転生薬師は異世界を巡る(旧題:転生者は異世界を巡る)

山川イブキ(nobuyukisan)

文字の大きさ
187 / 231
5章 イズナバール迷宮編

251話 再戦

『シン、助けてもらって言うのもなんですが……』
「お小言は後にしてくれ、天上の女神に我は請う──」

 リオンの肩に乗ったシンは、反対側の抉れた肩を治癒魔法で治すと、ヴリトラの観察を始める。

『天上の女神に我は請う──』

 ヴリトラも同様に呪文の詠唱を始めるのを確認しながら、シンはポツリと漏らす。

「スキルも無いくせに膨大な保有魔力だけでムリヤリ魔法を発動させるのはインチキ以外の何物でもないと思うんだが……」
『魔竜にスキルの有無を求められても困りますよ』

 スキルを習得できるのがヒトに属する種族に限るのだから当然と言えば当然であるが、だからといってズルイとしかシンには思えなかった。
 特定の魔物が魔法や、その他スキルに似た何かを使うのは本能に根ざしたものであり修練の結果ではない、自己の成長・強さによってある日突然目覚めるらしい。
 それを考えると、ヴリトラ──ブライティアが神聖魔法を行使できるのは自身の伸び代なのかそれとも完全なイレギュラーなのか……どちらにせよシンには面倒事でしかないのだが。

「リオンもそのうち俺の習得魔法が全部使えるようになるのかね……もしもの時はやっかいだなあ」
『……心配しなくてもアレを見てシンと闘う気になどなれませんよ、恐ろしい』

 リオンは以前ヴァルナと交わした会話を思い出しながら「まだまだ甘かった」と、自分の想像力の乏しさとシンの斜め上過ぎるやり方に、身どころか色々と引き締まる思いだった。

『──我が身を暫し巻き戻し賜え、”復元レストレーション”』

 詠唱が終わりヴリトラの身体が光に包まれると、下腹部・・・からの出血は収まりその巨体を地面に着地させる。
 その後、自分の体を確かめるように腕をニギニギさせるのを見たシンは、

「ふぅん、使えはするが使いこなすにはまだ時間がかかるか……その前に仕留めねえとな──おっと」

 頭をボリボリと掻こうとしたシンは、自分の腕力が暴走状態になっているのを思い出しとっさに手を引きヘンな体勢になる。
 その直後、ヴリトラから激しい怒りの感情を孕んだ波動を受けたシンは、一瞬顔を顰めた後すぐに挑発的に笑みを返す。

『シンドゥラ!! 許さぬ、絶対に許さぬ!!』
「その物言いは聞き飽きたよ、いい加減別の表現使えや!」

 シンは下級の魔力回復薬を口に含むと、空飛ぶマントエアライダーに魔力を込めてリオンの肩から浮かび上がる。

「そんじゃリオンは上を取り続けてくれ、アイツに自由に飛び回られちゃあ勝ちの目が出なくなるんでな」
『了解しましたよ……ところでシン、どうして下級のポーションなんですか?』

 リオンは首を曲げて顔をシンに向けると、既にクセになっているのか首をかしげてシンに質問してくる──曰く、全快させないの? と。

「暴走状態だって知ってるだろ、マントこいつを発動させただけで空になるまで魔力が吐き出されるんだよ、いくら自前だからって毎度々々使ってられるかっての」
『シンのほうが尻の穴は小さそうですねえ……』
「そうか、ならリオンはきっとデカイんだな──うおっ!?」

 確実に心臓を狙った爪をとっさにかわしながら「バカヤロー!」と落ちてゆくシンに向かってリオンは、援護なのか追い討ちなのか、力一杯羽ばたいて突風を起こしてシンの体をそれに巻き込む。
 『セクハラは許しませんよー!』という現地では理解不能な言葉を背に受け、シンはそのまま下に向かって加速、ヴリトラに迫る。
 迎え撃つ側のヴリトラはシンを噛み殺そうと大きく口を開いて待ち構え、

「──”風爆エア・バースト”」
『ぎゃふっ──!』

 残ったなけなしの魔力で放った魔法はヴリトラの鼻先で爆発すると、ヴリトラは思わず首を引き口を閉じる。シンはだんごの様に手足を丸めてその口目がけて体当たりし、

 ──ビキイッ!!

 硬化付与ハードコートを施した邪竜ヴリトラ及び聖竜王ブライティアの鱗で作られた魔道鎧アトラスが、砲弾のようにヴリトラの太く鋭い牙の側面に衝突すると、全てを引き千切る邪竜の牙に無数の亀裂が入る。

『~~~~~~~~~~!!』
「くうぅっ!!」

 しかし聞こえた破砕音はヴリトラの牙からだけではなく、衝突の衝撃でシンの前腕部と脛の骨はポキリと折れる。
 痛みを堪えながらシンは、筋肉に力を込めると手甲と足甲をギブス代わりに立ち上がり、異空間バッグから星球武器アースブレイカーを取り出して振りかぶる。

「っつつ……どうだい、手前の鱗を叩きつけられた感想は、よっ!!」

 バギャギャギャン!!

『クアアアアアア!!』

 口前面に並ぶ牙が全て砕け散ると、痛みで頭を振るヴリトラから放り出されたシンは、痛みで持ちきれなくなったアースブレイカーを取り落としながら地面に落下、全身をしたたかに打つ。

「がっ──ゴホゴホッ!!」

 背中から落ちてその場で咳き込むシンを忌々しげに睨むヴリトラは、尻尾を振り上げるとシンに向かって叩き付けようと振りかぶる。

『シン!!』

 思わずリオンが叫ぶも、両者の距離が近すぎてブレスは吐けない、また、今からでは到底間に合わない。リオンは最悪を連想する!
 ──が、

「よっしゃあ! ようやく俺の出番が回ってきたぜ!!」

 突如シンとヴリトラの間に割って入る人影が、意気揚々と言い放つ。
 声の主──ゲンマは大剣を担ぐように両手で振りかぶると、脚を開いて腰を落とし、迎撃の構えを取る。

『有象無象の分際で、我の前に立ちはだかるな!!』
「ウルセエ! ケツから血ィ流してる間抜けが偉そうな口叩いてんじゃねえよ!!」
『キサマアアアアア!!』

 響く挑発の声に激昂したヴリトラは、渾身の勢いで尻尾を振り下ろす。ゲンマとシン、両方まとめて叩き潰すために──。

「──じゃ、後はヨロシク」
「ちょ!! シンド──ジン!?」

 背後でノロノロと薬瓶を取り出すシンに向かってゲンマは、とばっちりでしかない理不尽な怒りの矛先を向けられながらも、迫り来る攻撃に覚悟を決める。

「ええい、こうなったら来やがれ! 必殺、大波返しカウンターストライク!!」

 ──ギュバン!!

『!? ギャアアアアア────!!』

 ゲンマの掛け声一閃、轟雷牙は文字通り雷を纏うと、魔力と雷撃を巨大な刀身に変えヴリトラの尻尾を両断した。
 シン以外の人間に肉体が傷つけられた事実にヴリトラは、悲鳴と困惑、そして憤怒の表情を浮かべて天に向かって雄たけびを上げる。
 ──しかして、その偉業をなした男はというと、

「~~~~~!! 痛ってええ!!」

 相棒であるはずの轟雷牙を取り落とすと、その場に膝をつきながらこれまたポッキリと折れた両腕を見ながらうめいていた。

「あ~、超人剤を飲んだ3倍筋力でアレを斬り飛ばせば、まあそうなりますねえ」
「腕だけじゃねえよ! 踏ん張った足までヒビが入ってるって! ってかジン、お前さっきから骨折を繰り返しながら攻撃してるけど、一体どんな神経してんだよ!?」
「……慣れ、ですかね」
「とんでもねえな……」

 そんなのほほんとした会話をヴリトラの足元でしている2人は、突如襟首を掴まれそのまま引きずられてゆく。

「2人とも、バカ話してないで早く退避しなさい!!」

 シュナに引きずられて2人がヴリトラから距離を取る頃、再度ヴリトラから呪文の詠唱が聞こえてくる。

「チョット待て、アレも治るってのか?」
「そりゃもちろん、なにせ”復元魔法”ですからねえ。どうせなら切り落とした尻尾はそのままに新しく生やしてくれれば素材が増えて損失も補填できるんですが」
「ジンさま、そのような余裕は私共には……」
「ま、なんにせよ計画通りだよ、我、世界に呼びかける、彼方かなた此方こなたを結ぶ道、繋ぎし門をわが前に、”ゲート”」

 シンは転移魔法を発動させるが、シンの前には、そしてヴリトラの前にも転移門は現れない。
 やがて光に包まれたヴリトラが身体を現すと、そこには再び5体満足の、牙も尻尾も修復がなされたヴリトラの姿が、

 ──ドスッ!!

『グヌウ!?』

 回復直後、まだ使い慣れない魔法の行使で硬直状態にあったヴリトラの背中、両翼の付け根部分に鋭い音と共に矢が刺さる。

「メタリオン様、お背中失礼いたします」
『構いません……そういえばルフト、私の背中に乗ったのはシンに続いてあなたが2人目ですね』
「それは、光栄の至りです!」
『私に対してドラゴンなどと暴言を吐いたのも2人目でしたが……』
「……あ、その……申し訳ありません」
『冗談ですよ』
『ぐぬぬ、こっちにも虫けらがおったか!!』

 ヴリトラは己の頭上、リオンの背中で弓を構える蜥蜴人ルフトを視界に捕らえると、怒りのままに飛び上がろうとし、異変に気付く。

 ヴン──

『……これは!?』

 魔弓ミーティアから放たれた2本の矢は見事、鱗の隙間を付いて深く突き刺さると、ヘヴィ・トータスの角から作られた鏃が重力結界を生み出す。
 近距離に打ち込まれたおかげで重力結界は相乗効果で威力が増大、魔竜の巨体ゆえに地面に押し付けられるような効果は起きないが、翼を自在に羽ばたかせる事が出来なくなってしまう。

『くうう、まさか!?』
「元々その魔法は傷は治せても異物の排除は出来ねえんでな、とりあえず空のアドバンテージは封じさせてもらった、むしろリオンがいる分コッチが有利だな」
『くっ──シンドゥラ!!』
「棚からぼた餅で手に入れた力なんぞで手に入りゃあしねえんだよ……勝利も、幸せも」

 シンはヴリトラを見上げながらシニカルな笑みを浮かべる。
 それはヴリトラに向けたものでもあり、自分に向けたものでもあり、そして、この場にいない誰かに向けたものでもあった。
感想 497

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。