とあるアルファと魔力の相性が良いらしいが、僕にはよく分からない【オメガバース】

さか【傘路さか】

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7(完)

 恋心が居場所を見つけると、毎日でも会いたくなる。けれど、ちょうど仕事が忙しくなったのか、クレフからのお誘いはぱったりと途絶えた。

 誘いが切れれば僕から声を掛けることはできず、僕は毎日ひとりの部屋に帰った。二人の空間に慣れていると、新居に心細さを感じてしまう。同僚にクレフの家に引っ越したい、と愚痴っては、今の家に引っ越したばっかりじゃん、と軽口を叩かれた。

 王宮で偶然会えないかと普段歩かない場所も通ってみるのだが、偶然は頻繁に起きないから偶然なのだった。

「ネーベル。そろそろ発情期の休暇、取らなくていい?」

 予定を確認していたヴィナスに声を掛けられ、ばっと身を起こす。鞄から手帳を取り出して前回の日付を確認すると、ちょうど一周期前くらいの日付になっていた。

「うわ。明後日から取る。…………取ってもいい?」

「最近は忙しかったとはいえ、もうちょっと早く言えよ。俺は大丈夫だから上に報告だけしときな」

 慌てて上司のところに駆け込み、休暇の予定を告げる。もしかしたら、と体調に合わせて休日をずらす了承も貰っておいた。

 ヴィナスの所に戻り、上司に告げたのと同じ日程と礼を伝える。同僚は、はぁい、と軽く請け負ってくれた。

「発情期はクレフ近衛隊長んとこ行かないの?」

「番でもないのに、発情期に引き込むのはないだろ。向こうも仕事あるし」

「色仕掛けで落としちゃえばいいのに」

「しないよ。そもそもできない」

 そう言い合って、今日の仕事場所に向かうことにした。いつもは個人で行動するのだが、発情期も近いし、とヴィナスも補佐のために同行してくれる。

 装置の故障箇所は珍しく王宮の中枢に近い場所で、王族用の厨房にある冷却装置の調子が悪いとのことだった。今日こそクレフに会えるだろうか、と思ったが、最近の遭遇率を考えると期待しないに越したことはない。

 厨房に着くと挨拶をして、冷却装置のある場所に潜り込む。木板に埋め込まれた術式の一部が鼠にでも囓られたのか欠けていた。欠けた部分を避けるように、途切れた術式同士を繋げて埋め込み直す。

 ごそごそとその場所から這い出て、埃を払う。軽く魔術装置を起動させると、ぱきぱきと水が凍った。

「術式が欠けていたので埋め込み直しました。今後は大丈夫だと思います。あと、こちらで用意しますので、この装置の周囲に鼠避けの金網を貼りましょう」

「ああ……、囓られてましたか」

 担当者は、心当たりがあるようで頷いている。

「はい。次も囓られたら、また止まってしまいますから」

 ヴィナスと分担して同様の装置を調べ、数カ所に金網を設置することで合意する。厨房を出たところで、次の予定、と手帳を見ていると、ヴィナスに襟首を引っ掴まれた。

 鼻先が近くに寄せられ、匂いが嗅がれる。

「質の違う食事の匂いがあったから分かったんだけど、いつもと匂いが変わってる。次からの仕事は俺に任せて、帰った方がよくない?」

 早口でその提案が告げられる。嘘、と自身の手首を鼻先に寄せてみるが、僕には匂いが分からなかった。

 がくりと肩を落とす。引っ越しから先は忙しなかったとはいえ、自己管理ができていないにも程があった。

「はーい、帰りまーす……」

「人がいないとこ通って帰ろっか。あっち」

 人気の少ない従業員用の通路を指差され、ヴィナスの先導に従って歩く。あまり通ることのないその通路は、王宮の警備の人々がよく使う通路だった。片側が外と繋がっており、燦々と輝く床に次々と影を作る。

 歩いている間に、特有の熱っぽさが身体を侵し始めた。進行の速さからすれば、ヴィナスが言うようにすぐ帰った方がいいくらいの症状だ。

「わ」

 目の前で、ヴィナスの声が上がった。

 視線を上げると、警備の制服の人物達がいる。その先頭に、見慣れた姿を視認した。

「…………ネーベル。こちらに用事でも?」

「うん、仕事で」

 送られたヴィナスの視線が、早く切り上げるように告げていた。クレフの背後にはいつぞや会った部下のウィクトーの姿もあり、こちらを見て目を丸くしている。

「何かが壊れたのか?」

 話をしようと口を開くクレフを制するように、少し早口で語気を強める。

「ごめん。ちょっと次の仕事に急いでて……」

「あぁ、そうか。────……?」

 クレフの瞳が、何かに気づいたように見開かれる。その瞬間、腕が掴まれ、胸の中に引き寄せられた。腰に回った腕が身体を引き上げ、傾いだ顔が首筋に埋まる。

 こくん、と息を呑む。

 匂いを嗅がれている間、喉元に牙を添えられた小動物のように、僕は身を竦ませていた。

「隊長……! ちょっとあの、え!?」

 突然のことに慌てている部下に対して、クレフは静かに口を開く。

「ウィクトー、俺はこれから早退する。あと以前言っていた長期休暇になるかもしれない。明日、俺が来なかったら副隊長にしばらくの案件は投げてあるから」

「…………え。……あ、そっか。分かりました!」

 僕の身体は抱え上げられ、すたすたと廊下を歩き始める。ヴィナスが我に返ったように横に付いてきた。僕とクレフを交互に見ながら、口を開く。

「あの、ネーベルは発情期が始まりかけっぽくて……」

「ああ。かなり強く匂うが、これは俺だからなんだろうな。このまま家まで運んで、買い出しなんかも手伝うよ」

「えぇ……っと……」

 ヴィナスの視線が窺うように僕に向けられ、その視線に頷き返した。そっか、とヴィナスはほっとしたように呟くと、一緒に職場まで歩き、僕の鞄を持ってきてくれる。

 上にも確認を取ってくれて、今日から休暇に入ることになった。

「じゃあ、ごゆっくり」

 同僚の言葉には含みがあるように思えたが、僕はそれを言及することなく、鞄を持ったクレフに背負われた。まだ匂いがクレフを引き込むほど強くないのだろう、彼の表情は平静そのもので、僕を背負ったまま歩き始める。

 王宮を出て彼が向かおうとする方向は新居のある方向で、僕はその襟を引いた。

「どうした?」

「あっち、がいいんだけど」

 指差した方向にある家を家主が知らないはずもなく、クレフはその場に立ち止まる。無言の間がしばらく続き、クレフは方向を変えた。

「連れて帰ったら、もう離してやれないぞ」

 僕は俯いて、その背に顔を埋める。ゆったりとその広い背に身体を預け、ただ守りたいという感情だけが伝わる魔力の波に揺られていた。

 いつもは近かった帰り道が、永遠にも思えるほど長く感じる。心の内をなかなか語れず、僕は沈黙を貫いた。

 玄関の扉の前で背から下ろされ、鍵を開けて家に入る。家の中は最後に来た時のままだった。

「ネーベル。その……」

 名前を呼ぶ胸の中に飛び込んで、息を吸った。大きな背に手を回す。

「僕、クレフの番になりたい」

 逞しい腕が背に回って、重力に逆らって引き上げられる。屈んだ顔が隣に擦り寄った。

「ああ。俺もずっとそう言いたかった」

 近付いた顔を、両手で捉えて唇を寄せる。

 柔らかいものが唇に当たって、ぴったりとくっついた。唇を開いて触れたものを舐めると、僅かに相手の唇が開く。おずおずと舌を差し込めば厚い舌が絡み付いた。

 ゆったりと触れ合わせて舌先で辿る。柔らかい場所を行き来する度に、背筋を甘いしびれが伝った。

 相手の匂いが、強く、濃くなる。

「寝室、行かない?」

 唇が離れた瞬間、つい口に出していた。唇に指先を当て、紅潮した頬を隠す。どう取り繕おうか迷っている間に、身体が浮き上がった。

 膝下と、背が腕に抱え上げられる。

「っ、わ……!」

「悪い。このまま運ぶ」

 見上げた顔は耳まで赤くなっている。誘いは上手くいったようで、触れている胸元から煩いほどの鼓動が聞こえてきた。

 大股で部屋に入って、寝台に下ろされる。柔らかい布団が体重で沈み込んだ。一緒に乗り上がる身体に縋り付いて、また軽いキスをした。

 背後に手が回り、結い紐を解く音がする。髪が重力に従って落ちる音が、囁くように耳に届いた。

 服の裾に自ら手を掛けると、その手を覆うように大きな手が被さる。自分の指は裾から外され、別の指が代わりに服を持ち上げた。腕を上げると、衣擦れの音と共に上着が奪い取られる。

 指先が喉を通って、胸元に落ちた。

「胸に触れても?」

「次に聞いたら嫌だってしか言わない」

 苦笑と共にそう言うと、宥めるように唇が塞がれた。舌を潜り込まされ、絡めている間に胸の尖りに指先が触れる。押し潰すように触れ、捏ねては弄られた。

「…………っン! ぁ、んふ、ぁ……」

 弱い刺激が重なり、波のように押し寄せる。口内の主導権は向こうにあり、離そうとしても追いかけてまた塞がれた。後ろに僅かに傾ぎながら、胸元に触れている手を受け止める。

「少し、身体を高くしてもらえるか?」

 首を傾げながら膝立ちになると、胸がクレフのすぐ前に位置取る。照れに視線を逸らしていると、乳首をぬるりとした感触が伝った。

「わ、っゃ……!」

 突然の刺激に慌てる背を、腕が支えてその場に制される。背ごと引き寄せられ、更に深く触れた舌は胸の粒をねぶった。喉の奥から濁った声が漏れ、ちゅう、とそこを吸う音が被さった。

 唇が一旦離れた乳首はぽってりと熱を持ち、相手が吸いやすい形に変化している。息を吐く間もなく、また吸い付かれた。

「……ゃ、あ、────あ、も、やめ……」

 細かな刺激が長く与えられ、触れられていない前も張り詰める。胸元に埋まる頭を掻き抱いて、その赤毛を乱した。

 視線を上げた口元では、赤い唇に浮かぶように牙が覗いている。

「下も、さわって……」

「それなら、自分で脱いでくれるか?」

 目の前の唇には悦が浮かんでいて、ひく、と息を呑む。ぐずぐずと言い訳を音で漏らしながら、下の服に手を掛けた。彼が見ている前で、その場所を自ら晒す。

 クレフは上から下まで一頻り眺めると、嬉しそうに唾を飲む。寝台脇の小机にある引き出しを開け、中から見たことのない小瓶を取り出した。

 蓋を開けても、内部から匂いはしない。だが、彼が掌にそれを広げると、とろみのある液体が何のためのものかは察しもする。蓋が閉められ、瓶がシーツの上に放られた。

 ぬめりを帯びた手が茂りをひと撫ですると、触れた部分に影ができた。

 ぎゅっと目を閉じて、その時を待つ。僕の中心に指がかかり、ぬめったものが擦り付けられた。

「…………ッ、あ!」

 掌が竿の部分を持ち上げ、上から下に動かされる。液体の所為で、大きな掌の大部分が滑らかに粘膜を擦り上げる。皮の部分が動く度に、慣れた動作で刺激が与えられた。

 相手の肩に縋り付き、快楽に声を漏らす。敏感な先端を指先がぐりぐりと苛め、鈴口に僅かに爪が埋まった。

「……ふぁ、ン、ぁあ、────ぁっ、や、うあ」

 一度、強い刺激を与えて弱い刺激で宥め、また敏感な場所が掻かれる。一定の動作を何度も何度も繰り返していると、やがて気づかぬままに高められていた。

 もういっぱいいっぱいだ、と肩に雪崩れ込む。そこでようやく育てた芯から手が離れた。

 彼の掌には液体が足され、腕が背に回り込む。指先は真っ直ぐに窪みの位置を探り当てる。

「や……ッ! ……な、なに!?」

「此処に入りたい」

 その声はぞっとするほど低く、ごくんと唾を飲み込んだ。視線を向けた先の雄は服を押し上げていて、触れる魔力はひたひたと迫ってこちらを侵そうとする。あの時の一線を守っていたそれではなく、許可の一言があれば牙はすぐ食らいつくだろう。

 返事の代わりに、軽く脚を開いた。

 願いが叶って満足げな笑いが漏れ、指先は後腔に潜り込む。骨張った指先が内壁を押し拡げた。

「────ぁ、うあ、あぁ、ン、っ」

 指先は探るように側面を辿りながら、慎重に柔らかい襞を掻き分ける。ゆっくりと押される度に、ぞわぞわとした波が背を伝った。

 回した背に軽く爪を立てる。

 肩を震わせて快楽を逃そうとする度、髪が揺れて背を撫でた。細かな感覚でさえも拾ってしまう躰は、びくりびくりと断続的に微動する。

「…………さて、何処だ」

「──────っ!」

 何事かを探っていた指がその場所を捉えたとき、びくん、と大きな震えが全身を捉えた。身のうちから湧くような痺れが、そこを押し潰される度に波を起こす。

「やぁ、ぁ! そこ、や、……ッだ……、ぁああン!」

「いい反応だ」

 獲物を甚振るような声音に、ぞっと冷たいものが走る。それを誤魔化すように、複数の指で纏めてそのしこりを捏ねられた。前を弄ったときとは違う、重く響くような気持ちよさに揺らされる。

 前も戯れるように扱き上げられ、逃げ場のない刺激に爪先がシーツを滑った。

「ぁ、っあ。や、まだ、つづく、の…………?」

「まだ、もう少しな」

 指先を動かし、肉輪の広さを確かめる。

 だが、彼にとってはまだ落第点だったようで、指先はまた奥へと潜り込んだ。ぐちぐちと水音を立て、突き入っては引き抜くことを繰り返す。あの場所は届いた指先に何度も押し潰され、僕の前はゆるく勃ち上がって揺れていた。

 何度目かの確認の後、突然ゆびが引き抜かれる。がくんと身体を倒し、後ろの口はあったはずの指先を求めて呼吸した。

「ネーベル。うつ伏せに」

 問いかけではなく、それは指示でしかなかった。こくんと頷き、首筋を晒して寝台に膝を突く。

 肘で身体を支えるように倒れ込むと、背後で何をしているか分からなくなった。髪が払われ、項に空気が通る。爪で触れられた場所には、柔らかい皮膚しかない。

 腰に手がかかって、背後に引かれた。ぬるりとした丸いものが尻たぶに当たり、ぬるぬると跡を残しながら移動する。それは割れ目へと辿り着き、先端をひときわ深い洞へと押し当てる。

 粘膜同士が触れ合う感覚が堪らなかった。欲しがっていた匂いが周囲には満ちていて、触れた部分から魔力が混ざる。

 喰らい尽くされそうな暴力的な波は、その首元を狙いうっていた。

「──────ぁぁあッ!」

 ぐぶ、と力が掛かれば先端が輪を潜った。熱杭は太く膨れていて、輪が狭い所為で容易くは通らない。それを身体を揺らし、力を込めて奥へ奥へと進めていく。

「や、ぁ、むり……! おく、いけな…………!」

「大丈夫、だ……、挿入ってる」

 シーツを頼りに前進しようとしても、腰を掴んだ腕が許さない。距離が空く度に縮められ、引き寄せられては勢い良く突き入った。

 ぞくぞくする快楽を握り潰し、唇を噛んでやり過ごす。永遠と思える攻防の末に、先端の膨らみが門の扉を叩いた。

「……っく、う…………」

 印を付けるように強く、ごり、と押し付けられ、茂りが尻の腹を掠めた。流石にもう、と息を吐きかけたとき、次の揺れと共にまだ奥へ踏み入る。

「────っ、え?」

 ずしん、と重い揺れと共に、その場所が亀頭に押し潰された。内側を持ち上げるように、塊が腹を突く。

 指先の刺激なんて可愛いものだった。気持ちいいと感じてきた場所すべてにこの剛直は届ききっており、指では届かない場所さえも先端で捉えている。

「……や、え。なに、これ」

 息が止まって、嬌声さえも掻き消えた。

「な、ぁ。これ、とどいちゃ……」

「ああ、届いてしまうな」

 声音は愉悦を隠そうともしなかった。その場所を捉えた肉槍の大部分が、一度引き抜かれる。ずるずると抜かれたそれは救いではなく、次の訪れへの助走だった。

 腰を捉えた腕に力が篭もり、引き寄せられると同時に腰を叩き付けられる。

「────────!」

 僅かに残った呼吸を漏らして、喉の奥で声が掻き消えた。痛みと快楽の、ほんの少しだけ快楽に寄った位置、それを確かに貫いている。がくがくと脚が震え、肩が寝台に倒れ込んだ。

 掌が僕の肩を撫で、優しげな声が掛かる。

「動かすぞ」

 ばつん、ばつん、と大振りな抽送が始まった。

 使うことに慣れた身体の発条を上手に利用し、長い道のりを揺さぶってくる。張り詰めているのか果てているのか分からないまま、口を開けて嬌声と涎を落とした。

「……ぁ、や、────もう、っあ、あ、あ!」

 ずぶ、ぐぶ、と水音が立つ度に、身悶えては寝台に爪を立てる。背後からは鼻歌でもうたい出しそうなほど、満足げな声が漏れている。

 体力差の所為か、その往復は衰えを見せない。どれだけ長い間、僕は揺さぶられることになるのだ。途方もなさに愕然としながら、感覚の薄い腰を滅茶苦茶にされる。

 限界は、脚の感覚が薄くなりかけた時にようやく訪れた。

「ネーベル」

「……ぁあ、あ、あン! く、くれ、ふ……」

 耳の隣で、唾を飲む音がした。身体の内にあるものが、奥を捏ねて膨れを見せる。牙が首筋を伝い、噛む位置を定めた。

 次の瞬間、首の裏に鋭い痛みが走った。身に埋まる肉杭も、奥をぐりり、と捏ねる。

「……あぁ、ふ、く、っぁ……も、でちゃ、……」

 本能的に逃げを打つ躰は、二つの牙によってその場に縫い止められる。男の熱は引き抜かれることなく、門に鈴口を押し当てると、直ぐに熱いものが迸った。

「くっ、……──は、あ」

「────や、ぁああああああぁああン!」

 肉砲は狙いを外さず、狙いの場所に子種を注ぎ込む。息を吐き尽くした喉はひくひくと痙攣し、精一杯息を吸った。その間もゆるい抽送は途切れず、逕路に一滴も残さないというように最後まで押し付けた。

 牙から身体のうちに注ぎ込まれた魔力が、自身の魔力を変化させていくのを感じる。これでもう、僕の匂いは他の誰も誘えない。変化は性急で、だからこそ甘美でもあった。

 柔らかくなったそれが動きを止めた時、僕は大きく息を吐く。腕を崩し、脚も倒して寝台に倒れ込んだ。

 食んでいた屹立は、そのまま引かれて身のうちに留まる。

「番、になっちゃった…………」

「ああ、もう逃がさない」

 身のうちに渦巻く魔力は雷管石を経由して触れたのとも、これまでの付き合いの中で触れたものともまた違う。付き合いが続けば、魔力はまた書き換わっていくはずだ。

 また一緒にいる楽しみが増えた。笑みを浮かべながら、達成感に浸る。

 首筋にキスが落ちて、傷痕からにぶい痛みが伝った。その唇からも、身のうちにある彼の半身からも、まだ味わい足りない、と強い主張が伝わってくる。まだ繋がっているそれは形を変えつつあり、アルファの精力というものは底が見えなかった。

 そして、僕の匂いはこれからも徐々に強くなり、更に番を誘うのだろう。

「…………ちょっとだけ、休憩……、ん、ぁ」

 ゆるりと動いたことによる刺激に声を上げた。身体を揺らされ始めると、次の交わりへと引き込まれる。

 平均的なアルファよりも体力のある番との発情期は、想像していたよりも体力を使う。全てが終わった後、がくがくになって立てない脚を引き摺りながら、適度に身体を鍛えようと心に誓った。








 発情期が終わってほんの少しの間だけ、僕は拗ねた。

 体力差などお構いなしに揺さぶられ、あんなに巨大なものを突き入れられた。いくら発情期とはいえ体力には限度がある、そう言うとクレフは反省を口にしながらも、散々おあずけを食らわせた僕も少しは悪い、と愚痴をこぼした。

 肚は常に精でいっぱいで、空腹の時間はなかった。その所為で僕の身体は彼の魔力を覚えてしまい、僕がクレフと離れて暮らせない症状は更に悪化することになる。

 新居はほんの少しの間に解約されることになり、僕は短い期間で二度目の引っ越しをすることになった。クレフ本人はたいへんご満悦で、別の家に帰らない僕を見る度に喜びを噛み締めている様子だ。

 番であることは、王宮でも明かしている。釣り合わない、と言われても受け止めるつもりでいたが、好意的な反応以外が耳に届くことはない。

 彼の部下のウィクトーにも発情期について礼を言う機会があったのだが、残念そうにこう言われた。

『隊長。俺らがネーベルさんいいよなあ、って言ってたとき黙って何度も頷いてたんで、元々、貴方は好みなんだと思いますよ。一度好きになったものは嫌いにならない頑固者なんで、甘やかさなくていいですからね』

 僕が思い悩んだ発言についても、彼らが言う『岩のような上司を選ぶ僕』に対して、好みはひとそれぞれ、という感想だったそうだ。

 魔術師を紹介してくれませんか、と言うので、神殿の鑑定士に会って頼んでみたら、とだけ助言しておいた。近衛にとって魔術師というのは、遠すぎて色眼鏡が掛かって見えるのかもしれない。

 お互いの雷管石は、加工して耳飾りにしてから交換した。

 相手の魔力が常に手元にあるというのは精神衛生上すこぶる良く、世の中の番が相手の石を大切にしている理由が理解できた。

 耳元で光る石を見つめながら、今日も一緒にいる番に身体を擦り寄せる。

「今日も一緒に風呂入る?」

 僕がそう言うと、クレフは口元を戦慄かせて、ようやく頷いた。あれだけ身体を抱いたのに、彼の中で一緒にお風呂、は打ち震える何かがあるようだった。

 丁寧に全身を洗ってあげよ、と心に決め、腕を組みながら浴室へ向かう。あまりにもクレフを煽りすぎて、寝室で啼かされるのはしばらく後のこと。

 歩く二人の耳には、透明な輝きが並んで光っていた。

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