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5章 イズナバール迷宮編
197話 実力
イズナバール迷宮34層、周囲を岩盤で覆われた洞穴エリア。
ジン達3人が彼等に遭遇したのは、経験上そろそろ階層後半に差し掛かるという所に広がるドーム状の開けた空間でだった。
「おやルフトさんにジェリクさんじゃありませんか?」
「ん? おお、誰かと思えばお前達か、こうして迷宮内で会うのは初めてだな」
「あ~、そういえばそうですねえ、お互い探索者同士なのに珍しい事で」
「イヤ、そんな事は無いぞ……」
常識的に考えて、最古参の探索者と町に来て2ヶ月にも満たない新人探索者が、迷宮内で出会う方がおかしい。しかもその新人はちょくちょく地上で屋台を開いたりしている非常識な連中だ。
「ところで……みなさん、何をしてるんで?」
見れば、30人近い大集団──とはいえ最前線を攻めるのであればもう少し人数が欲しい所だ──が揃いも揃って、広間の中央に座り込んでいる。
ジン達は彼等が休憩でもしているのかと思ったが、どうにも彼等の表情は皆一様に暗い、どちらかと言えば途方に暮れていると言うべきだろうか。
「ああ……ちとやらかしてな」
「やらかしたって、ナニナニ!?」
ここまでの戦闘で手に入れた素材を背嚢につめたルディが、ジンの背後から顔を出してテンション高めな声でルフトに話しかける、その目はトラブルを期待している目だ。
「まあ、隠しても仕方の無い事だが、実は……」
………………………………………………
………………………………………………
「くっそお! ドン亀のクセにちょこまかと動き回りやがってえ!!」
イラついたゲンマが目の前の獲物を追いかけながら毒づく。
ゲンマの前を彼以上の速度で駆けるのは巨大な1体の亀──ヘヴィ・トータス。
ヘヴィ・トータス Bランクモンスター
体高1メートル、全長3メートル、全幅2メートルほどの大型の陸ガメ。
名前に反して動きは機敏で、最高時速40キロで走ることが可能。
長い首は甲羅から1メートルも伸び、その頭部の先には2本の綺麗な円錐状の角が生えている。
2本の角は重力を操る事が可能で、その力を利用してその巨体でありながら高速移動を可能にしている。その為角を折られると途端に鈍重になる。
ゴツゴツした甲羅は非常に軽量かつ頑強で、ヘヴィ・トータスの死骸から剥ぎ取った甲羅をオーガが大盾として使用している場合がある。
※討伐にはまず角を破壊する事
走るゲンマは、ヘヴィ・トータスを追いかける内にドーム状の広い空間に飛び込んでしまった。
「マズイな、こんなだだっ広い所じゃ到底あの速度に追いつけねえ……」
ゲンマはその場に立ち止まると背中の大剣を抜き、両手で肩に担ぐと気合を込める。
ゲンマの周囲が陽炎のように揺らぐと、それを引き起こした高密度の魔力が大剣に注がれてゆく。
そこへ、
「ゲンマ、1人で先に進みすぎ──って、チョット待ちなさい!」
後方から追いついてきたシュナが、ゲンマが何をしようとしているのかを察すると慌てて止めるよう声をかける。
「まかせとけ、ああいう無駄にはしっこいヤツは足を落とせば後は楽勝!」
「そうじゃない! アイツはヘヴィ・トータス、倒そうと思ったら先ず角を」
「オラア!! ゲイルスラッシュ──!!」
「アホゲンマぁぁぁ!!」
ズバアアアア────!!
ゲンマが力の限り大剣を振り下ろすと、轟音と共に洞穴内を見えない大気の刃が疾駆し、ゲンマとヘヴィ・トータスの間の大地に切れ目が走る。
そして大地の切れ目がヘヴィ・トータスまで届くと、
バシュッ──!!
「ギュオオオオ──!!」
ヘヴィ・トータスの口から絶叫が響き、右側の2本の足が関節の辺りから切り飛ばされて宙を舞う。
「やったぜ!!」
喜びの声を上げるゲンマだったがその直後、
ドゴン──!!
ガッツポーズを決めるゲンマの後頭部をシュナの飛び蹴りが炸裂した。
「いでえ!! っつつつ……ってえな、手前シュナ、何しやがんだ一体!?」
「それはコッチの台詞よ! 止めろって言ったでしょ、アレはヘヴィ・トータスだって」
「あ、ヘヴィ・トータス、何だそりゃ?」
シュナの怒りが理解できないゲンマは間の抜けた声を上げると、その声を聞いたシュナはブチ切れる。
「アイツは倒し方があるのよ! 頭の角を破壊してからじゃないとホラ、見なさいアホゲンマ!!」
「あぐおっ!?」
シュナに頭を180度回頭させられ蛙が潰れた様な声を上げながらゲンマは、視線の先のヘヴィ・トータスがバランスを崩して転倒、そのまま何回転かすると、丁度この空間のの向こう側、迷宮の奥へ続く道の前にドスンと鎮座し、そして──
ズン────!!
「なんだぁ!?」
「最悪……」
──ヘヴィ・トータスの特徴、己の身体が傷つき命の危険に晒されると、頭部の2本の角から重力場を発生させ、周囲に重力結界を張る。
広さは半径5メートルの球形で、結界内部では全ての物体の重量が20倍になる。
その為、ヘヴィ・トータスの討伐には先ず2本の角の破壊が最優先となる──
「おいシュナ、あんなの聞いて無えぞ!?」
「言おうとしたのにアンタが先走ったんでしょ!!」
「んだと、俺が悪いってのかよ!?」
「アンタ以外に悪い奴がいるんならアタシが教えて欲しいわよ!!」
ゲンマ達のパーティメンバーやルフト達が現場に到着して見た物は、広間の向こうで重力結界を張る魔物と、シュナの足元で股間を押えて悶絶しているゲンマの姿だった──。
………………………………………………
………………………………………………
「……とまあ」
「ああ……残念な方なんですね、あのゲンマとかいう人」
「実力は折り紙つきなんだがな……」
蜥蜴人のため息は非常に重々しく、本気で困っているのがありありと感じられる。
ジンは周囲を見渡すと、何人か見張りを立てながら交代で休憩を取っている姿が見て取れる。どうやらここで休息を取ろうと言うのだろうが、
「いいんですかい? こんな所に居座ったら、向こうは逃げちゃくれませんぜ?」
「ああ、尤もな話だが、ここから離れたとしても、足を生やして元に戻ったアレと遭遇した時に同じ事にならんとも限らん。それならいっそ持久戦で向こうの体力が尽きるのを待とうという事になってな」
言うは易いが実際に行うとなると、ヘヴィ・トータスの体力が尽きるまで軽く見積もっても1週間、下手をすればその倍かかる可能性もある、彼等の表情はこの場で居続けるストレスと、かかるであろう出費、そして、
「後続の集団に見られたら厄介な事になりそうですねえ」
「………………………………」
ルフトは口ごもる。金と時間はどうとでもなるとしても、別のコミュニティとの衝突が現在考えられる最悪のシナリオ、コレを見て他者への妨害工作と見られてしまえば言い訳も聞かない。
「先行部隊が居ない証明が出来ませんからねえ」
「耳の痛い話だ」
そんな話し込む2人の側で退屈そうにしているルディが、
「ジン、面倒だから何とかしてあげれば?」
「若さん、あのですね……」
「!? ちょっと待てジン、お前、アレを何とかする手段があるのか!?」
ザワッ──!!
ルフトの声に全員の顔が一斉に声の方向に向き、視線がジンと呼ばれた男に集中する。
ジンは視線に晒されながら眉間に指を立て、
「……あのな若さん」
「ここでジッとしてても最低1週間かかるんでしょ? とてもじゃないけど待てないよ。それに、他のコミュニティと険悪な空気になりでもしたら、上でも色々やり難いじゃない。だから、ね?」
「ね、ってあーた……ふぅ、しゃーないか、ルフトさん、一つ貸しですぜ?」
「ああ、この状況が解決できるなら幾らでも貸し付けてくれ!」
「ルフトさん、不用意な事を言ってはいけませんよ。ジンは本当にいくらでも貸し付けますからね」
「人聞きの悪い事言うなよリオン……さて、と」
ジンはルフトから離れると、ヘヴィ・トータスに向かって歩き出す。
その途中、胡坐をかいてむくれているゲンマとその仲間達を通り過ぎると、
「オイ」
「はい?」
「お前、ホントにアレを何とか出来るのかよ。聞いたぜ、レベル63だって」
「ちょっとゲンマ!! えっとジン、だったわね。連れがごめんなさい」
ゲンマの言葉にシュナが謝罪を入れてくるが、ジンはそれを遮り、
「ああ、大丈夫ですよ、別に今から戦闘する訳じゃないんでね。それに、そっちのゲンマさんが俺のレベルが低いのを心配して言ってくれているのは判ってますから」
「ちょ、おま、何言って──!!」
「ハイハイ、後でね……と、結界はこのへん──うをっと!?」
グン──!!
右手を前に突き出して歩くジンは、いきなり錘を着けられた様に重くなった右手に引きずられるようにその場に転倒する。
「痛ってえ……え~と、どれどれ」
キン──
ジンの瞳が金色の輝きを宿し、ヘヴィ・トータスと、その周囲に張られた重力結界を「組成解析」で読み取る。
「ははあ、なるほどね、これなら──」
「──おいお前、大丈夫か……おまえ、その眼」
重力結界によって転倒したジンを心配したゲンマは、急いで彼の元に駆け寄り引き起こそうとするが、ジンの金色の目を見て息を飲む。
「ちょっとゲンマ何突っ立ってるのよ、ほらジン──?」
シュナもまたゲンマと同様にジンの瞳に驚き、立ち尽くす。
「……やれやれ、お二人の親切さに免じて何もしませんが、ヒミツですぜ?」
ジンは立ち上がると汚れを払い、リオンに手招きをする。
「ジン、どうですか?」
「ああ、問題無いな。それじゃあ……っと、そういえばリオンのソレじゃあマズイな、ゲンマさん、この大剣チョット借りますぜ?」
言うが早いかジンは地面に転がっていたゲンマの大剣をリオンに投げて寄越すと、自分は腰背に刺した蛮刀を引き抜き、逆刃に持って構える。
「……?」
怪訝な表情になる2人をよそにジンは、
「そんじゃリオン、結界を壊すんでその間にアイツの首をソイツで落としてくれや」
「コッチで頭を叩き潰すのではダメなのですか?」
「頭の2本の角が欲しいんだよ。アレは中々のレア素材でね、なに、加工しちまえばギルドに売る義務は無くなるんだから問題無えよ」
道徳的な部分での問題発言をするジンに向かって、ヤレヤレとばかりにリオンは首を振ると、ゲンマの大剣を片手で担いでジンの合図を待つ。
「そんじゃ行くぜ、コイツの特殊能力、魔術殺し発動!」
ブウン──!
ジンの言葉と共に2本の蛮刀の反り上がった峰に光が集まり、やがて光の刃が形成されると、光の刀身は唸りを上げながら小刻みに振動する。
そしてジンはそれを振りかぶり、2本の光剣を重力結界に向かって振り下ろす!
ギャインッ──!!
思わず耳を押えたくなるほどの金属を引き裂くような不快な音が周囲に響き渡ると、ヘヴィ・トータスの周囲が、重力結界の為に歪んで見えた空間が鮮明に見えるようになった。
「リオン、今だ!」
「お任せを!」
ザシュ──!
蛮刀に組み込まれた魔術殺しによって結界が消失、それに気づいたヘヴィ・トータスが再度結界を張りなおす前にリオンの大剣は目の前の首を身体から切り離した。
「おおおお──!!」
ヘヴィ・トータスの首が宙を舞うのを見た周囲から次々に歓声が上がり、ジンとリオンに向かって次々と賛辞が浴びせられる。
その声にジンはこめかみ辺りをポリポリと掻きながら、
「まあ、こんな感じでどうですかね?」
「……言葉も無いな、ジン、ありがとう。約束どおり何でも言ってくれて構わんぞ。俺にできることでよければどんな事でも叶えよう」
「ルフトさん、だからそんな事を言っていると、ジンに全てを毟り取られますよ?」
「リオン、お前は常日頃から俺を何だと思って……なんて目で見るかね、この子は……そうですねえルフトさん、とりあえず、コイツの素材、俺が全部貰ってもいいですかね?」
ジンは足元に転がる魔物の頭と巨大な甲羅を指差して笑う。
「良いも何も、ソイツを倒したのはジンなのだから好きにしてくれて構わんさ、そんな事で借りを返したことには到底ならんよ」
「だったら、俺達は今日はコレ持って一旦上まで戻るんで、この先の情報を仔細漏らさず教えてくれるって事で手を打ちましょうか。ああ、40層までで構いませんよ?」
「ああ、了解した。40層までの迷宮の情報、楽しみに待っててくれ」
ルフトは笑顔でジンの要求に応えると、仲間の元へ走ってゆく。そして、
「よい剣ですね。ありがとう」
「あ、ああ……いや、それよりもジン、お前、さっきのありゃ何だよ!? 重力結界を破壊したってのか?」
今まで呆けていたゲンマは正気に戻ったかと思うと、ジンに詰め寄り疑問を口にする。
野郎に迫られたジンは仰け反りながら、
「近い近い近い、今のはこの剣の特殊能力ですよ。別段俺は何もしちゃいませんぜ?」
「そ、そう、か……あー、その、だな」
ジンから離れるとゲンマは、バツが悪そうにボソボソと喋りながら顔を赤くしてジンから目を逸らす。
それを見たジンは、天上で興奮してそうな毒婦を心の中で罵りながら、
「ゲンマさん、生憎俺は巨乳の女性が大好きな健全な男の子でね、アンタの気持ちにゃ応えられませんぜ?」
「「なっ──!?」」
ゲンマと、そしてなぜかシュナまで顔を赤らめてジンの言葉に驚愕する。
そしてワナワナと身体を震わせるゲンマに対してシュナが、
「ゲンマ、まさかアンタ……?」
「バ、バカ、んな訳があってたまるか!! 俺はシュナが──い、いや、ただコイツのおかげで俺の失態がチャラになったから礼を言おうとしただけだ!!」
真っ赤になって否定するゲンマを見たシュナは、見当違いの想像に赤面し、その恥ずかしさを振り払うようにゲンマの耳を引っ張って仲間の元に戻る。
取り残された形のジン達は、
「そんじゃコイツの解体でもして、今日は地上に帰りますかね」
「ええ~、もう戻るの?」
「どのみちコレを抱えて先には進めませんぜ? 重量はともかく嵩張ってしょうがない」
渋るルディに対し、ジンはコンコンとヘヴィ・トータスの甲羅を手の甲で叩いて無理矢理納得させた。
その後、地上に戻ったルディが亀鍋で機嫌を直したかどうかは定かでは無い──。
ジン達3人が彼等に遭遇したのは、経験上そろそろ階層後半に差し掛かるという所に広がるドーム状の開けた空間でだった。
「おやルフトさんにジェリクさんじゃありませんか?」
「ん? おお、誰かと思えばお前達か、こうして迷宮内で会うのは初めてだな」
「あ~、そういえばそうですねえ、お互い探索者同士なのに珍しい事で」
「イヤ、そんな事は無いぞ……」
常識的に考えて、最古参の探索者と町に来て2ヶ月にも満たない新人探索者が、迷宮内で出会う方がおかしい。しかもその新人はちょくちょく地上で屋台を開いたりしている非常識な連中だ。
「ところで……みなさん、何をしてるんで?」
見れば、30人近い大集団──とはいえ最前線を攻めるのであればもう少し人数が欲しい所だ──が揃いも揃って、広間の中央に座り込んでいる。
ジン達は彼等が休憩でもしているのかと思ったが、どうにも彼等の表情は皆一様に暗い、どちらかと言えば途方に暮れていると言うべきだろうか。
「ああ……ちとやらかしてな」
「やらかしたって、ナニナニ!?」
ここまでの戦闘で手に入れた素材を背嚢につめたルディが、ジンの背後から顔を出してテンション高めな声でルフトに話しかける、その目はトラブルを期待している目だ。
「まあ、隠しても仕方の無い事だが、実は……」
………………………………………………
………………………………………………
「くっそお! ドン亀のクセにちょこまかと動き回りやがってえ!!」
イラついたゲンマが目の前の獲物を追いかけながら毒づく。
ゲンマの前を彼以上の速度で駆けるのは巨大な1体の亀──ヘヴィ・トータス。
ヘヴィ・トータス Bランクモンスター
体高1メートル、全長3メートル、全幅2メートルほどの大型の陸ガメ。
名前に反して動きは機敏で、最高時速40キロで走ることが可能。
長い首は甲羅から1メートルも伸び、その頭部の先には2本の綺麗な円錐状の角が生えている。
2本の角は重力を操る事が可能で、その力を利用してその巨体でありながら高速移動を可能にしている。その為角を折られると途端に鈍重になる。
ゴツゴツした甲羅は非常に軽量かつ頑強で、ヘヴィ・トータスの死骸から剥ぎ取った甲羅をオーガが大盾として使用している場合がある。
※討伐にはまず角を破壊する事
走るゲンマは、ヘヴィ・トータスを追いかける内にドーム状の広い空間に飛び込んでしまった。
「マズイな、こんなだだっ広い所じゃ到底あの速度に追いつけねえ……」
ゲンマはその場に立ち止まると背中の大剣を抜き、両手で肩に担ぐと気合を込める。
ゲンマの周囲が陽炎のように揺らぐと、それを引き起こした高密度の魔力が大剣に注がれてゆく。
そこへ、
「ゲンマ、1人で先に進みすぎ──って、チョット待ちなさい!」
後方から追いついてきたシュナが、ゲンマが何をしようとしているのかを察すると慌てて止めるよう声をかける。
「まかせとけ、ああいう無駄にはしっこいヤツは足を落とせば後は楽勝!」
「そうじゃない! アイツはヘヴィ・トータス、倒そうと思ったら先ず角を」
「オラア!! ゲイルスラッシュ──!!」
「アホゲンマぁぁぁ!!」
ズバアアアア────!!
ゲンマが力の限り大剣を振り下ろすと、轟音と共に洞穴内を見えない大気の刃が疾駆し、ゲンマとヘヴィ・トータスの間の大地に切れ目が走る。
そして大地の切れ目がヘヴィ・トータスまで届くと、
バシュッ──!!
「ギュオオオオ──!!」
ヘヴィ・トータスの口から絶叫が響き、右側の2本の足が関節の辺りから切り飛ばされて宙を舞う。
「やったぜ!!」
喜びの声を上げるゲンマだったがその直後、
ドゴン──!!
ガッツポーズを決めるゲンマの後頭部をシュナの飛び蹴りが炸裂した。
「いでえ!! っつつつ……ってえな、手前シュナ、何しやがんだ一体!?」
「それはコッチの台詞よ! 止めろって言ったでしょ、アレはヘヴィ・トータスだって」
「あ、ヘヴィ・トータス、何だそりゃ?」
シュナの怒りが理解できないゲンマは間の抜けた声を上げると、その声を聞いたシュナはブチ切れる。
「アイツは倒し方があるのよ! 頭の角を破壊してからじゃないとホラ、見なさいアホゲンマ!!」
「あぐおっ!?」
シュナに頭を180度回頭させられ蛙が潰れた様な声を上げながらゲンマは、視線の先のヘヴィ・トータスがバランスを崩して転倒、そのまま何回転かすると、丁度この空間のの向こう側、迷宮の奥へ続く道の前にドスンと鎮座し、そして──
ズン────!!
「なんだぁ!?」
「最悪……」
──ヘヴィ・トータスの特徴、己の身体が傷つき命の危険に晒されると、頭部の2本の角から重力場を発生させ、周囲に重力結界を張る。
広さは半径5メートルの球形で、結界内部では全ての物体の重量が20倍になる。
その為、ヘヴィ・トータスの討伐には先ず2本の角の破壊が最優先となる──
「おいシュナ、あんなの聞いて無えぞ!?」
「言おうとしたのにアンタが先走ったんでしょ!!」
「んだと、俺が悪いってのかよ!?」
「アンタ以外に悪い奴がいるんならアタシが教えて欲しいわよ!!」
ゲンマ達のパーティメンバーやルフト達が現場に到着して見た物は、広間の向こうで重力結界を張る魔物と、シュナの足元で股間を押えて悶絶しているゲンマの姿だった──。
………………………………………………
………………………………………………
「……とまあ」
「ああ……残念な方なんですね、あのゲンマとかいう人」
「実力は折り紙つきなんだがな……」
蜥蜴人のため息は非常に重々しく、本気で困っているのがありありと感じられる。
ジンは周囲を見渡すと、何人か見張りを立てながら交代で休憩を取っている姿が見て取れる。どうやらここで休息を取ろうと言うのだろうが、
「いいんですかい? こんな所に居座ったら、向こうは逃げちゃくれませんぜ?」
「ああ、尤もな話だが、ここから離れたとしても、足を生やして元に戻ったアレと遭遇した時に同じ事にならんとも限らん。それならいっそ持久戦で向こうの体力が尽きるのを待とうという事になってな」
言うは易いが実際に行うとなると、ヘヴィ・トータスの体力が尽きるまで軽く見積もっても1週間、下手をすればその倍かかる可能性もある、彼等の表情はこの場で居続けるストレスと、かかるであろう出費、そして、
「後続の集団に見られたら厄介な事になりそうですねえ」
「………………………………」
ルフトは口ごもる。金と時間はどうとでもなるとしても、別のコミュニティとの衝突が現在考えられる最悪のシナリオ、コレを見て他者への妨害工作と見られてしまえば言い訳も聞かない。
「先行部隊が居ない証明が出来ませんからねえ」
「耳の痛い話だ」
そんな話し込む2人の側で退屈そうにしているルディが、
「ジン、面倒だから何とかしてあげれば?」
「若さん、あのですね……」
「!? ちょっと待てジン、お前、アレを何とかする手段があるのか!?」
ザワッ──!!
ルフトの声に全員の顔が一斉に声の方向に向き、視線がジンと呼ばれた男に集中する。
ジンは視線に晒されながら眉間に指を立て、
「……あのな若さん」
「ここでジッとしてても最低1週間かかるんでしょ? とてもじゃないけど待てないよ。それに、他のコミュニティと険悪な空気になりでもしたら、上でも色々やり難いじゃない。だから、ね?」
「ね、ってあーた……ふぅ、しゃーないか、ルフトさん、一つ貸しですぜ?」
「ああ、この状況が解決できるなら幾らでも貸し付けてくれ!」
「ルフトさん、不用意な事を言ってはいけませんよ。ジンは本当にいくらでも貸し付けますからね」
「人聞きの悪い事言うなよリオン……さて、と」
ジンはルフトから離れると、ヘヴィ・トータスに向かって歩き出す。
その途中、胡坐をかいてむくれているゲンマとその仲間達を通り過ぎると、
「オイ」
「はい?」
「お前、ホントにアレを何とか出来るのかよ。聞いたぜ、レベル63だって」
「ちょっとゲンマ!! えっとジン、だったわね。連れがごめんなさい」
ゲンマの言葉にシュナが謝罪を入れてくるが、ジンはそれを遮り、
「ああ、大丈夫ですよ、別に今から戦闘する訳じゃないんでね。それに、そっちのゲンマさんが俺のレベルが低いのを心配して言ってくれているのは判ってますから」
「ちょ、おま、何言って──!!」
「ハイハイ、後でね……と、結界はこのへん──うをっと!?」
グン──!!
右手を前に突き出して歩くジンは、いきなり錘を着けられた様に重くなった右手に引きずられるようにその場に転倒する。
「痛ってえ……え~と、どれどれ」
キン──
ジンの瞳が金色の輝きを宿し、ヘヴィ・トータスと、その周囲に張られた重力結界を「組成解析」で読み取る。
「ははあ、なるほどね、これなら──」
「──おいお前、大丈夫か……おまえ、その眼」
重力結界によって転倒したジンを心配したゲンマは、急いで彼の元に駆け寄り引き起こそうとするが、ジンの金色の目を見て息を飲む。
「ちょっとゲンマ何突っ立ってるのよ、ほらジン──?」
シュナもまたゲンマと同様にジンの瞳に驚き、立ち尽くす。
「……やれやれ、お二人の親切さに免じて何もしませんが、ヒミツですぜ?」
ジンは立ち上がると汚れを払い、リオンに手招きをする。
「ジン、どうですか?」
「ああ、問題無いな。それじゃあ……っと、そういえばリオンのソレじゃあマズイな、ゲンマさん、この大剣チョット借りますぜ?」
言うが早いかジンは地面に転がっていたゲンマの大剣をリオンに投げて寄越すと、自分は腰背に刺した蛮刀を引き抜き、逆刃に持って構える。
「……?」
怪訝な表情になる2人をよそにジンは、
「そんじゃリオン、結界を壊すんでその間にアイツの首をソイツで落としてくれや」
「コッチで頭を叩き潰すのではダメなのですか?」
「頭の2本の角が欲しいんだよ。アレは中々のレア素材でね、なに、加工しちまえばギルドに売る義務は無くなるんだから問題無えよ」
道徳的な部分での問題発言をするジンに向かって、ヤレヤレとばかりにリオンは首を振ると、ゲンマの大剣を片手で担いでジンの合図を待つ。
「そんじゃ行くぜ、コイツの特殊能力、魔術殺し発動!」
ブウン──!
ジンの言葉と共に2本の蛮刀の反り上がった峰に光が集まり、やがて光の刃が形成されると、光の刀身は唸りを上げながら小刻みに振動する。
そしてジンはそれを振りかぶり、2本の光剣を重力結界に向かって振り下ろす!
ギャインッ──!!
思わず耳を押えたくなるほどの金属を引き裂くような不快な音が周囲に響き渡ると、ヘヴィ・トータスの周囲が、重力結界の為に歪んで見えた空間が鮮明に見えるようになった。
「リオン、今だ!」
「お任せを!」
ザシュ──!
蛮刀に組み込まれた魔術殺しによって結界が消失、それに気づいたヘヴィ・トータスが再度結界を張りなおす前にリオンの大剣は目の前の首を身体から切り離した。
「おおおお──!!」
ヘヴィ・トータスの首が宙を舞うのを見た周囲から次々に歓声が上がり、ジンとリオンに向かって次々と賛辞が浴びせられる。
その声にジンはこめかみ辺りをポリポリと掻きながら、
「まあ、こんな感じでどうですかね?」
「……言葉も無いな、ジン、ありがとう。約束どおり何でも言ってくれて構わんぞ。俺にできることでよければどんな事でも叶えよう」
「ルフトさん、だからそんな事を言っていると、ジンに全てを毟り取られますよ?」
「リオン、お前は常日頃から俺を何だと思って……なんて目で見るかね、この子は……そうですねえルフトさん、とりあえず、コイツの素材、俺が全部貰ってもいいですかね?」
ジンは足元に転がる魔物の頭と巨大な甲羅を指差して笑う。
「良いも何も、ソイツを倒したのはジンなのだから好きにしてくれて構わんさ、そんな事で借りを返したことには到底ならんよ」
「だったら、俺達は今日はコレ持って一旦上まで戻るんで、この先の情報を仔細漏らさず教えてくれるって事で手を打ちましょうか。ああ、40層までで構いませんよ?」
「ああ、了解した。40層までの迷宮の情報、楽しみに待っててくれ」
ルフトは笑顔でジンの要求に応えると、仲間の元へ走ってゆく。そして、
「よい剣ですね。ありがとう」
「あ、ああ……いや、それよりもジン、お前、さっきのありゃ何だよ!? 重力結界を破壊したってのか?」
今まで呆けていたゲンマは正気に戻ったかと思うと、ジンに詰め寄り疑問を口にする。
野郎に迫られたジンは仰け反りながら、
「近い近い近い、今のはこの剣の特殊能力ですよ。別段俺は何もしちゃいませんぜ?」
「そ、そう、か……あー、その、だな」
ジンから離れるとゲンマは、バツが悪そうにボソボソと喋りながら顔を赤くしてジンから目を逸らす。
それを見たジンは、天上で興奮してそうな毒婦を心の中で罵りながら、
「ゲンマさん、生憎俺は巨乳の女性が大好きな健全な男の子でね、アンタの気持ちにゃ応えられませんぜ?」
「「なっ──!?」」
ゲンマと、そしてなぜかシュナまで顔を赤らめてジンの言葉に驚愕する。
そしてワナワナと身体を震わせるゲンマに対してシュナが、
「ゲンマ、まさかアンタ……?」
「バ、バカ、んな訳があってたまるか!! 俺はシュナが──い、いや、ただコイツのおかげで俺の失態がチャラになったから礼を言おうとしただけだ!!」
真っ赤になって否定するゲンマを見たシュナは、見当違いの想像に赤面し、その恥ずかしさを振り払うようにゲンマの耳を引っ張って仲間の元に戻る。
取り残された形のジン達は、
「そんじゃコイツの解体でもして、今日は地上に帰りますかね」
「ええ~、もう戻るの?」
「どのみちコレを抱えて先には進めませんぜ? 重量はともかく嵩張ってしょうがない」
渋るルディに対し、ジンはコンコンとヘヴィ・トータスの甲羅を手の甲で叩いて無理矢理納得させた。
その後、地上に戻ったルディが亀鍋で機嫌を直したかどうかは定かでは無い──。
感想 497
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手元に残ったのは、わずかな生活費と母の形見だけ。居場所を失った彼女のもとへ届いたのは、北の辺境伯グレンからの求婚状だった。
そこに記されていたのは、前夫が一度も見ようとしなかったアメリアの功績。求められたのは跡継ぎを産む妻ではなく、戦争で荒れた領地と屋敷を共に守る伴侶だった。
だが、嫁ぎ先で待っていたのは、親を失い心に傷を抱えた七人の孤児たち。
反発する少年、言葉を閉ざした幼子、飢えを恐れる少女。アメリアは叱るのではなく、一人ずつ寄り添っていく。
やがて子どもたちは彼女を「かあさま」と呼び始める。
そんな幸せを取り戻しかけたある日、彼女を捨てた前夫が再び現れて――。
「お姉様の刺繍は素人ね」と笑った義妹の婚礼衣装——裏地を見た女官十二人が、一斉に針を置いた
歩人(あゆと)「お姉様の刺繍は、素人の手習いに見えますわね」――王太子妃となる異母妹アデリーナは、王宮女官たちの前で姉ローゼを笑った。翌週の婚礼の朝。式典装の最終確認のため、十二人の女官が衣装の裏地を検めた瞬間――一人、また一人と、針を置いた。裏地に縫い込まれていたのは、女官たちが十二年間ずっと探していた一筆の銀糸。即位式の絹外套、二人の王女の婚礼ドレス、亡き王太后の弔意の喪服。王家儀礼衣装のすべての裏地に、同じ手で、同じ糸で、同じ銀の花が縫い込まれていた。「アデリーナ様、これは――あなた様の手では、ございません」縫い手は、ずっと一人だった。それを十二年間、誰の名でも呼べなかっただけのこと。
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~
由香皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。
だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。
しかし彼女は知らなかった。
帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。
これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。