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5章 イズナバール迷宮編
207話 嬉し愉し(官能表現注意)
「ハチさんの針~は、イッタイよね~♪」
「……なんだ、その面妖な歌は?」
高級宿の一室を化学の実験室かと誤認させるほどの機材と素材を並べ、妙なテンポの歌を口ずさむジンに向かって密偵がぼやく。
「失礼な、アンタの依頼を完璧に遂行しようと苦心に苦心を重ね、ちょっと気分転換の為に歌っていただけだろうに」
「貴様の言葉を額面どおりに受け止めるほど、私の頭は能天気では無いぞ?」
宿屋の広い一室で、仲が良いのかそれとも殺伐としてるのか、2人はお互い相手の顔も見ずに言葉のやり取りを続ける。
ジンはここ数日部屋にこもって妙な実験を繰り返している、1人で。
理由は単純明快、みんなにハブられたからだ。
先日の件で災害ランクの指定を受けた魔物は、デイジー以下エルの護衛全員から総スカンを喰らっている現状で、エルの迷宮探訪について行くことが出来なかった。
ジンとしては別段それでも構わなかったのだが、リオンとルディまで面白がって向こう側に回ってしまった為、1人で屋台を開くのも面倒だなと町をぶらつく。
……結果、案の定いろんな奴からユアンとの件を揶揄され、笑いの種にされた。
可哀想にと同情する者、よく堪えたと労う者、そして最も多かった軟弱者と嘲る者。
それら全てを曖昧な笑いでやり過ごして宿屋へ戻るジン、そんな彼の前に彼女達は現れた。
リズムを取るように肩と頭、そして豊かな胸元を上下に揺らす狐獣人と、こちらは職業的なものか、微かな猫背で頭を前後左右に揺らしながら、足音も立てず滑る様に近づいてくる2人の女性。
彼女達はそれぞれモーラとマーニーと名乗り、「ウチのリーダーが失礼を働いたからお詫びがしたい」とデートのお誘いをかけてくる。
「ハイ喜んで!!」
と、足取りも軽く2人を繁華街へ繰り出そうとするジンを制したモーラは、
「ゴメンなさい、今スグってのはムリなの……だから、ね?」
4日後の金曜日を指定され、お預けをくらったジンは仏頂面になるも、2人のサンドイッチ抱擁でデレデレになったジンはあっさりと納得して宿に戻る。
──背中に2人分の悪意の視線を感じながら。
「それで今夜の準備がコレ、か……?」
密偵はジンがテーブルの上で弄くっている液体や細工物ではなく、ベッドの上に用意された薬品入りの小瓶や衣類に目を向ける。
小瓶の中身はおおよそ想像がつくが、なぜわざわざ用意するのか、何の変哲も無いシャツを手に取って顔を近づける。
「不用意に匂いなんか嗅ぐなよ、薬品に一晩ばっちり浸けこんであるぞ、それ」
バッ──!!
即座にシャツを放り投げる密偵を面白そうに眺めながら、
「ホレ、ご注文の品が出来たぞ。名付けるなら「虫刺され」とでもいったところか?」
虫刺され──痛み薬。決して痛み止めではない。
マッド・ビーの毒液から激痛を誘発する成分だけを抽出した液体。
体内に侵入すると激しい痛みで思わず悶絶するほどだが、実際のマッド・ビーの毒とは違い、大量に投与されても痛みが相乗される事は無い。
「「対拷問訓練」に使えそうな道具──自分で依頼しておいてなんだが、よくもこんな簡単に作ったものだな」
「マッド・ビーの毒は今まで色々な薬に使ってるんだが、そういえば激痛成分だけは捨ててたって思ったんだよ。思い返せば勿体無い事をした」
心の底から嘆くジンの態度に、液体をしげしげと眺めながら密偵は冷静にツッコミを入れる。
「……苦心に苦心を重ねたと聞いたばかりだが?」
「……男の見栄は、大きな胸で優しく受け止めてくれるお姉さんがボク、好きだなあ」
「参考意見として聞いておこう」
男の頑張りを褒めてくれない密偵に肩を落としつつ、テーブルの上に置いてある”付け爪”を投げて寄越す。
「これは……極薄の板を2枚、模様を刻んで重ね合わせているのか?」
「ああ、そいつもマッド・ビーの翅で作った付け爪だ。”毛細管現象”で爪の内側に液体を貯める事が出来て、魔力を流せば爪先が針のように変化する。コイツを投与するには最適だろ。硬化処理もしてるから簡単には壊れない、10枚で金貨20枚にしといてやるよ」
ジャララ──。
先程の道具と合わせた金額をテーブルの上に出した密偵は、早速付け爪の具合を確かめ、針を出し入れしては使い勝手の確認に余念が無い。
そして、言い値より若干多めの金貨を懐に納めながらジンは、
「職人の仕事を解ってくれるお客さんはボク、好きだなあ」
「この付け爪、さっきの虫刺され以外の薬品にも使えそうだな」
「……察しの良過ぎるお姉さんはボク、苦手だなぁ」
「参考意見として聞いておこう」
「あ、そうすか……」
テンション低めのジンは、テーブルの機材を片付けるとベッドの上に置いてあるシャツに着替えると胸元や腰のポーチに薬瓶をいれ、今夜の準備を整える。
「そんじゃ行ってくるわ」
シャツの薬品対策か、解毒用の飴玉を舐めながら部屋を出ようとするジンを密偵が呼び止める。
「まあ待て、色々と手間をかけさせた礼とコレの使い勝手の確認も兼ねて、私も混ぜろ」
「……隠れ潜むのが密偵の仕事じゃないのかよ?」
「密偵だとバレないのが密偵の仕事だよ」
「そうだったな……2人がかりならせいぜい派手な祭りにしてやろうかね」
その後、幾つか計画の確認をしたジンと密偵は部屋を出て、別々の方向に歩いて行った──。
………………………………………………
………………………………………………
「やっほ~、コッチコッチ♪」
「いやぁ、モーラさんにマーニーさん、今日という日を指折りして待ってましたよ~♪」
「悪かったねぇ、アタイらもお役目ってのがあってね」
指定された酒場に着いたジンは、腕を絡めてくるモーラに促され、マーニーが待っている卓に連れて行かれる。
席に着いたジンは左腕にモーラの柔らかい胸の感触を、そしてマーニーの媚びるような声とアゴをなぞる指先の感触にだらしなく鼻の下を伸ばす。
勇者の仲間──兼情婦と思われている女達──が、先日一方的に揉め事を起こした相手と親密な空気で密着する。
そんな普通に考えればありえない状況も、酒場の空気は彼等の判断力を鈍らせ、ただただ羨ましいと嫉妬に胸を焦がし、興奮で彼等の鼓動は早くなる。
「お、お役目って言うと?」
「分からない? 迷宮なんかにいつまでも潜ってるとさ、命の危険の連続な訳じゃない。だから平穏な地上に戻るころには……我慢が効かなくなるのよ」
「へ、へえぇぇ……」
「ユアンもかなり溜まるクチでさ、そりゃあスゴイもんだけど、流石に4人もいるとあぶれちゃうのよ」
マーニーが話す中、モーラは絡めたジンの腕を自分の太腿に回すと、そっとジンの手の甲に自分の手を重ねる。
ジンはそんな挑発にまんまと乗り、張りのある太腿を優しく撫でる。
獣人の太腿は、外側は柔らかくも滑りのいい獣毛に覆われるものの内腿は人のソレと変わらず、指先を触れるか触れないか、微妙な加減でなぞるとピクッ、ピクッと反応してくれる。
頬を上気させ目を潤ませるモーラは、ジンの耳元に唇を止せ、
「だけどね、ここんとこ、アンタのせいでお預け状態で困ってるのよ」
「へ?」
寂しそうな右手をモーラの胸元に差し込もうとしたジンは、マヌケな声を出す。
「リーゼっているでしょ? あのコ、ユアンと一番長い付き合いが長いくせに、彼に普段の態度を改めるよう口出しなんかしちゃったのよ」
「へぇ……」
「まったく、相手は辺境の勇者と呼ばれたユアンだってのに、どこの誰に気を使って生きろって言うのかしらねぇ」
2人の口調は心の底からそう思っているようで、ユアンに対する同情と、リーゼに対する義憤が混じっていた。
グリン──!!
モーラに集中するジンを引き戻すように、マーニーはジンを強引に自分に振り向かせるとその唇を指先で撫で、
「おまけにあのコ、アンタから貰ったんだっけ、あのハンカチ? 綺麗に洗って大事そうに持ってるもんだから、ユアンのヤキモチが酷いのよ」
「もう、ホントならアタシたちの順番が回って来てもいいはずなのに、ここ1週間、毎晩リーゼがユアンのお相手してるの……あら、表情が硬いわよ?」
毎晩リーゼと──その言葉を聞いたジンの、太腿をさする指の動きが止まるとモーラは面白そうに手の甲を指でなぞる。
「ジン、アンタもリーゼみたいなコが好みなのかしら? でも残念、あのコはユアンのお気に入りだからね、絶対に手放さないわよ」
「あの……それじゃなんで俺なんかに声を?」
「決まってるじゃない……責任とって貰うためよ」
責任、その言葉の意味が良く分からず首を傾げるジンの、ちょっとマヌケな感じがおかしかったのかモーラとマーニーは笑いながらジンの首に手を回し、
「疼いてしょうがないのよ、カラダが。アタシ達がいくらおねだりしてもリーゼリーゼって、毎晩彼女がグッタリするまで貪った後、自分も満足そうに寝ちゃってさ」
「アンタもさ、一生手に入らない、今夜もユアンの腕の中で喘いでるコの事なんか忘れて、アタイらと愉しもうよ」
わざとリーゼの名前を出してジンの嫉妬心と興奮を煽る彼女達に、それに応じるようにジンはマーニーの腰をグイと引き寄せ、モーラの内腿、さらにその先を弄る。
「……もう、これ以上の事はここじゃダメ、続きは3人だけになれるところで、ね♪」
モーラの囁きにジンも脂下がったイヤらしい笑顔で答え、3人は酒場を後にする。
残されたのは、周囲に漂う異様な空気と、頭に血が上った冒険者および探索者たちだった──。
「──それで、どこに行くのかな?」
2人の腰に腕を回し、お尻を撫でながら粘っこい口調のジンが話しかける。
「もうすぐよ……ホラ、あそこ」
「へぇ、コイツは立派な建物だ」
目の前にそびえるのは宿屋ではなく大きな屋敷で、ユアン達は現在ここに間借りをしているのだそうだ。
間借り、つまりユアンやリーゼもここにいるという事──。
「ね、興奮すると思わない?」
「……いいね」
ゴクリと生唾を飲み込んだジンに、2人は満足そうな表情を浮かべ、門をくぐると屋敷の中へジンを連れ込む。
建物の中に入ったジンは、懐から薬瓶を取り出して飲もうとするが、モーラがそれを取り上げる。
「ジン──これって、何?」
「ああ、これかい? コイツはある商人から今日の為に大枚はたいた特製の薬さ。一口飲むだけで体力が尽きるまで夜通しギンギンに──」
「ふぅん──でもアンタにこれはいらないわ。後でユアンにでもあげようかしら」
「……え?」
ドカッ──!!
「わぶっ!!」
ガシャン──!!
モーラに蹴り飛ばされたジンはロビーの中央まで吹っ飛ぶと倒れこんだ拍子に、腰のポーチに入れていた薬瓶が割れ、その場でシュウシュウと気化し始める。
「モ、モーラ、一体何を!? それにマーニーも?」
「ハンッ、気安く呼ぶんじゃねえよ、低レベルのヘタレ野郎が!!」
「まったく、芝居とはいえあんなヤツに色んな所触られて……後でユアンに消毒してもらわなきゃ」
ドタドタドタ──!!
「え? え?」
困惑するジンをよそに、周りの廊下や階段から、屈強な男達がゾロゾロと集まってくる。
それを見たジンは紅潮していた顔から血の気が引き、真っ青になる。
「キャハハハハ!! そうよ、それ、その顔が見たかったのよ!!」
「──まさか!?」
「今頃気付いたの? 嵌められたのよ、アンタ」
舌なめずりするモーラの口から、絶望の言葉が紡がれた──
・・・・・・R-18には、ならんよね?
「……なんだ、その面妖な歌は?」
高級宿の一室を化学の実験室かと誤認させるほどの機材と素材を並べ、妙なテンポの歌を口ずさむジンに向かって密偵がぼやく。
「失礼な、アンタの依頼を完璧に遂行しようと苦心に苦心を重ね、ちょっと気分転換の為に歌っていただけだろうに」
「貴様の言葉を額面どおりに受け止めるほど、私の頭は能天気では無いぞ?」
宿屋の広い一室で、仲が良いのかそれとも殺伐としてるのか、2人はお互い相手の顔も見ずに言葉のやり取りを続ける。
ジンはここ数日部屋にこもって妙な実験を繰り返している、1人で。
理由は単純明快、みんなにハブられたからだ。
先日の件で災害ランクの指定を受けた魔物は、デイジー以下エルの護衛全員から総スカンを喰らっている現状で、エルの迷宮探訪について行くことが出来なかった。
ジンとしては別段それでも構わなかったのだが、リオンとルディまで面白がって向こう側に回ってしまった為、1人で屋台を開くのも面倒だなと町をぶらつく。
……結果、案の定いろんな奴からユアンとの件を揶揄され、笑いの種にされた。
可哀想にと同情する者、よく堪えたと労う者、そして最も多かった軟弱者と嘲る者。
それら全てを曖昧な笑いでやり過ごして宿屋へ戻るジン、そんな彼の前に彼女達は現れた。
リズムを取るように肩と頭、そして豊かな胸元を上下に揺らす狐獣人と、こちらは職業的なものか、微かな猫背で頭を前後左右に揺らしながら、足音も立てず滑る様に近づいてくる2人の女性。
彼女達はそれぞれモーラとマーニーと名乗り、「ウチのリーダーが失礼を働いたからお詫びがしたい」とデートのお誘いをかけてくる。
「ハイ喜んで!!」
と、足取りも軽く2人を繁華街へ繰り出そうとするジンを制したモーラは、
「ゴメンなさい、今スグってのはムリなの……だから、ね?」
4日後の金曜日を指定され、お預けをくらったジンは仏頂面になるも、2人のサンドイッチ抱擁でデレデレになったジンはあっさりと納得して宿に戻る。
──背中に2人分の悪意の視線を感じながら。
「それで今夜の準備がコレ、か……?」
密偵はジンがテーブルの上で弄くっている液体や細工物ではなく、ベッドの上に用意された薬品入りの小瓶や衣類に目を向ける。
小瓶の中身はおおよそ想像がつくが、なぜわざわざ用意するのか、何の変哲も無いシャツを手に取って顔を近づける。
「不用意に匂いなんか嗅ぐなよ、薬品に一晩ばっちり浸けこんであるぞ、それ」
バッ──!!
即座にシャツを放り投げる密偵を面白そうに眺めながら、
「ホレ、ご注文の品が出来たぞ。名付けるなら「虫刺され」とでもいったところか?」
虫刺され──痛み薬。決して痛み止めではない。
マッド・ビーの毒液から激痛を誘発する成分だけを抽出した液体。
体内に侵入すると激しい痛みで思わず悶絶するほどだが、実際のマッド・ビーの毒とは違い、大量に投与されても痛みが相乗される事は無い。
「「対拷問訓練」に使えそうな道具──自分で依頼しておいてなんだが、よくもこんな簡単に作ったものだな」
「マッド・ビーの毒は今まで色々な薬に使ってるんだが、そういえば激痛成分だけは捨ててたって思ったんだよ。思い返せば勿体無い事をした」
心の底から嘆くジンの態度に、液体をしげしげと眺めながら密偵は冷静にツッコミを入れる。
「……苦心に苦心を重ねたと聞いたばかりだが?」
「……男の見栄は、大きな胸で優しく受け止めてくれるお姉さんがボク、好きだなあ」
「参考意見として聞いておこう」
男の頑張りを褒めてくれない密偵に肩を落としつつ、テーブルの上に置いてある”付け爪”を投げて寄越す。
「これは……極薄の板を2枚、模様を刻んで重ね合わせているのか?」
「ああ、そいつもマッド・ビーの翅で作った付け爪だ。”毛細管現象”で爪の内側に液体を貯める事が出来て、魔力を流せば爪先が針のように変化する。コイツを投与するには最適だろ。硬化処理もしてるから簡単には壊れない、10枚で金貨20枚にしといてやるよ」
ジャララ──。
先程の道具と合わせた金額をテーブルの上に出した密偵は、早速付け爪の具合を確かめ、針を出し入れしては使い勝手の確認に余念が無い。
そして、言い値より若干多めの金貨を懐に納めながらジンは、
「職人の仕事を解ってくれるお客さんはボク、好きだなあ」
「この付け爪、さっきの虫刺され以外の薬品にも使えそうだな」
「……察しの良過ぎるお姉さんはボク、苦手だなぁ」
「参考意見として聞いておこう」
「あ、そうすか……」
テンション低めのジンは、テーブルの機材を片付けるとベッドの上に置いてあるシャツに着替えると胸元や腰のポーチに薬瓶をいれ、今夜の準備を整える。
「そんじゃ行ってくるわ」
シャツの薬品対策か、解毒用の飴玉を舐めながら部屋を出ようとするジンを密偵が呼び止める。
「まあ待て、色々と手間をかけさせた礼とコレの使い勝手の確認も兼ねて、私も混ぜろ」
「……隠れ潜むのが密偵の仕事じゃないのかよ?」
「密偵だとバレないのが密偵の仕事だよ」
「そうだったな……2人がかりならせいぜい派手な祭りにしてやろうかね」
その後、幾つか計画の確認をしたジンと密偵は部屋を出て、別々の方向に歩いて行った──。
………………………………………………
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「やっほ~、コッチコッチ♪」
「いやぁ、モーラさんにマーニーさん、今日という日を指折りして待ってましたよ~♪」
「悪かったねぇ、アタイらもお役目ってのがあってね」
指定された酒場に着いたジンは、腕を絡めてくるモーラに促され、マーニーが待っている卓に連れて行かれる。
席に着いたジンは左腕にモーラの柔らかい胸の感触を、そしてマーニーの媚びるような声とアゴをなぞる指先の感触にだらしなく鼻の下を伸ばす。
勇者の仲間──兼情婦と思われている女達──が、先日一方的に揉め事を起こした相手と親密な空気で密着する。
そんな普通に考えればありえない状況も、酒場の空気は彼等の判断力を鈍らせ、ただただ羨ましいと嫉妬に胸を焦がし、興奮で彼等の鼓動は早くなる。
「お、お役目って言うと?」
「分からない? 迷宮なんかにいつまでも潜ってるとさ、命の危険の連続な訳じゃない。だから平穏な地上に戻るころには……我慢が効かなくなるのよ」
「へ、へえぇぇ……」
「ユアンもかなり溜まるクチでさ、そりゃあスゴイもんだけど、流石に4人もいるとあぶれちゃうのよ」
マーニーが話す中、モーラは絡めたジンの腕を自分の太腿に回すと、そっとジンの手の甲に自分の手を重ねる。
ジンはそんな挑発にまんまと乗り、張りのある太腿を優しく撫でる。
獣人の太腿は、外側は柔らかくも滑りのいい獣毛に覆われるものの内腿は人のソレと変わらず、指先を触れるか触れないか、微妙な加減でなぞるとピクッ、ピクッと反応してくれる。
頬を上気させ目を潤ませるモーラは、ジンの耳元に唇を止せ、
「だけどね、ここんとこ、アンタのせいでお預け状態で困ってるのよ」
「へ?」
寂しそうな右手をモーラの胸元に差し込もうとしたジンは、マヌケな声を出す。
「リーゼっているでしょ? あのコ、ユアンと一番長い付き合いが長いくせに、彼に普段の態度を改めるよう口出しなんかしちゃったのよ」
「へぇ……」
「まったく、相手は辺境の勇者と呼ばれたユアンだってのに、どこの誰に気を使って生きろって言うのかしらねぇ」
2人の口調は心の底からそう思っているようで、ユアンに対する同情と、リーゼに対する義憤が混じっていた。
グリン──!!
モーラに集中するジンを引き戻すように、マーニーはジンを強引に自分に振り向かせるとその唇を指先で撫で、
「おまけにあのコ、アンタから貰ったんだっけ、あのハンカチ? 綺麗に洗って大事そうに持ってるもんだから、ユアンのヤキモチが酷いのよ」
「もう、ホントならアタシたちの順番が回って来てもいいはずなのに、ここ1週間、毎晩リーゼがユアンのお相手してるの……あら、表情が硬いわよ?」
毎晩リーゼと──その言葉を聞いたジンの、太腿をさする指の動きが止まるとモーラは面白そうに手の甲を指でなぞる。
「ジン、アンタもリーゼみたいなコが好みなのかしら? でも残念、あのコはユアンのお気に入りだからね、絶対に手放さないわよ」
「あの……それじゃなんで俺なんかに声を?」
「決まってるじゃない……責任とって貰うためよ」
責任、その言葉の意味が良く分からず首を傾げるジンの、ちょっとマヌケな感じがおかしかったのかモーラとマーニーは笑いながらジンの首に手を回し、
「疼いてしょうがないのよ、カラダが。アタシ達がいくらおねだりしてもリーゼリーゼって、毎晩彼女がグッタリするまで貪った後、自分も満足そうに寝ちゃってさ」
「アンタもさ、一生手に入らない、今夜もユアンの腕の中で喘いでるコの事なんか忘れて、アタイらと愉しもうよ」
わざとリーゼの名前を出してジンの嫉妬心と興奮を煽る彼女達に、それに応じるようにジンはマーニーの腰をグイと引き寄せ、モーラの内腿、さらにその先を弄る。
「……もう、これ以上の事はここじゃダメ、続きは3人だけになれるところで、ね♪」
モーラの囁きにジンも脂下がったイヤらしい笑顔で答え、3人は酒場を後にする。
残されたのは、周囲に漂う異様な空気と、頭に血が上った冒険者および探索者たちだった──。
「──それで、どこに行くのかな?」
2人の腰に腕を回し、お尻を撫でながら粘っこい口調のジンが話しかける。
「もうすぐよ……ホラ、あそこ」
「へぇ、コイツは立派な建物だ」
目の前にそびえるのは宿屋ではなく大きな屋敷で、ユアン達は現在ここに間借りをしているのだそうだ。
間借り、つまりユアンやリーゼもここにいるという事──。
「ね、興奮すると思わない?」
「……いいね」
ゴクリと生唾を飲み込んだジンに、2人は満足そうな表情を浮かべ、門をくぐると屋敷の中へジンを連れ込む。
建物の中に入ったジンは、懐から薬瓶を取り出して飲もうとするが、モーラがそれを取り上げる。
「ジン──これって、何?」
「ああ、これかい? コイツはある商人から今日の為に大枚はたいた特製の薬さ。一口飲むだけで体力が尽きるまで夜通しギンギンに──」
「ふぅん──でもアンタにこれはいらないわ。後でユアンにでもあげようかしら」
「……え?」
ドカッ──!!
「わぶっ!!」
ガシャン──!!
モーラに蹴り飛ばされたジンはロビーの中央まで吹っ飛ぶと倒れこんだ拍子に、腰のポーチに入れていた薬瓶が割れ、その場でシュウシュウと気化し始める。
「モ、モーラ、一体何を!? それにマーニーも?」
「ハンッ、気安く呼ぶんじゃねえよ、低レベルのヘタレ野郎が!!」
「まったく、芝居とはいえあんなヤツに色んな所触られて……後でユアンに消毒してもらわなきゃ」
ドタドタドタ──!!
「え? え?」
困惑するジンをよそに、周りの廊下や階段から、屈強な男達がゾロゾロと集まってくる。
それを見たジンは紅潮していた顔から血の気が引き、真っ青になる。
「キャハハハハ!! そうよ、それ、その顔が見たかったのよ!!」
「──まさか!?」
「今頃気付いたの? 嵌められたのよ、アンタ」
舌なめずりするモーラの口から、絶望の言葉が紡がれた──
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