顔を歪める。
そして、そこまで読み取った冬夜は、大きく息を吐きながら瞼を上げた。
冬夜や志季はこれまでに何度もこうやって読み取りをしているが、毎回人が亡くなる瞬間を見ているのだから、お世辞にも気分がいいとは言えない。
それに成仏できていない霊は、この世に未練など負の感情を残していることが多いのだからなおさらだ。
今回は本人が自分の状況をわかっていないせいか、これといって大きな負の感情は感じなかった。実際、目の前にいる男性の表情は、困ってはいるものの穏やかだ。
それでも男性が亡くなった瞬間のことを思うと、冬夜の心は痛む。
「……?」
目の前で悲しげな表情を浮かべる冬夜に、男性はただ首を傾げるだけだった。
冬夜やバイトに来ていた志季と一緒に昼食をとった後、コハクは猫姿で外へ遊びに行った。
だが、それから数時間して事務所に帰ってきたコハクの姿を見て、冬夜と志季は揃って瞠目したのである。
「コハク、その幽霊どうしたの!?」
そう、コハクが若い男性の幽霊を連れて帰ってきたのだ。見た目は三十代前半くらいだろうか。
「おやコハくん、とうとう取り憑かれたのか?」
ニヤニヤとわざとらしくそう言った志季に向けて、コハクは艶のある真っ黒な毛を逆立てた。
「違いますよ!」
「じゃあ幽霊の友達か?」
志季に聞かれ、今度は首を傾げる。
「友達……なんですかね? さっき会ったばかりなんですけど」
「何でそれをオレに聞くの。そもそもさっき会ったって何よ」
呆れたように志季が肩を竦める。
そこで冬夜も口を開いた。
「そうだよ。コハクはどうしてさっき会ったばかりの、この幽霊を連れてきたの?」
「あ、そうなんです! 志季さんのせいで話が逸れてました」
「オレのせいかよ」
志季はじとりとコハクを睨みつけたが、コハクはそれを意に介すことなく話を続ける。
「この幽霊さん困ってるんです。冬夜さま、助けてあげられませんか?」
「助ける?」
冬夜と志季が一緒になって首を捻ると、コハクは身振り手振りを交えつつ、懸命に説明を始めた。
「さっきまで近所の猫さんたちと遊びながら情報収集してきたんですけど」
「それはコハくんの通常運転じゃね? で、何か面白そうな情報はあったのか?」
「いえ、特に変わった情報はなかったです。あっ!」
コハクが何かを思い出したように顔を上げる。
「何かあったの?」
冬夜が優しく先を促すと、途端にコハクの表情が明るくなった。
「はい! 裏のミケさんのところで子猫が生まれました!」
「へえ、それはおめでたいね」
嬉しそうなコハクの様子に、冬夜も目を細める。
「いや、今はその情報いらんだろ」
確かにめでたいけども、そう言って、志季がすかさずツッコミを入れた。
「で、その後は?」
そんな志季に冬夜は苦笑しながら、さらに続きを聞こうとする。
「えっと、その帰りにこの幽霊さんと出会ったんです」
「そこまではわかったけど、困ってるってどういうこと?」
「この幽霊さん、自分がどうしてここにいるのかわからないそうなんです」
コハクが自身の隣にいる男性に顔を向けると、男性は大きく頷く。どうやら本当に困っているようである。
「わからない?」
冬夜と志季は、またも揃って大きく首を傾げた。
「そうです。それで、冬夜さまと志季さんなら助けてあげられると思って連れてきました」
コハクの隣で男性が必死になって、何度も首を縦に振る。
「ああ、突然幽霊になって混乱することってあるよね」
なるほどねぇ、と冬夜も一緒になって頷いた。
「アンタはまるで自分のことのように言うんだな。幽霊になったことあんのかよ……」
「まあ、それは置いといて。あなたは自分が幽霊になってることはわかってるの?」
志季の言葉を華麗にスルーした冬夜が、まっすぐ男性を見つめる。
そこで、ようやく男性が口を開いた。
「はい、コハクくんに聞きました」
「そのわりにはずいぶんと落ち着いてるんだな。普通、自分が幽霊になってたら驚かない?」
「言われてみて、『ああ、そうか』と何だか腑に落ちたんですよね」
志季に問われ、男性は照れたように頭を掻き、苦笑した。
「つまり、自分が幽霊になってるのはわかったけど、どうしてこの場所にいるのかがわからないってことかな?」
「そうです、そういうことなんです!」
冬夜の納得したような言葉に、男性が勢いよく前のめりになってまた何度も頷く。
「なら話は早いよね。まずは亡くなった時の状況を確認させてもらうけどいいかな?」
「はい。よろしくお願いします!」
冬夜に聞かれた男性が、今度は深々と頭を下げた。
「うん、じゃあやるよ」
男性の意思を確認した冬夜は大きく深呼吸する。次には、顔を上げた男性の額に手をかざした。
(えっと、どれどれ……)
目を閉じた冬夜の脳裏に、様々なイメージが浮かぶ。
車の中に響く、楽しそうな家族の笑い声。ここまではとても幸せそうだった。
だが、それから少しして響く急ブレーキの音に、冬夜がわずかに顔を歪める。
そして、そこまで読み取った冬夜は、大きく息を吐きながら瞼を上げた。
冬夜や志季はこれまでに何度もこうやって読み取りをしているが、毎回人が亡くなる瞬間を見ているのだから、お世辞にも気分がいいとは言えない。
それに成仏できていない霊は、この世に未練など負の感情を残していることが多いのだからなおさらだ。
今回は本人が自分の状況をわかっていないせいか、これといって大きな負の感情は感じなかった。実際、目の前にいる男性の表情は、困ってはいるものの穏やかだ。
それでも男性が亡くなった瞬間のことを思うと、冬夜の心は痛む。
「……?」
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