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5章 イズナバール迷宮編
236話 帰還
岩山の仲間の元に戻るまでに2度同じ様に敵を仕留めたジンは、アサルトフィッシュから切り落とした、肉の塊に刺さったままの角を慎重に引き抜くと背嚢に収める。
その間ルフトやゲンマ達は、それぞれ距離を開けながらも獲物を仕留める際に無防備になる仲間のフォローが出来る範囲内で展開し、次々と敵の屍を増やしている。
(まあ上位ランクと雑魚相手じゃああなるわな。それより……)
ジンは両者の戦闘を観察しながら、以前から疑問に思っていたことに答えを得たように納得する。
(セオリー通りの戦闘は出来る、集団戦闘も出来る、だけど、どこまで行ってもセオリーから抜け出せんな……)
アサルトフィッシュにとって攻撃手段は角による突撃一択である。それも、単体での突撃か集団での一斉突撃の2種類しかない。
目下のところ、仲間の突撃が失敗したのをフォローするように第2波が仕掛けてきてはいるが、結局のところ各個に潰されている状態だ。
向こうに戦術を思考するだけの判断力さえあれば、巨大な敵相手の一斉突撃を敢行するはずだなのが、いつまで経っても小型の獲物相手の単機突撃しか選択してこない。ジンは敵に思考する能力がないと判断した。
(学習能力はあっても自我は無い……虫と戦ってる気分だな)
基本戦術とそこからの派生、味方の損害は考慮しない、効率重視のまさしく昆虫の戦術でありながら応用にまでは戦術の幅が広がらない、ジンは迷宮産の魔物の戦闘能力をそう断じる。
似非生命──以前ルディがそう口にしたように、迷宮生物の魔力によって創造された魔物は文字通り生命では無く、迷宮生物という身体を保持するための体組織の一つといえる。
生物が摂取した余剰物を排泄するように迷宮生物も、取り込んだ余剰魔力で魔物とそっくりの物体を作り出す。それは、自我は無いものの魔物と同様の行動原理を持ち、同等の本能をもって活動を行う。
探索者たちはそんな、魔物に留まらずポーションや武器などのアイテムまで生み出す迷宮生物に次々と挑んでゆく、その正体を知らぬままに。
彼等がそこで魔物を狩って素材なりアイテムなりを持ち帰り、時に己の骸を迷宮に差し出すことで迷宮生物は、不要な精製物の排除と自分では精製し得ない要素を取り込み、体内の循環を促している。
迷宮生物にとって人間達は大切なお客様であると同時に希少な資源であり、継続的な来訪を促すために階層ごとに難易度を設定、探索者を殺しすぎて忌避されないように、与えすぎて何も得られないように、微妙なさじ加減で共生関係を維持しているのは人間のあずかり知らぬ事情である。
──その意味において、常識外の異物達の存在を迷宮生物がどう捉えているのか、その答えが分かる日は近付いていた。
──ズゥン──ズゥン──
アサルトフィッシュの数が半数を切った頃、なんらかの巨体が地面を踏みしめる衝撃を水伝いに全身に受けるジン達は、50メートル程向こうの岩山から身体を覗かせる巨大な物体を見つけてギョッとする。
そこには、グレートオーシャンクラブが長大なハサミをカチカチと合わせながらこちらにゆっくりと近付いてくる様子が伺えた──。
(やべえ!!)
全員の意識が一つにまとまり、即座に反対側の岩陰に隠れると、巨大な海底の掃除屋が近付いてくるのを息を殺して待つ。
(確かジンの好物じゃなかったっけ?)
(無茶言うな、水中でアレの相手なんざ御免蒙るわ!!)
(とはいえ、このままでは逃げようがありませんね)
周りの連中も、興味深そうに覗き見してはデイジー達に咎められるエルと、シュナにどつかれているヤる気全開のゲンマ以外は、みなどうやってやり過ごすのかと検討中だった。
『ジン、現状アレと戦うのはリスクが高い、やってやれない事は無いだろうが上のアイツらも一緒となると犠牲がな……』
『それがいいと思いますよ。どうせ引き返す時にまた出くわす可能性は高いですし、その時に単体で活動かつ倒したかったら戦闘で良いかと』
『ウム。それでどうする? 俺は他の連中より水中での行動は自信があるので囮になるつもりだ、逃げる先導役をゲンマ、殿をリオンに頼みたいのだが?』
ルフトが至極当然のように己を危険に晒す案を提示してくるが、流石に誰も同意しようとしない、得意だからの一言でリーダーを1人死地に追いやる作戦に誰が同意しようか?
おかげで他のメンバーの視線はジンに集中、「何か別の方法はないか?」「いやお前ならあるだろ?」「頼むわ、ルフトのヤツ言い出したらきかねえんだよ」……とても分かりやすい目つきである。
ユアンの一件以来、悪巧み、もとい秘策と言えばジンなどと思われている現状に、ジンの方も自分の力を見せなくて済む、積極的に戦わずに済むのならと色々提案した結果、いつの間にやら困った時の駆け込み寺扱いのジンだった。
『……とりあえず、囮役は物言わぬお肉さんにでもお願いしましょうか』
『?』
ジンはまたも背嚢をゴソゴソと漁りだす──。
──────────────
──────────────
『それじゃイレーネさん、よろしくお願いします』
『あいよ……シッ──!!』
イレーネの弓術スキルは、水中での失速を見事に計算されたようにグレートオーシャンクラブの出っ張った眼球にコツンと命中、ダメージは無いもののヤツの注意を引く事に成功した。
そこにリオンの投擲した豚肉の塊が弧を描きながらその足元近くに着地し、最近判明した好物の香りに魔物の注意がそがれる。
それを確認したジンが手元の壺の封を開けると、中から漆黒の液体が周囲に染み込み、たちまち暗黒の空間が広がる。
『せっかく綺麗なのが出来上がってたんですがねえ……』
『ただの染料にいつまでもクヨクヨするな!!』
職人にケンカを売るデイジーの発言にせかされたジンは、全員が手を繋ぎあい一つになって、餌場と化した危険地帯を大きく迂回することで事なきを得た。
『……無事に逃げおおせたな』
『2度目はありませんよ、手持ちが有りませんからね』
『仕方あるまい、地上に戻る時は単体で遭遇する事を期待しよう』
その後、例の大物がやって来た付近を探索すると下の階層への通路を発見、やっと水浸しの状態から解放されたメンバーは全員その場で深呼吸を繰り返していた。
通路の途中で野営を行いずぶ濡れの服とふやけた身体を元に戻し、休憩の後に44層の概容だけ確認しようと更に下へ、そこで見たものは──
「…………………………………………」
一面に広がる砂漠に全員嘆息し、次回の探索には大量の樽を用意しようという事で地上に戻る事になったという。
帰りの道中、通路付近に陣取るグレートオーシャンクラブと復活したグラトニーを討伐して地上へ戻った異種混合の一向は、
「……みなさん、迷宮に潜ってきたんですよね?」
「他のどこに行ってきたと?」
「ですよね……」
カウンターに並べたアサルトフィッシュの角やグレートオーシャンクラブの甲羅に困惑するラフィニアは、首を傾げながら事務所の奥へ姿を消した。
「まあ普通、迷宮内部で海産物が採れるとは思わんよなあ……」
ジンの呟きにギルド内で一杯ひっかけていた連中はウンウンと頷き、最下層から戻ってきた異種混合のメンバーから内部の情報を聞き出そうと、しきりに飲みのお誘いをかけていたが、全て不発に終わっていたのは当然と言えば当然だった。
ちなみに、43層で汲んだ魔化水は3日程で効果を失ったのが確認され、上の階層で使おうという計画は立ち消えとなる。商売をするつもりは無いと言っていたジンが若干不機嫌だったのははたして何が原因だったのか──。
数日後、ジン達が2度目の最下層攻略に出発するのと前後して「死山血河」「乾坤一擲」「千変万化」の3つのコミュニティが40層を攻略したとギルドに報告が上がる。
それは図ったように3つ同時期の階層突破だった──。
その間ルフトやゲンマ達は、それぞれ距離を開けながらも獲物を仕留める際に無防備になる仲間のフォローが出来る範囲内で展開し、次々と敵の屍を増やしている。
(まあ上位ランクと雑魚相手じゃああなるわな。それより……)
ジンは両者の戦闘を観察しながら、以前から疑問に思っていたことに答えを得たように納得する。
(セオリー通りの戦闘は出来る、集団戦闘も出来る、だけど、どこまで行ってもセオリーから抜け出せんな……)
アサルトフィッシュにとって攻撃手段は角による突撃一択である。それも、単体での突撃か集団での一斉突撃の2種類しかない。
目下のところ、仲間の突撃が失敗したのをフォローするように第2波が仕掛けてきてはいるが、結局のところ各個に潰されている状態だ。
向こうに戦術を思考するだけの判断力さえあれば、巨大な敵相手の一斉突撃を敢行するはずだなのが、いつまで経っても小型の獲物相手の単機突撃しか選択してこない。ジンは敵に思考する能力がないと判断した。
(学習能力はあっても自我は無い……虫と戦ってる気分だな)
基本戦術とそこからの派生、味方の損害は考慮しない、効率重視のまさしく昆虫の戦術でありながら応用にまでは戦術の幅が広がらない、ジンは迷宮産の魔物の戦闘能力をそう断じる。
似非生命──以前ルディがそう口にしたように、迷宮生物の魔力によって創造された魔物は文字通り生命では無く、迷宮生物という身体を保持するための体組織の一つといえる。
生物が摂取した余剰物を排泄するように迷宮生物も、取り込んだ余剰魔力で魔物とそっくりの物体を作り出す。それは、自我は無いものの魔物と同様の行動原理を持ち、同等の本能をもって活動を行う。
探索者たちはそんな、魔物に留まらずポーションや武器などのアイテムまで生み出す迷宮生物に次々と挑んでゆく、その正体を知らぬままに。
彼等がそこで魔物を狩って素材なりアイテムなりを持ち帰り、時に己の骸を迷宮に差し出すことで迷宮生物は、不要な精製物の排除と自分では精製し得ない要素を取り込み、体内の循環を促している。
迷宮生物にとって人間達は大切なお客様であると同時に希少な資源であり、継続的な来訪を促すために階層ごとに難易度を設定、探索者を殺しすぎて忌避されないように、与えすぎて何も得られないように、微妙なさじ加減で共生関係を維持しているのは人間のあずかり知らぬ事情である。
──その意味において、常識外の異物達の存在を迷宮生物がどう捉えているのか、その答えが分かる日は近付いていた。
──ズゥン──ズゥン──
アサルトフィッシュの数が半数を切った頃、なんらかの巨体が地面を踏みしめる衝撃を水伝いに全身に受けるジン達は、50メートル程向こうの岩山から身体を覗かせる巨大な物体を見つけてギョッとする。
そこには、グレートオーシャンクラブが長大なハサミをカチカチと合わせながらこちらにゆっくりと近付いてくる様子が伺えた──。
(やべえ!!)
全員の意識が一つにまとまり、即座に反対側の岩陰に隠れると、巨大な海底の掃除屋が近付いてくるのを息を殺して待つ。
(確かジンの好物じゃなかったっけ?)
(無茶言うな、水中でアレの相手なんざ御免蒙るわ!!)
(とはいえ、このままでは逃げようがありませんね)
周りの連中も、興味深そうに覗き見してはデイジー達に咎められるエルと、シュナにどつかれているヤる気全開のゲンマ以外は、みなどうやってやり過ごすのかと検討中だった。
『ジン、現状アレと戦うのはリスクが高い、やってやれない事は無いだろうが上のアイツらも一緒となると犠牲がな……』
『それがいいと思いますよ。どうせ引き返す時にまた出くわす可能性は高いですし、その時に単体で活動かつ倒したかったら戦闘で良いかと』
『ウム。それでどうする? 俺は他の連中より水中での行動は自信があるので囮になるつもりだ、逃げる先導役をゲンマ、殿をリオンに頼みたいのだが?』
ルフトが至極当然のように己を危険に晒す案を提示してくるが、流石に誰も同意しようとしない、得意だからの一言でリーダーを1人死地に追いやる作戦に誰が同意しようか?
おかげで他のメンバーの視線はジンに集中、「何か別の方法はないか?」「いやお前ならあるだろ?」「頼むわ、ルフトのヤツ言い出したらきかねえんだよ」……とても分かりやすい目つきである。
ユアンの一件以来、悪巧み、もとい秘策と言えばジンなどと思われている現状に、ジンの方も自分の力を見せなくて済む、積極的に戦わずに済むのならと色々提案した結果、いつの間にやら困った時の駆け込み寺扱いのジンだった。
『……とりあえず、囮役は物言わぬお肉さんにでもお願いしましょうか』
『?』
ジンはまたも背嚢をゴソゴソと漁りだす──。
──────────────
──────────────
『それじゃイレーネさん、よろしくお願いします』
『あいよ……シッ──!!』
イレーネの弓術スキルは、水中での失速を見事に計算されたようにグレートオーシャンクラブの出っ張った眼球にコツンと命中、ダメージは無いもののヤツの注意を引く事に成功した。
そこにリオンの投擲した豚肉の塊が弧を描きながらその足元近くに着地し、最近判明した好物の香りに魔物の注意がそがれる。
それを確認したジンが手元の壺の封を開けると、中から漆黒の液体が周囲に染み込み、たちまち暗黒の空間が広がる。
『せっかく綺麗なのが出来上がってたんですがねえ……』
『ただの染料にいつまでもクヨクヨするな!!』
職人にケンカを売るデイジーの発言にせかされたジンは、全員が手を繋ぎあい一つになって、餌場と化した危険地帯を大きく迂回することで事なきを得た。
『……無事に逃げおおせたな』
『2度目はありませんよ、手持ちが有りませんからね』
『仕方あるまい、地上に戻る時は単体で遭遇する事を期待しよう』
その後、例の大物がやって来た付近を探索すると下の階層への通路を発見、やっと水浸しの状態から解放されたメンバーは全員その場で深呼吸を繰り返していた。
通路の途中で野営を行いずぶ濡れの服とふやけた身体を元に戻し、休憩の後に44層の概容だけ確認しようと更に下へ、そこで見たものは──
「…………………………………………」
一面に広がる砂漠に全員嘆息し、次回の探索には大量の樽を用意しようという事で地上に戻る事になったという。
帰りの道中、通路付近に陣取るグレートオーシャンクラブと復活したグラトニーを討伐して地上へ戻った異種混合の一向は、
「……みなさん、迷宮に潜ってきたんですよね?」
「他のどこに行ってきたと?」
「ですよね……」
カウンターに並べたアサルトフィッシュの角やグレートオーシャンクラブの甲羅に困惑するラフィニアは、首を傾げながら事務所の奥へ姿を消した。
「まあ普通、迷宮内部で海産物が採れるとは思わんよなあ……」
ジンの呟きにギルド内で一杯ひっかけていた連中はウンウンと頷き、最下層から戻ってきた異種混合のメンバーから内部の情報を聞き出そうと、しきりに飲みのお誘いをかけていたが、全て不発に終わっていたのは当然と言えば当然だった。
ちなみに、43層で汲んだ魔化水は3日程で効果を失ったのが確認され、上の階層で使おうという計画は立ち消えとなる。商売をするつもりは無いと言っていたジンが若干不機嫌だったのははたして何が原因だったのか──。
数日後、ジン達が2度目の最下層攻略に出発するのと前後して「死山血河」「乾坤一擲」「千変万化」の3つのコミュニティが40層を攻略したとギルドに報告が上がる。
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