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5章 イズナバール迷宮編
183話 嵐の前 シンSide・その1
リトルフィンガー──イズナバール迷宮を中心に置く、平原地帯に作られた町
より正確に表現するなら、迷宮踏破を目指す探索者と、それに連なる受益者の為に存在する宿場町。
迷宮を探索する探索者、彼らが迷宮から持ち帰る素材や品々を買い取る商人、素材を元に武具を作る職人、そしてそれを買う探索者や商人、そんな彼等に町で賄う事が出来ない品を売りに来る隊商……地形だけではなく、全てが迷宮を中心として動く町。
時が経つにつれ町の人口は増え、その都度町を拡張させるのだが、迷宮周辺は魔物が寄り付かないため堅牢な外壁を立てる必要が無く、拡張作業は木柵を外部に立て直すだけ。
その為まともな都市計画によらず、まるで大樹の年輪の様に、宿や店が同心円状に散在している。
──数時間前──
「ここに例の迷宮が……」
5番目に発見された迷宮とそこに作られた町、手になぞらえて小指って事らしい。
あれから4年……この歳月が長いか短いかは人によるのだろうが、以前の全く人の手の入っていないここを知る身としては感慨深い。
古代迷宮……無尽蔵に現れる魔物とその素材、内部で発見される武具やアイテムの中には魔法のかかった貴重な物まで発見されるという。
常識的に考えてそんな事あるはずが無い、どういう事か後ろのちっこい非常識に聞いてみたのだが、
「行けばわかるさ、迷わず行けよ!」
訳の分からん答えで返しやがった。まあいい、行って分からなかったら締め上げてくれる。
……それにしても、
「すまない衛兵さん、入場審査の為の詰所はどこかな?」
「ん? ……ああなるほど、ご新規さんだな。ここにゃあそんなモン無いぜ?」
「……は?」
オイ、さらっと恐ろしい事言うなよ。審査場が無い?
「そんなおかしな顔すんなよ。ホントの話なんだぜ、何しろここは他の町や都市と比べて規模の割に人の出入りが多すぎるんだ、一々審査してる暇が無えんだよ」
「あ~……」
なるほど確かに、俺たち以外は何事も無いかのように町のゲートを素通りしている。
なんでも、ここには一般市民がいる訳ではないので通常の都市のように堅守する必要も意義も無いそうだ。
確かに、ここにいるのは大多数の冒険者と冒険者の活動を支援する商人や職人、荒事に慣れているかはともかく、それ込みで活きる事も受け入れている者達だ。
つまるところ、ここは町の形をしたベースキャンプということか。
……だったらもっと入管を厳にするべきではと思うが、あくまでそのようなモノということなんだろう。
彼等もこの町の兵士という訳ではなく、冒険者が持ち回りで立っているだけだと言う。日当は安いが実質何もする事は無く、こうして訪ねて来る新規入場者にこの町の説明をするだけの簡単なお仕事です、どうもありがとうございました! だそうだ。
そして大事な事、ここには「冒険者ギルド」と「探索者ギルド」があるらしく、件の迷宮に潜るには探索者ギルドに登録する必要があるとの事。
両者の違いは簡単に言えば、冒険者ギルドは言わずもがな、探索者ギルドというのは冒険者を含め、誰でも登録をすれば迷宮に潜る事が出来る、商人でも一般人でもだ。
その代わり、彼等は迷宮探査に対して絶対的な優先権を得る代わりにそれ以外の部分では大幅に制限を受ける。
簡単に言えば迷宮以外の隊商の護衛や素材の採取など、地上の仕事は冒険者ギルドで受け手がいなかったおこぼれしか受ける事は出来ないし、商人などもこの町においては組合から外される。
つまり迷宮に潜る者達とそれを支援する者と強力に線引きされてしまう。
そして探索者ギルドでの働きは冒険者ギルドには公表されない、冒険者以外の人間も登録しているし、冒険者ギルドを介さない仕事扱いのため実績として認めてくれないらしい。
問題ない、むしろ俺にはありがたい。
気分の良くなった俺は、親切な門番に町の中で再会したら一杯おごると約束して町に入る。
そしてその間、後ろの目立つ2人は周りから注目を集めているにも拘らず、そんな事は我関せずと何個も雪ダルマを作っていた。フリーダム過ぎるわ、おまえ等。
──────────────
──────────────
「ここだねシン、探索者ギルド」
「ああ……だからその名前で呼ぶなって言ってるだろ、何回間違えてんだ、ワザとか? ワザとだろ? ワザとに違いないな?」
「やだなあ考え過ぎだよ……顔が怖いよ? キミだってお箸とお茶碗を持つ手を明日から逆にしろって言われたら戸惑うだろ?」
「反証しにくい事例を挙げんな! ホラそこ、納得しない!」
「まあまあ、お二人が仲が良いのは良く分かりましたから、入り口前で言い争うのは周りに迷惑ですよ、ジン」
分かってねえ!
喉から出掛かる言葉を飲み込みながらリオンに向かって恨めしそうな視線を向けると、目の前の巨乳美女は頬に指を当て、あざと可愛らしく小首をかしげる。
……うん、完全武装でそのポーズは止めような、知らない人には恐怖だぞ?
「それじゃ入る前におさらいな、俺は「ジン」、相棒の「リオン」共々、冒険者に憧れるどこぞの富豪の3男坊「ルディ」君を、親父さんから依頼を受けて護衛の旅をしています。オーケイ?」
「イェア!!」
「よろしい、それでは戦闘開始だ」
「ガンホー!!」
「……やっぱり仲良しですよねえ」
……ノリは大事だと思うのですよ。
ギィ──
入り口の扉を開けて中に入った瞬間、中にいた連中の視線と意識が俺達に向かってくるのが分かる。
ただ、それは俺に対してではなく主に後ろ、特に魔道鎧に身を包んだリオンに対してのものなので俺は気にせず受付カウンターに向かい、声をかける。
「すまない、探索者登録をしたいんだが」
「…………──!! は、はいっ、失礼しました。新規登録の方ですね? こちらの羊皮紙に必要事項の記入と、登録料として1人大銀貨1枚を頂きます。読み書きは出来ますか?」
「大丈夫だ、問題ない」
「それではよろしくお願いします」
「あ、ハイ……」
謎の敗北感を味わいながら羊皮紙に目を通す。
………………………………。
「……なあ」
「ハイ?」
「これって、嘘の申告をしても確認出来ないよな?」
「そうですね、ですが仮に嘘の申告をして何かあったとしても困るのは本人ですから」
「……なるほど」
「探索者ギルドはあくまで探索者と商人や依頼人との仲介を担う簡易的な組織に過ぎません。探索者をあれこれ束縛しない代わり、何か問題が起きようとも当ギルドは極力不干渉を貫きます」
つまり、アンタがどこの誰かは私等は知らん。そっちの事情に踏み込むことはしないから揉め事をこっちに持ってくるな、何が起きようが無視を決め込むという訳だ。
なるほど、色々と考えさせられる事はあるが、そういう組織も必要なのだろう。
まあ、そんな怖い台詞が目の前の優しそうな美人のお姉さんの口から出るのは悲しいものがある。
おっとりタレ目の物腰の柔らかそうな巨乳美女。ああ、巨乳であるかどうかは重要だ、最重要事項と言ってもいい。
ヘンリエッタやリオンには及ばないものの、推定Eはあるだろう。受付嬢にこんな映える美人を用意するあたり、簡易組織とはいえ市場原理を良く理解している、イヤ、理解しているのは男の下心か。
しかし今、おっぱい星人の俺がそれ以上に目を引くのは、薄いブラウンのセミロングヘアーの上から覗くペタンと垂れた犬耳。
そういえば、羊皮紙を差し出されたときの手は、掌は人間と同じだったが手の甲から袖口にかけて獣毛が生えていたっけ。アレは一体どこまで続いているのだろう……。
……まあそんな事よりうん、やはりいいな、ケモ耳は。
思えば南大陸では驚くほどこの手の人種と出会う機会が無かった。
まともに目にしたのは森・陸の両エルフに後ろの人外くらいか……俺の異世界ライフにはかなり問題があるように感じる。
「……なにか?」
「いや失礼、実は最近南大陸からコッチに着いたばかりでね、アッチじゃそんな可愛らしい耳の持ち主に出会う機会が無かったんだよ」
「あら、お上手」
「ヤレヤレ、この程度が褒め言葉と採られるなんて、ここの連中はキミに対して普段どんな態度をとっているのか不安になってくるよ」
「あらあら、もしかして口説かれてます、私?」
モチロンお芝居だ、断じてお芝居だ。
ここにいる男はジン、どこぞの旅の薬師とは縁も所縁も無いただの雇われ戦士。そんな訳で両者の接点を結び付けられない為に俺は、渋々ながら普段とは違う自分を演じなければいけないのだ!
……ホントだぞ?
だから遥か天上から要素を窺ってる女神様、くれぐれも勘違いしないように。間違っても横で控えている悪魔の奸言などに耳を貸さないように! いやマジで!
まあ、この手の口説き文句に関しては本の2~3冊でも書けそうなほど経験しているであろう受付嬢の心に響くはずも無く、
「うふふ、そんな事言ってると、後ろのかたが機嫌を損ねてしまいますよ?」
後ろのかた? リオンの事か?
「機嫌を損ねる? ありえない話だよ」
なにせ──
ドゴンッ──!!
俺の背後から轟音が鳴り響き、何かが吹っ飛ぶ気配を感じる。
どこのどいつだ、あんななりをしているリオンに声をかける勇者は?
どう考えても回れ右してサヨナラする相手だろ?
まさか俺の渾身の力作、胸甲の見事なラインにあてられて粉かけやがったか? だとしたらスマン、俺の仕事が匠すぎるのが悪い。
「テメエ! 先輩が親切にここでの流儀を教えてやろうってのに──」
ガツッ!! ──ガシャン──ガシャン──
…………………………ドスッ!!
「ほらね、ヘタすりゃこっちの身が持たない」
「……そうでしょうか?」
歯切れが悪いな、それにそんな残念な子を見るような目で見ないでくれないか?
「──若様、お騒がせしました」
「いいね、やはり冒険者、いやここは探索者ギルドだったね──」
あ、いかん、暇神がテンションが高い。アホな台詞を吐く前に止めないと!
まったく、まだ何も始まっていないのに忙しい事この上ない。
ゴン!
「ハイハイ若さん、浮かれるのも大概にしてくだせえよ──」
より正確に表現するなら、迷宮踏破を目指す探索者と、それに連なる受益者の為に存在する宿場町。
迷宮を探索する探索者、彼らが迷宮から持ち帰る素材や品々を買い取る商人、素材を元に武具を作る職人、そしてそれを買う探索者や商人、そんな彼等に町で賄う事が出来ない品を売りに来る隊商……地形だけではなく、全てが迷宮を中心として動く町。
時が経つにつれ町の人口は増え、その都度町を拡張させるのだが、迷宮周辺は魔物が寄り付かないため堅牢な外壁を立てる必要が無く、拡張作業は木柵を外部に立て直すだけ。
その為まともな都市計画によらず、まるで大樹の年輪の様に、宿や店が同心円状に散在している。
──数時間前──
「ここに例の迷宮が……」
5番目に発見された迷宮とそこに作られた町、手になぞらえて小指って事らしい。
あれから4年……この歳月が長いか短いかは人によるのだろうが、以前の全く人の手の入っていないここを知る身としては感慨深い。
古代迷宮……無尽蔵に現れる魔物とその素材、内部で発見される武具やアイテムの中には魔法のかかった貴重な物まで発見されるという。
常識的に考えてそんな事あるはずが無い、どういう事か後ろのちっこい非常識に聞いてみたのだが、
「行けばわかるさ、迷わず行けよ!」
訳の分からん答えで返しやがった。まあいい、行って分からなかったら締め上げてくれる。
……それにしても、
「すまない衛兵さん、入場審査の為の詰所はどこかな?」
「ん? ……ああなるほど、ご新規さんだな。ここにゃあそんなモン無いぜ?」
「……は?」
オイ、さらっと恐ろしい事言うなよ。審査場が無い?
「そんなおかしな顔すんなよ。ホントの話なんだぜ、何しろここは他の町や都市と比べて規模の割に人の出入りが多すぎるんだ、一々審査してる暇が無えんだよ」
「あ~……」
なるほど確かに、俺たち以外は何事も無いかのように町のゲートを素通りしている。
なんでも、ここには一般市民がいる訳ではないので通常の都市のように堅守する必要も意義も無いそうだ。
確かに、ここにいるのは大多数の冒険者と冒険者の活動を支援する商人や職人、荒事に慣れているかはともかく、それ込みで活きる事も受け入れている者達だ。
つまるところ、ここは町の形をしたベースキャンプということか。
……だったらもっと入管を厳にするべきではと思うが、あくまでそのようなモノということなんだろう。
彼等もこの町の兵士という訳ではなく、冒険者が持ち回りで立っているだけだと言う。日当は安いが実質何もする事は無く、こうして訪ねて来る新規入場者にこの町の説明をするだけの簡単なお仕事です、どうもありがとうございました! だそうだ。
そして大事な事、ここには「冒険者ギルド」と「探索者ギルド」があるらしく、件の迷宮に潜るには探索者ギルドに登録する必要があるとの事。
両者の違いは簡単に言えば、冒険者ギルドは言わずもがな、探索者ギルドというのは冒険者を含め、誰でも登録をすれば迷宮に潜る事が出来る、商人でも一般人でもだ。
その代わり、彼等は迷宮探査に対して絶対的な優先権を得る代わりにそれ以外の部分では大幅に制限を受ける。
簡単に言えば迷宮以外の隊商の護衛や素材の採取など、地上の仕事は冒険者ギルドで受け手がいなかったおこぼれしか受ける事は出来ないし、商人などもこの町においては組合から外される。
つまり迷宮に潜る者達とそれを支援する者と強力に線引きされてしまう。
そして探索者ギルドでの働きは冒険者ギルドには公表されない、冒険者以外の人間も登録しているし、冒険者ギルドを介さない仕事扱いのため実績として認めてくれないらしい。
問題ない、むしろ俺にはありがたい。
気分の良くなった俺は、親切な門番に町の中で再会したら一杯おごると約束して町に入る。
そしてその間、後ろの目立つ2人は周りから注目を集めているにも拘らず、そんな事は我関せずと何個も雪ダルマを作っていた。フリーダム過ぎるわ、おまえ等。
──────────────
──────────────
「ここだねシン、探索者ギルド」
「ああ……だからその名前で呼ぶなって言ってるだろ、何回間違えてんだ、ワザとか? ワザとだろ? ワザとに違いないな?」
「やだなあ考え過ぎだよ……顔が怖いよ? キミだってお箸とお茶碗を持つ手を明日から逆にしろって言われたら戸惑うだろ?」
「反証しにくい事例を挙げんな! ホラそこ、納得しない!」
「まあまあ、お二人が仲が良いのは良く分かりましたから、入り口前で言い争うのは周りに迷惑ですよ、ジン」
分かってねえ!
喉から出掛かる言葉を飲み込みながらリオンに向かって恨めしそうな視線を向けると、目の前の巨乳美女は頬に指を当て、あざと可愛らしく小首をかしげる。
……うん、完全武装でそのポーズは止めような、知らない人には恐怖だぞ?
「それじゃ入る前におさらいな、俺は「ジン」、相棒の「リオン」共々、冒険者に憧れるどこぞの富豪の3男坊「ルディ」君を、親父さんから依頼を受けて護衛の旅をしています。オーケイ?」
「イェア!!」
「よろしい、それでは戦闘開始だ」
「ガンホー!!」
「……やっぱり仲良しですよねえ」
……ノリは大事だと思うのですよ。
ギィ──
入り口の扉を開けて中に入った瞬間、中にいた連中の視線と意識が俺達に向かってくるのが分かる。
ただ、それは俺に対してではなく主に後ろ、特に魔道鎧に身を包んだリオンに対してのものなので俺は気にせず受付カウンターに向かい、声をかける。
「すまない、探索者登録をしたいんだが」
「…………──!! は、はいっ、失礼しました。新規登録の方ですね? こちらの羊皮紙に必要事項の記入と、登録料として1人大銀貨1枚を頂きます。読み書きは出来ますか?」
「大丈夫だ、問題ない」
「それではよろしくお願いします」
「あ、ハイ……」
謎の敗北感を味わいながら羊皮紙に目を通す。
………………………………。
「……なあ」
「ハイ?」
「これって、嘘の申告をしても確認出来ないよな?」
「そうですね、ですが仮に嘘の申告をして何かあったとしても困るのは本人ですから」
「……なるほど」
「探索者ギルドはあくまで探索者と商人や依頼人との仲介を担う簡易的な組織に過ぎません。探索者をあれこれ束縛しない代わり、何か問題が起きようとも当ギルドは極力不干渉を貫きます」
つまり、アンタがどこの誰かは私等は知らん。そっちの事情に踏み込むことはしないから揉め事をこっちに持ってくるな、何が起きようが無視を決め込むという訳だ。
なるほど、色々と考えさせられる事はあるが、そういう組織も必要なのだろう。
まあ、そんな怖い台詞が目の前の優しそうな美人のお姉さんの口から出るのは悲しいものがある。
おっとりタレ目の物腰の柔らかそうな巨乳美女。ああ、巨乳であるかどうかは重要だ、最重要事項と言ってもいい。
ヘンリエッタやリオンには及ばないものの、推定Eはあるだろう。受付嬢にこんな映える美人を用意するあたり、簡易組織とはいえ市場原理を良く理解している、イヤ、理解しているのは男の下心か。
しかし今、おっぱい星人の俺がそれ以上に目を引くのは、薄いブラウンのセミロングヘアーの上から覗くペタンと垂れた犬耳。
そういえば、羊皮紙を差し出されたときの手は、掌は人間と同じだったが手の甲から袖口にかけて獣毛が生えていたっけ。アレは一体どこまで続いているのだろう……。
……まあそんな事よりうん、やはりいいな、ケモ耳は。
思えば南大陸では驚くほどこの手の人種と出会う機会が無かった。
まともに目にしたのは森・陸の両エルフに後ろの人外くらいか……俺の異世界ライフにはかなり問題があるように感じる。
「……なにか?」
「いや失礼、実は最近南大陸からコッチに着いたばかりでね、アッチじゃそんな可愛らしい耳の持ち主に出会う機会が無かったんだよ」
「あら、お上手」
「ヤレヤレ、この程度が褒め言葉と採られるなんて、ここの連中はキミに対して普段どんな態度をとっているのか不安になってくるよ」
「あらあら、もしかして口説かれてます、私?」
モチロンお芝居だ、断じてお芝居だ。
ここにいる男はジン、どこぞの旅の薬師とは縁も所縁も無いただの雇われ戦士。そんな訳で両者の接点を結び付けられない為に俺は、渋々ながら普段とは違う自分を演じなければいけないのだ!
……ホントだぞ?
だから遥か天上から要素を窺ってる女神様、くれぐれも勘違いしないように。間違っても横で控えている悪魔の奸言などに耳を貸さないように! いやマジで!
まあ、この手の口説き文句に関しては本の2~3冊でも書けそうなほど経験しているであろう受付嬢の心に響くはずも無く、
「うふふ、そんな事言ってると、後ろのかたが機嫌を損ねてしまいますよ?」
後ろのかた? リオンの事か?
「機嫌を損ねる? ありえない話だよ」
なにせ──
ドゴンッ──!!
俺の背後から轟音が鳴り響き、何かが吹っ飛ぶ気配を感じる。
どこのどいつだ、あんななりをしているリオンに声をかける勇者は?
どう考えても回れ右してサヨナラする相手だろ?
まさか俺の渾身の力作、胸甲の見事なラインにあてられて粉かけやがったか? だとしたらスマン、俺の仕事が匠すぎるのが悪い。
「テメエ! 先輩が親切にここでの流儀を教えてやろうってのに──」
ガツッ!! ──ガシャン──ガシャン──
…………………………ドスッ!!
「ほらね、ヘタすりゃこっちの身が持たない」
「……そうでしょうか?」
歯切れが悪いな、それにそんな残念な子を見るような目で見ないでくれないか?
「──若様、お騒がせしました」
「いいね、やはり冒険者、いやここは探索者ギルドだったね──」
あ、いかん、暇神がテンションが高い。アホな台詞を吐く前に止めないと!
まったく、まだ何も始まっていないのに忙しい事この上ない。
ゴン!
「ハイハイ若さん、浮かれるのも大概にしてくだせえよ──」
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