転生薬師は異世界を巡る(旧題:転生者は異世界を巡る)

山川イブキ(nobuyukisan)

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5章 イズナバール迷宮編

216話 キマイラ討伐・ゲンマSide

 ギン──!! ガギギンッ──!!

「ハッ!! やっぱ戦闘はこうでなくっちゃあよ!」

 ワニ公の背中から生えているオーガが繰り出す2振りの大剣と打ち合いながら俺は、久しぶりに真正面から剣を交える高揚感に満たされる。
 普段なら身長が倍ほども違うオーガと剣で打ち合うなんてのは無理な話だが、上半身しかないコイツとなら同じ目線でやりあえる、こんなシチュエーション、楽しまなきゃあバチが当たるぜ!

 ブオン!!

「あめえ……よっ!」

 ワニ公の背中に立っている俺の、その足場よりも下の位置から斬り上げてくる大剣に対し、俺も『轟雷牙』を斬り上げを合わせて上にいなす。
 さっきからオーガの剣は横から払うか下から斬り上げるかで少しばかり単調だ。まあ、上段からの攻撃を俺が受け止めたらワニの背中が窪んで懲りたんだろうが、こうも同じ動きだとせっかくの楽しみが半減だな。
 それに、俺もオーガと斬り合う為には真正面、それもワニの背中に乗ってなけりゃあいけないから、コイツの剣を上段以外から受け止めたら横に飛ばされちまって戦いにならねえ。どこかに真正面から制約無しで戦える奴はいないもんか……。
 ──ふと、向こうで蜘蛛型のキマイラ相手にほぼ1対1で戦っている女戦士を眺める。
 リオンとかいったか、上から降ってくる2本の三叉槍を、どっかから取り出したでっけえ狼牙棒でいなしちゃあその脇腹や頭を殴ったりしてやがる。
 たまに鳥の頭がブレス──おそらく石化なんだろう──を吐いてるみたいだが、あのゴツイ鎧の力か、彼女の身体を避けるように周囲に拡散される。なるほど、ジンが言った通り、あいつ1人でも余裕で相手が出来そうだ。
 んで、そのジンって野郎は……

「オイオイ……」

 マジかよ、とてもレベル63のヤツが出していいスピードじゃねえだろ、それ?
 ああなる前に何か口元でゴソゴソやってたから恐らく薬の類だろう、たまに薬屋においてあるが余り売れない”加速剤”ってやつか。
 ただあの薬、副作用が厄介な上、2倍の速度で動けても頭ン中まで2倍になる訳じゃないから加速時に戦闘に耐えられない、やばい時の緊急脱出用って使われ方だったはずだ。
 それを蜘蛛の糸をよける為に、しかも完全に糸の動きを見切って無駄な動きを極力排除してやがる、かりに薬の効果に慣れててもあんな動きは出来るはずねえ。
 シュナと会話した時にゃ適当に流してたが、なるほど、確かにアイツは色々と不自然なところが多いな……まあ、関係ねえや、敵って訳でもねえしよ。

 それにしても敵、か……サモン、あのバカ野郎が。
 ユアンとか言うのにそそのかされたらしいが、おおかた俺の轟雷牙が目当てだったんだろう、ほんの少しだけ俺には届かないが、アイツも剣の腕は確かだったしな。そんでもって魔法の腕はアイツの方が優れてた。
 それなのに俺が轟雷牙の所有者に選ばれた事が不満だったらしいが、お前が継承者に選ばれなかったのは性根の部分だっての。
 ……俺はキマイラの後方で2体のフォレストバイパーと戦っているルフト達のパーティに意識を向ける。
 蜥蜴人リザードマンは、山岳・森林・湿原・水源近くと、様々な環境に棲んでいることもあり、どの土地でも比較的対応しやすい槍を好んで扱う。
 ルフトも三叉槍を巧みに扱いフォレストバイパーを1人で1体受け持ち、残りのメンバーがもう一体を片付ける間、引き止め役に徹している。
 それもただの時間稼ぎではなく、ともすればそのまま1人で倒してしまいそうな勢いで槍を使い、相手の攻撃を捌きながらもう一体に対して意識の外から攻撃を仕掛けたりもする、さすがは「異種混合」で代表を務めるだけのことはある。

 異種混合、サモンはそれが気に入らなかった、要は種族間の差別意識ってやつさ。
 現在ライゼンのお偉方は、そういった差別意識・敵愾心を撤廃するためお隣さん・・・・と仲良くなろうと一生懸命だが、古い慣習に縛られたヤツはいまだに少なくない、サモンのヤロウもそうだった。
 俺が継承者に選ばれたのもその辺が絡んでいるのは確かだ、なにせ俺のオヤジは他所の国の出身だからな。まさか代々受け継がれるライゼンの筆頭剣士によそもんの血を引く剣士が、なんて夢にも思わなかっただろう。
 俺はいわば、変わり行くライゼンの象徴みたいに利用されている訳だが、まさかそれがこんな所にまで尾を引くとはね。
 俺にしてみりゃ出自や種族より、目の前のヤツが強いかどうか、それが大切だと思うんだが、由緒正しい家柄ってのはわからねえな。
 まあ、由緒正しい家柄のクセに、俺みたいな他所モン交じりとガキの頃から一緒にいるシュナみたいな変わり者もいる、それこそ家柄で括ったら俺もアイツらと一緒だな。
 そのシュナは今、正面でワニ公の頭と戦ってる。

 ガギンッ!!

「シッ──!! まったく、どこを斬っても硬いわね」

 薙刀の刃がまた弾かれ、シュナが珍しく戦闘中に毒づく。
 ワニの表面を覆う硬い鱗は、垂直、または削ぎ落とすように刃を当てないと、とてもじゃないが刃が入らない。デカブツ相手なおかげでウロコも分厚く、力よりも技重視のシュナじゃあ分が悪い。
 それでも頑張っちゃあいるが、目を狙えば石化の邪眼を抵抗レジストするのに動きが鈍り、柔らかい口の中は奥までが遠いせいで突っ込めばカウンターで噛み殺される。
 っと、

「シュナ!!」
「はい!」

 取り落とさないため、剣を握るオーガの手に力が入ったのを見た俺は、シュナに突進が来る事を教えると、自分も腰を落として揺れに備える。

 ドン──!!

 ──ザシュ!!

 巨体を思わせない速度で跳ぶワニ公をかわしながら、シュナの薙刀が目玉の一つを切り裂いた!

「ギオオオオオーーー!!」

 目を潰されたワニ公が苦しそうに頭をのたうたせ、その影響で俺の足場もグラグラと揺れるが、この程度なら俺は気にならない、むしろオーガの方が揺れてる俺に狙いを定められなくブンブンと剣を闇雲に振り回すだけになっている、チャンスだな。

「んじゃそろそろ決めるぜ、覚悟しな!!」

 俺は横薙ぎに来る一撃を腰を落としてかわし、そのまま踏み込んでオーガの懐に入り込む。そして、

「くらえ、飛翔斬ライザースラッシュ!! からの双牙斬ダブルファング!! 止めの、轟裂波ヘルスマッシャーだあ!!」

 大物相手に使う俺の得意の3連撃、オーガの腹に突き立てた轟雷牙をそのままジャンプしながら胸元まで斬り上げ、そのまま空中で身体を捻って2連斬、オーガの両腕を斬り飛ばす。
 この時点で既に死に体になったオーガに止めの一撃、所有者以外には本来の50キロの重量感のある轟雷牙の、重さを乗せた衝撃波でオーガの身体を押し潰す!

「──────!!」

 ボゴン──!!

 オーガを圧殺した俺の技は、勢い余ってワニ公の胴体と周囲の地面もまとめて押し潰したみたいで、俺が着地する頃にはワニ公は絶命、尻尾のフォレストバイパーも本体が死んだせいで動きが鈍くなり、すぐに串刺しと輪切りにされた。

「フゥ──久々の大技で気分そうか──いぶっ!!」

 額の汗を拭いながら達成感に浸る俺の後頭部を激しい衝撃が襲う、星が、星が見える……。

「あぐぅ……っつつ……シュナだろう!? テメエ、何のつもりで──え!?」

 頭を押えながら振り返るとそこには、全身を赤く染めたシュナがいた。
 戦巫女の戦闘服である緋袴ひばかまがいつにも増して赤々としている、いや、どっちかってえとピンクか? おまけに白衣びゃくえまで赤いとは、まさか!?

「シュナ、大丈夫か? どこか怪我したんじぇねえか!?」

 俺は無意識、そう無意識に白衣の襟元をガバリとめくって中を見る、
 ──それは雪のように白く、しかし先程までの戦闘の影響かほんのり赤みがかったキメの細かい柔肌、そして豊かな谷間を形成する大きな膨らみが2つ、そしてその先端は、

「シュナ! ここ、ここに赤いのが!! まさかワニ公の牙が……ってコレ……あ……」

 そこに在るのは痛々しい噛み傷などではなく、あけに染まった丸く小さな円と中心にある可愛らしい突起物、それは正にシュナの名に相応しい鮮やかな朱色──

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ──。

「ゲ~~~~ン~~~~マ~~~~~」
「イヤ、その……」

 圧殺された瞬間に口から飛び出した内臓、返り血、肉片を全身に浴び、ちょっとイロイロヤバイ感じに臭いシュナが、俺の目の前で胸元をはだけさせたまま般若の形相で迫ってくる。
 あ、オレ死んだ──。

「アンタというお馬鹿はーーーーーーー!!」
「ぎゃああああああああーーーーーーー!!」

 40層での戦闘終了時、一番キズだらけなのはオレに違いない……。



 そしてその後、

「あーもうっ! 馬鹿ゲンマのせいでせっかくの素材も半分以上グチャグチャじゃないの!!」

 オーガとワニ公の胴体はほぼミンチ、完全に無事といえるのはワニ公の頭とオーガの両腕、そして持ってた大剣、フォレストバイパーの素材ってとこか。

「いつつ……いいじゃねえか、別にたいして欲しがるような素材でもねえだろ?」
「アッチは大量のスパイダーシルクを確保してるのよ? 配分は公平にって言ってくれたけど、コッチが出す分が少なかったら貰える量が減るじゃないのよ! あ~、貴重なスパイダーシルク……」

 わからん、あんなネバネバな糸を加工した布切れの何がそんなに有り難いのか……。
 後でジンにでも聞いてみるか、アイツ、ああいうのに詳しそうだしな。
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