ミシャ

北河 悠然

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物音

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ーー祖母の葬儀から10年経った。

祖父の影響からか、やはり私の中にある芸術家になりたいと思う夢は大きくなってきていた。

そして今日も工房前の作品小屋で出品前の作品達を眺めている。

見慣れた木彫作品がある


老婆の立像だ

ここ数年の間にどこへ行っていたのだろうか、通夜の後に見た以来、一度も見ていなかった

目の淀みは相変わらずでとても怖い。

だが、未だにこの淀みがあるということはやはり、水晶やガラスなどの素材で作られているのだろう。

「やっぱり人の目なわけないよね。」

私は安堵で内心ホッとしていた。

コッコッ、カンカン、カッ…

工房の小窓から木槌でノミかしらを叩く音が聞こえる

「じいちゃん、今日も作ってるのか。」

やっぱり気になる、長年我慢してきたのだ、もうこらえるのが限界だ。
寧ろよくもまぁ堪え性のない自分が幼い頃我慢出来たものだ。
賞賛に値するレベルなのでは?とさえ思う。

小窓の奥を覗きたいのだが、高い位置にあり、私の背丈では届きそうにもない。

周りを見渡してみたが、踏台はないし、登れそうな木も無い。

工房にはあの小窓以外ドアしか外と中を繋げる場所はない。

「ドアか…じいちゃん施錠にはうるさい人だからなぁ…。」

だが今のところドアしか希望がない。

ドアノブに手を掛けてみる

カラ…

(えっ…開いてんじゃん)

恐る恐る開けてみる

「開いたーっっ!!」

私は嬉しさのあまり、小声だが叫んでた。

初めての工房、まずは部屋の物色をしてみよう。

古い振り子時計…作りかけの作品や完成したもの。
壁には木彫仮面が一面にビッシリと飾られている。

(二部屋に分かれてたんだ…)

コッコッ…

どうやら隣の部屋が作業部屋らしい。
そっと引き戸を開ける。

祖父の背中が見えた。作業に集中しており、私には気づいていないようだ。
祖父の背後にあった椅子に座った。

(バレるまで見学させてもらおう。)

心地よい、木槌の音とノミかんなの音が祖父の手の中から部屋中に響き渡る。
なんだか気持ち良くなってきてしまう。

作業部屋を見回してみる。
この部屋には道具ばかりだと思っていたのだが、壁に一つ木彫の仮面があった。
隣の部屋のものとは違い、日本風な感じがしない。

(じいちゃんのものじゃないのかな…?)

アフリカの先住民がしてそうなそのデザインではあったのだが、これもまたあの老婆の立像が如く薄気味悪い感じがする。

「じいちゃん、あの仮面はなに?じいちゃんの作品じゃないよね?…あっ。」

すっかり忍び込んだことを忘れて尋ねてしまっていた。

(バレる……ん?バレてない?)

集中しているのか、とにかくそれが幸いして祖父にはバレていないようだ。


いや、バレてるはずだ。かなりの声量で声かけをした。

私は祖父の横まで移動してゆっくりと顔を伺った。
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