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第七章 決戦
第57話 動かない身体
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「――影縫い!」
冬夜が両手を古鬼に向けて、術を発動させる。
すると、天井付近にできた多数の光の刃が、間髪入れずまっすぐに古鬼の影を狙って降り注いだ。
しかし、それに気づいた古鬼はいとも簡単に避けてみせる。
「甘いわ」
「くそっ!」
冬夜が思わず舌打ちすると、今度は志季が古鬼に迫った。
「よそ見してんじゃねーぞ!」
足を止めることなく、蒼月を一息で横に薙いだ志季だったが、それもギリギリのところでかわされてしまう。
悔しそうに歯噛みする志季から、古鬼が軽やかなバックステップで距離を取る。そして大きく右手を振り上げると、そこに薙刀が現れた。
「とうとう武器を出してきたのか……」
離れたところで見ていた冬夜が息を呑む。
相手の武器が柄の長い薙刀だと、刀を扱う志季ではかなり不利になる。
ならば自分が術で、と冬夜は考えるが、まともに使える攻撃術で古鬼に効きそうなものは思いつかなかった。
そもそも、冬夜に扱える攻撃術がほとんど存在していないのである。
攻撃術はそれなりに力のある退魔師でないと、防御系の術よりも使いこなすのが難しい。
この辺りも冬夜が『ヘタレ』と呼ばれる所以である。
(どうする……? どうにか援護して志季に攻撃してもらうか、それとも……)
そんなことを考えている時だった。
「うわぁ……っ!」
古鬼の攻撃を避け損ねた志季が、薙刀の柄で弾き飛ばされるのが見えた。
かろうじて蒼月で攻撃を受け止めていた志季は、身体への直撃は避けられたようだが、勢いよく体育館の壁に叩きつけられる。
「志季!」
冬夜の声もむなしく、背中を強く打ちつけた志季がその場に崩れ落ちた。
これで志季は片づいたと思ったのだろう、古鬼は静かに冬夜の方へと顔を向ける。
「死ぬ準備はできたか?」
低い声でそう言って、薙刀を構えたのだった。
※※※
志季が壁にもたれたままでゆっくりと顔を上げるのが、冬夜の視界の端に映る。
とりあえずは大丈夫そうなことに安心したが、今度は自分がピンチである。
冬夜がまっすぐ古鬼を見据えながら構えると、古鬼は心底可笑しそうに口元を歪ませた。
「最期に術でも使ってみるか? 試してみてもいいぞ」
ほら、と古鬼が薙刀を下ろし、無防備な姿を晒す。
今なら志季も動けない。そして自分を格下と見て、わざと挑発してきている。先ほどは『強い力を感じた』などと言ったくせに。
冬夜はそのことに苛立ちながらも、ここしかチャンスはないと考えた。
(今が解放した力を使う時だ……!)
力を使った後、自分がどうなるのかまで想像している余裕はない。
とにかく今は目の前の敵を倒さなければ、そう思って、自分の体内に眠っているであろう大きな力の流れを探す。
しかし、すぐに冬夜は愕然とした。力がどこにあるのか、見つけることができなかったのである。
(まさか、俺にはまだ封印を解く時期が早すぎた……!?)
もしかしたら、いつの間にか自分の中から力が消えてしまったのかもしれない。
そんなことを考えた瞬間、全身から一気に血の気が引いていくのがわかった。と同時に、自分の身体が上手く動かなくなっていることにも気づく。
とにかく何かの術を使わなくては。そうだ、結界術がある。これで少しはしのげるかもしれない。
思ったけれど、実際に動かそうとした腕はまったく反応しなかった。
それでもどうにかしようと全身に力をこめる。だが、やはり力が入らず、身体は冬夜の言うことをきかない。とうとう指先ですら動かせなくなっていた。
恐怖からなのだろうか、完全に冬夜の身体は硬直したままである。
「なんだ、攻撃してこないのか。ならばこちらから行こう」
身動き一つできない冬夜の様子に、古鬼は「残念だ」と言わんばかりに、大きな溜息をついた。
次にはその身体を切り裂こうと、改めて手にした薙刀を振り上げる。
スローモーションのようにも感じられる古鬼の動作に、冬夜は目を大きく見開き、瞬きすらできなかった。
冬夜が両手を古鬼に向けて、術を発動させる。
すると、天井付近にできた多数の光の刃が、間髪入れずまっすぐに古鬼の影を狙って降り注いだ。
しかし、それに気づいた古鬼はいとも簡単に避けてみせる。
「甘いわ」
「くそっ!」
冬夜が思わず舌打ちすると、今度は志季が古鬼に迫った。
「よそ見してんじゃねーぞ!」
足を止めることなく、蒼月を一息で横に薙いだ志季だったが、それもギリギリのところでかわされてしまう。
悔しそうに歯噛みする志季から、古鬼が軽やかなバックステップで距離を取る。そして大きく右手を振り上げると、そこに薙刀が現れた。
「とうとう武器を出してきたのか……」
離れたところで見ていた冬夜が息を呑む。
相手の武器が柄の長い薙刀だと、刀を扱う志季ではかなり不利になる。
ならば自分が術で、と冬夜は考えるが、まともに使える攻撃術で古鬼に効きそうなものは思いつかなかった。
そもそも、冬夜に扱える攻撃術がほとんど存在していないのである。
攻撃術はそれなりに力のある退魔師でないと、防御系の術よりも使いこなすのが難しい。
この辺りも冬夜が『ヘタレ』と呼ばれる所以である。
(どうする……? どうにか援護して志季に攻撃してもらうか、それとも……)
そんなことを考えている時だった。
「うわぁ……っ!」
古鬼の攻撃を避け損ねた志季が、薙刀の柄で弾き飛ばされるのが見えた。
かろうじて蒼月で攻撃を受け止めていた志季は、身体への直撃は避けられたようだが、勢いよく体育館の壁に叩きつけられる。
「志季!」
冬夜の声もむなしく、背中を強く打ちつけた志季がその場に崩れ落ちた。
これで志季は片づいたと思ったのだろう、古鬼は静かに冬夜の方へと顔を向ける。
「死ぬ準備はできたか?」
低い声でそう言って、薙刀を構えたのだった。
※※※
志季が壁にもたれたままでゆっくりと顔を上げるのが、冬夜の視界の端に映る。
とりあえずは大丈夫そうなことに安心したが、今度は自分がピンチである。
冬夜がまっすぐ古鬼を見据えながら構えると、古鬼は心底可笑しそうに口元を歪ませた。
「最期に術でも使ってみるか? 試してみてもいいぞ」
ほら、と古鬼が薙刀を下ろし、無防備な姿を晒す。
今なら志季も動けない。そして自分を格下と見て、わざと挑発してきている。先ほどは『強い力を感じた』などと言ったくせに。
冬夜はそのことに苛立ちながらも、ここしかチャンスはないと考えた。
(今が解放した力を使う時だ……!)
力を使った後、自分がどうなるのかまで想像している余裕はない。
とにかく今は目の前の敵を倒さなければ、そう思って、自分の体内に眠っているであろう大きな力の流れを探す。
しかし、すぐに冬夜は愕然とした。力がどこにあるのか、見つけることができなかったのである。
(まさか、俺にはまだ封印を解く時期が早すぎた……!?)
もしかしたら、いつの間にか自分の中から力が消えてしまったのかもしれない。
そんなことを考えた瞬間、全身から一気に血の気が引いていくのがわかった。と同時に、自分の身体が上手く動かなくなっていることにも気づく。
とにかく何かの術を使わなくては。そうだ、結界術がある。これで少しはしのげるかもしれない。
思ったけれど、実際に動かそうとした腕はまったく反応しなかった。
それでもどうにかしようと全身に力をこめる。だが、やはり力が入らず、身体は冬夜の言うことをきかない。とうとう指先ですら動かせなくなっていた。
恐怖からなのだろうか、完全に冬夜の身体は硬直したままである。
「なんだ、攻撃してこないのか。ならばこちらから行こう」
身動き一つできない冬夜の様子に、古鬼は「残念だ」と言わんばかりに、大きな溜息をついた。
次にはその身体を切り裂こうと、改めて手にした薙刀を振り上げる。
スローモーションのようにも感じられる古鬼の動作に、冬夜は目を大きく見開き、瞬きすらできなかった。
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