文字の大きさ
大
中
小
126 / 231
5章 イズナバール迷宮編
190話 罠
「……早くも時の人だな」
「こちらとしては御免被りたいんですがねえ……」
定食屋でジンとルディ、そして同じ卓を囲む向かい側には2メートルを悠に超える巨漢の剣士が席に着く。
緑青のツルンとした内肌と、更に深みがかった色合いの大きなアーモンド形をした鱗で覆われた外肌、ツートンカラーの身体の上にはトカゲと人の中間のような頭が乗っかり、その瞳には知性の色が窺える。
いわゆる蜥蜴人である。
蜥蜴人
手脚の長い直立した蜥蜴、といった外見を持つ獣人に属する種族。
成人は平均2~2.5メートルの体躯を持ち、人間よりも筋力・耐久力に優れ、また再生力も強く、尻尾・手足を失っても時間が経てば自然に再生を果たす。頭部・臓器はその限りではない。
反面、魔法の適正は著しく低く、数少ない魔法を扱える希少な者は部族の要職を務める事が常。
「ところでジン、ボクらは大概一緒にいたと思うんだけど、いつのまにこの亜人のお兄さんとお知り合いになったのかな?」
ペシン!
「あたっ!」
「蜥蜴人は亜人じゃなくて獣人、ついでに言えば亜人は一般的には差別用語ですぜ、若さん。すんませんね、ルフトさん」
亜人──人に似た、しかし人では無いという表現は、人間を上位に据えた表現のためトラブルの元になると、言葉としては存在するが、公の場で発言はしないのがマナーとされている。
ルディの頭を手のひらで叩いたジンは、目の前のリザードマンの男性に頭を下げる。そしてそれを見たルディもジンに倣い頭を下げる。
ソレを見たルフトと呼ばれた男は、苦笑しながら2人に頭を上げるよう促す。
「構わんよ、そんな言い回しを気にするのは只人の種族くらいのものだからな」
只人、つまり人間族の事である。
「先の少年の質問だが、俺は君達がこの町ではじめに話をした探索者パーティ「穴熊」が所属するコミュニティ、「異種混合」の代表をしている」
コミュニティ「異種混合」──亜人・獣人が大半を占める探索者集団。
このコミュニティ、当初は迷宮の最深部を目指していたコミュニティだったが、遅々として進まない迷宮攻略とその理由に辟易し、今では異種族間の交流や探索者同士の互助会と、その形を変えている。
ルフトはコミュニティ結成時からのメンバーで、先々代が迷宮内で命を落とし、先代も怪我を理由に引退、故郷に帰った事によって3代目のリーダーをしていると言う。
「普段は「俺向きじゃない」と言って新人の勧誘などしない男が、アイツらには関わるな! と真剣な面持ちで訴えるから、一体どんな危険人物だと興味を持っていたんだが」
「たまたま酒場で飲んでるジェリクさんを見かけたんで声をかけたら、こっちの御仁もいたんですよ。ちなみに子供はおねむの時間の出来事ですよ」
「それこそボクを一緒に連れて行くべきじゃないのかな!?」
「リオンに物理的に折檻喰らうのと長々お小言を聞くの、どっちがお好みですかい?」
「ジンに唆されたと言えばだいじょ──いはいいはい!!」
「こうして昼間は色々連れまわしてるんだから満足しなさいな」
ちなみにリオンはアクセサリーショップを冷やかしに行っている。むろん、オシャレがどうのこうのではなく、キラキラした物を見て回りたいだけだ。
「主従仲が良くて結構な事だが、気をつけろよ、出る杭は打たれるのは冒険者、探索者の常とはいえ、ここの連中はそれの過ぎる輩が少なく無くてな、俺達も嫌気がさしたものだ」
そう言ってルフトは自分達が受けた嫌がらせを聞かせる。
ポーターギルド「韋駄天」発足前、ポーター達に圧力をかけて自分達と仕事をさせないようにした事や獲物の横取り、ギルドが介入出来ない、しかしコミュニティ間の抗争にギリギリならない程度の嫌がらせなど、相手に先んじるでなく、出し抜くでなく、足を引っ張る連中の浅ましさにほとほと疲れた事をしみじみと語る。
「なるほどねぇ……ルフトさん、それってもしかして「森羅万象」ってとこですかい?」
「!? ……ハッキリとした証拠は無いがな、それよりナゼ?」
「いやチョットね……」
そう言うとジンは半眼になって天井を見上げながら、指でアゴの先をトントンと叩き続ける。
その口元にはうっすらと、注意して見なければ判らない程度に笑みが浮かぶ。
「うわぁい、ジンの顔が活き活きとしてるね♪」
「活き活き……? ジン、他人の行動をとやかく言うつもりは無いが、仮にも護衛対象のいる身、派手な行動は慎めよ」
「心からの忠告、感謝しますよ。もちろん派手な事などしません、ねえ若さん?」
「フッフッフ、おヌシも悪よのう?」
「いえいえお代官様」
2人の顔に、大人しくするなどと言う様子は微塵も見られなかった──。
──────────────
──────────────
「こんちはキャサリン、例の依頼は来てるかい?」
「お、ジンじゃないか! 喜びな、アンタから借りた見本を見せたら連中すぐに食いついてきたよ、今回だけでも150匹分さ」
キャサリンが依頼の書かれた羊皮紙を取り出し、ジン達の前に並べる。
「150匹て、あそこで一度に出てくるアーミーバットは60匹だぜ? あと2回は行かなきゃなんねえじゃんか」
「何言ってんだよ、いくらでも取ってきてやるって言ったのはソッチだろう? 腹括って行ってきな!」
「ヘイヘイ……とりあえず、まずは60匹分渡すからこの2件だけ完了扱いにしてくれ」
背嚢から依頼素材であるアーミーバットの翼膜を取り出すとジンは、それぞれ30匹を所望する依頼を完了済みにし、残りの合計90匹分を「専用依頼」として受ける。
「専用依頼で受けるのかい? 期限は1週間だよ」
「ああ、あんな半分以上がトラップで中盤のオーク以外に素材になりそうにない階層、わざわざ足を運ぶやつも少ないだろうからな。他の連中が夢見て無茶しないよう、俺たちで全部請け負っておくよ」
そう言ってジンは4枚の羊皮紙を丸めて背嚢に突っ込むと、他に20層までで手に入りそうな素材は無いかと3人で掲示板に張り付く。
──そんな中、さりげなく席を立ち、足早にラウンジから姿を消す集団がいたが、そこにいたほとんどの連中は、掲示板に貼られた依頼内容を口に出してあーでもないこーでもないと話し合う3人組に気を取られ、気付く者はいなかった──。
………………………………………………
………………………………………………
「……で、わざわざ足を運ぶヤツはなんだって?」
「なんで……?」
ジンたちの視界には、一体どこから湧いてきたのか、ポーターを含めると30人以上の探索者が20層の入り口前に集結している。
それぞれ5~6人のパーティが、まるで順番待ちをするように野営の為の場所を確保し、談笑している。その数5つ。
彼等の見た目、雰囲気からはどの連中もいいとこレベルは80に届けばいい方で、あきらかにこの階層で戦闘をするには実力が足りて無さそうな者もチラホラ伺える。
それを証明するかのように20層への入り口から何人かの探索者が傷を負って出てきたかと思うと、それを補填するかのように別の探索者が中に入る。
つまり、20層ではどこかのパーティが単独、もしくは複数パーティでアーミーバットに挑み、怪我をすれば後方に控えているメンバーと交代、小空間における集団戦闘のようなものである。
ただし、20層はここで待機している連中が全員入っても尚、広い空間ではあるが。
「なんだ手前ら? ココは今オレ達のコミュニティメンバーが実践訓練してる最中だぜ?」
「あん? よく見りゃこの前とんでもない早さで20層突破した噂の新人サマじゃねえかよ、なにしにもう一度20層なんか来てんだ?」
「ホレ、ここは暫くの間俺達が使う事になってんだ、とっとと鍵を使って下の階層にでも行けよ」
「30層突破の最短記録待ってるぜ」
そう言ってここにいる探索者はジン達3人に向かってニヤついた笑みを浮かべながら、欠片も心のこもっていない激励の言葉をかける。
「……悪いんだが、俺達も20層に用事があるんでね。アンタらの邪魔はしないから少しの間だけ俺たちに使わしてくれませんかね?」
「あぁん!? 少しの間だぁ? バカ言ってんじゃねえぞ、鍵の出る層の魔物は一度倒したら半日は出てこねえんだ、その間俺らにここで時間を潰せってのか?」
10層毎のボスは1度討伐をすると再度現れるまで12時間かかるという、そしてその間階層への入り口は消え、出る事は出来ても入る事は叶わない。
「……じゃあどうしろって言うんだ?」
「だから言ってるだろ? 下の階層に挑むか、それとも俺らの集団訓練が終わるまで待つか、まあ俺達は1週間くらいここにいる予定だがな」
「………………………………」
「何だその顔は、あいにくコッチはなんも悪い事はしてねえぜ? お前らは下へ降りる鍵は既に持ってるんだ、幸いな事にギルドにオマエら以外の新人はいない、この機に集団訓練してメンバーの底上げをしてるだけで、誰にも迷惑をかけちゃいねえぞコッチは?」
「チッ…………急いでもどるぜ、若さん」
「ジン! そんな事言って依頼はどうするのさ? 期限は1週間なんだろ?」
「だからですよ! ここで無理矢理押し通っても悪モンにされるのは俺達、だったら別の方法を模索するんでさあ!」
ジンはそう言い放つとリオンとルディを伴って上の層へ戻る。
そして──
「──なるほど、こっちの直通通路から20層まで降りるんだね」
「この通路から20層のフロアに戻る事は出来ませんが、20層から出て来た連中とすれ違うことは出来るんでね、いざとなったらそこで「お話」するだけさ」
──しかし、
「──よう、これはこれは今をときめく新人探索者さん」
そこには、20層入り口に屯していた探索者よりも強そうなパーティがボスフロアの出口で待ち構えている
「…………………………」
「俺達かい? 俺たちゃ見事20層を突破したコミュニティのメンバーを祝福し、安全に外まで送る為にここで待ってるのさ、どうだい、新人思いのいいコミュニティだろ、アンタらも入らないかい?」
「ほう……新人思い、ねえ……」
静かに呟くジンの身体から、不穏な気配が漂う。
しかし、所詮基本レベルが60そこそこの威圧など彼等はどこふく風で、
「まあこれは独り言なんだが、今頑張ってるやつらはまだまだ未熟でなあ、アーミーバットを全滅させる事は出来ても、素材までは綺麗に剥ぎ取れはしないだろうなあ……」
「!! クソがっ──!!」
その言葉を聞いたジンは、肩を怒らせながらドンドンと地面を蹴りつけるようにその場を離れる。
「おっ、下の階層へ挑戦するのかい? 頑張ってくれよ、期待のルーキー♪」
「ジン! 待ちなさい、若様をおいて行くなど何を考えているのです!?」
「待ってよジン──」
──────────────
──────────────
そして、3人が21層へ降りるのを確認したコミュニティ「森羅万象」のパーティは、
「……上手く行ったか?」
「一応な……にしてもなんだよありゃあ、男はともかく、後ろの女戦士はマジでバケモンの匂いがしたぜ?」
「ああ……だが、話によるとかなりの美女らしいぞ?」
「マジかよ、いっぺんお手合わせ願いたいぜ! モチロン夜の」
「馬鹿な事言ってんじゃねえよ、無理に決まってるだろ?」
そんな軽口を叩く連中に向かって、パーティのリーダーらしき男が口を開く。
「あながち無理とは言えんぞ? 今回あいつら受けた専用依頼、アーミーバットの翼膜を150枚という話だが、今のところ完了しているのは60枚、残り90枚は未達成だ。1週間以内に集めることが出来なければ依頼失敗、違約金は3倍返しが基本とすれば、翼膜1枚が大銀貨3枚、手に入れた報酬は金貨18枚分だが、失敗した90枚の違約金は金貨81枚、差し引き金貨63枚の損失だ」
金貨63枚と言う大金にほうと目を丸くするメンバー、
「だけどアニキ、そのくらいならあのボンボンが何とかするんじゃねえか?」
「あのジンとか言うのが酒場で愚痴っていたが、実家からの持ち出しは雀の涙程度で、こっちでの生活はこっちで稼がなきゃならんのだとさ。そのくせ滞在する宿は最高級じゃないとご不満らしい、なんとも金のかかることだ」
つまり、いくら金持ちのボンボンの護衛とはいえ、現在の手持ちはそう多くないらしい。
「まあ、俺らのコミュニティは、3人は無理でも美人の姉さん1人分くらいの借金を肩代わりする程度の甲斐性はあるだろうさ」
そして、借金を返すための方法も提供できると話を締めくくると、
「いいねえ、俄然楽しくなってきたぜ」
「はやく1週間たたねえかな」
興奮冷めやらぬ、そんな空気が周囲を包む。
──一方、
「ジン──!!」
「……監視は?」
「もう外れたみたいです、誰の気配もありませんよ」
「そうか……上手く行き過ぎて逆に不安になるな」
「またまた、微塵も思ってないくせに」
ジンとルディはニヤリと笑うと、お互い拳を突き出しバシッとあわせる。
「楽しそうですねえ──」
そんな2人をリオンは呆れたように見つめながら、自分も我知らず笑みを浮かべていた。
彼女も少しだけ、2人に染まりつつあるようだ──。
「こちらとしては御免被りたいんですがねえ……」
定食屋でジンとルディ、そして同じ卓を囲む向かい側には2メートルを悠に超える巨漢の剣士が席に着く。
緑青のツルンとした内肌と、更に深みがかった色合いの大きなアーモンド形をした鱗で覆われた外肌、ツートンカラーの身体の上にはトカゲと人の中間のような頭が乗っかり、その瞳には知性の色が窺える。
いわゆる蜥蜴人である。
蜥蜴人
手脚の長い直立した蜥蜴、といった外見を持つ獣人に属する種族。
成人は平均2~2.5メートルの体躯を持ち、人間よりも筋力・耐久力に優れ、また再生力も強く、尻尾・手足を失っても時間が経てば自然に再生を果たす。頭部・臓器はその限りではない。
反面、魔法の適正は著しく低く、数少ない魔法を扱える希少な者は部族の要職を務める事が常。
「ところでジン、ボクらは大概一緒にいたと思うんだけど、いつのまにこの亜人のお兄さんとお知り合いになったのかな?」
ペシン!
「あたっ!」
「蜥蜴人は亜人じゃなくて獣人、ついでに言えば亜人は一般的には差別用語ですぜ、若さん。すんませんね、ルフトさん」
亜人──人に似た、しかし人では無いという表現は、人間を上位に据えた表現のためトラブルの元になると、言葉としては存在するが、公の場で発言はしないのがマナーとされている。
ルディの頭を手のひらで叩いたジンは、目の前のリザードマンの男性に頭を下げる。そしてそれを見たルディもジンに倣い頭を下げる。
ソレを見たルフトと呼ばれた男は、苦笑しながら2人に頭を上げるよう促す。
「構わんよ、そんな言い回しを気にするのは只人の種族くらいのものだからな」
只人、つまり人間族の事である。
「先の少年の質問だが、俺は君達がこの町ではじめに話をした探索者パーティ「穴熊」が所属するコミュニティ、「異種混合」の代表をしている」
コミュニティ「異種混合」──亜人・獣人が大半を占める探索者集団。
このコミュニティ、当初は迷宮の最深部を目指していたコミュニティだったが、遅々として進まない迷宮攻略とその理由に辟易し、今では異種族間の交流や探索者同士の互助会と、その形を変えている。
ルフトはコミュニティ結成時からのメンバーで、先々代が迷宮内で命を落とし、先代も怪我を理由に引退、故郷に帰った事によって3代目のリーダーをしていると言う。
「普段は「俺向きじゃない」と言って新人の勧誘などしない男が、アイツらには関わるな! と真剣な面持ちで訴えるから、一体どんな危険人物だと興味を持っていたんだが」
「たまたま酒場で飲んでるジェリクさんを見かけたんで声をかけたら、こっちの御仁もいたんですよ。ちなみに子供はおねむの時間の出来事ですよ」
「それこそボクを一緒に連れて行くべきじゃないのかな!?」
「リオンに物理的に折檻喰らうのと長々お小言を聞くの、どっちがお好みですかい?」
「ジンに唆されたと言えばだいじょ──いはいいはい!!」
「こうして昼間は色々連れまわしてるんだから満足しなさいな」
ちなみにリオンはアクセサリーショップを冷やかしに行っている。むろん、オシャレがどうのこうのではなく、キラキラした物を見て回りたいだけだ。
「主従仲が良くて結構な事だが、気をつけろよ、出る杭は打たれるのは冒険者、探索者の常とはいえ、ここの連中はそれの過ぎる輩が少なく無くてな、俺達も嫌気がさしたものだ」
そう言ってルフトは自分達が受けた嫌がらせを聞かせる。
ポーターギルド「韋駄天」発足前、ポーター達に圧力をかけて自分達と仕事をさせないようにした事や獲物の横取り、ギルドが介入出来ない、しかしコミュニティ間の抗争にギリギリならない程度の嫌がらせなど、相手に先んじるでなく、出し抜くでなく、足を引っ張る連中の浅ましさにほとほと疲れた事をしみじみと語る。
「なるほどねぇ……ルフトさん、それってもしかして「森羅万象」ってとこですかい?」
「!? ……ハッキリとした証拠は無いがな、それよりナゼ?」
「いやチョットね……」
そう言うとジンは半眼になって天井を見上げながら、指でアゴの先をトントンと叩き続ける。
その口元にはうっすらと、注意して見なければ判らない程度に笑みが浮かぶ。
「うわぁい、ジンの顔が活き活きとしてるね♪」
「活き活き……? ジン、他人の行動をとやかく言うつもりは無いが、仮にも護衛対象のいる身、派手な行動は慎めよ」
「心からの忠告、感謝しますよ。もちろん派手な事などしません、ねえ若さん?」
「フッフッフ、おヌシも悪よのう?」
「いえいえお代官様」
2人の顔に、大人しくするなどと言う様子は微塵も見られなかった──。
──────────────
──────────────
「こんちはキャサリン、例の依頼は来てるかい?」
「お、ジンじゃないか! 喜びな、アンタから借りた見本を見せたら連中すぐに食いついてきたよ、今回だけでも150匹分さ」
キャサリンが依頼の書かれた羊皮紙を取り出し、ジン達の前に並べる。
「150匹て、あそこで一度に出てくるアーミーバットは60匹だぜ? あと2回は行かなきゃなんねえじゃんか」
「何言ってんだよ、いくらでも取ってきてやるって言ったのはソッチだろう? 腹括って行ってきな!」
「ヘイヘイ……とりあえず、まずは60匹分渡すからこの2件だけ完了扱いにしてくれ」
背嚢から依頼素材であるアーミーバットの翼膜を取り出すとジンは、それぞれ30匹を所望する依頼を完了済みにし、残りの合計90匹分を「専用依頼」として受ける。
「専用依頼で受けるのかい? 期限は1週間だよ」
「ああ、あんな半分以上がトラップで中盤のオーク以外に素材になりそうにない階層、わざわざ足を運ぶやつも少ないだろうからな。他の連中が夢見て無茶しないよう、俺たちで全部請け負っておくよ」
そう言ってジンは4枚の羊皮紙を丸めて背嚢に突っ込むと、他に20層までで手に入りそうな素材は無いかと3人で掲示板に張り付く。
──そんな中、さりげなく席を立ち、足早にラウンジから姿を消す集団がいたが、そこにいたほとんどの連中は、掲示板に貼られた依頼内容を口に出してあーでもないこーでもないと話し合う3人組に気を取られ、気付く者はいなかった──。
………………………………………………
………………………………………………
「……で、わざわざ足を運ぶヤツはなんだって?」
「なんで……?」
ジンたちの視界には、一体どこから湧いてきたのか、ポーターを含めると30人以上の探索者が20層の入り口前に集結している。
それぞれ5~6人のパーティが、まるで順番待ちをするように野営の為の場所を確保し、談笑している。その数5つ。
彼等の見た目、雰囲気からはどの連中もいいとこレベルは80に届けばいい方で、あきらかにこの階層で戦闘をするには実力が足りて無さそうな者もチラホラ伺える。
それを証明するかのように20層への入り口から何人かの探索者が傷を負って出てきたかと思うと、それを補填するかのように別の探索者が中に入る。
つまり、20層ではどこかのパーティが単独、もしくは複数パーティでアーミーバットに挑み、怪我をすれば後方に控えているメンバーと交代、小空間における集団戦闘のようなものである。
ただし、20層はここで待機している連中が全員入っても尚、広い空間ではあるが。
「なんだ手前ら? ココは今オレ達のコミュニティメンバーが実践訓練してる最中だぜ?」
「あん? よく見りゃこの前とんでもない早さで20層突破した噂の新人サマじゃねえかよ、なにしにもう一度20層なんか来てんだ?」
「ホレ、ここは暫くの間俺達が使う事になってんだ、とっとと鍵を使って下の階層にでも行けよ」
「30層突破の最短記録待ってるぜ」
そう言ってここにいる探索者はジン達3人に向かってニヤついた笑みを浮かべながら、欠片も心のこもっていない激励の言葉をかける。
「……悪いんだが、俺達も20層に用事があるんでね。アンタらの邪魔はしないから少しの間だけ俺たちに使わしてくれませんかね?」
「あぁん!? 少しの間だぁ? バカ言ってんじゃねえぞ、鍵の出る層の魔物は一度倒したら半日は出てこねえんだ、その間俺らにここで時間を潰せってのか?」
10層毎のボスは1度討伐をすると再度現れるまで12時間かかるという、そしてその間階層への入り口は消え、出る事は出来ても入る事は叶わない。
「……じゃあどうしろって言うんだ?」
「だから言ってるだろ? 下の階層に挑むか、それとも俺らの集団訓練が終わるまで待つか、まあ俺達は1週間くらいここにいる予定だがな」
「………………………………」
「何だその顔は、あいにくコッチはなんも悪い事はしてねえぜ? お前らは下へ降りる鍵は既に持ってるんだ、幸いな事にギルドにオマエら以外の新人はいない、この機に集団訓練してメンバーの底上げをしてるだけで、誰にも迷惑をかけちゃいねえぞコッチは?」
「チッ…………急いでもどるぜ、若さん」
「ジン! そんな事言って依頼はどうするのさ? 期限は1週間なんだろ?」
「だからですよ! ここで無理矢理押し通っても悪モンにされるのは俺達、だったら別の方法を模索するんでさあ!」
ジンはそう言い放つとリオンとルディを伴って上の層へ戻る。
そして──
「──なるほど、こっちの直通通路から20層まで降りるんだね」
「この通路から20層のフロアに戻る事は出来ませんが、20層から出て来た連中とすれ違うことは出来るんでね、いざとなったらそこで「お話」するだけさ」
──しかし、
「──よう、これはこれは今をときめく新人探索者さん」
そこには、20層入り口に屯していた探索者よりも強そうなパーティがボスフロアの出口で待ち構えている
「…………………………」
「俺達かい? 俺たちゃ見事20層を突破したコミュニティのメンバーを祝福し、安全に外まで送る為にここで待ってるのさ、どうだい、新人思いのいいコミュニティだろ、アンタらも入らないかい?」
「ほう……新人思い、ねえ……」
静かに呟くジンの身体から、不穏な気配が漂う。
しかし、所詮基本レベルが60そこそこの威圧など彼等はどこふく風で、
「まあこれは独り言なんだが、今頑張ってるやつらはまだまだ未熟でなあ、アーミーバットを全滅させる事は出来ても、素材までは綺麗に剥ぎ取れはしないだろうなあ……」
「!! クソがっ──!!」
その言葉を聞いたジンは、肩を怒らせながらドンドンと地面を蹴りつけるようにその場を離れる。
「おっ、下の階層へ挑戦するのかい? 頑張ってくれよ、期待のルーキー♪」
「ジン! 待ちなさい、若様をおいて行くなど何を考えているのです!?」
「待ってよジン──」
──────────────
──────────────
そして、3人が21層へ降りるのを確認したコミュニティ「森羅万象」のパーティは、
「……上手く行ったか?」
「一応な……にしてもなんだよありゃあ、男はともかく、後ろの女戦士はマジでバケモンの匂いがしたぜ?」
「ああ……だが、話によるとかなりの美女らしいぞ?」
「マジかよ、いっぺんお手合わせ願いたいぜ! モチロン夜の」
「馬鹿な事言ってんじゃねえよ、無理に決まってるだろ?」
そんな軽口を叩く連中に向かって、パーティのリーダーらしき男が口を開く。
「あながち無理とは言えんぞ? 今回あいつら受けた専用依頼、アーミーバットの翼膜を150枚という話だが、今のところ完了しているのは60枚、残り90枚は未達成だ。1週間以内に集めることが出来なければ依頼失敗、違約金は3倍返しが基本とすれば、翼膜1枚が大銀貨3枚、手に入れた報酬は金貨18枚分だが、失敗した90枚の違約金は金貨81枚、差し引き金貨63枚の損失だ」
金貨63枚と言う大金にほうと目を丸くするメンバー、
「だけどアニキ、そのくらいならあのボンボンが何とかするんじゃねえか?」
「あのジンとか言うのが酒場で愚痴っていたが、実家からの持ち出しは雀の涙程度で、こっちでの生活はこっちで稼がなきゃならんのだとさ。そのくせ滞在する宿は最高級じゃないとご不満らしい、なんとも金のかかることだ」
つまり、いくら金持ちのボンボンの護衛とはいえ、現在の手持ちはそう多くないらしい。
「まあ、俺らのコミュニティは、3人は無理でも美人の姉さん1人分くらいの借金を肩代わりする程度の甲斐性はあるだろうさ」
そして、借金を返すための方法も提供できると話を締めくくると、
「いいねえ、俄然楽しくなってきたぜ」
「はやく1週間たたねえかな」
興奮冷めやらぬ、そんな空気が周囲を包む。
──一方、
「ジン──!!」
「……監視は?」
「もう外れたみたいです、誰の気配もありませんよ」
「そうか……上手く行き過ぎて逆に不安になるな」
「またまた、微塵も思ってないくせに」
ジンとルディはニヤリと笑うと、お互い拳を突き出しバシッとあわせる。
「楽しそうですねえ──」
そんな2人をリオンは呆れたように見つめながら、自分も我知らず笑みを浮かべていた。
彼女も少しだけ、2人に染まりつつあるようだ──。
感想 497
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【老化返却】聖女の若さは俺の寿命だった〜回復魔法の代償を肩代わりしていた俺を追放した報いだ。回復のたびに毛が抜け、骨がスカスカになるが良い〜
「寿命を削って回復してやってたのに……感謝すらしないんだな」
聖女パーティの荷物持ち兼回復術師だった俺は、ある日突然パーティを追放された。
理由は「回復魔法のコストが寿命で、もうすぐ死ぬ無能はいらない」という勝手な思い込み。
だが、彼らは知らなかった。
俺の正体が、この世界の生命を司る世界樹の根源そのものだったことを。
俺の寿命は無限であり、俺がパーティにいたからこそ、彼らは「若さ」と「健康」を維持できていたのだ。
「俺がいなくなったら、誰が君たちの老化を止めるの?」
俺がいなくなった途端、聖女たちの身体に異変が起きる。
回復魔法を唱えるたびに、自慢の金髪はバサバサと抜け落ち、肌は土色に。
若さに溺れていた彼女たちは、骨がスカスカになり、杖なしでは歩けない老婆のような姿へと変わり果てていく。
一方、解放された俺は隣国の美少女皇女に拾われ、世界樹の力で枯れた大地を森に変える「現人神」として崇められていた。
「今さら戻ってきて? ……悪いけど、そのハゲ散らかした老婆、誰だっけ?」
すべてを失ってから「俺」の価値に気づいても、もう遅い。
これは、恩を仇で返した連中が、自らの美容と健康を代償に破滅していく物語。
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~
皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。
だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。
しかし彼女は知らなかった。
帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。
これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
クラス全員で異世界召喚されたが、俺だけ教室に取り残されたのでとりあえず帰宅した
クラス全員で異世界召喚されたが、先生と俺が残っていた。
魔法もチートスキルもステータス画面すら表示されない、ただの「残され損」
異世界に行けなかった俺を待っていたのは、世知辛い現実だった。
AI使用状況
GoogleのGeminiさん使ってます〜
誤字脱字チェックと調べ物お願いしてます
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~
シンゴはある日、事故で死んだ。
どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。
転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。
弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。