戦隊ヒーローレッドは異世界でも戦うのがめんどくさい~でも召喚されたものは仕方ないのでしぶしぶ戦うことにしました~

市瀬瑛理

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第二章 新たなメンバーは黄

第69話 最高で、最強なチームワーク

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「どうした、千紘?」

 千紘の発した言葉に首を傾げた秋斗が、怪訝けげんそうな表情を浮かべる。

 いきなり話題を変えられたら、「一体何だろう」と思うのも当然だ。
 それは千紘もわかっているし、別に隠すことでもないので、正直に思ったことを口にした。

「いや、秋斗の水魔法って凍らせることもできたんだな、って思って」
「ああ、それか。こっちに来てから色々と考えてたんだけどな」

 すぐに千紘の言いたいことを理解したらしい秋斗は、納得したように手を打つ。
 その様子に、今度は千紘が首を捻る番だった。

「考えてた?」
「うん。おれの魔法がただ水を使うだけじゃなくて、もっと他に、たとえば温度を変えたりできたら、攻撃のバリエーションが増えて戦い方の幅も広がるんじゃないかと思ってさ」
「つまり、塔で『水しか使えないのか』なんて謎なこと言ってたのってそれだったのか。何か珍しく真面目な顔で考え込んでるなと思ったら」

 秋斗の話を聞いた千紘が、「なるほど」と塔での出来事を振り返る。
 言われてみれば、それならつじつまが合う。

 でも、まさか温度を変えることを考えていたとは思いもしなかった。これまでの様子を見るに、きっと律も気づかなかったのだろう。

 普通の水を扱うだけでも十分すごいことだと思うが、他にも色々とできた方がもっといいのは千紘にもわかる。
 実際、今回はとても役に立ったのだ。秋斗のおかげで、ダイオウイカを倒せたと言っても過言ではない。

 それに、次回がないに越したことはないが、あのリリアのことだ。いつ何をやらかすかわかったものではない。
 万が一の場合を考えれば、確かに色々できた方がありがたいのである。

「『珍しく』は余計だけど、そういうこと。千紘とりっちゃんも見た通り、温度を変えてどうにか凍らせることはできた。まあ、海水だから普通の水より温度を下げるのがちょっと大変だったけどな。多分、沸騰させたり一気に蒸発させることもできるんじゃないかな」

 もっと訓練しないとダメそうだけど、と秋斗は苦笑した。

「ああ、海水は普通の水より温度が低くないと凍らないんだったか。そういやそんなこと授業で習ったな」
「うん、そう。でも、塔ではまったく戦えなかったから、ここで何とか役に立ててよかったよ。千紘とりっちゃんが守ってくれたおかげだな!」
「僕なんて全然です!」

 秋斗の表情が満面の笑みに変わると、律は赤くなった顔の前で両手を左右に振りながら、謙遜けんそんする。

「律は今、俺の怪我を治してくれただろ。おとりにもなってくれたし、反対に攻撃だってしてくれた。まあ、適材適所ってやつでいいんじゃないか?」

 千紘も明るく笑うと、秋斗はふと、また不思議そうな表情を浮かべた。

「それにしても千紘、よくおれのやろうとしてたことがわかったな」

 秋斗に訊かれ、千紘は真面目な顔で「その話か」と一つ頷くと、小さく頬をく。

「いや、具体的に何するつもりかは全然知らなかったけど、何かをやろうとしてるのは何となくわかったっていうか」
「そっか、さすが千紘! りっちゃんも大活躍だったし、やっぱりおれたちのチームワークは最高で、最強だな! な、りっちゃん!」
「そうですね!」

 千紘の答えに、秋斗が心底嬉しそうな表情を浮かべ、律の背中を叩く。叩かれた律も嫌な顔をすることなく、笑顔でしっかりと頷いた。

「……かもしれないな」

 そんな二人の様子に、千紘も「やれやれ」と肩をすくめながら同意する。言葉や態度とは裏腹に、今はそれほど悪い気はしていなかった。

「あっ!」

 そこで何かを思い出したらしい秋斗が、弾かれたように顔を上げる。

「秋斗、どうかしたのか?」
「秋斗さん?」

 突然のことに、千紘と律がきょとんとして、秋斗の顔を見た。

「ダイオウイカ分の石、拾い損ねてるんだよ! 千紘もりっちゃんも拾ってないんだろ!?」
「ああ、あれか。すっかり忘れてたな。きっと海に落ちたんだから諦めろって」

 まったく、と呆れる千紘に構うことなく、

「今からでも海に潜れば!」

 焦った表情の秋斗は、早速海に飛び込もうとでもいうのか、素早く立ち上がる。
 千紘はその腕を掴んで引き留めながら、懸命に言い聞かせた。

「いや、もうどこにあるかもわかんないし、そこまでしなくていいから!」
「石、いや、お金は大事なんだぞ!」

 秋斗はまだ海に向かうつもりらしく、千紘の手を強い力で振りほどこうとする。

 確かにお金はどこの世界でも大事だと思うが、今はそのために海に潜っている場合ではないだろう。
 そもそも、先ほどまでぐっすり眠っていた人間がすることではない。

 それに、いくら秋斗の運動神経が良いとはいっても、石がどこにあるかもわからない状態で、長時間海に潜るのは難しいに決まっている。
 もちろん、見つかる可能性だって低すぎる。

「それはわかるけど、ここで手に入れた金はこの世界でしか使えないんだからな。何度も言わせるんじゃねーよ。それともアンタはこの世界に移住でもするつもりか!?」

 千紘がなおも必死に腕を引っ張りながら言うと、秋斗は目を見開き、ぴたりと動きを止めた。

「あ、それも楽しいかもしれないな!」
「本気で考えんな!」

 マイペースな秋斗と、それに対して反射的に怒鳴ってしまった千紘の様子に、律が可笑おかしそうに笑う。

 三人の賑やかな声はしばらくの間、波の音と共に砂浜に響いていたのだった。

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