転生薬師は異世界を巡る(旧題:転生者は異世界を巡る)

山川イブキ(nobuyukisan)

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5章 イズナバール迷宮編

195話 しれっと

「そっちで来たか……」

 イズナバール迷宮30層でジン達を待ち構えていたのは、赤・青・黄色の異なる特徴を持ち合わせたオーガだった。
 ジンが以前パートタイム師匠をしていた時、4人の弟子達に語ったように、腕力に秀でた赤、魔法が得意な青、素早く身軽な黄色のジン曰く「信号機ども」だ。
 ここを突破した探索者の話で30層は、突破されてから新たに出現する魔物は、数も種類も変わるそうで、昆虫系の魔物の群れや、湿原エリアにフォレストバイパーが潜んでいた事もあったらしい。

「俺としては、昆虫系の殻や珍しい樹人トレントの方が有り難かったんですがねえ」
「いいじゃないですか、上位ランクの魔物は偏った能力の持ち主も多いですし、ここは探索者達の足切りのような所なのでしょう」

 フロアの中には、誰の趣味だか棍棒ではなく鋲つきの金棒を持ったレッドオーガに鉄爪付きの手甲を装着したイエローオーガ、魔力の増幅触媒と発動体を兼ねた首飾りをかけたブルーオーガが鍾乳洞のようなフロアをうろつき、柱の影から出てきて姿を見せている。

「まあ、オーガは素材に使えるところが多いから、狩ってお得な相手ではあるんだが」
「そんな風に考えてるのは世の中でジンくらいのもんだよ……」

 頭の中でエア算盤を弾きながらブツブツと、オーガを材料名で数えているジンにルディは呆れながらも期待を込めて語りかける。

「ジン、たしか30層以降は真面目に戦うんだっけ?」
「ん? ああ、確かにあの時はそう言いましたが……ああ、以降・・ね、なるほど……」

 以降=それを含めると言う訳だ、ジンはため息をつく。

「……リオン、お前はどれを、つってもどうせ赤だろ?」
「そうですね、久しぶりに力押しで遊びたいので赤いのは私が貰いますね」
「人に真面目に戦わせて自分は遊び宣言かよ……まあいい、それじゃ黄色いのが俺な、青いのは突入直後に無力化するからタイミングを合わせてくれ」

 ジンは異空間バッグから魔弓ミーティアを取り出すと、全体に返しとなるギザギザの棘が生えた鉄杭をつがえ、標的ブルーオーガが全身を晒すのを待つ。
 やがて、柱の間からノソノソと歩いて出て来たソレに狙いを定めると、

「ゴー!」

 ダッ──!!

「ガア?」

 3人は一気にフロアに飛び込むと、

 ドシュン──!!

「!! ガアアアアアア!!」

 ジンの放ったはブルーオーガの腹に突き刺ささり、そのまま貫通して背後の柱に深く突き刺さる。
 腹に穴を開けられたオーガは、棘でズタズタに引き千切られ大量に出血する腹を押えながら蹲り、彼等にはあまり似つかわしくない脂汗を全身でかく。

「ほい、一匹戦闘不能、そっちは任せたぜ……てオイ!」

 ジンの視界には、リオンとレッドオーガが手四つで組む姿が映る。
 ──モーニングスターはどしたコラァ!!──と言うジンの心の叫びは誰にも聞こえない。
 倍ほどの身長差のある両者の力比べは、圧倒的にオーガの方が有利な体勢であるにもかかわらず、レッドオーガが体表に血管を浮かび上がらせるほどに力を込めて押し込んでも、リオンは涼しげな態度でソレを受け止める。
 そしてそのまま組み手をグリンと180度回転させると、そのままレッドオーガを持ち上げフロントスープレックスのように投げ捨てる。

 ドウン──!!

 柱にぶつけられたオーガはかぶりを振りながら立ち上がると、ガシュンガシュンと、リオンのわざとらしく鳴らす足音に一瞬脅えたそぶりを見せるも、種族としてのプライドがそれを許さず、

「ガアアアアア──!!」

 気合を入れるように一吼えするとリオンに向かって走り出す。

「楽しそうだからいいか……さて、コッチは──うおっと!!」

 眼前に迫る鉄爪をサイドステップでかわしながらジンは蛮刀サベイジャーで腿を浅く切りつける。
 そのまま後ろにまわりこんだジンは膝裏の腱を断とうとするが、後ろ手に振り回すオーガの鉄爪のせいで未遂に終わった。
 イエローオーガは腕の反動でジンの方に向き直り、そのまま今度は両手で突きによるラッシュを浴びせて来る。
 直刃の鉄爪をかわしながら徐々に相手の隙をうかがうジンだが、

 ガシッ──!!

「──!?」

 手甲の爪に集中していたせいで、自由に動く手に対して無防備だったジンは己の左腕を不意に掴まれると、そのままオーガの目線まで持ち上げられる。
 イエローオーガはそのまま自由な左腕を振りかぶると、ジンの脇腹から心臓目がけて鉄爪を突きいれ──、

 ガン──!!

 しかしジンはその攻撃を蹴り上げて逸らし──

 ガシ!!

「グ?」
「……勘弁してくれよ、切り傷ならどうとでもなるけど、鎧の貫通創はさすがに誤魔化しが効かねえんだよ」

 今度はジンが、鉄爪の奥で強く握られていたイエローオーガの拳をガシリと掴んで、

 グシャリ──

 間髪いれずに握り潰す。

「ガアアアアア──!!」

 そのままグジュグジュと砕けた拳をこねくり回すジンに、オーガは思わず右手を開き、ジンの拘束を解く。
 そのままストンと着地したジンが地面に落ちた蛮刀を拾い上げ、眼前で交差させるとイエローオーガに向かって禍々しげな笑みを向ける。

「グッ!!」

 その笑みに気圧されたオーガは垂直に飛び上がると鍾乳石の柱に掴まり、ジンの射程から離れるが、しかしジンはそれを許さない。

「風精よ、集いて縮み、縮みて忍べ、我が号令にてその身解き放て、”風爆エア・バースト”」

 ドゥン!

 顔の正面で謎の爆発を喰らったオーガは、バランスを崩してそのままジンの待ち構える地上に落ちていく。しかしオーガは空中で体勢を立て直してジンに向かって左腕の鉄爪を突き出して降下する。

「甘え!」

 ジンはそのままジャンプして鉄爪をかいくぐり蛮刀をオーガの顔につきたて──ようとしてその姿を見失う。

 ダン──!!

 オーガは右手で柱を力いっぱい押し、ジンの突き上げを横っ飛びにかわす。
 そしてそのまま隣の柱まで飛び移ると、両足をバネのようにしてその柱を蹴り、今度こそジンに致命傷を与えようと、本命の右腕を突き出す。
 砲弾のような勢いで迫るオーガの巨体を見ながらジンは、

「だから……甘いんだよ!!」

 ジンは柱を足場にして垂直になると、そのまま蛮刀サベイジャーを同時に振りぬき鉄爪に叩きつけ、その軌道をずらす。そしてそのまま逆手に持ち替えり、バランスを崩して無防備になったオーガの背中に突き立てた。

「グムゥ──」

 蛮刀はオーガの厚い皮膚を突き破り、根元まで刺さった刃が心臓に達したイエローオーガはその全身から力を失いそのまま地上へ落ちる。

 ズウウウウンン──!!

「まあ、こんなもんか。リオンの方は……」

 そこでジンが見たものは、頭を握り潰され首から下だけが残ったレッドオーガと、穴の空いたブルーオーガの腹から腕を突きいれ、その心臓を握り潰した直後のリオンという地獄絵図だった。

「おやジン、そちらも終わったのですね。こちらも丁度終わりましたよ♪」
「なんだよジン、やれば出来るコじゃないか。ウンウン、ボクは嬉しいよ♪」
「……どの口がひとを外道呼ばわりするんだか」

 ジン達の30層攻略は、5分と掛からず終了した。むしろ解体作業の方が手間暇かかって面倒だったとは、ルディが地上に帰ってラフィニアに向かって聞かせた武勇伝である。
 ──そして当然のようにジンの拳骨が落ちていた。


………………………………………………
………………………………………………


 ジン達が30層を突破した翌日、探索者たちの話題はその事で持ちきりだった。

「……聞いたか、例のヤツら、遂に30層突破したってよ」
「マジかよ? いくらなんでも早すぎだろう!」
「そういや大手のコミュニティが引き抜きに動いてたよな、そこの連中と一緒に突破したんだ、そうだろ?」
「……いや、いつも通り3人で潜ったらしいぜ」
「………………………………」

 コミュニティの知り合いに話を聞いた彼等は、ジン達がどこのコミュニティの助けも借りていないと聞いてにわかには信じられなかった。
 しかし、勧誘を断ったパーティを攻略最前線に送る、そんな自分達が不利益になるような事をするはずが無いと納得した彼等は、それはそれで黙り込む。
 たった3人のパーティ、しかも一人は明らかに足手まとい。そして30層で倒してきた相手は3種のオーガだという。

「なあ……ジン、アイツってさ」
「ああ、あの野郎、もしかしなくても実は強いんじゃねえのか?」
「だよなあ、あのリオンって女のレベル156が本当だとしても、アイツの63まで申告が正しいとは限らんよな」
「マジかよ、そうは見えないんだけどなぁ……」

 酒場のあちこちで、その結論に行き着いた探索者がため息をつく。
 いつも当たり障りのない笑顔を浮かべ、自分達に気軽に話しかけてきては、食事を奢り奢られ四方山話よもやまばなしをしている男が実は全身鎧の戦士並に強いのではないかと思うと違和感しかない。
 しかも最近はチビッコと一緒になって屋台を出し、客相手に愛想を振りまいている。

 ………………………………。

「……いいんじゃねえか?」
「なにが?」
あの男ジンが強かろうがそうじゃなかろうが、それで俺達が困ってる訳じゃなし」
「そうだな、むしろ「森羅万象」が大人しくなってコッチはありがたいしな」
「そうそう、あの「あんまん」ってのも美味いしな」
「俺ぁ酒まんじゅうってやつの方が好きだぜ」
「お前等お子ちゃまだな。大人の男はマドレーヌだろ」
「「手前は女に貢いでるだけじゃねえか!」」
「──楽しそうですねえ」

 屋台の話で盛り上がる探索者のテーブルに、丁度その当事者が現れる。
 いつも通りの笑顔を浮かべ、いつも通り飄々とした態度、その足の運びや滲み出る気配からはそこそこ・・・・の実力しか読み取れない。
 ジンはいつもの様に酒場に顔を出すと、席の空いたテーブルに自然に座る。

「おう、ジンじゃねえか。丁度お前の話をしてたんだよ」
「俺の?」
「おう、30層をお前等だけで突破するくらいだから、お前、ホントは強いんじゃねえかってな」
「……はぁ、そんな話になってるんですかい?」

 困ったような呆れたような、そんな顔をしてジンはぼやく。
 それを見た正面の男はジョッキを口に運びながら、

「さすがに3人で30層を突破なんか言われちゃあなあ……ま、どうでもいいんだが」
「?」
「仮にお前が強くて、それで誰が困るわけじゃねえしな」
「むしろ俺達にとって重要なのはアレだな、あんまんとか酒まんじゅう、アレもう少し安くならねえか?」

 唐突な要望に、目を丸くしていたジンはやがて面白そうに、

「屋台はねえ……別に俺の専売って訳じゃないんで、誰か知り合いにアレで商売したいって人がいればレシピくらい教えますよ。そんなに難しくもないし、プロならもっと効率よく、そして安く作れるんじゃないですかね」

「ホントか? オイ、おまえ等聞いたか? 知り合いの料理屋に片っ端から声かけとけ」

 男の掛け声に答えるようにそこかしこでジョッキを持った手が上がる。

「……みなさんそんなに食に興味があったんで?」
「ここじゃ飯と女と迷宮くらいしか無えからな。どうせなら美味いモン食いてえのよ」
「そういう訳だ。つーわけでジン、お前さんはあの菓子以外になんか新しいモン作ってくれや」
「そっちが本命ですか……」

 本格的に呆れ顔になったジンの背後から、

「それはいい考えだね! 是非ともお願いするよジン♪」
「頑張ってくださいね」
「……リオン、若さんはおねむの時間ですぜ?」
「だったらもう少し静かに宿を出るべきでしたね」
「はぁ……」

 逃げ道の無くなったジンは、新しいお菓子を作るというまで周囲とルディ達に迫られ、結果渋々ながらも了承するも、鎧を脱いだラフな格好のリオンに喜びの抱擁を受けた為、賞賛どころか少しだけ周りの反感を買っていた。
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