転生薬師は異世界を巡る(旧題:転生者は異世界を巡る)

山川イブキ(nobuyukisan)

文字の大きさ
185 / 231
5章 イズナバール迷宮編

249話 困惑

 ………………………………。

 なんてこと!!

 まさかジンがあの時の少年、いや、使徒様だったなんて!
 これじゃアタシもゲンマを馬鹿なんていってられない……ていうかゲンマ、なんでアンタは未だに気付いていないのよ?
 アタシは目の前でボロボロになりながらも辛うじて命を繋いでいる青年の、それでもなお内側から漏れ出す荒々しい気配に思わず身震いする。
 普段目にしていた銀灰色の髪の青年は、町中だろうと迷宮の中だろうとどこか気の抜けた表情を浮かべるばかりの飄々とした青年で、黒髪になり苦痛に顔を歪めているのを見て初めて、あの時の少年と面影が重なる。
 使徒シンドゥラ──女神ティアリーゼ様の現世における神威の代行者。
 そして「戦巫女」であるアタシ以下神殿仕えをする者にとって、場合によっては「筆頭剣士」であるゲンマよりも優先しなくてはならない御方。

 ……なのに、なんたる失態!
 シンドゥラ様の正体にも気付かずあまつさえ、あのヴリトラを前にお一人で立ち向かわせるなんて!! ……5年前もお一人で討伐なさったけども。
 しかもリオンさん、アタシやゲンマよりも強い戦士だと思っていた彼女の正体は南大陸で最強と呼ばれる魔竜、大地の魔竜ガイアドラゴンだという。
 最近、邪道士ニールセンなる人物と共に傭兵国家のカドモスを滅ぼした、なんて話が流れてきたけど、まさかここ東方エステラ大陸でも同様に暴れるつもりでやってきたのだろうか?
 ……でもそれじゃあヴリトラを止めるために飛んで行った理由がわからない。
 しかし、そうなるとこの少年は? この子も何かあるの?
 まさか……姿を偽っているけどこの少年こそが邪道士!?
 ……イヤ、まさかね……
 ああもう! 何が何だか分からない!!
 とにかく、シンドゥラ様! この方を死なせるわけにはいかない!!

 ──シュアアアア

 そんな事を考えているとあの子──ルディがシンドゥラ様の身体に体力回復薬を降りかけている、ご自分で飲む事すら出来ない状態なのね。

「ん……んん……」
「意識は戻ったね、はい、シン・・

 ルディはシンドゥラ様をジンではなくシンと呼びながら新しいポーションを手渡している……さて、どっち・・・なのかしら?
 ムクリと起き上がるシンドゥラ様にルディ少年とよく似た子、エルが泣きながら抱きついている。
 そうだ、この光景に騙された。いくら子供とはいえあのシンドゥラ様のお側に誰かが寄り添うなど、以前のご様子を覚えているアタシに想像できるはずが無い。
 抜き身の刃が全身から生えているような佇まい、何者も寄せ付けず、横に並ぶ事はおろかその背を追う事すら認めなかったあの方が……よもや、屋台で甘味を売り、懐いている子供に優しい兄のように振る舞い、同行者の女性達にボロカスのように扱われてもヘラヘラしているなんて……本当にシンドゥラ様よね? アレ?
 あのユアンとか言うのだって、ヘタすりゃ会ったその日に切り捨てられてもおかしく無い程の暴挙を繰り返しておきながら、結局お仲間も一人も殺さずにしていた……5年の間に何があったのかしら?
 とはいえ、あの場でアレをヴリトラだと断じた事、咆哮を受け誰も動けない中ただ一人行動を起こした事、あの頃から得意にしていた空間制御の魔法で私達を退避させた事、そして……あの邪竜と1対1で戦い、まだ死んでいない事。
 シンドゥラ様以外の誰が出来るものか。
 アタシはシンドゥラ様のお側まで寄って正座をすると手をつき、地面に付くほどに頭を下げて恭順の意を示す、うやうやしく見えたかしら?
 シンドゥラ様は、

「あー……それは何のおつもりで?」

 ……凄い不機嫌だ、いや、不快と言うより困窮と言う感じかしら。

「御身に気付かなかった無礼をお許し下さい、ヴリトラ討伐の英雄、シンドゥラ様」

 とりあえず使徒である事は伏せよう、当時もこの方はそう呼ばれるのを殊の外ことのほか嫌っていた、おそらく今もそうだと思う。

「シン……ドゥラ? あの、ジンさん?」

 エルちゃん、あまりシンドゥラ様にくっつかないで、もしかしたらそういうご趣味なんじゃないかと疑ってしまいそうで困るのよ……。
 「ジン」ではなく、リオンさんやルディが呼んでいた「シン」でもなく「シンドゥラ」、その言葉を聞いたシンドゥラ様は、ゲンマがよく見せる「やらかした!」と嘆く時と同じ表情を浮かべながら天を仰ぐ──。


──────────────
──────────────


 ──くそ、今まで上手く誤魔化してきてたのに、最後の最後でパーになった。
 全部あのクソッタレのせいだ、心の底から許せねえ、あのクソトカゲ!

「え、シンドゥラ? ジンじゃなくて? てかシンドゥラつったら使──ぶあっ!?」

 黙れアホゲンマ・・・・・、俺はすかさず地面の砂をすくうと色々と迂闊そうな男の顔面に投げつける。
 てめえ今、使徒って言おうとしやがっただろう?
 おかげで反対側に立ってた神官のカレンが肩をビクッて大きく振るわせるわ、イレーネが身体を強張らせるわ……ほんと頭が痛い。
 悶絶するゲンマを視界の外にやると、俺は一応の配慮をしてくれたシュナに釘を刺す。

「シュナさん、誰かとお間違えでは?」
「申し訳ございません、いかなる事情によるものか、私如きにそれを推し量る事は出来ませんが、今は偽りの身分を捨て本来のあなた様にお戻りになられますよう伏してお願い申し上げます」
「………………………………」
「むろん、己の気に入らぬ事を強要される事を殊の外嫌うシンドゥラ様のご気性は、重々存じ上げてございます。わたくしの無理を聞き入れて下さるのであれば不肖ながらこの身を如何様にして下さって構いません、だから何卒!」
「シュナ!?」
「マジで止めて!!」

 ホント止めて下さいお願いします!! ルディも面白そうに笑ってんじゃねえよ!
 俺はいまだ理解の追いつかずに混乱している半数の表情を伺い、とりあえず後で厳重に口止めしようと固く誓う。
 ……まあ、ルフトは大丈夫だろうし、エル達も秘密を漏らして俺と帝国の関係をこれ以上拗らせる度胸は無いと信じたい。
 問題はそんなの関係ないこの2人か……。
 しゃあない。

「ライゼンの「戦巫女」シュナ、ならびに「筆頭剣士」ゲンマ。この地この時において我が名はジン、それ以外の名で俺を呼ぶことはまかりならん」
「「──ははっ!!」」

 はぁ、面倒な……てかなんでチョット嬉しそうなんだよ、2人とも。
 俺は首だけ動かしデイジー達に目を向けると、勢いよく頭を縦に振る2人と、それを見てなんとなく頷く3人の姿があった。よし、こっちは了承と取ったからな、破ると地獄だと思えよ?
 ルフトは……ホントありがたい、この人がコミュニティの代表で本当に幸せだわ、アイツら。

「シンさん……ジンさん?」
「出来ればジンでお願いできますかね、エル坊」
「……わかりました」

 はぁ……まったく、

「この一件が終わったら少しくらいは身の上話を聞かせてあげますから、それまでは大人しく言う事を聞いてくださいな」
「────ハイ!!」

 無事再会できたとはいえ、子供の身でヴリトラの咆哮を浴びるわ、そこいらで人が焼けるわ溶けるわの地獄絵図、とどめに全身ボロ雑巾の姿を見せられたら心細くなるのも当然といえば当然なんだが……ホント、甘くなったもんだと自分でも思うな。
 まあいいさ、俺が全てを捨てたのは10歳の時だ。だったらそれ以下の子供には出来るだけ優しくしてやるべきだろう。

「それじゃあ生き延びないといけないねえ、ジン?」
「逃げるって選択肢は無いもんですかねえ、若さん?」
「リオンがヴリトラに勝てるよう、お祈りでもしとく?」

 …………………………。
 無理だろ、ただでさえ向こうヴリトラの方が格上なのに加え、今のアイツリオンは俺に力の一部を分け与えてるんだ。せいぜい時間稼ぎが関の山だ。

「……しゃあねえな」

 俺は立ち上がると、2体が飛んで行ったバスカロン連山、いやその麓にある湖イズナバールを睨みつける。

「やる気になった?」
「貴重な巨乳美女を死なせる訳にはいかないんでね」

 全く、まだ思う存分揉んでもいないのに死なれてたまるか!
 ルディはニヤニヤと笑うと、預けていた異空間バッグを投げて寄越す。
 そうだな、アレを使うしかヴリトラを一撃で殺すのは無理か……。
 だったら、手伝いが必要だな。

「ルフトさん、それにシュナさんにゲンマさんも、ちょっと手伝ってもらえませんかね」
「ジン……一体何をするつもりなのだ?」
「大した事はしませんよ……とりあえず3人とも、”竜殺し”の称号でも手に入れに行きましょうか」
『はあぁっ!?』

 おお、3人の声が見事にハモった──。
感想 497

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。