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4章 港湾都市アイラ編
167話 海竜・前編
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『──来タカ、愚カナ虫ケラドモヨ』
その声に、屈強な海の男とは言えあくまで一般人のナッシュは身体の芯から竦みあがり、その場にへたり込む。
海竜──ランク指定外モンスター
この世界で最強の種族である竜種、その中でも海を生息域とする海竜の外見は、他のドラゴンとは一線を画す。
多くのドラゴンが頭部・頚部・胴体・尻尾・四肢・翼と、各部位が判別しやすいのに対し、海竜は大海蛇に角と鎧のようなゴツゴツとした鱗、その巨体には似つかわしくない小さな四肢、海中で生きるには無用であるとして失われた翼と、東洋の竜の様な姿をしている。
全長50メートル、胴の最大径2メートルの巨体にも関わらず、海流を操作しながら移動する最高速度は70ノット(時速約130キロ)と恐ろしく速く、この速度と巨体で体当たりをされては大型軍艦ですら大破、撃沈を免れない。
性格は本来温厚で、たまに沈没船から光り物を拾い上げては自分の巣に持ち帰って蓄える習性がある。
※世界最強の生物・種族が魔竜なのは世界の共通認識なのだが、多くの一般人は強いドラゴン=魔竜との認識をしている、そもそも魔竜は生物に分類してよいのかすら怪しい。
温和な種であると言われる海竜は、今やその目に怒りと侮蔑の感情を込めて来訪者を迎えている。
ナッシュが恐怖に震える横でしかし、落ち着き払ったシンは甲板の上で片膝をつき、恭しく頭を垂れる。
「お初にお目にかかります。私はシン、旅の薬師として世界を巡る者、どうぞ怒りをお鎮め下さいます様、平に願う所存にございます」
『キサマノ名ナドニ興味ハナイ、奪ワレタ秘宝トソレヲ企テタ愚カ者ヲ我ガ前ニ!』
(秘宝……?)
海竜の言葉に違和感を覚えたシンは海竜に語りかける。
「海竜様! 海竜様が告げた要求を今一度お聞かせ願えませぬでしょうか?」
『今サラ何ヲ聞ク必要ガアル? 我ノ要求ハ2ツ、我ガ元ヨリ奪ワレタ秘宝ノ返還ト首謀者ノ首、ヨモヤ事ココニ及ンデ出来ヌト言イ出スツモリデハナカロウナ?』
「ちっ、どこまでもイヤらしいまねしやがる……恐れながら海竜様! 我等が伝え聞いた要求は「奪われた全ての財宝の返還」と聞き及んでおります! 首謀者については我等の法の元で罰するつもりでありました故、こちらには連れて来ておりません! 首謀者の首は後日、改めてお届けにあがりますゆえ、今は「秘宝」と船に積んである財宝の返還のみにてお怒りをお収めいただけないでしょうか!?」
そう言ってシンは異空間バッグから上等な布に包まれた2つの物体を取り出し、海竜の近くまで歩み寄り、甲板に置く。
『オオ……!!』
海竜の前に差し出された2つの竜の卵──淡いターコイズブルーの殻を纏った大きな卵、どちらも同じ大きさだが、1つの方は微かに光り輝いている。
海竜はそれを優しく咥えると、そのまま飲み込む。食べたのではなく、体内で一時的に保護するためと思われる。
『ヨウヤク我ガ元ニ……虫ケラヨ、秘宝ト盗マレタ財宝ヲ運ンデキタ事ニツイテハ労イヲクレテヤロウ。ナレド、コレハ元々我ノモノデアリ返却ハ当然ノハナシ、首謀者ノ首ガ無イ以上我ガ望ミガ叶ッタトハ言エヌ。ナニヨリ、我ハ言ッタ筈ダ、「仔細、違ウ事無ク伝エヨ」、ト』
「そこを曲げて! 切にお願い申し上げます! 首謀者の首は後日、必ず届けますゆえ!」
『クドイゾ虫ケラヨ、ソモソモキサマ、コレガ何デアルカ、知ッテオルノカ?』
「……竜の卵、そして「魔竜の卵」でございましょうか?」
『ホウ! 虫ケラノ分際デ知ッテオルカ、ソウ、コレコソハ魔竜ノ卵、次代ノ「海の魔竜」ヨ!』
かつて堕ちた勇者に敗北した聖竜王が力を求め、邪竜へと変質する過程で喰われて力の一部として取り込まれていた多くの魔竜、その中の1体が海の魔竜である。
4年前にヴリトラが討たれた事によって解放された多くの魔竜は現在卵の状態に戻り、復活の時を待っている。
『我ハコレヲ、己ノ卵ヲ産ムト時ヲ同ジクシテ見ツケタ。言ワバコレハ我ガ子ヲ魔竜ノ従者ニト望ム魔竜ノ意思ニ他ナラヌ……ソレヲヨモヤ、キサマラ虫ケラゴトキニ邪魔サレヨウトハ、我ガ怒リ、ドレホドノモノカ知ル由モ無カロウ』
「……つまり、元より交渉するつもりは無かったと?」
『ソモソモキサマラ虫ケラノ罪ヲ許スナド、一言モ言ッテオラヌワ! 首謀者ノ首ガ手元ニ無イノハ口惜シイガ、アノ街ヲ滅ボセバソノ中ニ紛レテオロウ』
「人の事を散々虫けら呼ばわりしておいて、自らのやりようは小狡いとお思いになりませぬか?」
『ホウ、虫ケラガ我ニ意見カ? 弱キ存在ハクチバカリ達者デ困ッタモノヨ』
最初、頭を垂れてへりくだった態度だったシンは、今は顔を上げ、口調は未だに丁寧ながらも海竜を半眼で睨みつけるように見据えている。
海竜もシンの視線には気付いているものの、「それが?」としか思ってはいない。人間が不快になろうとも怒りを覚えようとも所詮自らより劣る存在、それを同格として扱う珍奇な存在はそうそういない。
目の前の海竜の態度はそういった意味で、ごく真っ当な振る舞いといえた。
『我ノヤリ方ガ気ニ食ワヌト言ウノデアレバ、チカラデ覆シテミセヨ』
「……ああ、そうさせてもらうわ」
『──ナニ?』
スッ──
シンは立ち上がると海竜に向かって不遜な眼差しを向け、言い放つ。
「さっきから聞いてりゃ虫けら虫けら……たかがにょろにょろの分際で態度がデケエんだよ! ドラゴンごときが何様のつもりだ!?」
『我ヲゴトキト言ウカ……ドラゴント人間、ドチラガ上カハソノ存在ノ格ガ物語ッテオルワ』
「格ね……そんなモンで勝負したきゃ教えといてやるよ、人間の中にゃあテメエらより格上に認定される奴も稀に居るってな」
『ナンダト……?』
「格を謳うなら俺はお前より格上、魔竜と同格だ! 這い蹲って許しを請えや、ヘビモドキが! 生憎許しちゃやらんがな!」
シンはそう言うと異空間バッグから長物を取り出し、海竜に向かって駆け出す!
『魔竜ト同格ダト? キサマ、マサカ使徒カ!?』
「判断が遅え、よっ!!」
ドゴン──!!
海竜の懐に跳びこんだシンは手にした狼牙棒を振りぬき、その顎に思い切り叩きつける!
『ゴッ!! ……キ、キサマ』
「ハナから許すつもりが無いってんならコッチもそれに倣うまでだ! 恨むなら、やたら図体がデカイだけでモノの役にも立たん残念な脳みそを恨むんだな」
『フン、不意ヲ突イタクライデイイ気ニナルナ! イカニ代行者トハイエ強サマデ竜種ヲ越エルコトガ出来ル訳デハナイワ!』
海竜が巨体に似合わぬ素早さで頭を突き出し、その大きな口でシンを噛み千切ろうと迫る。
「おっと」
シンはそれを軽く避けると揺れる甲板から離れ、海面から頭を突き出している岩場に飛び移る。
無論、海竜はそれを追いかけるが、シンはその全てを悉くかわしながら岩場をピョンピョンと移動し、徐々に船との距離を広げる。
そして、戦闘の影響が船に及ばないほど離れたと判断したシンは一転、攻勢に出る。
ガィィィィン!!
向かってくる海竜の頭部に狼牙棒がカウンター気味に命中する!
──しかし、
『グヌッ!』
海竜は一瞬苦悶の表情を浮かべるもそれだけで、再度シンに向かって頭を突き出してくる!
ゴズッ!!
攻撃をかわしたシンの足元に海竜の頭がめり込むものの、やはり海竜は何事も無かったかのように頭を持ち上げ、衝突した足場の岩は砕け散っている。
「ったく、無駄にかたいのはそのオツムの中だけじゃ無さそうだな……厄介な」
『フン、未ダニ軽口ヲ止メヌソノ根性ダケハ褒メテヤル』
「はっ、格下に褒められてもな」
『ホザケッ』
海竜は頭を大きく振りかぶり、あえて先程ダメージを食らった顎と首元を晒す。
「? ──しまっ!!」
バザアアアン──!!
頭部を海面に叩きつけ、その衝撃で上がった水しぶきが周囲の視界を塞ぐ。
そして、
──ブオン!!
「ちっ!!」
バギャン!!
死角から足場を狙って振るった尻尾が迫り、とっさにシンは跳びあがって回避する。
そしてソレを狙っていた海竜が再度、シンに向かって口を開けて飛び掛る
「くぅっ!! 噴出口展開!!」
シンはドラゴンテイルに魔力を流すと、鎚鉾部の隙間にある複数の噴出口から爆風が噴出され、その反動でシンの位置が僅かにずれ、その凶悪な顎をかろうじて回避する。
ブオン──!!
しかし海竜の追撃は終わらず、今度は先程の尾がうなりをあげてシンの脇腹にミートする!!
「カハッ!!」
無防備だった腹部に尻尾のフルスイングを受けては、流石にシンといえどもただでは済まず、アバラの3~4本が粉々に砕け、その顔に苦悶の表情が浮かぶ。
痛みでドラゴンテイルを取り落としたシンはそのまま海上に放り出されると、100メートル以上の綺麗な放物線を画いて海面に叩きつけられる。
「つぅ……くっそ!」
着水するまで10秒ほど、その間にシンは痛みに耐えながら異空間バッグをまさぐっていくつか取り出すと、そのうち1本を飲み干す。
シュウウウウウ──。
中級の体力回復薬で肋骨が完治していくのを確認しながら、シンは視線を巡らして海竜の姿を視界に捕らえ、睨みつける。
着水前に海竜に追いつかれると判断したシンは、取り出した薬品の中の一つで、周囲の魔素に反応して爆発する「液体爆薬」を投げつける用意をする。
…………………………。
しかし、海竜は先程の緊急回避を予測してか、シンが着水するまで攻撃を控え、着水したのを確認してから襲い掛かってきた。
「クソったれ、無駄に芸が細かい野郎だな! ったく……風精よ、集いて縮み、縮みて忍べ、我が号令にてその身解き放て、”風爆”」
シンは即座に魔法を唱え、自分の至近でそれを発動させると、圧縮された空気が解放される反動で自身の位置を横にずらし、再度海竜の顎から逃れる。
──が、海竜の突進を避けたものの、通過する胴体の途中に付いている小さな前足に身体を掴まれ、そのまま海中に引きずり込まれる。
「がぼっっ──!!」
(マジで厄介な!!)
相手の領域に引き込まれながらも、シンは毒づく。
その声に、屈強な海の男とは言えあくまで一般人のナッシュは身体の芯から竦みあがり、その場にへたり込む。
海竜──ランク指定外モンスター
この世界で最強の種族である竜種、その中でも海を生息域とする海竜の外見は、他のドラゴンとは一線を画す。
多くのドラゴンが頭部・頚部・胴体・尻尾・四肢・翼と、各部位が判別しやすいのに対し、海竜は大海蛇に角と鎧のようなゴツゴツとした鱗、その巨体には似つかわしくない小さな四肢、海中で生きるには無用であるとして失われた翼と、東洋の竜の様な姿をしている。
全長50メートル、胴の最大径2メートルの巨体にも関わらず、海流を操作しながら移動する最高速度は70ノット(時速約130キロ)と恐ろしく速く、この速度と巨体で体当たりをされては大型軍艦ですら大破、撃沈を免れない。
性格は本来温厚で、たまに沈没船から光り物を拾い上げては自分の巣に持ち帰って蓄える習性がある。
※世界最強の生物・種族が魔竜なのは世界の共通認識なのだが、多くの一般人は強いドラゴン=魔竜との認識をしている、そもそも魔竜は生物に分類してよいのかすら怪しい。
温和な種であると言われる海竜は、今やその目に怒りと侮蔑の感情を込めて来訪者を迎えている。
ナッシュが恐怖に震える横でしかし、落ち着き払ったシンは甲板の上で片膝をつき、恭しく頭を垂れる。
「お初にお目にかかります。私はシン、旅の薬師として世界を巡る者、どうぞ怒りをお鎮め下さいます様、平に願う所存にございます」
『キサマノ名ナドニ興味ハナイ、奪ワレタ秘宝トソレヲ企テタ愚カ者ヲ我ガ前ニ!』
(秘宝……?)
海竜の言葉に違和感を覚えたシンは海竜に語りかける。
「海竜様! 海竜様が告げた要求を今一度お聞かせ願えませぬでしょうか?」
『今サラ何ヲ聞ク必要ガアル? 我ノ要求ハ2ツ、我ガ元ヨリ奪ワレタ秘宝ノ返還ト首謀者ノ首、ヨモヤ事ココニ及ンデ出来ヌト言イ出スツモリデハナカロウナ?』
「ちっ、どこまでもイヤらしいまねしやがる……恐れながら海竜様! 我等が伝え聞いた要求は「奪われた全ての財宝の返還」と聞き及んでおります! 首謀者については我等の法の元で罰するつもりでありました故、こちらには連れて来ておりません! 首謀者の首は後日、改めてお届けにあがりますゆえ、今は「秘宝」と船に積んである財宝の返還のみにてお怒りをお収めいただけないでしょうか!?」
そう言ってシンは異空間バッグから上等な布に包まれた2つの物体を取り出し、海竜の近くまで歩み寄り、甲板に置く。
『オオ……!!』
海竜の前に差し出された2つの竜の卵──淡いターコイズブルーの殻を纏った大きな卵、どちらも同じ大きさだが、1つの方は微かに光り輝いている。
海竜はそれを優しく咥えると、そのまま飲み込む。食べたのではなく、体内で一時的に保護するためと思われる。
『ヨウヤク我ガ元ニ……虫ケラヨ、秘宝ト盗マレタ財宝ヲ運ンデキタ事ニツイテハ労イヲクレテヤロウ。ナレド、コレハ元々我ノモノデアリ返却ハ当然ノハナシ、首謀者ノ首ガ無イ以上我ガ望ミガ叶ッタトハ言エヌ。ナニヨリ、我ハ言ッタ筈ダ、「仔細、違ウ事無ク伝エヨ」、ト』
「そこを曲げて! 切にお願い申し上げます! 首謀者の首は後日、必ず届けますゆえ!」
『クドイゾ虫ケラヨ、ソモソモキサマ、コレガ何デアルカ、知ッテオルノカ?』
「……竜の卵、そして「魔竜の卵」でございましょうか?」
『ホウ! 虫ケラノ分際デ知ッテオルカ、ソウ、コレコソハ魔竜ノ卵、次代ノ「海の魔竜」ヨ!』
かつて堕ちた勇者に敗北した聖竜王が力を求め、邪竜へと変質する過程で喰われて力の一部として取り込まれていた多くの魔竜、その中の1体が海の魔竜である。
4年前にヴリトラが討たれた事によって解放された多くの魔竜は現在卵の状態に戻り、復活の時を待っている。
『我ハコレヲ、己ノ卵ヲ産ムト時ヲ同ジクシテ見ツケタ。言ワバコレハ我ガ子ヲ魔竜ノ従者ニト望ム魔竜ノ意思ニ他ナラヌ……ソレヲヨモヤ、キサマラ虫ケラゴトキニ邪魔サレヨウトハ、我ガ怒リ、ドレホドノモノカ知ル由モ無カロウ』
「……つまり、元より交渉するつもりは無かったと?」
『ソモソモキサマラ虫ケラノ罪ヲ許スナド、一言モ言ッテオラヌワ! 首謀者ノ首ガ手元ニ無イノハ口惜シイガ、アノ街ヲ滅ボセバソノ中ニ紛レテオロウ』
「人の事を散々虫けら呼ばわりしておいて、自らのやりようは小狡いとお思いになりませぬか?」
『ホウ、虫ケラガ我ニ意見カ? 弱キ存在ハクチバカリ達者デ困ッタモノヨ』
最初、頭を垂れてへりくだった態度だったシンは、今は顔を上げ、口調は未だに丁寧ながらも海竜を半眼で睨みつけるように見据えている。
海竜もシンの視線には気付いているものの、「それが?」としか思ってはいない。人間が不快になろうとも怒りを覚えようとも所詮自らより劣る存在、それを同格として扱う珍奇な存在はそうそういない。
目の前の海竜の態度はそういった意味で、ごく真っ当な振る舞いといえた。
『我ノヤリ方ガ気ニ食ワヌト言ウノデアレバ、チカラデ覆シテミセヨ』
「……ああ、そうさせてもらうわ」
『──ナニ?』
スッ──
シンは立ち上がると海竜に向かって不遜な眼差しを向け、言い放つ。
「さっきから聞いてりゃ虫けら虫けら……たかがにょろにょろの分際で態度がデケエんだよ! ドラゴンごときが何様のつもりだ!?」
『我ヲゴトキト言ウカ……ドラゴント人間、ドチラガ上カハソノ存在ノ格ガ物語ッテオルワ』
「格ね……そんなモンで勝負したきゃ教えといてやるよ、人間の中にゃあテメエらより格上に認定される奴も稀に居るってな」
『ナンダト……?』
「格を謳うなら俺はお前より格上、魔竜と同格だ! 這い蹲って許しを請えや、ヘビモドキが! 生憎許しちゃやらんがな!」
シンはそう言うと異空間バッグから長物を取り出し、海竜に向かって駆け出す!
『魔竜ト同格ダト? キサマ、マサカ使徒カ!?』
「判断が遅え、よっ!!」
ドゴン──!!
海竜の懐に跳びこんだシンは手にした狼牙棒を振りぬき、その顎に思い切り叩きつける!
『ゴッ!! ……キ、キサマ』
「ハナから許すつもりが無いってんならコッチもそれに倣うまでだ! 恨むなら、やたら図体がデカイだけでモノの役にも立たん残念な脳みそを恨むんだな」
『フン、不意ヲ突イタクライデイイ気ニナルナ! イカニ代行者トハイエ強サマデ竜種ヲ越エルコトガ出来ル訳デハナイワ!』
海竜が巨体に似合わぬ素早さで頭を突き出し、その大きな口でシンを噛み千切ろうと迫る。
「おっと」
シンはそれを軽く避けると揺れる甲板から離れ、海面から頭を突き出している岩場に飛び移る。
無論、海竜はそれを追いかけるが、シンはその全てを悉くかわしながら岩場をピョンピョンと移動し、徐々に船との距離を広げる。
そして、戦闘の影響が船に及ばないほど離れたと判断したシンは一転、攻勢に出る。
ガィィィィン!!
向かってくる海竜の頭部に狼牙棒がカウンター気味に命中する!
──しかし、
『グヌッ!』
海竜は一瞬苦悶の表情を浮かべるもそれだけで、再度シンに向かって頭を突き出してくる!
ゴズッ!!
攻撃をかわしたシンの足元に海竜の頭がめり込むものの、やはり海竜は何事も無かったかのように頭を持ち上げ、衝突した足場の岩は砕け散っている。
「ったく、無駄にかたいのはそのオツムの中だけじゃ無さそうだな……厄介な」
『フン、未ダニ軽口ヲ止メヌソノ根性ダケハ褒メテヤル』
「はっ、格下に褒められてもな」
『ホザケッ』
海竜は頭を大きく振りかぶり、あえて先程ダメージを食らった顎と首元を晒す。
「? ──しまっ!!」
バザアアアン──!!
頭部を海面に叩きつけ、その衝撃で上がった水しぶきが周囲の視界を塞ぐ。
そして、
──ブオン!!
「ちっ!!」
バギャン!!
死角から足場を狙って振るった尻尾が迫り、とっさにシンは跳びあがって回避する。
そしてソレを狙っていた海竜が再度、シンに向かって口を開けて飛び掛る
「くぅっ!! 噴出口展開!!」
シンはドラゴンテイルに魔力を流すと、鎚鉾部の隙間にある複数の噴出口から爆風が噴出され、その反動でシンの位置が僅かにずれ、その凶悪な顎をかろうじて回避する。
ブオン──!!
しかし海竜の追撃は終わらず、今度は先程の尾がうなりをあげてシンの脇腹にミートする!!
「カハッ!!」
無防備だった腹部に尻尾のフルスイングを受けては、流石にシンといえどもただでは済まず、アバラの3~4本が粉々に砕け、その顔に苦悶の表情が浮かぶ。
痛みでドラゴンテイルを取り落としたシンはそのまま海上に放り出されると、100メートル以上の綺麗な放物線を画いて海面に叩きつけられる。
「つぅ……くっそ!」
着水するまで10秒ほど、その間にシンは痛みに耐えながら異空間バッグをまさぐっていくつか取り出すと、そのうち1本を飲み干す。
シュウウウウウ──。
中級の体力回復薬で肋骨が完治していくのを確認しながら、シンは視線を巡らして海竜の姿を視界に捕らえ、睨みつける。
着水前に海竜に追いつかれると判断したシンは、取り出した薬品の中の一つで、周囲の魔素に反応して爆発する「液体爆薬」を投げつける用意をする。
…………………………。
しかし、海竜は先程の緊急回避を予測してか、シンが着水するまで攻撃を控え、着水したのを確認してから襲い掛かってきた。
「クソったれ、無駄に芸が細かい野郎だな! ったく……風精よ、集いて縮み、縮みて忍べ、我が号令にてその身解き放て、”風爆”」
シンは即座に魔法を唱え、自分の至近でそれを発動させると、圧縮された空気が解放される反動で自身の位置を横にずらし、再度海竜の顎から逃れる。
──が、海竜の突進を避けたものの、通過する胴体の途中に付いている小さな前足に身体を掴まれ、そのまま海中に引きずり込まれる。
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