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5章 イズナバール迷宮編
245話 邪竜、再誕
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「我、世界に呼びかける、彼方と此方を結ぶ道、繋ぎし門をわが前に、”門” ──逃亡者みたいな強制転移は出来ても、常時繋げる転移門は使えそうに無い、か」
転移魔法の使えない事を確認したジンは、戦闘の幅が狭まった事と逃走手段の無い事にため息をつき、改めて気を引き締める。
「ウルルルルル──」
ヌゾッ──
崩落した床のおかげで高さを得たフロアにヴリトラが立ち上がる。
直立すると20メートルを越える巨体は、丁度頭部がジンの立っている床の高さと重なり、175㎝ほどの彼と視線が絡む。
イズナバール迷宮の最下層、迷宮生物が誕生して以来の激しい戦闘の火蓋は、一人の観客も居ないところで切って落とされた。
スゥゥゥゥ──
「またブレスか! ──”断空”!!」
ゴオオオオオ──!!
両者の間に再度見えない空間の断絶が発生し、ヴリトラの吐く炎はジンの元まで届かない。
しかし今度は先ほどの効果時間を覚えていたのか、ブレスは途切れる事無くその大きな口から放たれ、やがて──
「ちっ! しつこいヤツだな!!」
シュッ──!
たまらずジンは毒づくと、その場をダッシュで離れる。
しかしヴリトラはそれを待っていたのか、炎の壁から飛び出す影を左目の視界に収めると、
──ボグゥ!!
ジンの立つ床より低い位置からその左の前肢を振り上げ、床ごと足場を破壊、中に舞うそれをしっかりと掴んで握り締める!
「──────?」
「────はい残念」
不意に聞こえる小さな声にヴリトラは視線を巡らし──
ドスッ!!
「グルウアアアアアア──!!」
頭上から降ってきた矢の形をした鉄杭に右目を貫かれたヴリトラは絶叫を上げる。
空気を震わす咆哮は、それこそ全ての生命に恐怖を植え付け、抵抗する気力を奪い去るほどの威圧が込められていたが、ジンはどこふく風で、
「あいにく、やられたらやり返すのが俺の信条でね」
鉄杭の鏃の返し部分に空いた穴から何やら液体のようなものが流れ出すと、ヴリトラの絶叫に悲痛なニュアンスが含まれてくる。
「ギャアアアアアオオオオオ!!」
「人に向かって腐食の呪いなんかかけんじゃねえよ」
ヴリトラの右目は見る間に紫色に変色し、数秒もすればドロリと爛れ落ちて行った。
(お主という奴は……)
(あん? 賞賛の言葉しか受け付けねえぞ?)
空飛ぶマントを羽織り空中に静止するジンを左目一つで睨むヴリトラ、その瞳に感情の色は無く、およそ知性を持つ竜・魔竜のものとは違い、まるでただの爬虫類のようにも見える。
「なるほど……自我が無いってのは確かにやり難いな」
逆上して両腕を振り回してくるのを期待していたジンは、拍子抜けしながらも次の手を思案しながらヴリトラの頭上を旋回する。
「グルアアア──!!」
「またブレスか? 芸の無い!!」
ヴリトラの炎の息吹に再度「断空」を合わせるジン、しかし今度は炎の攻撃は直ぐに収まり──
「ガハアアアアアアア!!」
魔法封じのブレスが放たれると、ジンの眼前に広がる空間の断絶が掻き消える!
──ドズン!!
「悪いな、それも想定済みだ」
再度魔弓から鉄杭が放たれるが、今度の鉄杭は眼球を潰したものよりも太く、そして槍のような長さを持っていた。
渾身の威力で打ち出された鉄杭はアサルトフィッシュの鼻先のように鏃が連結したような形状をしており、魔法封じのブレスを吐く為に開いた口の中に向かって一直線に吸い込まれた。そして上顎に刺さったそれは、ヴリトラが口を閉じようとする度に激しい痛みを与え、その口を閉じる事を拒む。
ブレスを吐くために一旦口を閉じる必要のあるヴリトラにしてみれば、攻撃手段の一つを封じられたに等しい行為だった。
ジンは千載一遇のチャンスと、魔弓を異空間バッグに収めると得物を星球武器に持ち替え、ヤツの死角から急降下し、右上腕にそれを叩きつけた──。
「ガアアアッ!!」
呪いのせいで制限されているとはいえ、ジンの渾身の力で振るった一撃はヴリトラの鱗を砕き、その奥の肉にヴリトラの牙から作られた突起を埋め込む。
──ガチャン!!
金属音と共にアースブレイカー本体からスパイクが外れ、そこから更に2撃目を入れて2本目の牙を打ち込む。
2本目を打ち込んだことで、右腕に痛みとは別の違和感を感じ取ったヴリトラはそのまま腕を振り回し続け、羽虫を追い払うようにジンを近づけないように威嚇すると、今度はそれに意識を向けているジンに向かって左腕を大きく振り回す!
「がはっ!?」
不意をつかれたジンは咄嗟に体を丸めると、逃げるのではなく逆にヴリトラに近寄り、牙で引き裂かれるのではなく掌ではたき込まれる事を選択、そのまま水平に飛ばされて壁に叩き付けられる。
ガラン!
壁に体を3分の1ほど埋め込まれ、砕けた右手はアースブレイカーを床に落とす。
「ーーーーーーーーーーあああっ!」
全身の骨がミシミシと唸りをあげる中、頭から血を流しながらジンは空気を肺一杯に吸い込むと、埋まった腕の骨が砕けるのも厭わずその場から這い出すとそのまま床に倒れこみ、
バガンッ!!
──間一髪、ヴリトラの張り手を回避する。
ジンは急いで肩口から取り出した中級回復薬を飲むと、完治するのを待たずにアースブレイカーを掴んでその場を脱し、そのまま時計回りにヴリトラの死角に回り込もうと走る。
それを追いかけるようにヴリトラは、突き出した左腕で壁をガリガリと爪で削りながら徐々にジンを追い詰める。
「ちいっ! 自我が無いくせに嫌らしい攻め方するじゃねえかよ!」
力一杯腕を振り抜いてくれるのであれば、タイミングを合わせての回避から反撃に移る事もできるが、学習したのかヴリトラは、ジンに先手を取らせるように戦い方を修正してきた。
焦らず、潰された右の視界での無理を行わず、ジンが何かアクションを起こすまでそのまま待ち続ける。今のジンにとっては一番厄介な状況である。
エアライダーで飛び上がるには踏み切る為のタメが必要、しかもトップスピードになるまで時間を要するためそこを狙い撃ちされるのは確実で、現状走る速度にはまだ余裕があるが、今加速したとしてもヴリトラもそれに合わせてくるはず。
何より、壁に爪を立てているヴリトラはいわばデコピンの発射体制、しかも常にスタンバイの状態でジンを追いかける事が出来る。
そして最悪な事に、ジンの目の前には先ほどヴリトラによって破壊された、床の切れ目が存在していた──。
「……飛び越える間を捕らえられたら終わりだが……」
ジンは前方の穴を逆手に取るべくマントに魔力を集中──
──ドウン!!
グラッ!
「なっ!?」
マントを使って飛び降りる準備をしていたジンは、そこに辿り着く手前でヴリトラの思わぬ攻撃にたたらを踏む。
意識の外にやっていたヴリトラの右腕が突如フロアの床を殴りつけ、その衝撃でつんのめったジンに向かって本命の左爪が、壁の抵抗を失いただ振りかぶるよりも高速でジンに襲い掛かる──!!
「く──そがあっ!!」
丁度体勢が前のめりになっていた事と、右腕を使ったためジンに向かって正面を向いてしまった状態からではそこまでの加速に至らなかった幸運が重なり、ジンはクラウチングスタートの状態からエアライダーを起動させ、かろうじて爪の一撃から逃れる!
そしてそのままヴリトラの脇に回りこむと、アースブレイカーを振りかぶり、
「これで……3本目ぇ!!」
──ガシュン!!
星球武器の3本目の突起がヴリトラの腕に叩き込まれると、
ヴヴヴヴヴヴヴヴ──
「グウウウウウウアアアアアア──!!」
激しい振動音と唸り声と共にヴリトラの右腕が歪に踊り、そして──
ザッ──ブシュウウウ!!
切断されたのではない、塵芥と化した分離面を残してヴリトラの右腕は崩落した床の底へ落下し、腕の付け根からは勢いよく血が噴き出す。
「よっしゃ! って、ん……? なあっ!!」
ガクン──
ジンが喜びの声を上げたのも束の間、空飛ぶマントから急に浮力が失われ、そのまま10メートル以上の高さから落下する。
ドン──
「~~~~~~っつつつ、何が……まさか!?」
ジンは再度飛行しようと魔力を流すが、浮力をマントから放出する端から次々に霧散してゆく
──崩落した空間は魔法封じのブレスで満たされていた。
「ウルルルルルルルゥ──」
(油断したな──)
「うるせえよ! ────!!」
ブオン!!
狭い陥没空間で器用に回転したヴリトラが勢いよく尻尾を振り回す。
ジンはそれを身を屈めてかわすが、
ドシィィン──
続くヴリトラの、まるで四股を踏んだようなストンピングによってその身体を空中に放り出されると、ついに無事な左手に囚われてしまう。
バギボギバギ──!!
「がああああああああ!!」
掴んだ瞬間ヴリトラがその手に力を込めると、ジンの全身の骨は一気に砕かれ、その衝撃にジンは白目を剥き、絶叫と共に泡を吹く。
「はっ……はっ………は……………」
肺に刺さる骨を刺激しないよう、最小限の呼吸を行うジンは、苦痛に顔を歪めながら片目を開け、仇敵の様子を伺う。
(チッ…………欠片も油断する気配がねえ、こりゃ詰んだな)
(諦めるのが早いのう、情けない……)
脳内に響くブライティアの声に叱咤する様子は伺えず、ただ呆れているようだった。
(悪かったな……どうせ俺はこんなモンだよ)
(だから最初から言ったであろう、全力で挑めと)
(……阿呆か、それこそ出来るはずがねえだろ!)
(なるほど……確かに甘っちょろくなったのう、この期に及んで我の心配とはの)
(……………………………………)
(どれ、ならば我が少しだけ手を貸してくれるわ)
(なにを? ………………おい、テメエ!!)
ヴオン────
ジンの身体から光が溢れると、その眼前に白く輝く30センチほどの光の玉が現れる。
「おい、コラ、何のつもりだ!?」
『我を封印したままでは全力が出せぬのだろう? ならばその枷、我が外してくれよう』
「そういう事言ってんじゃねえよ!!」
『ほんにお主は甘いのう……また我を邪竜にしたくないと本気で思っておるのなら、今度こそ我を打ち倒してみせい』
「……………………………………」
『これでもお主の中で世界を見るのは我の最近のとれんどというやつなのでな、さっさとアレを倒して我を取り戻せよ』
ブライティアの竜宝珠はそう言うと、ヴリトラの体内に消える。
そして────
『グ……ガ…………ゴアアアアアア!!』
ヴリトラは今日一番の激しい雄たけびを上げると、
『シン……ドゥラ…………シンドゥラアアアアア!!』
「ったく、どいつもこいつも俺に変な期待ばっかしやがって……」
『殺してくれる、あの者と同じ世界からやって来た勇者めがああああ!!』
「俺は勇者じゃ無えっつってんだろ、このクソトカゲが!!」
ブチャア──!!
全身の骨を砕かれ、それでも内から流れ込む魔力によって強化された筋肉だけで四肢を動かすジン──シンは、自身を掴んでいたヴリトラの指を引き千切る!
『シイイインンンンドゥゥゥゥラアアアア!!』
「気安く呼ぶんじゃねえよ、負け犬が──!!」
転移魔法の使えない事を確認したジンは、戦闘の幅が狭まった事と逃走手段の無い事にため息をつき、改めて気を引き締める。
「ウルルルルル──」
ヌゾッ──
崩落した床のおかげで高さを得たフロアにヴリトラが立ち上がる。
直立すると20メートルを越える巨体は、丁度頭部がジンの立っている床の高さと重なり、175㎝ほどの彼と視線が絡む。
イズナバール迷宮の最下層、迷宮生物が誕生して以来の激しい戦闘の火蓋は、一人の観客も居ないところで切って落とされた。
スゥゥゥゥ──
「またブレスか! ──”断空”!!」
ゴオオオオオ──!!
両者の間に再度見えない空間の断絶が発生し、ヴリトラの吐く炎はジンの元まで届かない。
しかし今度は先ほどの効果時間を覚えていたのか、ブレスは途切れる事無くその大きな口から放たれ、やがて──
「ちっ! しつこいヤツだな!!」
シュッ──!
たまらずジンは毒づくと、その場をダッシュで離れる。
しかしヴリトラはそれを待っていたのか、炎の壁から飛び出す影を左目の視界に収めると、
──ボグゥ!!
ジンの立つ床より低い位置からその左の前肢を振り上げ、床ごと足場を破壊、中に舞うそれをしっかりと掴んで握り締める!
「──────?」
「────はい残念」
不意に聞こえる小さな声にヴリトラは視線を巡らし──
ドスッ!!
「グルウアアアアアア──!!」
頭上から降ってきた矢の形をした鉄杭に右目を貫かれたヴリトラは絶叫を上げる。
空気を震わす咆哮は、それこそ全ての生命に恐怖を植え付け、抵抗する気力を奪い去るほどの威圧が込められていたが、ジンはどこふく風で、
「あいにく、やられたらやり返すのが俺の信条でね」
鉄杭の鏃の返し部分に空いた穴から何やら液体のようなものが流れ出すと、ヴリトラの絶叫に悲痛なニュアンスが含まれてくる。
「ギャアアアアアオオオオオ!!」
「人に向かって腐食の呪いなんかかけんじゃねえよ」
ヴリトラの右目は見る間に紫色に変色し、数秒もすればドロリと爛れ落ちて行った。
(お主という奴は……)
(あん? 賞賛の言葉しか受け付けねえぞ?)
空飛ぶマントを羽織り空中に静止するジンを左目一つで睨むヴリトラ、その瞳に感情の色は無く、およそ知性を持つ竜・魔竜のものとは違い、まるでただの爬虫類のようにも見える。
「なるほど……自我が無いってのは確かにやり難いな」
逆上して両腕を振り回してくるのを期待していたジンは、拍子抜けしながらも次の手を思案しながらヴリトラの頭上を旋回する。
「グルアアア──!!」
「またブレスか? 芸の無い!!」
ヴリトラの炎の息吹に再度「断空」を合わせるジン、しかし今度は炎の攻撃は直ぐに収まり──
「ガハアアアアアアア!!」
魔法封じのブレスが放たれると、ジンの眼前に広がる空間の断絶が掻き消える!
──ドズン!!
「悪いな、それも想定済みだ」
再度魔弓から鉄杭が放たれるが、今度の鉄杭は眼球を潰したものよりも太く、そして槍のような長さを持っていた。
渾身の威力で打ち出された鉄杭はアサルトフィッシュの鼻先のように鏃が連結したような形状をしており、魔法封じのブレスを吐く為に開いた口の中に向かって一直線に吸い込まれた。そして上顎に刺さったそれは、ヴリトラが口を閉じようとする度に激しい痛みを与え、その口を閉じる事を拒む。
ブレスを吐くために一旦口を閉じる必要のあるヴリトラにしてみれば、攻撃手段の一つを封じられたに等しい行為だった。
ジンは千載一遇のチャンスと、魔弓を異空間バッグに収めると得物を星球武器に持ち替え、ヤツの死角から急降下し、右上腕にそれを叩きつけた──。
「ガアアアッ!!」
呪いのせいで制限されているとはいえ、ジンの渾身の力で振るった一撃はヴリトラの鱗を砕き、その奥の肉にヴリトラの牙から作られた突起を埋め込む。
──ガチャン!!
金属音と共にアースブレイカー本体からスパイクが外れ、そこから更に2撃目を入れて2本目の牙を打ち込む。
2本目を打ち込んだことで、右腕に痛みとは別の違和感を感じ取ったヴリトラはそのまま腕を振り回し続け、羽虫を追い払うようにジンを近づけないように威嚇すると、今度はそれに意識を向けているジンに向かって左腕を大きく振り回す!
「がはっ!?」
不意をつかれたジンは咄嗟に体を丸めると、逃げるのではなく逆にヴリトラに近寄り、牙で引き裂かれるのではなく掌ではたき込まれる事を選択、そのまま水平に飛ばされて壁に叩き付けられる。
ガラン!
壁に体を3分の1ほど埋め込まれ、砕けた右手はアースブレイカーを床に落とす。
「ーーーーーーーーーーあああっ!」
全身の骨がミシミシと唸りをあげる中、頭から血を流しながらジンは空気を肺一杯に吸い込むと、埋まった腕の骨が砕けるのも厭わずその場から這い出すとそのまま床に倒れこみ、
バガンッ!!
──間一髪、ヴリトラの張り手を回避する。
ジンは急いで肩口から取り出した中級回復薬を飲むと、完治するのを待たずにアースブレイカーを掴んでその場を脱し、そのまま時計回りにヴリトラの死角に回り込もうと走る。
それを追いかけるようにヴリトラは、突き出した左腕で壁をガリガリと爪で削りながら徐々にジンを追い詰める。
「ちいっ! 自我が無いくせに嫌らしい攻め方するじゃねえかよ!」
力一杯腕を振り抜いてくれるのであれば、タイミングを合わせての回避から反撃に移る事もできるが、学習したのかヴリトラは、ジンに先手を取らせるように戦い方を修正してきた。
焦らず、潰された右の視界での無理を行わず、ジンが何かアクションを起こすまでそのまま待ち続ける。今のジンにとっては一番厄介な状況である。
エアライダーで飛び上がるには踏み切る為のタメが必要、しかもトップスピードになるまで時間を要するためそこを狙い撃ちされるのは確実で、現状走る速度にはまだ余裕があるが、今加速したとしてもヴリトラもそれに合わせてくるはず。
何より、壁に爪を立てているヴリトラはいわばデコピンの発射体制、しかも常にスタンバイの状態でジンを追いかける事が出来る。
そして最悪な事に、ジンの目の前には先ほどヴリトラによって破壊された、床の切れ目が存在していた──。
「……飛び越える間を捕らえられたら終わりだが……」
ジンは前方の穴を逆手に取るべくマントに魔力を集中──
──ドウン!!
グラッ!
「なっ!?」
マントを使って飛び降りる準備をしていたジンは、そこに辿り着く手前でヴリトラの思わぬ攻撃にたたらを踏む。
意識の外にやっていたヴリトラの右腕が突如フロアの床を殴りつけ、その衝撃でつんのめったジンに向かって本命の左爪が、壁の抵抗を失いただ振りかぶるよりも高速でジンに襲い掛かる──!!
「く──そがあっ!!」
丁度体勢が前のめりになっていた事と、右腕を使ったためジンに向かって正面を向いてしまった状態からではそこまでの加速に至らなかった幸運が重なり、ジンはクラウチングスタートの状態からエアライダーを起動させ、かろうじて爪の一撃から逃れる!
そしてそのままヴリトラの脇に回りこむと、アースブレイカーを振りかぶり、
「これで……3本目ぇ!!」
──ガシュン!!
星球武器の3本目の突起がヴリトラの腕に叩き込まれると、
ヴヴヴヴヴヴヴヴ──
「グウウウウウウアアアアアア──!!」
激しい振動音と唸り声と共にヴリトラの右腕が歪に踊り、そして──
ザッ──ブシュウウウ!!
切断されたのではない、塵芥と化した分離面を残してヴリトラの右腕は崩落した床の底へ落下し、腕の付け根からは勢いよく血が噴き出す。
「よっしゃ! って、ん……? なあっ!!」
ガクン──
ジンが喜びの声を上げたのも束の間、空飛ぶマントから急に浮力が失われ、そのまま10メートル以上の高さから落下する。
ドン──
「~~~~~~っつつつ、何が……まさか!?」
ジンは再度飛行しようと魔力を流すが、浮力をマントから放出する端から次々に霧散してゆく
──崩落した空間は魔法封じのブレスで満たされていた。
「ウルルルルルルルゥ──」
(油断したな──)
「うるせえよ! ────!!」
ブオン!!
狭い陥没空間で器用に回転したヴリトラが勢いよく尻尾を振り回す。
ジンはそれを身を屈めてかわすが、
ドシィィン──
続くヴリトラの、まるで四股を踏んだようなストンピングによってその身体を空中に放り出されると、ついに無事な左手に囚われてしまう。
バギボギバギ──!!
「がああああああああ!!」
掴んだ瞬間ヴリトラがその手に力を込めると、ジンの全身の骨は一気に砕かれ、その衝撃にジンは白目を剥き、絶叫と共に泡を吹く。
「はっ……はっ………は……………」
肺に刺さる骨を刺激しないよう、最小限の呼吸を行うジンは、苦痛に顔を歪めながら片目を開け、仇敵の様子を伺う。
(チッ…………欠片も油断する気配がねえ、こりゃ詰んだな)
(諦めるのが早いのう、情けない……)
脳内に響くブライティアの声に叱咤する様子は伺えず、ただ呆れているようだった。
(悪かったな……どうせ俺はこんなモンだよ)
(だから最初から言ったであろう、全力で挑めと)
(……阿呆か、それこそ出来るはずがねえだろ!)
(なるほど……確かに甘っちょろくなったのう、この期に及んで我の心配とはの)
(……………………………………)
(どれ、ならば我が少しだけ手を貸してくれるわ)
(なにを? ………………おい、テメエ!!)
ヴオン────
ジンの身体から光が溢れると、その眼前に白く輝く30センチほどの光の玉が現れる。
「おい、コラ、何のつもりだ!?」
『我を封印したままでは全力が出せぬのだろう? ならばその枷、我が外してくれよう』
「そういう事言ってんじゃねえよ!!」
『ほんにお主は甘いのう……また我を邪竜にしたくないと本気で思っておるのなら、今度こそ我を打ち倒してみせい』
「……………………………………」
『これでもお主の中で世界を見るのは我の最近のとれんどというやつなのでな、さっさとアレを倒して我を取り戻せよ』
ブライティアの竜宝珠はそう言うと、ヴリトラの体内に消える。
そして────
『グ……ガ…………ゴアアアアアア!!』
ヴリトラは今日一番の激しい雄たけびを上げると、
『シン……ドゥラ…………シンドゥラアアアアア!!』
「ったく、どいつもこいつも俺に変な期待ばっかしやがって……」
『殺してくれる、あの者と同じ世界からやって来た勇者めがああああ!!』
「俺は勇者じゃ無えっつってんだろ、このクソトカゲが!!」
ブチャア──!!
全身の骨を砕かれ、それでも内から流れ込む魔力によって強化された筋肉だけで四肢を動かすジン──シンは、自身を掴んでいたヴリトラの指を引き千切る!
『シイイインンンンドゥゥゥゥラアアアア!!』
「気安く呼ぶんじゃねえよ、負け犬が──!!」
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