186 / 231
5章 イズナバール迷宮編
250話 再び
しおりを挟む
パシャン──
「ングング……ぷはぁ! 生き返ったぜ」
「ありがとねマーニー、それにリーゼも」
イズナバール湖のほとりで上がる歓喜の声、危機を脱し命ある事を女神と仲間に感謝する声には喜びの感情が溢れている。
夏場の冷たくも心地よい水で3人がゴシゴシと身体を擦ると、見る者が顔を顰めるほどの火傷跡と瘡蓋がポロポロと剥がれ、その内側から瑞々しい肌が現れる。
水面から見事な裸身をさらすモーラとリシェンヌは、元に戻った自分の身体をかき抱きながら安堵の表情を浮かべてリーゼに感謝の言葉を述べると、彼女はそれに微笑みで応える。
「まったく、男ってのは考える事がそれしか無いのかねえ、わざと掴まってただけだってのに、勝手に観念したと思って直ぐにズボンを下ろしやがる」
ザッパァン──!!
2本の血塗れのナイフを握ったマーニーが、同じく返り血に染まった下着姿で水に飛び込みながら毒づくと、久方ぶりの再会に、裸のユアンに擦り寄り甘える。
湖の淵で一人ローブを着たままのリーゼは、そんな4人の姿を見ながら嫉妬と安堵が入り混じった表情を浮かべるも、ユアンの瞳に未だギラついた怒りの感情が燻っているのを見つけ、不安に駆られる。
(どうしてあそこまでユアンはジンに拘るの?)
もう関わらないで欲しい、ジンの手と目が届かないところで今までどおり5人仲良く旅を続ければいい。
出来れば誰かを虐げる事無く、望むなら人に感謝されながら5人で落ち着いた暮らしが出来ればいい──ユアンがジンとぶつかる度にリーゼはそう願っているが、頑として聞き入れないユアンにリーゼの表情は曇る。
『アイツに奪われた全てを取り戻す、そうすれば俺は本当の勇者になれるんだ!!』
(本当の勇者って何? ユアンは私達にとって今でも充分勇者なのに……)
リーゼは知らない、ユアンがジンの事を乗り越えるべき壁であり真の勇者になる為の試練だと、古代迷宮の秘宝の導きをそのように解釈していることを。
そんな中、
──────────!!
「──ん?」
────ドウン!!
「きゃああ!! な、何?」
大地を揺らす衝撃と空気を震わす轟音が鳴り響くと、遥か視線の先、湖の近くの地面からもうもうと土埃が舞っている。
バリバリバリバリバリ!!
『くああああああああ!!』
土埃の中に落雷が落ちると中から、人のものでは無い、体に直接叩きつけられる様な重さを感じさせる声が響き渡る。
感電の危険に4人は急いで水から身体を出すと、煙と声の方を揃って見やる。
そこには、
「──ゆ、ユアン!! ド、ドラゴンが……」
モーラとマーニーがいち早くそれを視界に捕らえ、モーラは全身の獣毛を総毛立たせてユアンの背中に隠れる。
やがて自分の目でその姿を捉えた3人も、驚愕の表情を浮かべて硬直する。
「……ドラゴンが……2体……」
呆然と呟くユアンの言葉は、幸いにもリオンの耳に届く事はなかった──。
──────────────
──────────────
ガキャン!!
『──フン、無駄に硬い鱗よな!』
『そうやって安易に力に頼っているからです、よ!』
ズドドドドド──!!
地面から次々と生えるそれは筍のような円錐形をしており、尖ったその岩石の槍がヴリトラを串刺しにしようと殺到する。
『下らぬ──』
バキャッ──
岩の筍を撫ぜる様にヴリトラの翼がはためくと、リオンの大地の槍は粉々に砕け散る。
『説教をする端で自らは力を使うか……よくよくヤツに毒されおって!』
『アナタよりマシですよ……シンはアナタに憎悪を植えつけた勇者では無いというのに』
『黙れメタリオン!! 我は絶対に許さぬ!! あの下種も、そしてアレと同じ世界より来たシンドゥラ、あやつも!!』
ガシイッ!!
唸りを上げるヴリトラの右手の爪が振るわれるとそれは、メタリオン──リオンの左手に受け止められ、返すリオンの右爪はヴリトラに受け止められる。
手四つの姿勢になった双竜は、上背と素の腕力にアドバンテージのあるリオンが覆い被さりながらヴリトラを押し潰そうとするも、再度の雷がヴリトラ諸共に直撃、力が緩んだスキを逃さずヴリトラはリオンの身体を引き寄せ、その肩口に己の牙を突きたてる!
『あああああああ!!』
ザシュウウ──!!
リオンの硬い鱗に浅く突き立ったヴリトラの牙は、直後にヴヴヴと振動波を発生させると共鳴破壊を引き起こし、大地の魔竜の強固な鱗ごと肩の肉を食い千切る!!
クチャ──クチャ──
『全く、同族の肉は幾ら喰ろうても慣れぬな、不味くてやれぬわ』
『ぐぅ……そこまで堕ちましたか』
『黙れ! 誰が好き好んで友の、同族の肉なぞ喰ろうてきたものか!! 全ては勇者を滅ぼす為、ひいては世界の為!!』
『エステラを恐怖に落としながらよくもそのような世迷言を……』
『黙れえええええ!!』
クワッ──!!
ヴリトラは至近からブレスを見舞うために、大口を開けると首を一瞬仰け反らせる。
────バギャンッ!!
『ガアアアアッ!!』
ブレスを吐くため一瞬硬直するヴリトラに向かって、リオンがお返しとばかりに頭突きを喰らわす。
斜めからカチ上げるような頭突きは、ヴリトラの右顎に並ぶ牙をその硬い鱗で砕き、重量の乗った一撃はヴリトラの頭部を激しく揺らす。
そして右手を振りほどき、渾身の右フックをその首に叩きつけるとヴリトラはその場に倒れこむ。
ドズウウンンン──
『グ、グヌウウウウ!!』
さらにリオンは地上に寝そべるヴリトラに追い討ちで尻尾の一撃を与えると、両翼を広げて浮上し、頭上からブレスを吐く。
ゴオオオオオ!!
リオンのブレスは突風と、それに乗って飛び行く鉱物結晶のような矢の群となってヴリトラに襲い掛かる。
キィン!! ──ブスゥ!!
斥力場で勢いを減じた無数の矢が鱗に弾かれる中、それでも鱗同士の隙間や縫い目をかいくぐるように数本の矢が突き刺さる。
『小賢しい……魔竜の息吹とは全てを滅す為のものよ!!』
ボオオオオオオオオ──!!
ヴリトラは立ち上がりざまに自分の身体にファイアブレスを吐くと、身体に突き刺さった石の矢を溶かし、そのままリオンと真正面からブレスの吐き合いを始める。
やがて、先にブレスの威力が弱まったリオンは、
『──────くっ!!』
身を翻すと翼の羽ばたきでファイアブレスをいなしながら距離を取る。
『フン──身の程を弁えるのだな。これが王と有象無象との差よ』
怯んだリオンに向かって飛び上がろうとするヴリトラだったが、
(そいつはどうかねえ、少なくともリオンの方が見目麗しい上に胸もでかいぜ?)
『シン?』
『シンドゥラか……我が行くまで震えておればよいものを』
シンの念話が両方に届くと、森の向こうから高速で近付く気配に2体ともその動きを止める。そして、
────シュッ!
木々の隙間から躍り出たそれは、胴体は何も着けず平服の、手足に魔道鎧の手甲足甲をはめたシンだった。
「いやあ、多少のサイズ違いはなんとかなるが、流石にリオンほど巨乳でもなけりゃあくびれても無いんでな」
『まったく……シン、アナタと言う人は』
シンのいつものふざけた物言いにリオンは苦笑しながらも、その心に余裕を取り戻す。
反対にヴリトラは憎々しげにシンを睨みつけると、
『完膚なきまでに敗れた虫けらが、数で攻めれば勝てると思うたか!?』
「数の力? バカ言ってんじゃねえ、「仲間と力を合わせ、一つになって」戦うんだよ!!」
『シン……アナタと言う人は』
なぜかリオンのテンションが落ちたように感じられた──。
「邪悪なドラゴンは勇者の手によって滅ぼされました、めでたしめでたし……そう語り継がれるようにチョットだけ本気を出してやるよ、悪のドラゴンさん♪」
『勇者……勇者だと? シィンドゥラアアアアア!!』
(リオン、上を抑えとけ!)
(分かりました……シン、無理だけはしてはいけませんよ)
「当然、チャッチャと倒すさ……風精よ──」
シンは異空間バッグから薬瓶数本とルフトから借り受けた三叉槍を取り出し、ヴリトラに向かって骨に負担のかからない速度で走り出す。
怒りに震えるヴリトラはシンに向き直ると、ブレスの体勢に入るが、それより早くシンの魔法が完成、最大威力の”風爆”によって足元の土砂が眼前に舞い上がる!
『また目くらましか、芸の無い!』
両者の間に舞い上がる大量の土埃ごとシンを焼き殺そうとブレスを吐くヴリトラだが、
ボオオオオオ──!!
『メタリオンか!!』
頭上から降るリオンのファイアブレスによってヴリトラのブレスはその炎を取り込んで威力を増しながらも、方向を逸らされる。
「我、世界に呼びかける、彼方と此方を結ぶ道、繋ぎし門をわが前に、”門”」
────ブゥン
シンの声が微かに響くと、ヴリトラの眼前に漆黒の転移門が現れる。それを察知したヴリトラは、
『こしゃくな!!』
上昇して転移門を超えてやって来る攻撃を回避しようと羽ばたくが、頭上にはリオンがおり、仕方なくヴリトラは少しだけ浮上すると転移門に向かって魔法封じのブレスを吐きかける。
────シュウン。
転移門を消去し、ついでにホバリングの状態で翼をはためかせて土埃を吹き飛ばすヴリトラだったが、
『ヤツは……む!?』
「だからイチイチ遅ぇ……よ!!」
吹き飛ぶ土埃の中、加速剤を飲んだシンの姿は予想以上にヴリトラに肉薄しており、既に空中で静止するヴリトラの直下にまで辿り着いていた。
そしてシンはその場で思い切り踏み込むと、
────バギィ!!
「ぐうおおおっ──喰らえ、”バーストスパイラル”!!」
両足の骨を砕きながら垂直にジャンプしたシンは、ルフトの使った”渦旋撃”と同じ技を繰り出しその穂先をヴリトラの身体に突きたてた!
『──────!! ギャアアアアアアアアアア!!』
上級の回復薬で魔力・体力を一気に回復させたシンはすぐにその場を離脱、リオンの傍らまで上昇すると、
「人の事をいつまでも勇者扱いするわ虫けら呼ばわりするわ、ケツの穴の小さいヤツには”お仕置き”が必要だとは思わないか。なあ、リオン?」
『ガアアアアアアア、キサマ、キサマアアアアアア!!』
シンの槍技はかなりの効果を発揮したのか、ヴリトラはボトボトと滝のように出血をしていた────肛門から。
『シン……本当にアナタと言う人は』
「あんまりケチくさいんで大きくしたったわ♪」
シンの傍らでリオンの巨体がガックリと肩を落としていた。
「ングング……ぷはぁ! 生き返ったぜ」
「ありがとねマーニー、それにリーゼも」
イズナバール湖のほとりで上がる歓喜の声、危機を脱し命ある事を女神と仲間に感謝する声には喜びの感情が溢れている。
夏場の冷たくも心地よい水で3人がゴシゴシと身体を擦ると、見る者が顔を顰めるほどの火傷跡と瘡蓋がポロポロと剥がれ、その内側から瑞々しい肌が現れる。
水面から見事な裸身をさらすモーラとリシェンヌは、元に戻った自分の身体をかき抱きながら安堵の表情を浮かべてリーゼに感謝の言葉を述べると、彼女はそれに微笑みで応える。
「まったく、男ってのは考える事がそれしか無いのかねえ、わざと掴まってただけだってのに、勝手に観念したと思って直ぐにズボンを下ろしやがる」
ザッパァン──!!
2本の血塗れのナイフを握ったマーニーが、同じく返り血に染まった下着姿で水に飛び込みながら毒づくと、久方ぶりの再会に、裸のユアンに擦り寄り甘える。
湖の淵で一人ローブを着たままのリーゼは、そんな4人の姿を見ながら嫉妬と安堵が入り混じった表情を浮かべるも、ユアンの瞳に未だギラついた怒りの感情が燻っているのを見つけ、不安に駆られる。
(どうしてあそこまでユアンはジンに拘るの?)
もう関わらないで欲しい、ジンの手と目が届かないところで今までどおり5人仲良く旅を続ければいい。
出来れば誰かを虐げる事無く、望むなら人に感謝されながら5人で落ち着いた暮らしが出来ればいい──ユアンがジンとぶつかる度にリーゼはそう願っているが、頑として聞き入れないユアンにリーゼの表情は曇る。
『アイツに奪われた全てを取り戻す、そうすれば俺は本当の勇者になれるんだ!!』
(本当の勇者って何? ユアンは私達にとって今でも充分勇者なのに……)
リーゼは知らない、ユアンがジンの事を乗り越えるべき壁であり真の勇者になる為の試練だと、古代迷宮の秘宝の導きをそのように解釈していることを。
そんな中、
──────────!!
「──ん?」
────ドウン!!
「きゃああ!! な、何?」
大地を揺らす衝撃と空気を震わす轟音が鳴り響くと、遥か視線の先、湖の近くの地面からもうもうと土埃が舞っている。
バリバリバリバリバリ!!
『くああああああああ!!』
土埃の中に落雷が落ちると中から、人のものでは無い、体に直接叩きつけられる様な重さを感じさせる声が響き渡る。
感電の危険に4人は急いで水から身体を出すと、煙と声の方を揃って見やる。
そこには、
「──ゆ、ユアン!! ド、ドラゴンが……」
モーラとマーニーがいち早くそれを視界に捕らえ、モーラは全身の獣毛を総毛立たせてユアンの背中に隠れる。
やがて自分の目でその姿を捉えた3人も、驚愕の表情を浮かべて硬直する。
「……ドラゴンが……2体……」
呆然と呟くユアンの言葉は、幸いにもリオンの耳に届く事はなかった──。
──────────────
──────────────
ガキャン!!
『──フン、無駄に硬い鱗よな!』
『そうやって安易に力に頼っているからです、よ!』
ズドドドドド──!!
地面から次々と生えるそれは筍のような円錐形をしており、尖ったその岩石の槍がヴリトラを串刺しにしようと殺到する。
『下らぬ──』
バキャッ──
岩の筍を撫ぜる様にヴリトラの翼がはためくと、リオンの大地の槍は粉々に砕け散る。
『説教をする端で自らは力を使うか……よくよくヤツに毒されおって!』
『アナタよりマシですよ……シンはアナタに憎悪を植えつけた勇者では無いというのに』
『黙れメタリオン!! 我は絶対に許さぬ!! あの下種も、そしてアレと同じ世界より来たシンドゥラ、あやつも!!』
ガシイッ!!
唸りを上げるヴリトラの右手の爪が振るわれるとそれは、メタリオン──リオンの左手に受け止められ、返すリオンの右爪はヴリトラに受け止められる。
手四つの姿勢になった双竜は、上背と素の腕力にアドバンテージのあるリオンが覆い被さりながらヴリトラを押し潰そうとするも、再度の雷がヴリトラ諸共に直撃、力が緩んだスキを逃さずヴリトラはリオンの身体を引き寄せ、その肩口に己の牙を突きたてる!
『あああああああ!!』
ザシュウウ──!!
リオンの硬い鱗に浅く突き立ったヴリトラの牙は、直後にヴヴヴと振動波を発生させると共鳴破壊を引き起こし、大地の魔竜の強固な鱗ごと肩の肉を食い千切る!!
クチャ──クチャ──
『全く、同族の肉は幾ら喰ろうても慣れぬな、不味くてやれぬわ』
『ぐぅ……そこまで堕ちましたか』
『黙れ! 誰が好き好んで友の、同族の肉なぞ喰ろうてきたものか!! 全ては勇者を滅ぼす為、ひいては世界の為!!』
『エステラを恐怖に落としながらよくもそのような世迷言を……』
『黙れえええええ!!』
クワッ──!!
ヴリトラは至近からブレスを見舞うために、大口を開けると首を一瞬仰け反らせる。
────バギャンッ!!
『ガアアアアッ!!』
ブレスを吐くため一瞬硬直するヴリトラに向かって、リオンがお返しとばかりに頭突きを喰らわす。
斜めからカチ上げるような頭突きは、ヴリトラの右顎に並ぶ牙をその硬い鱗で砕き、重量の乗った一撃はヴリトラの頭部を激しく揺らす。
そして右手を振りほどき、渾身の右フックをその首に叩きつけるとヴリトラはその場に倒れこむ。
ドズウウンンン──
『グ、グヌウウウウ!!』
さらにリオンは地上に寝そべるヴリトラに追い討ちで尻尾の一撃を与えると、両翼を広げて浮上し、頭上からブレスを吐く。
ゴオオオオオ!!
リオンのブレスは突風と、それに乗って飛び行く鉱物結晶のような矢の群となってヴリトラに襲い掛かる。
キィン!! ──ブスゥ!!
斥力場で勢いを減じた無数の矢が鱗に弾かれる中、それでも鱗同士の隙間や縫い目をかいくぐるように数本の矢が突き刺さる。
『小賢しい……魔竜の息吹とは全てを滅す為のものよ!!』
ボオオオオオオオオ──!!
ヴリトラは立ち上がりざまに自分の身体にファイアブレスを吐くと、身体に突き刺さった石の矢を溶かし、そのままリオンと真正面からブレスの吐き合いを始める。
やがて、先にブレスの威力が弱まったリオンは、
『──────くっ!!』
身を翻すと翼の羽ばたきでファイアブレスをいなしながら距離を取る。
『フン──身の程を弁えるのだな。これが王と有象無象との差よ』
怯んだリオンに向かって飛び上がろうとするヴリトラだったが、
(そいつはどうかねえ、少なくともリオンの方が見目麗しい上に胸もでかいぜ?)
『シン?』
『シンドゥラか……我が行くまで震えておればよいものを』
シンの念話が両方に届くと、森の向こうから高速で近付く気配に2体ともその動きを止める。そして、
────シュッ!
木々の隙間から躍り出たそれは、胴体は何も着けず平服の、手足に魔道鎧の手甲足甲をはめたシンだった。
「いやあ、多少のサイズ違いはなんとかなるが、流石にリオンほど巨乳でもなけりゃあくびれても無いんでな」
『まったく……シン、アナタと言う人は』
シンのいつものふざけた物言いにリオンは苦笑しながらも、その心に余裕を取り戻す。
反対にヴリトラは憎々しげにシンを睨みつけると、
『完膚なきまでに敗れた虫けらが、数で攻めれば勝てると思うたか!?』
「数の力? バカ言ってんじゃねえ、「仲間と力を合わせ、一つになって」戦うんだよ!!」
『シン……アナタと言う人は』
なぜかリオンのテンションが落ちたように感じられた──。
「邪悪なドラゴンは勇者の手によって滅ぼされました、めでたしめでたし……そう語り継がれるようにチョットだけ本気を出してやるよ、悪のドラゴンさん♪」
『勇者……勇者だと? シィンドゥラアアアアア!!』
(リオン、上を抑えとけ!)
(分かりました……シン、無理だけはしてはいけませんよ)
「当然、チャッチャと倒すさ……風精よ──」
シンは異空間バッグから薬瓶数本とルフトから借り受けた三叉槍を取り出し、ヴリトラに向かって骨に負担のかからない速度で走り出す。
怒りに震えるヴリトラはシンに向き直ると、ブレスの体勢に入るが、それより早くシンの魔法が完成、最大威力の”風爆”によって足元の土砂が眼前に舞い上がる!
『また目くらましか、芸の無い!』
両者の間に舞い上がる大量の土埃ごとシンを焼き殺そうとブレスを吐くヴリトラだが、
ボオオオオオ──!!
『メタリオンか!!』
頭上から降るリオンのファイアブレスによってヴリトラのブレスはその炎を取り込んで威力を増しながらも、方向を逸らされる。
「我、世界に呼びかける、彼方と此方を結ぶ道、繋ぎし門をわが前に、”門”」
────ブゥン
シンの声が微かに響くと、ヴリトラの眼前に漆黒の転移門が現れる。それを察知したヴリトラは、
『こしゃくな!!』
上昇して転移門を超えてやって来る攻撃を回避しようと羽ばたくが、頭上にはリオンがおり、仕方なくヴリトラは少しだけ浮上すると転移門に向かって魔法封じのブレスを吐きかける。
────シュウン。
転移門を消去し、ついでにホバリングの状態で翼をはためかせて土埃を吹き飛ばすヴリトラだったが、
『ヤツは……む!?』
「だからイチイチ遅ぇ……よ!!」
吹き飛ぶ土埃の中、加速剤を飲んだシンの姿は予想以上にヴリトラに肉薄しており、既に空中で静止するヴリトラの直下にまで辿り着いていた。
そしてシンはその場で思い切り踏み込むと、
────バギィ!!
「ぐうおおおっ──喰らえ、”バーストスパイラル”!!」
両足の骨を砕きながら垂直にジャンプしたシンは、ルフトの使った”渦旋撃”と同じ技を繰り出しその穂先をヴリトラの身体に突きたてた!
『──────!! ギャアアアアアアアアアア!!』
上級の回復薬で魔力・体力を一気に回復させたシンはすぐにその場を離脱、リオンの傍らまで上昇すると、
「人の事をいつまでも勇者扱いするわ虫けら呼ばわりするわ、ケツの穴の小さいヤツには”お仕置き”が必要だとは思わないか。なあ、リオン?」
『ガアアアアアアア、キサマ、キサマアアアアアア!!』
シンの槍技はかなりの効果を発揮したのか、ヴリトラはボトボトと滝のように出血をしていた────肛門から。
『シン……本当にアナタと言う人は』
「あんまりケチくさいんで大きくしたったわ♪」
シンの傍らでリオンの巨体がガックリと肩を落としていた。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。