転生薬師は異世界を巡る(旧題:転生者は異世界を巡る)

山川イブキ(nobuyukisan)

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6章 ライゼン・獣人連合編

285話 侵攻

仕事とプライベートでゴタゴタしておりましたが、やっと色々落ち着きました。
『転生者は異世界を巡る』改め『転生薬師は異世界を巡る』、3月下旬発売予定です。
なお、ペンネーム『山川イブキ』の名で出版されます。書店で見かけた際には、お手にとって頂ければ幸いです。

──────────────────────────────────────

 オウカ──それは、ライゼン南東部域を守護する代官──地方領主の家名であり、同時に南東に位置する城郭都市の名称でもある。
 資材等、建築コストを考慮して、円形になるのが常の都市形状であるが、オウカは所々に棘のように突出した稜堡りょうほを持つ、いわゆる星状要塞の形をしていた。
 周囲に堀は無く、出入りの門も大型な事から、外敵を寄せ付けない、打って出る為のものではなく、敵を引き込み殲滅する事を主戦法とする砦を思わせる。
 北東部にある都市、コウエンが円形城郭の形をしている事と対比して、このオウカが、いかに獣人、ひいては獣人連合に対して警戒感と敵意を持っているのかが伺えるというものだろう。

 ザッザッザッザッ──

 南端の都市ハクロウとオウカを繋ぐ街道から外れた、十二月の寒さで力なくしおれた草原地帯を力強く踏み締める足音が、夕暮れ時の世界に響く。
 騎馬隊を先頭に、槍兵、弓兵、魔道士と続き、殿しんがりを歩兵が務める、三〇〇〇弱の武装集団だ。

「止まれ!」

 ザッザッザ…………──。

 馬上から響いた声が波のように周囲に広まると、それに呼応するように足音は次第に小さくなり、やがて無音になる。

「ようやく着いたな──」

 騎馬集団の中央で馬を操る指揮官らしき男は、肩の力を抜くと、周囲を見渡し一言、そう呟いた。
 眼前には堅牢な要塞がそびえ立ち、その周りは見渡す限りの平地になっており、姿を隠す場所など無い。
 門と繋がる街道を除いた場所は、収穫を終えた農地であり、農閑期のうかんきを迎えて多少地面が硬くなってはいるものの、お世辞にも良い足場とは言えない。
 春から秋には耕された地面、冬は寒さと言う名の難敵が立ちふさがり、それでも強引に攻め込もうとすれば星状要塞の特性を生かした集中攻撃によって甚大じんだいな被害をこうむる、実にいやらしい・・・・・都市といえる。
 しかし、それも真正面からぶつかればの話だ。
 古来より、堅牢な砦が落ちるのは内部から──慢心による油断もしくは、裏切りによって、だ。

 サッ──

 指揮官の合図で騎馬隊が進み始めると、後続の部隊もそれにならい、まるで誰かに見せ付けるように、統制の取れた動きで目の前の「オウカ」を目指した。

 先頭が城壁に立つ見張りの姿を目で確認できる距離まで近付いた頃、ギギギと大きくきしむ音を響かせながら、オウカの南門が開き、そこから一騎の騎馬兵が近付いてくる。
 その手には槍の代わりに大きな白旗が掲げられており、敵意の無いことを示していた。
 やがて、その兵士は騎馬隊の鼻先まで近づくと──

「我等に交戦の意思は無く! どうか責任者にお目通り願いたい」

 かくも重大な内容にも拘らず、男の態度に悲壮感は無く、まるで定時報告でもするかのように淡々として口調でそう告げる。
 そして、騎馬隊の中央から指揮官の男が申し合わせたように現れると、男に向かって話しかけた。

「我は『ドウマ』のライゼン攻略軍、第二連隊指揮官、トマクである」

 トマクと名乗った男は、目の前の兵士を一瞬、鋭い眼差しで見据えると、すぐに威圧を解いてにこやかに話しかける。

「ウム、確かに・・・『オウカ』の兵士のようだ。して、首尾は?」
「ハ、既に迎え撃つ準備は出来ております! 後は敵がおびき寄せられるのを待つばかりです。つきましては、まずは都市内へどうぞ。冬の、しかも補給部隊を連れずの行軍とあってはお疲れでしょう」
「……そうだな、実質戦闘が無いとはいえ、保存食だけで一週間の行軍はさすがに疲れが溜まる」

 その言葉を聞いたオウカの兵士は、ニカっと、この場に似つかわしくない笑顔をあげた。

「ならば急ぎ中へお入り下さい。食事と寝床は十二分じゅうにぶんに用意しておりますゆえ」
「おお、ありがたい。それでは──ああ、しばし待たれよ、本体に連絡しておかねば」

 ドウマの指揮官はそう言うと男から少し離れ、懐から水色のクリスタルを取り出す。そしてそれに魔力を通すと明滅するクリスタルに向かって話しかけ、やがてそれが終わると、クリスタルを懐に戻す。

「待たせたな。やれやれ、盛大に愚痴ぐちられたよ……『コッチは寒い中、籠城戦だと言うのに、そっちは温かい寝床で暖かい食事か?』とな」

 こっちは戦費せんぴ削減の為に十日分の保存食で一週間の行軍だ──などと愚痴る指揮官の態度に苦笑しながら、兵士はドウマの軍をオウカへと先導する。
 ドウマ軍は、都市に近付く自分達の事などいないかのように篝火かがりびを焚きながら城壁を歩く兵士達の姿に、徐々に緊張を解き出し、そこかしこで談笑する姿が見受けられる。
 そんな兵たちを背後に感じながら、白旗を担いだ男は指揮官トマクに話しかける。

「こちらは昨日『ハクロウ』襲撃の報を受け、周囲の情勢をかんがみて援軍はオウカとコウエンから派遣、急ぎ編成したコウエンからの援軍二〇〇〇が今朝方、街を出たそうです──」

 コウエンはまず、オウカを中継するかたちでハクロウを目指す。オウカが先行してハクロウの救援に、との案もあったが、戦力の逐次投入による戦場の泥沼化を防ぐため、オウカの兵はまずコウエンと合流する事となった。
 その為コウエンは、一刻も早く軍をオウカに派遣するために強行軍を行い、翌日の夜にはオウカに到着するとの事。そこで補給と軍の再編成を行い、ハクロウへ援軍を送る、という算段である。

「コウエン軍の休息と軍の再編成に二日を要するとして、援軍がハクロウに到着するのは一週間後、となっております」
「わかった、その旨、本隊にも連絡しておこう」

 トマクは再度、クリスタルを取り出して連絡を入れると、オウカの南門をくぐった。
 都市の内と外を繋ぐ通路は城壁部分よりも奥深く造られ、十数メートルとはいえ薄暗い洞窟にも似たそれは、通るものを多少なりとも萎縮させる。
 ましてや今はよいの口、周囲の景色は見えにくく、肌を撫でる冬の冷気に気は沈む。
 もしこれが戦であれば、都市内へと続くこの路を、胸をたかぶらせながら馬を走らせたであろう。危険が無い、その気の緩みこそが、馬を操る兵士達の気勢をいでいった。


「──静かだな」

 静か、いや暗いの方がより正確であろうか。とにかく明かりが少ない。
 民家の明かりはチラホラと点いているものの、繁華街に見られるような大きな光の集まりといったものは無く、ポツポツと点在するのみである。

「まさか、住民が逃げた──のか?」

 あるいは反抗した者を処罰した──その言葉を飲み込んだ指揮官トマクは、先導する兵士に質問を投げかける。
 兵士は困ったように振り向くと、

「いえ……お恥ずかしい話ですが、先日街に流行り病が起きましてね」
「なんだと──!?」
「ああ、ご安心下さい、それについては、たまたま街に逗留とうりゅうしていた商人が薬を用立ててくれて解決したのですが、なにぶん病のせいで体力が落ち、みな家の中で大人しくしているのですよ」
「なるほど、そうであったか……であれば軍の方にも被害は出ておろう。明晩みょうばん、コウエンの軍を討つだけの余力はあるのか?」

 いかにドウマの軍と挟撃の形をとるとはいえ、病み上がりの状態で戦場に出られるのは困る。むしろ足手まといとなりかねない。
 指揮官トマク危惧きぐに兵士はしかし、振り返るとにこやかに笑う。

「ご安心を、そもそも我等はコウエンと戦ったりはしませんので」
「──なに?」

 トマクが訝しげな顔になる頃、ちょうど騎馬隊の最後尾が門を潜り、次いで槍兵部隊が通路に差し掛かったその時──

 ドグワアァァァァンン!!

 オウカの南門通路が、爆発音と共に崩落した。

「何事だ!?」
「──こういう事ですよ」

 ゴッ──!!

 轟音に振り向いたトマクの後頭部に、白旗が括りつけられた槍の石突を叩きつけた兵士は、馬から崩れ落ちたトマクを急いで捕捉ほそくすると、大声で合図を送る。

「敵の指揮官は捕らえた。作戦は第二段階に移行せよ!!」
「「応──!!」」

 兵士の掛け声と共に、建物の影から息を潜めていた『コウエン』の兵士達が、槍を構えて騎馬部隊に殺到した。

「保存食だけで一週間、降伏は早めにした方が身の為だぞ!!」

 そう告げるコウエンの兵士はしかし、降伏など認めないという表情だった。
 内部工作でオウカを離反させ、今なお南のハクロウを攻める怨敵おんてきドウマ。コウエンの兵士の目には激しい憎悪が宿っていた──。
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