転生薬師は異世界を巡る(旧題:転生者は異世界を巡る)

山川イブキ(nobuyukisan)

文字の大きさ
210 / 231
6章 ライゼン・獣人連合編

273話 薬師らしく

 夕食に突如訪れた試練を乗り越えたシンはその夜、オルバ達と一緒に夜のマニエルの街に繰り出す。

「まあ、久しぶりの夫婦水入らずだからな」

 とは、一番の良識派であるリーヴァルの提案であった。
 宿屋の近くに並ぶ酒場で、さすがに精根尽きたかシンはテーブルに突っ伏し、「う゛~~~~」と唸り声を上げ、それを見たオルバ達は面白そうにニヤつく。

「なんだシン、おめえ虫が苦手なのか?」
「虫が苦手なんじゃありませんよ、虫の「幼虫」を「生」で食べるのが大の苦手なんです……」

 そう言い返すシンだが、言葉には欠片も力が感じられず、そのせいで、

「フン、なっさけない!」

 姉夫婦に気を利かせてシン達に同行しているミリエラに罵倒される始末。
 リトルフィンガー、そしてイズナバール迷宮内でのシンの姿を知っている三人としては、現在のシンの惨状は笑いの種ではあるが、ミリエラにしてみれば、自分の最も恥ずかしい姿を見られた相手の体たらく・・・・に、怒り心頭という所であろうか。

「まあミリエラちゃんもその辺で許してやんな、シンも悪気があった訳じゃねえんだし」
「分かってるわよ……ところで皆は今回はいつまでウチに泊まるの?」
「そうだなあ、今回はシンへの依頼もあるから長くはなりそうだが……」
「……コレに?」

 いぶかしげは表情を浮かべるミリエラの指差す先には、先ほどまで突っ伏していた身体を今度は椅子にもたれさせ、天井を仰ぎながら「あ゛~~~~」とうめくシンの姿が。
 こんな男に何を頼む事が? ──そう、目で訴えるミリエラの態度にリーヴァルは苦笑しながら、

「まあなんだ……今はこんな事になってはいるが、これでも凄腕の薬師だ。何せオレたち獣人連合の問題を解決してくれるかもしれない男だぞ」
「……リーヴァルさん、もしかして酔ってる?」

 シンを擁護したばかりに、自分まで疑いの目を向けられるリーヴァルだった。
 そんな中、いまだに復活出来無いシンはと言えば、

「──そもそも人類は、はるか古代に偉大なるプロメテウスから火を授かる、その時から技術文明が始まりを迎え……」

 復帰にはまだまだ時間がかかりそうだった──。


………………………………………………
………………………………………………


「──で、そのスゴ腕の薬師さんは何をしてるの?」

 背後から聞こえるミリエラの声にシンは、火にかけた鍋を混ぜながら、その手を止める事無く顔だけで振り返り、

「見ての通り薬を作ってるんですよ」
「……こんな場所で?」

 その言葉にシンは周囲を見渡す。
 ここは、昨日ミリエラがイソギンチャクサウザントソーンに襲われたモースの生け簀の側にある、石を積み上げて作られた休憩地で、シンはそこの一角に簡易的なかまどを作って薬作りにいそしんでいた。

 牛の乳を火にかけながら、表面に膜が出来始めたころに蜂蜜とすりおろしたランジャの根を投入、そのまま弱火でじっくりコトコトと煮込み続ける。
 その後、鍋の中身が三分の一にまで減った所で火から離して、少量のマッド・ペッパーの粉と、パウダー状の魔石粉を小さじ一杯程度ふりかけ、かき混ぜながら熱を冷まし徐々に固形にしてゆく。
 半固形状になったそれを、今度は浅めの容器バットに流し込んで完全に冷ました後、まな板の上に取り出し、鋼糸を押し当て一口サイズに切り分けて──。

「ほい、寒露飴カンロあめ、生キャラメルバージョンの出来上がりですよ」
「おお出来たのかシン、ってか生キャラメルってなんだ? 前みたいに飴玉じゃねえのか?」
「……その飴玉をバリボリと噛んで食べたのはどちらさんですか? 獣人の皆さんには即効性が求められそうなんでね、チョット変えてみましたよ」

 そう言ってシンはどこからか湧いてきたオルバから背を向け、隠れるように【組成解析】の異能を発動させて完成品を分析する。
 問題が無いのを確認したシンは、

「どうやら効能に違いは無さそうですね……二人とも食べてみますか?」
「いいのか?」

 生キャラメルを渡されたオルバは早速それを口に入れ、モニュモニュと噛んだ後ゴクリと飲み込み、

「──おう、コレコレ、来たぜええ!!」

 全身の獣毛をブワッとざわめかせたオルバは、そのまま湿原に足を踏み入れ、バチャバチャと茂みの向こうに消えてゆく。湿原の奥へ狩りに行ったのだろう。

 広大なマニエル湿原は、リザードマンが作る集落を一歩でも離れると途端に魔物が跋扈ばっこする危険地帯に変わる。そのうえ、境界の為の柵は、いつでも集落を拡大出来るように木製の簡易的なもので、決して安全とは言い難い。
 とはいえ、元の身体能力が高めのリザードマンゆえ大した問題にはならず、今までも魔物が柵を超えてきた事は何度もあるが、その都度討伐されているのだとか。
 昨日、ミリエラを襲った魔物もその同類だった。

「──チョット、何を作ったのよ?」

 獅子獣人オルバの豹変振りに、手にした生キャラメルがとんでもない劇薬なのではと訝しむミリエラに、シンはどう説明しようかと悩んでいるところ、丁度タイミングよくルフト達がやって来る。

「──お、出来たのかシン……うん? 形が違うようだが……」
「……飴玉を作っても噛み砕かれるだけなので食べ易いように改良してみたんですよ。効果の程は、先ほどオルバさんが柵の向こうに繰り出して行ったところです」
「そうか、なら成功だな……ミリエラも食べてみるといい、説明を聞くよりも早いぞ」
「義兄さんがそう言うなら……」

 パク──

 ルフトにうながされて生キャラメルを口に入れたミリエラは、暫く口の中でそれを味わうと、コクリと可愛く飲み込む。
 その後すこしの間不安な表情を浮かべていたものの、


「────!!」

 急にその目がカッと見開くと全身をプルプルと震わせ、戸惑いながらも自分の内側から溢れてくる力に喜びを覚えるミリエラは、ニッと歯を剥き、鋭い牙を見せ付けるように獰猛な笑みを浮かべる。

「これって……?」
「うむ、どうも、シンの作ったそれを食べると獣人種は全身が活性化されるようなのだ、俺たち蜥蜴人リザードマンだと、陽の照りつける真夏の時期のようにな」
「すごい! 義兄さん、アタシちょっと行ってくる! アイツ・・・に見せてやるんだ」

 言うが早いかミリエラは文字通り飛び跳ねるように湿原を駆け抜けて行った。それはまるでどこぞのバシリスク(バジリスクではない)のように水上を走りながら。

「……元気ですねえ、ところでアイツとは?」
「うむ……それがどうやら、恋人、らしい……」
「ああ、なるほど……若いですねえ」

 心身が充実しまくって肌ツヤも良い状態の自分を見せ、褒めてもらおうとの思いであろうか、見た目はああでも立派な乙女だった。
 ただ、なぜかルフトの声は歯切れが悪い。義理とはいえ妹に彼氏が出来たのはやはり、兄としては辛いのだろう。

「──すまないな、シン」

 ──違った。

「謝られても困りますし、なによりその話はお断りしたはずなのですが……」

 ミリルの姿を見て、密かに妹に期待をしていた事実をどこかへ捨て去ったシンは、うんざりするようにルフトの言葉を流すと、おやとルフトの異変に気付く。
 ミリエラの事だけでは無いだろう。なにやら悲しい事でもあったのか、肩を落として明らかに元気が無い、そして何よりアレ・・が無い。
 直接聞くのがはばかられるシンは、後ろに控える熊獣人ガリュウウサ耳獣人リーヴァルに視線を向けるが、二人とも目を閉じて首を横に振る。俺に聞いてくれるなといった態度だ。
 らちがあかないシンは仕方なく、直接ルフトに問いただす。

「ルフトさん──魔槍はどこへ?」

 ビクン──!!

 静かなシンの声が、怒りを抑えたものだと勘違いしたか、ルフトはバネの様に跳ねると直立不動の体勢をとり、虫の鳴くような小さな声でぼそぼそと話す。

「すまないシン……槍は……槍は……」
「槍は?」
「族長に……没収された……持ち歩くには物騒すぎるから、と」

 ハァ──シンは溜め息をつくと、

(まあ、普通そうなるわな)

 全てを話して緊張の糸が切れたのか、その場に崩れ落ちてシクシクと泣くルフトにシンは、哀れみの眼差しを向けた。
感想 497

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。