44 / 61
第六章 崩れる日常
第44話 コハクの昔語り・2
しおりを挟む
「こんなに小さな子猫が幻妖!? 父さん、本当なの?」
高校生の冬夜さまが、驚いたように大声を上げました。
「正確には『元』幻妖だ」
冬夜さまの目の前にいるのは、さっきボクをこの家に連れてきてくれたおじさんです。
「幻妖って、必ず退魔するものじゃないの?」
ボクを両腕でしっかり抱えてくれている冬夜さまは、そう言って首を傾げました。
すると、おじさん――冬夜さまのお父さんは首を左右に振ります。
「基本的には必ず退魔するものなんだが、この子、コハクはとてもレアなケースでね」
「レアなケース?」
お父さんの言葉に、冬夜さまがまた首を捻りました。
ボクも一緒になって話を聞いていましたが、何がなんだかさっぱりです。
「幻妖の中にかろうじて残っていた良心の部分が、退魔した時に残ったんだ。普通の幻妖は良心なんて残っていないはずなんだが」
「じゃあ、その良心がこの子猫の姿になったってこと?」
「手っ取り早く言うと、そういうことになるな」
「そっか、良心が形になったからこんなに可愛いんだねぇ」
冬夜さまはボクを見て、優しく目を細めました。
『可愛い』、そう言われたボクはどうしていいかわからずに、ただ冬夜さまを見つめ返すことしかできませんでした。
こうして、ボクはこの家で冬夜さまと一緒に暮らすことになったんです。
この日から、ボクのご主人さまは冬夜さまだけです。
冬夜さまは「溺れてたら助けるのは当たり前じゃない?」って今でも明るく笑いますが、それでもボクにとっては本当に特別なことだったんです。
もちろん、ボクの悪いところを退魔して、この家に連れてきてくれたお父さんにも感謝しています。お父さんがいなかったら、冬夜さまに出会えていませんでしたから。
でも、やっぱりボクの中で一番は冬夜さまなんです。
だから、冬夜さまが大学を卒業して事務所で一人暮らしをすることになった時は、迷わず一緒について行くことにしました。
冬夜さまがいない家で暮らすのは、寂しくて絶対に嫌でしたから。
だけど、冬夜さまは最初から連れていってくれるつもりだったらしく、とても喜んでくれました。
もしかしたら置いていかれるかもしれない、と悪い方向にも考えていたので、ボクはほっとしました。
事務所に引っ越ししてから、志季さんとも初めて会いました。
志季さんはその時から事務所でバイトをしています。
時々志季さんとは喧嘩もしますが、悪い人ではないと思います。だって、冬夜さまが信頼して背中を預けている人ですから。
それに『甘いものが好き』という点では、ボクと志季さんは仲間です。
今は冬夜さまと志季さん、ボクの三人で毎日を楽しく過ごしています。
ちなみに、ボクが人間の言葉を話せることに気づいたのは、冬夜さまと出会ってから数日後のことでした。何でもっと早く気づかなかったんですかね。
人間の姿になれることにも、少しして気づきました。
服は自分の好きなものを具現化して身に着けることができるので、ボクを助けてくれた時に冬夜さまが着ていた学ランとお揃いにしました。これはまったく迷わなかったですね。
冬夜さまや志季さんは「もっとかっこいい服だってあるよ」と言いますが、ボクはこの服が一番気に入ってるんです。
現在も冬夜さまと一緒にいられるボクは、毎日がとてもとても幸せです。
高校生の冬夜さまが、驚いたように大声を上げました。
「正確には『元』幻妖だ」
冬夜さまの目の前にいるのは、さっきボクをこの家に連れてきてくれたおじさんです。
「幻妖って、必ず退魔するものじゃないの?」
ボクを両腕でしっかり抱えてくれている冬夜さまは、そう言って首を傾げました。
すると、おじさん――冬夜さまのお父さんは首を左右に振ります。
「基本的には必ず退魔するものなんだが、この子、コハクはとてもレアなケースでね」
「レアなケース?」
お父さんの言葉に、冬夜さまがまた首を捻りました。
ボクも一緒になって話を聞いていましたが、何がなんだかさっぱりです。
「幻妖の中にかろうじて残っていた良心の部分が、退魔した時に残ったんだ。普通の幻妖は良心なんて残っていないはずなんだが」
「じゃあ、その良心がこの子猫の姿になったってこと?」
「手っ取り早く言うと、そういうことになるな」
「そっか、良心が形になったからこんなに可愛いんだねぇ」
冬夜さまはボクを見て、優しく目を細めました。
『可愛い』、そう言われたボクはどうしていいかわからずに、ただ冬夜さまを見つめ返すことしかできませんでした。
こうして、ボクはこの家で冬夜さまと一緒に暮らすことになったんです。
この日から、ボクのご主人さまは冬夜さまだけです。
冬夜さまは「溺れてたら助けるのは当たり前じゃない?」って今でも明るく笑いますが、それでもボクにとっては本当に特別なことだったんです。
もちろん、ボクの悪いところを退魔して、この家に連れてきてくれたお父さんにも感謝しています。お父さんがいなかったら、冬夜さまに出会えていませんでしたから。
でも、やっぱりボクの中で一番は冬夜さまなんです。
だから、冬夜さまが大学を卒業して事務所で一人暮らしをすることになった時は、迷わず一緒について行くことにしました。
冬夜さまがいない家で暮らすのは、寂しくて絶対に嫌でしたから。
だけど、冬夜さまは最初から連れていってくれるつもりだったらしく、とても喜んでくれました。
もしかしたら置いていかれるかもしれない、と悪い方向にも考えていたので、ボクはほっとしました。
事務所に引っ越ししてから、志季さんとも初めて会いました。
志季さんはその時から事務所でバイトをしています。
時々志季さんとは喧嘩もしますが、悪い人ではないと思います。だって、冬夜さまが信頼して背中を預けている人ですから。
それに『甘いものが好き』という点では、ボクと志季さんは仲間です。
今は冬夜さまと志季さん、ボクの三人で毎日を楽しく過ごしています。
ちなみに、ボクが人間の言葉を話せることに気づいたのは、冬夜さまと出会ってから数日後のことでした。何でもっと早く気づかなかったんですかね。
人間の姿になれることにも、少しして気づきました。
服は自分の好きなものを具現化して身に着けることができるので、ボクを助けてくれた時に冬夜さまが着ていた学ランとお揃いにしました。これはまったく迷わなかったですね。
冬夜さまや志季さんは「もっとかっこいい服だってあるよ」と言いますが、ボクはこの服が一番気に入ってるんです。
現在も冬夜さまと一緒にいられるボクは、毎日がとてもとても幸せです。
0
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる