文字の大きさ
大
中
小
131 / 231
5章 イズナバール迷宮編
195話 しれっと
「そっちで来たか……」
イズナバール迷宮30層でジン達を待ち構えていたのは、赤・青・黄色の異なる特徴を持ち合わせたオーガだった。
ジンが以前パートタイム師匠をしていた時、4人の弟子達に語ったように、腕力に秀でた赤、魔法が得意な青、素早く身軽な黄色のジン曰く「信号機ども」だ。
ここを突破した探索者の話で30層は、突破されてから新たに出現する魔物は、数も種類も変わるそうで、昆虫系の魔物の群れや、湿原エリアにフォレストバイパーが潜んでいた事もあったらしい。
「俺としては、昆虫系の殻や珍しい樹人の方が有り難かったんですがねえ」
「いいじゃないですか、上位ランクの魔物は偏った能力の持ち主も多いですし、ここは探索者達の足切りのような所なのでしょう」
フロアの中には、誰の趣味だか棍棒ではなく鋲つきの金棒を持ったレッドオーガに鉄爪付きの手甲を装着したイエローオーガ、魔力の増幅触媒と発動体を兼ねた首飾りをかけたブルーオーガが鍾乳洞のようなフロアをうろつき、柱の影から出てきて姿を見せている。
「まあ、オーガは素材に使えるところが多いから、狩ってお得な相手ではあるんだが」
「そんな風に考えてるのは世の中でジンくらいのもんだよ……」
頭の中でエア算盤を弾きながらブツブツと、オーガを材料名で数えているジンにルディは呆れながらも期待を込めて語りかける。
「ジン、たしか30層以降は真面目に戦うんだっけ?」
「ん? ああ、確かにあの時はそう言いましたが……ああ、以降ね、なるほど……」
以降=それを含めると言う訳だ、ジンはため息をつく。
「……リオン、お前はどれを、つってもどうせ赤だろ?」
「そうですね、久しぶりに力押しで遊びたいので赤いのは私が貰いますね」
「人に真面目に戦わせて自分は遊び宣言かよ……まあいい、それじゃ黄色いのが俺な、青いのは突入直後に無力化するからタイミングを合わせてくれ」
ジンは異空間バッグから魔弓を取り出すと、全体に返しとなるギザギザの棘が生えた鉄杭をつがえ、標的が全身を晒すのを待つ。
やがて、柱の間からノソノソと歩いて出て来たソレに狙いを定めると、
「ゴー!」
ダッ──!!
「ガア?」
3人は一気にフロアに飛び込むと、
ドシュン──!!
「!! ガアアアアアア!!」
ジンの放った矢はブルーオーガの腹に突き刺ささり、そのまま貫通して背後の柱に深く突き刺さる。
腹に穴を開けられたオーガは、棘でズタズタに引き千切られ大量に出血する腹を押えながら蹲り、彼等にはあまり似つかわしくない脂汗を全身でかく。
「ほい、一匹戦闘不能、そっちは任せたぜ……てオイ!」
ジンの視界には、リオンとレッドオーガが手四つで組む姿が映る。
──モーニングスターはどしたコラァ!!──と言うジンの心の叫びは誰にも聞こえない。
倍ほどの身長差のある両者の力比べは、圧倒的にオーガの方が有利な体勢であるにもかかわらず、レッドオーガが体表に血管を浮かび上がらせるほどに力を込めて押し込んでも、リオンは涼しげな態度でソレを受け止める。
そしてそのまま組み手をグリンと180度回転させると、そのままレッドオーガを持ち上げフロントスープレックスのように投げ捨てる。
ドウン──!!
柱にぶつけられたオーガは頭を振りながら立ち上がると、ガシュンガシュンと、リオンのわざとらしく鳴らす足音に一瞬脅えたそぶりを見せるも、種族としてのプライドがそれを許さず、
「ガアアアアア──!!」
気合を入れるように一吼えするとリオンに向かって走り出す。
「楽しそうだからいいか……さて、コッチは──うおっと!!」
眼前に迫る鉄爪をサイドステップでかわしながらジンは蛮刀で腿を浅く切りつける。
そのまま後ろにまわりこんだジンは膝裏の腱を断とうとするが、後ろ手に振り回すオーガの鉄爪のせいで未遂に終わった。
イエローオーガは腕の反動でジンの方に向き直り、そのまま今度は両手で突きによるラッシュを浴びせて来る。
直刃の鉄爪をかわしながら徐々に相手の隙をうかがうジンだが、
ガシッ──!!
「──!?」
手甲の爪に集中していたせいで、自由に動く手に対して無防備だったジンは己の左腕を不意に掴まれると、そのままオーガの目線まで持ち上げられる。
イエローオーガはそのまま自由な左腕を振りかぶると、ジンの脇腹から心臓目がけて鉄爪を突きいれ──、
ガン──!!
しかしジンはその攻撃を蹴り上げて逸らし──
ガシ!!
「グ?」
「……勘弁してくれよ、切り傷ならどうとでもなるけど、鎧の貫通創はさすがに誤魔化しが効かねえんだよ」
今度はジンが、鉄爪の奥で強く握られていたイエローオーガの拳をガシリと掴んで、
グシャリ──
間髪いれずに握り潰す。
「ガアアアアア──!!」
そのままグジュグジュと砕けた拳をこねくり回すジンに、オーガは思わず右手を開き、ジンの拘束を解く。
そのままストンと着地したジンが地面に落ちた蛮刀を拾い上げ、眼前で交差させるとイエローオーガに向かって禍々しげな笑みを向ける。
「グッ!!」
その笑みに気圧されたオーガは垂直に飛び上がると鍾乳石の柱に掴まり、ジンの射程から離れるが、しかしジンはそれを許さない。
「風精よ、集いて縮み、縮みて忍べ、我が号令にてその身解き放て、”風爆”」
ドゥン!
顔の正面で謎の爆発を喰らったオーガは、バランスを崩してそのままジンの待ち構える地上に落ちていく。しかしオーガは空中で体勢を立て直してジンに向かって左腕の鉄爪を突き出して降下する。
「甘え!」
ジンはそのままジャンプして鉄爪をかいくぐり蛮刀をオーガの顔につきたて──ようとしてその姿を見失う。
ダン──!!
オーガは右手で柱を力いっぱい押し、ジンの突き上げを横っ飛びにかわす。
そしてそのまま隣の柱まで飛び移ると、両足をバネのようにしてその柱を蹴り、今度こそジンに致命傷を与えようと、本命の右腕を突き出す。
砲弾のような勢いで迫るオーガの巨体を見ながらジンは、
「だから……甘いんだよ!!」
ジンは柱を足場にして垂直になると、そのまま蛮刀を同時に振りぬき鉄爪に叩きつけ、その軌道をずらす。そしてそのまま逆手に持ち替えり、バランスを崩して無防備になったオーガの背中に突き立てた。
「グムゥ──」
蛮刀はオーガの厚い皮膚を突き破り、根元まで刺さった刃が心臓に達したイエローオーガはその全身から力を失いそのまま地上へ落ちる。
ズウウウウンン──!!
「まあ、こんなもんか。リオンの方は……」
そこでジンが見たものは、頭を握り潰され首から下だけが残ったレッドオーガと、穴の空いたブルーオーガの腹から腕を突きいれ、その心臓を握り潰した直後のリオンという地獄絵図だった。
「おやジン、そちらも終わったのですね。こちらも丁度終わりましたよ♪」
「なんだよジン、やれば出来るコじゃないか。ウンウン、ボクは嬉しいよ♪」
「……どの口がひとを外道呼ばわりするんだか」
ジン達の30層攻略は、5分と掛からず終了した。むしろ解体作業の方が手間暇かかって面倒だったとは、ルディが地上に帰ってラフィニアに向かって聞かせた武勇伝である。
──そして当然のようにジンの拳骨が落ちていた。
………………………………………………
………………………………………………
ジン達が30層を突破した翌日、探索者たちの話題はその事で持ちきりだった。
「……聞いたか、例のヤツら、遂に30層突破したってよ」
「マジかよ? いくらなんでも早すぎだろう!」
「そういや大手のコミュニティが引き抜きに動いてたよな、そこの連中と一緒に突破したんだ、そうだろ?」
「……いや、いつも通り3人で潜ったらしいぜ」
「………………………………」
コミュニティの知り合いに話を聞いた彼等は、ジン達がどこのコミュニティの助けも借りていないと聞いてにわかには信じられなかった。
しかし、勧誘を断ったパーティを攻略最前線に送る、そんな自分達が不利益になるような事をするはずが無いと納得した彼等は、それはそれで黙り込む。
たった3人のパーティ、しかも一人は明らかに足手まとい。そして30層で倒してきた相手は3種のオーガだという。
「なあ……ジン、アイツってさ」
「ああ、あの野郎、もしかしなくても実は強いんじゃねえのか?」
「だよなあ、あのリオンって女のレベル156が本当だとしても、アイツの63まで申告が正しいとは限らんよな」
「マジかよ、そうは見えないんだけどなぁ……」
酒場のあちこちで、その結論に行き着いた探索者がため息をつく。
いつも当たり障りのない笑顔を浮かべ、自分達に気軽に話しかけてきては、食事を奢り奢られ四方山話をしている男が実は全身鎧の戦士並に強いのではないかと思うと違和感しかない。
しかも最近はチビッコと一緒になって屋台を出し、客相手に愛想を振りまいている。
………………………………。
「……いいんじゃねえか?」
「なにが?」
「あの男が強かろうがそうじゃなかろうが、それで俺達が困ってる訳じゃなし」
「そうだな、むしろ「森羅万象」が大人しくなってコッチはありがたいしな」
「そうそう、あの「あんまん」ってのも美味いしな」
「俺ぁ酒まんじゅうってやつの方が好きだぜ」
「お前等お子ちゃまだな。大人の男はマドレーヌだろ」
「「手前は女に貢いでるだけじゃねえか!」」
「──楽しそうですねえ」
屋台の話で盛り上がる探索者のテーブルに、丁度その当事者が現れる。
いつも通りの笑顔を浮かべ、いつも通り飄々とした態度、その足の運びや滲み出る気配からはそこそこの実力しか読み取れない。
ジンはいつもの様に酒場に顔を出すと、席の空いたテーブルに自然に座る。
「おう、ジンじゃねえか。丁度お前の話をしてたんだよ」
「俺の?」
「おう、30層をお前等だけで突破するくらいだから、お前、ホントは強いんじゃねえかってな」
「……はぁ、そんな話になってるんですかい?」
困ったような呆れたような、そんな顔をしてジンはぼやく。
それを見た正面の男はジョッキを口に運びながら、
「さすがに3人で30層を突破なんか言われちゃあなあ……ま、どうでもいいんだが」
「?」
「仮にお前が強くて、それで誰が困るわけじゃねえしな」
「むしろ俺達にとって重要なのはアレだな、あんまんとか酒まんじゅう、アレもう少し安くならねえか?」
唐突な要望に、目を丸くしていたジンはやがて面白そうに、
「屋台はねえ……別に俺の専売って訳じゃないんで、誰か知り合いにアレで商売したいって人がいればレシピくらい教えますよ。そんなに難しくもないし、プロならもっと効率よく、そして安く作れるんじゃないですかね」
「ホントか? オイ、おまえ等聞いたか? 知り合いの料理屋に片っ端から声かけとけ」
男の掛け声に答えるようにそこかしこでジョッキを持った手が上がる。
「……みなさんそんなに食に興味があったんで?」
「ここじゃ飯と女と迷宮くらいしか無えからな。どうせなら美味いモン食いてえのよ」
「そういう訳だ。つーわけでジン、お前さんはあの菓子以外になんか新しいモン作ってくれや」
「そっちが本命ですか……」
本格的に呆れ顔になったジンの背後から、
「それはいい考えだね! 是非ともお願いするよジン♪」
「頑張ってくださいね」
「……リオン、若さんはおねむの時間ですぜ?」
「だったらもう少し静かに宿を出るべきでしたね」
「はぁ……」
逃げ道の無くなったジンは、新しいお菓子を作るというまで周囲とルディ達に迫られ、結果渋々ながらも了承するも、鎧を脱いだラフな格好のリオンに喜びの抱擁を受けた為、賞賛どころか少しだけ周りの反感を買っていた。
イズナバール迷宮30層でジン達を待ち構えていたのは、赤・青・黄色の異なる特徴を持ち合わせたオーガだった。
ジンが以前パートタイム師匠をしていた時、4人の弟子達に語ったように、腕力に秀でた赤、魔法が得意な青、素早く身軽な黄色のジン曰く「信号機ども」だ。
ここを突破した探索者の話で30層は、突破されてから新たに出現する魔物は、数も種類も変わるそうで、昆虫系の魔物の群れや、湿原エリアにフォレストバイパーが潜んでいた事もあったらしい。
「俺としては、昆虫系の殻や珍しい樹人の方が有り難かったんですがねえ」
「いいじゃないですか、上位ランクの魔物は偏った能力の持ち主も多いですし、ここは探索者達の足切りのような所なのでしょう」
フロアの中には、誰の趣味だか棍棒ではなく鋲つきの金棒を持ったレッドオーガに鉄爪付きの手甲を装着したイエローオーガ、魔力の増幅触媒と発動体を兼ねた首飾りをかけたブルーオーガが鍾乳洞のようなフロアをうろつき、柱の影から出てきて姿を見せている。
「まあ、オーガは素材に使えるところが多いから、狩ってお得な相手ではあるんだが」
「そんな風に考えてるのは世の中でジンくらいのもんだよ……」
頭の中でエア算盤を弾きながらブツブツと、オーガを材料名で数えているジンにルディは呆れながらも期待を込めて語りかける。
「ジン、たしか30層以降は真面目に戦うんだっけ?」
「ん? ああ、確かにあの時はそう言いましたが……ああ、以降ね、なるほど……」
以降=それを含めると言う訳だ、ジンはため息をつく。
「……リオン、お前はどれを、つってもどうせ赤だろ?」
「そうですね、久しぶりに力押しで遊びたいので赤いのは私が貰いますね」
「人に真面目に戦わせて自分は遊び宣言かよ……まあいい、それじゃ黄色いのが俺な、青いのは突入直後に無力化するからタイミングを合わせてくれ」
ジンは異空間バッグから魔弓を取り出すと、全体に返しとなるギザギザの棘が生えた鉄杭をつがえ、標的が全身を晒すのを待つ。
やがて、柱の間からノソノソと歩いて出て来たソレに狙いを定めると、
「ゴー!」
ダッ──!!
「ガア?」
3人は一気にフロアに飛び込むと、
ドシュン──!!
「!! ガアアアアアア!!」
ジンの放った矢はブルーオーガの腹に突き刺ささり、そのまま貫通して背後の柱に深く突き刺さる。
腹に穴を開けられたオーガは、棘でズタズタに引き千切られ大量に出血する腹を押えながら蹲り、彼等にはあまり似つかわしくない脂汗を全身でかく。
「ほい、一匹戦闘不能、そっちは任せたぜ……てオイ!」
ジンの視界には、リオンとレッドオーガが手四つで組む姿が映る。
──モーニングスターはどしたコラァ!!──と言うジンの心の叫びは誰にも聞こえない。
倍ほどの身長差のある両者の力比べは、圧倒的にオーガの方が有利な体勢であるにもかかわらず、レッドオーガが体表に血管を浮かび上がらせるほどに力を込めて押し込んでも、リオンは涼しげな態度でソレを受け止める。
そしてそのまま組み手をグリンと180度回転させると、そのままレッドオーガを持ち上げフロントスープレックスのように投げ捨てる。
ドウン──!!
柱にぶつけられたオーガは頭を振りながら立ち上がると、ガシュンガシュンと、リオンのわざとらしく鳴らす足音に一瞬脅えたそぶりを見せるも、種族としてのプライドがそれを許さず、
「ガアアアアア──!!」
気合を入れるように一吼えするとリオンに向かって走り出す。
「楽しそうだからいいか……さて、コッチは──うおっと!!」
眼前に迫る鉄爪をサイドステップでかわしながらジンは蛮刀で腿を浅く切りつける。
そのまま後ろにまわりこんだジンは膝裏の腱を断とうとするが、後ろ手に振り回すオーガの鉄爪のせいで未遂に終わった。
イエローオーガは腕の反動でジンの方に向き直り、そのまま今度は両手で突きによるラッシュを浴びせて来る。
直刃の鉄爪をかわしながら徐々に相手の隙をうかがうジンだが、
ガシッ──!!
「──!?」
手甲の爪に集中していたせいで、自由に動く手に対して無防備だったジンは己の左腕を不意に掴まれると、そのままオーガの目線まで持ち上げられる。
イエローオーガはそのまま自由な左腕を振りかぶると、ジンの脇腹から心臓目がけて鉄爪を突きいれ──、
ガン──!!
しかしジンはその攻撃を蹴り上げて逸らし──
ガシ!!
「グ?」
「……勘弁してくれよ、切り傷ならどうとでもなるけど、鎧の貫通創はさすがに誤魔化しが効かねえんだよ」
今度はジンが、鉄爪の奥で強く握られていたイエローオーガの拳をガシリと掴んで、
グシャリ──
間髪いれずに握り潰す。
「ガアアアアア──!!」
そのままグジュグジュと砕けた拳をこねくり回すジンに、オーガは思わず右手を開き、ジンの拘束を解く。
そのままストンと着地したジンが地面に落ちた蛮刀を拾い上げ、眼前で交差させるとイエローオーガに向かって禍々しげな笑みを向ける。
「グッ!!」
その笑みに気圧されたオーガは垂直に飛び上がると鍾乳石の柱に掴まり、ジンの射程から離れるが、しかしジンはそれを許さない。
「風精よ、集いて縮み、縮みて忍べ、我が号令にてその身解き放て、”風爆”」
ドゥン!
顔の正面で謎の爆発を喰らったオーガは、バランスを崩してそのままジンの待ち構える地上に落ちていく。しかしオーガは空中で体勢を立て直してジンに向かって左腕の鉄爪を突き出して降下する。
「甘え!」
ジンはそのままジャンプして鉄爪をかいくぐり蛮刀をオーガの顔につきたて──ようとしてその姿を見失う。
ダン──!!
オーガは右手で柱を力いっぱい押し、ジンの突き上げを横っ飛びにかわす。
そしてそのまま隣の柱まで飛び移ると、両足をバネのようにしてその柱を蹴り、今度こそジンに致命傷を与えようと、本命の右腕を突き出す。
砲弾のような勢いで迫るオーガの巨体を見ながらジンは、
「だから……甘いんだよ!!」
ジンは柱を足場にして垂直になると、そのまま蛮刀を同時に振りぬき鉄爪に叩きつけ、その軌道をずらす。そしてそのまま逆手に持ち替えり、バランスを崩して無防備になったオーガの背中に突き立てた。
「グムゥ──」
蛮刀はオーガの厚い皮膚を突き破り、根元まで刺さった刃が心臓に達したイエローオーガはその全身から力を失いそのまま地上へ落ちる。
ズウウウウンン──!!
「まあ、こんなもんか。リオンの方は……」
そこでジンが見たものは、頭を握り潰され首から下だけが残ったレッドオーガと、穴の空いたブルーオーガの腹から腕を突きいれ、その心臓を握り潰した直後のリオンという地獄絵図だった。
「おやジン、そちらも終わったのですね。こちらも丁度終わりましたよ♪」
「なんだよジン、やれば出来るコじゃないか。ウンウン、ボクは嬉しいよ♪」
「……どの口がひとを外道呼ばわりするんだか」
ジン達の30層攻略は、5分と掛からず終了した。むしろ解体作業の方が手間暇かかって面倒だったとは、ルディが地上に帰ってラフィニアに向かって聞かせた武勇伝である。
──そして当然のようにジンの拳骨が落ちていた。
………………………………………………
………………………………………………
ジン達が30層を突破した翌日、探索者たちの話題はその事で持ちきりだった。
「……聞いたか、例のヤツら、遂に30層突破したってよ」
「マジかよ? いくらなんでも早すぎだろう!」
「そういや大手のコミュニティが引き抜きに動いてたよな、そこの連中と一緒に突破したんだ、そうだろ?」
「……いや、いつも通り3人で潜ったらしいぜ」
「………………………………」
コミュニティの知り合いに話を聞いた彼等は、ジン達がどこのコミュニティの助けも借りていないと聞いてにわかには信じられなかった。
しかし、勧誘を断ったパーティを攻略最前線に送る、そんな自分達が不利益になるような事をするはずが無いと納得した彼等は、それはそれで黙り込む。
たった3人のパーティ、しかも一人は明らかに足手まとい。そして30層で倒してきた相手は3種のオーガだという。
「なあ……ジン、アイツってさ」
「ああ、あの野郎、もしかしなくても実は強いんじゃねえのか?」
「だよなあ、あのリオンって女のレベル156が本当だとしても、アイツの63まで申告が正しいとは限らんよな」
「マジかよ、そうは見えないんだけどなぁ……」
酒場のあちこちで、その結論に行き着いた探索者がため息をつく。
いつも当たり障りのない笑顔を浮かべ、自分達に気軽に話しかけてきては、食事を奢り奢られ四方山話をしている男が実は全身鎧の戦士並に強いのではないかと思うと違和感しかない。
しかも最近はチビッコと一緒になって屋台を出し、客相手に愛想を振りまいている。
………………………………。
「……いいんじゃねえか?」
「なにが?」
「あの男が強かろうがそうじゃなかろうが、それで俺達が困ってる訳じゃなし」
「そうだな、むしろ「森羅万象」が大人しくなってコッチはありがたいしな」
「そうそう、あの「あんまん」ってのも美味いしな」
「俺ぁ酒まんじゅうってやつの方が好きだぜ」
「お前等お子ちゃまだな。大人の男はマドレーヌだろ」
「「手前は女に貢いでるだけじゃねえか!」」
「──楽しそうですねえ」
屋台の話で盛り上がる探索者のテーブルに、丁度その当事者が現れる。
いつも通りの笑顔を浮かべ、いつも通り飄々とした態度、その足の運びや滲み出る気配からはそこそこの実力しか読み取れない。
ジンはいつもの様に酒場に顔を出すと、席の空いたテーブルに自然に座る。
「おう、ジンじゃねえか。丁度お前の話をしてたんだよ」
「俺の?」
「おう、30層をお前等だけで突破するくらいだから、お前、ホントは強いんじゃねえかってな」
「……はぁ、そんな話になってるんですかい?」
困ったような呆れたような、そんな顔をしてジンはぼやく。
それを見た正面の男はジョッキを口に運びながら、
「さすがに3人で30層を突破なんか言われちゃあなあ……ま、どうでもいいんだが」
「?」
「仮にお前が強くて、それで誰が困るわけじゃねえしな」
「むしろ俺達にとって重要なのはアレだな、あんまんとか酒まんじゅう、アレもう少し安くならねえか?」
唐突な要望に、目を丸くしていたジンはやがて面白そうに、
「屋台はねえ……別に俺の専売って訳じゃないんで、誰か知り合いにアレで商売したいって人がいればレシピくらい教えますよ。そんなに難しくもないし、プロならもっと効率よく、そして安く作れるんじゃないですかね」
「ホントか? オイ、おまえ等聞いたか? 知り合いの料理屋に片っ端から声かけとけ」
男の掛け声に答えるようにそこかしこでジョッキを持った手が上がる。
「……みなさんそんなに食に興味があったんで?」
「ここじゃ飯と女と迷宮くらいしか無えからな。どうせなら美味いモン食いてえのよ」
「そういう訳だ。つーわけでジン、お前さんはあの菓子以外になんか新しいモン作ってくれや」
「そっちが本命ですか……」
本格的に呆れ顔になったジンの背後から、
「それはいい考えだね! 是非ともお願いするよジン♪」
「頑張ってくださいね」
「……リオン、若さんはおねむの時間ですぜ?」
「だったらもう少し静かに宿を出るべきでしたね」
「はぁ……」
逃げ道の無くなったジンは、新しいお菓子を作るというまで周囲とルディ達に迫られ、結果渋々ながらも了承するも、鎧を脱いだラフな格好のリオンに喜びの抱擁を受けた為、賞賛どころか少しだけ周りの反感を買っていた。
感想 497
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【老化返却】聖女の若さは俺の寿命だった〜回復魔法の代償を肩代わりしていた俺を追放した報いだ。回復のたびに毛が抜け、骨がスカスカになるが良い〜
「寿命を削って回復してやってたのに……感謝すらしないんだな」
聖女パーティの荷物持ち兼回復術師だった俺は、ある日突然パーティを追放された。
理由は「回復魔法のコストが寿命で、もうすぐ死ぬ無能はいらない」という勝手な思い込み。
だが、彼らは知らなかった。
俺の正体が、この世界の生命を司る世界樹の根源そのものだったことを。
俺の寿命は無限であり、俺がパーティにいたからこそ、彼らは「若さ」と「健康」を維持できていたのだ。
「俺がいなくなったら、誰が君たちの老化を止めるの?」
俺がいなくなった途端、聖女たちの身体に異変が起きる。
回復魔法を唱えるたびに、自慢の金髪はバサバサと抜け落ち、肌は土色に。
若さに溺れていた彼女たちは、骨がスカスカになり、杖なしでは歩けない老婆のような姿へと変わり果てていく。
一方、解放された俺は隣国の美少女皇女に拾われ、世界樹の力で枯れた大地を森に変える「現人神」として崇められていた。
「今さら戻ってきて? ……悪いけど、そのハゲ散らかした老婆、誰だっけ?」
すべてを失ってから「俺」の価値に気づいても、もう遅い。
これは、恩を仇で返した連中が、自らの美容と健康を代償に破滅していく物語。
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~
皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。
だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。
しかし彼女は知らなかった。
帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。
これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
クラス全員で異世界召喚されたが、俺だけ教室に取り残されたのでとりあえず帰宅した
クラス全員で異世界召喚されたが、先生と俺が残っていた。
魔法もチートスキルもステータス画面すら表示されない、ただの「残され損」
異世界に行けなかった俺を待っていたのは、世知辛い現実だった。
AI使用状況
GoogleのGeminiさん使ってます〜
誤字脱字チェックと調べ物お願いしてます
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~
シンゴはある日、事故で死んだ。
どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。
転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。
弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。