ヘタレ退魔師・玖堂冬夜のあやかし奇譚

市瀬瑛理

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第四章 連続殺人事件を追え

第27話 血痕の中にあるもの

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 その後に訪れた三つの事件現場は、最初の現場からそれほど離れていなかった。一番遠い現場でも、車で二十分程度だ。

 事件現場となったのはやはり一軒家だったが、どの家の周りにも他の人家はなく、最初の現場と雰囲気はそれほど変わらないものである。

 家の持ち主の関係性は、それぞれが親戚関係や知り合いだったという事実はなく、まったくの他人だった。

 また事件が起きた場所は、家の中であることは共通していたものの、部屋についてはキッチンや二階の寝室などと、その点は様々だ。

 当然のことながら、被害者の性別や年齢などもバラバラだった。

 共通点は『周りに他の人家がない』、『家の中で事件が起きている』程度のものしかなく、これは警察からの情報そのままである。

 しかし、すべての事件現場において必ず見られたものがあった。

 それが最初の現場で見つけた、『細長く大きな傷跡』だったのである。


  ※※※


 最後の事件現場に着いたのは、すでに夕暮れの時刻だった。

 ここも今まで回ってきた場所と同じように、ごくありふれた一軒家である。
 その玄関前に立った冬夜が、これまでと同じようにショルダーバッグに手を突っ込む。

「ここが最後の事件現場だね」

 そう言って取り出したのは、この家の鍵だ。きちんと『E』と書かれたタグがついている。

 最初が『A』の家、その次は『B』の家、とアルファベット順に回ってきていたのである。そして最後はここ、『E』の家というわけだ。

「これまで目ぼしい情報はほとんどなかったから、ここで何か見つけたいとこだな」
「そうですね」

 腕を組んだ志季が玄関ドアをにらむように見上げると、隣に立ったコハクも素直に同意する。

「で、この家で現場になったのはどこよ?」
「えーと、ちょっと待って。あ、リビングだってさ」

 志季に訊かれ、冬夜はすぐに警察からの情報がつづられた書類を数枚めくった。

「じゃあまっすぐリビングに向かうか。冬夜、鍵開けてくれ」
「わかった」

 冬夜が言われた通りに、手早く鍵を開ける。

「よし、もう夕方だしさっさと調べるぞ」
「もし本当に幻妖絡みだったら、あまり遅くまで調べてると危険かもしれないからね」
「そういうことだな」

 志季の声に促されるようにして、冬夜たちは早速家の中へと足を踏み入れたのだった。


  ※※※


「うわ、ここも酷いな……」

 リビングのドアを開けた途端、視界に飛び込んできた光景に、志季が思わず顔をしかめる。

 三人の目の前に広がっていたのは、これまでの事件現場と同じような惨状だった。
 床のフローリングに広がった血痕は大きく、さらに壁をも赤黒く染め上げている。

「じゃあまずはみんなで手を合わせて……」
「冬夜、ちょっと待て」

 リビングに入る前に一度足を止めた冬夜の言葉に、志季はすかさず自身の声を被せた。

「どうしたの?」
「あれ、血痕の真ん中に何か見える」

 冬夜が不思議そうに首を傾げて志季の顔を見上げると、志季は「ほら」と床に広がった血痕を指差す。

「あ、ホントです」

 冬夜よりも先に視線を向けたコハクが目を見開いた。
 続いて冬夜も、示された方向に目を凝らす。

「確かに何かあるみたいだね。何だろ?」

 そう言った冬夜は、数秒の間手を合わせると、すぐさまリビングの中に踏み込んだ。

「おい、冬夜!」
「冬夜さま、待ってください」

 志季とコハクもならうように手を合わせ、慌てて後を追う。

 二人がリビングに入ると、冬夜は血痕の手前にしゃがみ込んで、ショルダーバッグからスマホを取り出すところだった。

 揃って冬夜の隣まで来た志季やコハクの顔を見ることなく、冬夜は血痕の中のある一点を凝視しながら小さく呟いた。

「今回は血痕の中にあったんだね」

 冬夜が真剣な表情で見つめる先には、これまで何度も見てきた『細長く大きな傷跡』があったのだった。

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