37 / 61
第五章 明かされる秘密
第37話 封印された力
しおりを挟む
征一郎が低い声で、静かに口を開く。
「お前はいまだに退魔師協会でヘタレ扱いをされているようだな」
「……はい」
征一郎にそう言われた冬夜は、姿勢を正して正直に頷いた。
父である征一郎の耳にも届いていることは知っていたが、目の前でこうもはっきり言われてしまうととてつもなく気まずいものがある。
もしかしたらあまりにもヘタレなせいで、征一郎が自分を息子だと認めたくなくなって、先ほどの話をでっち上げたのではないかと考え始めた時だ。
「実は、それにはきちんとした理由があるんだ」
「え?」
思わず顔を上げて聞き返した冬夜に、征一郎は続ける。
「もともとお前の父、辰巳は退魔師としての力が強かった。だからだろう、その子供であるお前も生まれた時から大きな力を持っていた」
「まさか。初歩的な術しか使えない俺に、大きな力なんてあるわけないじゃない。父さんだって俺の力知ってるでしょ?」
即座に冬夜が否定すると、腕を組んだ征一郎はゆっくり天井を見上げた。
「まあそう思うのも仕方ないだろうな。だが、もしその力が封印されているとしたら?」
「どういうこと?」
「言ったままの意味だ。お前の力は大きすぎるために、今は封印されている」
征一郎の言葉に、冬夜が信じられないとでも言いたげな表情で首を捻る。
『封印』などという言葉は日常ではなかなか聞かない。あるとすれば漫画やゲームの中くらいのものだ。
「そんな中二病みたいなこと、ホントにあるの?」
「お前の腕時計、それに封印されている。お前の両親が『力を使いこなせるようになるまでは』と封印したんだ」
「え、これ!?」
嘘でしょ、と冬夜が思わず時計のついた腕を持ち上げて指差すと、征一郎はしっかりと頷いてみせた。
「そうだ。正確には文字盤だがな。だから、小さい頃からずっと身に着けていろとうるさく言っていたんだ」
「確かに、絶対になくすなとは言われてたけどさ。これって、ただ術を使うために必要なものだと思ってたんだけど。志季はピアスを媒介にして蒼月に自分の力を送ってるよね。それで蒼月に冷気を纏わせて戦うでしょ?」
「ああ、そうだな」
冬夜に顔を向けられた志季が、「間違ってないな」と素直に首を縦に振る。
今冬夜が言った通り、志季と蒼月の関係はそのようなものになっている。
志季は左耳につけたピアスから蒼月に自身の力を送り込むことによって、蒼月を使っているのだ。
ちなみに、蒼月は逢坂家に代々伝わる刀で、蒼月に持ち主として認められた者にしか扱うことはできない。
刀を羨ましいと思った冬夜は、一度だけ特別に蒼月を持たせてもらったことがあるが、重すぎて持ち上げることすらできなかった。認められていないとそうなるらしい。
「俺も志季と似た感じで、腕時計に俺の力を送って術を使ってるつもりだったんだけど」
「いや、どちらかというと逆だな。腕時計からほんの少しだけ漏れている力をお前が使っているんだ」
「ええ!? 何で今まで言ってくれなかったのさ! ちょっとくらい教えてくれてもよかったんじゃないの!?」
大声を上げて驚く冬夜の姿を見て、征一郎は自身の額に手を当てた。そのまま大仰な仕草で嘆息する。
「言ったら言ったで、さっきのように取り乱すと思ったからだ。それに、今みたいに力の流れもわからないヘタレに言っても理解できないだろう? まったく、その辺りは封印に関係なくヘタレだな」
「えっと、それは……」
征一郎にぴしゃりと言われてしまい、冬夜は気まずそうにそっと顔を背けた。
「とにかく、そういうことだ」
「あ、そっか。つまり、その封印を解けば古鬼やその関係者とも戦えるってことだよね?」
そうしたら強い力が戻るってことだもんね、と冬夜が顔を戻す。納得したように「うんうん」と頷くその表情は明るいものになっていた。
封印を解けば古鬼と対等に戦える可能性があるだけでなく、もうヘタレと呼ばれなくて済むようになるのかもしれないのだ。冬夜が嬉しくなるのも無理はない。
征一郎は一つ咳払いをして、続ける。
「まあ、簡単に言えばそういうことになる。相手がどの程度強いのかはわからんがな。それから、ついでにこの話もしておこう」
「今度は何の話?」
先ほどまでとは一転して不思議そうな顔で首を傾げる冬夜に、征一郎はまたもゆっくりした口調で話し始めた。
「お前はいまだに退魔師協会でヘタレ扱いをされているようだな」
「……はい」
征一郎にそう言われた冬夜は、姿勢を正して正直に頷いた。
父である征一郎の耳にも届いていることは知っていたが、目の前でこうもはっきり言われてしまうととてつもなく気まずいものがある。
もしかしたらあまりにもヘタレなせいで、征一郎が自分を息子だと認めたくなくなって、先ほどの話をでっち上げたのではないかと考え始めた時だ。
「実は、それにはきちんとした理由があるんだ」
「え?」
思わず顔を上げて聞き返した冬夜に、征一郎は続ける。
「もともとお前の父、辰巳は退魔師としての力が強かった。だからだろう、その子供であるお前も生まれた時から大きな力を持っていた」
「まさか。初歩的な術しか使えない俺に、大きな力なんてあるわけないじゃない。父さんだって俺の力知ってるでしょ?」
即座に冬夜が否定すると、腕を組んだ征一郎はゆっくり天井を見上げた。
「まあそう思うのも仕方ないだろうな。だが、もしその力が封印されているとしたら?」
「どういうこと?」
「言ったままの意味だ。お前の力は大きすぎるために、今は封印されている」
征一郎の言葉に、冬夜が信じられないとでも言いたげな表情で首を捻る。
『封印』などという言葉は日常ではなかなか聞かない。あるとすれば漫画やゲームの中くらいのものだ。
「そんな中二病みたいなこと、ホントにあるの?」
「お前の腕時計、それに封印されている。お前の両親が『力を使いこなせるようになるまでは』と封印したんだ」
「え、これ!?」
嘘でしょ、と冬夜が思わず時計のついた腕を持ち上げて指差すと、征一郎はしっかりと頷いてみせた。
「そうだ。正確には文字盤だがな。だから、小さい頃からずっと身に着けていろとうるさく言っていたんだ」
「確かに、絶対になくすなとは言われてたけどさ。これって、ただ術を使うために必要なものだと思ってたんだけど。志季はピアスを媒介にして蒼月に自分の力を送ってるよね。それで蒼月に冷気を纏わせて戦うでしょ?」
「ああ、そうだな」
冬夜に顔を向けられた志季が、「間違ってないな」と素直に首を縦に振る。
今冬夜が言った通り、志季と蒼月の関係はそのようなものになっている。
志季は左耳につけたピアスから蒼月に自身の力を送り込むことによって、蒼月を使っているのだ。
ちなみに、蒼月は逢坂家に代々伝わる刀で、蒼月に持ち主として認められた者にしか扱うことはできない。
刀を羨ましいと思った冬夜は、一度だけ特別に蒼月を持たせてもらったことがあるが、重すぎて持ち上げることすらできなかった。認められていないとそうなるらしい。
「俺も志季と似た感じで、腕時計に俺の力を送って術を使ってるつもりだったんだけど」
「いや、どちらかというと逆だな。腕時計からほんの少しだけ漏れている力をお前が使っているんだ」
「ええ!? 何で今まで言ってくれなかったのさ! ちょっとくらい教えてくれてもよかったんじゃないの!?」
大声を上げて驚く冬夜の姿を見て、征一郎は自身の額に手を当てた。そのまま大仰な仕草で嘆息する。
「言ったら言ったで、さっきのように取り乱すと思ったからだ。それに、今みたいに力の流れもわからないヘタレに言っても理解できないだろう? まったく、その辺りは封印に関係なくヘタレだな」
「えっと、それは……」
征一郎にぴしゃりと言われてしまい、冬夜は気まずそうにそっと顔を背けた。
「とにかく、そういうことだ」
「あ、そっか。つまり、その封印を解けば古鬼やその関係者とも戦えるってことだよね?」
そうしたら強い力が戻るってことだもんね、と冬夜が顔を戻す。納得したように「うんうん」と頷くその表情は明るいものになっていた。
封印を解けば古鬼と対等に戦える可能性があるだけでなく、もうヘタレと呼ばれなくて済むようになるのかもしれないのだ。冬夜が嬉しくなるのも無理はない。
征一郎は一つ咳払いをして、続ける。
「まあ、簡単に言えばそういうことになる。相手がどの程度強いのかはわからんがな。それから、ついでにこの話もしておこう」
「今度は何の話?」
先ほどまでとは一転して不思議そうな顔で首を傾げる冬夜に、征一郎はまたもゆっくりした口調で話し始めた。
0
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる