God of Lost Children

不協和音

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イトシキバケモノ

消した現在地

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やってしまった……やってしまった……俺……俺!!!



人を殺してしまった……

小さな家の玄関で人を刺した
自分が刺した女からはおびただしい量の血俺が刺した喉から出ていて手がピクピクと動いている

まだ、まだ生きているのか、まだ、まだ俺を殺そうとしに来るのかとうつ伏せに倒れている女の上に跨がって今度は心臓を思い切り刺した。

女は絶命して手を動かすこともなかった
俺はやっと安心することが出来た

この女はジャーナリストで父親がとある小学校に入り何十人の生徒と数人の教師を射殺もしくは撲殺し、父親は死刑判決を下された。それが昨日の事

事件が起きたのはずっとずっと前
まだ子供だった俺には良く解らなかったが大人の事情という奴で裁判が長引いたらしい

父親の心的障害だったり母親の自殺やらで俺は1人になった。でも、独りではなかった。
俺が育った村では例え両親が凶悪な犯罪を冒したとしても子供にはなにも関係なかった
今になってわかるがその村は他の村と比べると異質なのだ。
村人全員が家族のようで村人全員が信仰対象なのだ
その村では外の話しは通用しない。市街地に出てきてわかった
市街地に働きにでたとき俺は「大量殺人犯の息子」なのだと石を投げられた
そんな中で俺に手をさしのべてくれたのが
ジャーナリストの女 霜垣 涼子《しもがき りょうこ》だった

霜垣は自分は警察官で例え殺人犯の息子だとしても石を投げられる理由はないのだと言った

「私の息子はそいつの親に殺されたのよ!?!?なんで……なんでなのよぉ!!!!!!」

「許せるわけがねぇだろ……どけよ!警察官かなんがか知らねぇけどそいつが生きていることが問題なんだ!!!!!」

街にでれば罵詈雑言。働くところも見つからなかった

「悪は君ではないよ。私の名前は霜垣涼子、君を見る1人のしがない警察さ」

霜垣はただひとりの俺を俺としてみてくれる「人間」だった。だから心を許したんだ

霜垣は草はのびきりベンチや遊具の塗装は剥がれ自分たち以外に人は居ず廃れた公園の座る度にギシギシとなるベンチに座って二人で良く話した

「寒いな。カイロとか持ってる?」

「持ってない」

「持っといた方がモテるよ」

「別にモテなくていい」

「ふーん、そ。世間話でもしよっか」

「セケンバナシ」

「そ。なぜここら辺にきたの?」

「……働くため。」

「君は父親が嫌いかい?」

「覚えてない。父親は俺が物心ついた時にはもう、施設にいた」

「施設?それはどんな施設なの?」

「知らない」

「……もっと君の事が知りたいんだ。なんでもいいから思い出してくれよ」

「知らない。……だけどその施設にはいったら神になるんだって母親は言ってた。」

「神?どういうことかな?」

「知らない、知ってるのは施設の中にいる神だけなんだ」

「…………あ、そ、まぁいいや。もう一回聞くけど君はここに来たのって本当に働きにきただけ?」

「あぁ。村のシキタリで成人する前に1度は村をでて外を経験するんだって言われたから」

「ふーん。」

ベンチで10分程質問をされると必ず1000円貰えた。これが外の働き方なのだと俺は勘違いしていた
だから、俺から質問することなどなかったし霜垣の考えすらわからなかった

半年間そんな生活が続いてある日霜垣は俺を家に呼んだ。霜垣の家に行くまでに霜垣の車で行くらしい。パステルカラーの車に赤色の鈴のキーホルダーがついた鍵でロックを解除していた。霜垣に後部座席に乗せられて揺れはあまりない道を通っていく
窓から外が見えて親子が散歩していたりカフェがみえたりたまに大きなビルもみえる車からの景色はすぐかわるから見逃さないようにするのが大変だった

「はい、到着」

そんな霜垣の声と共に小さな家がみえる

「沢山扉があるけど全部にはいっちゃ駄目だよ。私の部屋は階段あがって右側の一番奥だから」

「わかった」

霜垣に言われて階段をあがって一番奥の部屋に行くドアノブに手をかけてもあかなかった
鍵がかかっていた

「霜垣、鍵開いてない」

「そういやそっか。んじゃちょっと荷物持っといて」

そう言って何が入っているのか気になるレベルで重たいカバンを背負った

「重たすぎる。何が入っているの?」

「部屋に入ったら教えてあげる」

ガチャガチャと鍵をまわして扉を開く
開いた時他人の家特有の匂いがふわっとでてきた
霜垣と同じ香りだった
玄関のドアもボロボロだったが部屋のなかは白や黒を軸とした整頓された部屋だった

「靴脱いでさっさと入って。外結構寒い」

そりゃそうだ。今は11月下旬で立派な冬さっきまで公園のベンチにいたので俺のからだは芯も冷たくなっていた

「リビング行ってて、飲み物水でい?」

「あぁ。」

霜垣はキッチンに行き俺はリビングに行き机の前で行儀良く座った
警察官の家はなんだか普通の人間の家と変わらなかった

「おまたせ。はい、水」

霜垣はペットボトルに入った水を机におき俺の隣に座った

「今日君に来て貰ったのは最後に聞いておきたい事があったんだ」

「?それなら公園で良かったんじゃないか?」

「良くない。誰にも聞いてほしくない話だからね」

霜垣の表情はどんどん険しくなっていき感情が読み取れない、でも確かにいつもの彼女ではなかった

「ねぇ、君はさ親が大量殺人犯なのに子供が生きてていいと思う?」

「どういうこと……?」

「私のね親友はね、君のお父さんに殺されたよ」

「……」

「教師歴2年目で初めて担任になってお祝いもしてね……最近は好い人も居たみたいで沢山2人で」

「その事を話したくて俺を呼んだのか?」

「ううん、違う。」

霜垣の髪で顔が見えない

「これは復讐だよ」

そう言って霜垣はとある週刊文集に2ページいっぱいに父親の事件について書いてあった
その中には俺の名前や母親の名前もはいっていた

「!待ってよ。なんで……警察だって言ってたじゃないか……!!!こんなの……まるで俺達が悪みたいで……本名だって!!……霜垣は……俺を、俺として見てくれるんだって、だって、言ったじゃんか!!!!「君を見る警察」だって!!!」

「あぁ……そんなことも言ったか。でもな、私のあの時の本音は……」

やっとみえた霜垣の顔。

恐ろしい程笑顔で霜垣の瞳に光は消えていた

  

「悪は君ではない……」

「悪は君"だけ"ではない」





















「君を見る」

「君を"監視"する」




















「しがない警察だよ」

「しがない 復讐者《警察》 だよ。」








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