変人な同僚と一夜を過ごしてしまった魔術師さん

さか【傘路さか】

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 アルヴァの家は王宮から近く、ぼうっと手を繋いでいるうちに着いてしまう。鍵を開け、玄関の照明を付けたアルヴァが振り返って俺を見る。

 何かを待っているような仕草に、少し考えて、口を開いた。

「ただいま……?」

「おかえり」

 俺の言葉は合っていたようで、アルヴァの口元は満足げだ。室内履きに履き替えて家に上がり、促されるまま居間に向かう。

 アルヴァは俺をソファに座らせ、魔術書を数冊渡して台所に入っていった。渡されたそれを開いていると、目の前の机に湯気の立ったカップが置かれる。

「料理は俺が作るから、ゆっくり待っていてくれ」

「う、嬉しいけど……なんで……?」

 アルヴァは照れたように頬を掻く。

「結界を張ろうとした後、気落ちしていたように見えてな。誤解ならいいんだが」

 彼が自分の家に誘ったのも、こうやって元気づけようとしたからだろうか。カップを持ち上げて中身を啜ると、淹れられたお茶は温かかった。

 緊張して喉が渇いていたのか、飲むのに熱中してしまう。大半を飲み干してカップを机に置き、アルヴァを見上げた。

「あの、……さ」

 彼は鞄の整理をしていたようだが、話をしたがっている俺の様子に気づいたのか近寄ってくる。ソファの端に寄り、その裾を掴んだ。座って、と裾を引いて場所を空けると、アルヴァも隣に腰掛けた。

 その手を取って、両手で包み込む。

「アルヴァって、今でも俺、……を抱きたいって思う……?」

 見開かれた目が瞬きしない間、ずっと視線を絡め合っていた。眉が下がり、困ったような顔に変化していく。

 やっぱりもう、と諦めを抱いた時、目の前の乾いた唇が開かれる。

「うまく言え、と君に言われたのに。うまく言えない」

「…………は?」

「取り繕えない。俺は……ずっと」

 握った指先から、魔力が溢れて雪崩れ込んでくる。その流れは圧倒的で、俺の魔力を絡め取って組み伏せて、上書きする。

 目の前の男は手すら握り返しては来ないのに、魔力の流れは正直だった。

「うまく言いさえすれば君が恋人になるんなら、俺はどれだけでも我慢できると思っていた。……でも、最近の君はこうやって触れてくるようになるし、魅力的に見えるばかりで……」

「魅力的に見える……なぁ……」

 もしかして、もう一押しすれば彼は堕ちるのだろうか。

 握っていた掌を持ち変え、その胸元に身体を寄せた。大きな胸元に頬を預け、指先に魔力を灯す。

 手招きするように、ゆらりと波を揺らした。

「俺、正直な人も好きなんだよ。そういうのはどう?」

「…………今でも、以前よりもずっと。君を抱きたくて仕方ない」

 観念したような言葉に、俺は満足して喉を鳴らす。

 指先を開いて、相手の指の股に滑り込ませた。掌がぴったりとくっついて、そのままぎゅう、と握り込む。

「なあ、まだ結婚したい?」

「ああ。────ディノ、俺と結婚しよう」

 力強い腕が腰に回り、望んだ言葉に笑みが零れた。付き合おう、を平然と通り越してくる言葉に、この男の重さを知る。

 結局、最初に寝た夜から、アルヴァの言葉は変わることのないままだった。変わったのは、俺だけだ。

「そうだな、いずれ結婚しよっか。……でもまずは、恋人からかな」

「あぁ……。恋人になら、今からなれるのか」

 アルヴァは言葉を切って、俺の顔を覗き込んだ。

「ディノの事を愛している。結婚を前提に、恋人になってくれないか?」

「うん。俺もすぐにでも恋人になりたい。アルヴァが好きだよ」

 腕を伸ばして首筋に縋り付く。下から持ち上げるように、両腕が背中に回った。

 唇を近づけると、慣れた様子で柔らかいものが重なる。手慣れた所作に疑問を覚えるも、再度重なる唇に覆われる。

 閉じていると焦れたように唇に歯を当てられ、おずおずと口を開く。滑り込んできた舌が、口の中をなぞった。

「ん。……っぁ、ふ」

 ぬるりとしたものが口を撫で、慣れない接触に呼吸すら図れない。伸ばした指先から力が抜け、必死で追い縋ろうとするのに、背に回った指先は意図をもって這う。

 する、と服の上から背を指が滑り、くぐもった声を漏らしながら身を捩った。

「…………っ、なんで、慣れてんの」

 嫉妬で沸騰し、声が漏れ出ていた。アルヴァは目を丸くし、やがて何かに思い至ったのか唇を解いた。

「君は覚えていないが、二度目だ。キスは……何回したかな」

 ぱちり、と瞬きをして、かっと頬が染まった。顔を下げて首筋に埋まると、相手の顔が擦り寄ってくる。

 触れる度、大きな魔力が肌を擦った。くすくすと笑いながら、その居心地の良さに魔力の相性を主張された理由が分かった気がした。

 背を撫でていた腕はローブの裾を引き、肩から脱ぎ下ろそうとする。その誘いに乗り、服を床に落とした。

「そういや。腹へらない? 大丈夫?」

「食欲より性欲のほうが先に来てる」

「ふは。そりゃ良かった」

 シャツの釦に手を掛けると、遮るように掌が覆い被さる。やんわりと押し留められ、代わりに彼の指が、釦を穴から抜いていく。

 胸元が開けば、素肌が目の前に晒される。気恥ずかしくて、ソファの背に視線を逸らした。

「二度目なら、珍しくもないだろ」

「いや。あの時は泥酔みたいなものだったから、じっくり見る余裕もなかった」

 指先が首から胸元を伝い、くすぐったさに身じろぎする。二度目の余裕を感じると共に、一度目が記憶にないのが惜しく思えた。

 彼は、もっと拙く俺を抱いたんだろうか。

「ディノ」

 名を呼ばれて、唇を寄せる。触れたところから、少しだけ強く魔力を流し込まれた。くらりと頭が痺れ、これを酔いと表現した彼の言葉が正しいと分かる。

「ほんとだ、酒の酔い方に似てる」

「思考能力の低下は確かに同じだな。……親戚が媚薬だと持ってきた薬が、魔力の振れを内側から暴走状態にするものだった。自分で制御できないから、身体の至る所をやんわり乱して、頭にまで至れば快楽と感じるらしい」

「……何の話?」

「一回目に君が食べた、飴状の魔術薬についての話だ」

 しれっと言った言葉を頭で咀嚼し、反射的に言葉が口をついて出る。

「つまり、その媚薬を参考に作った薬を俺に飲ませたってこと……?」

「説明しづらくて媚薬について誤魔化しはしたが、俺はいちおう止めたんだぞ。飴を口に入れて噛み砕き、媚薬として覿面に効いた上で俺を巻き込んだのは君で……。申し訳ないとは思っているが、両成敗として許してくれないか」

「…………うん、……んー、まあ……そうだよな……。魔力の相性よくなかったら不幸な事故は起きてないけど……」

 相性が悪ければただの病人のように相手をできたはずで、アルヴァが乗っかることになったのは魔力酔いの一種でもあったのだろう。

 でも、と俺は言葉を続ける。

「魔力酔いくらいで、抱きたくなるもの……?」

「……それは、まあ。君が据え膳に見えるくらいは、好意があったというか……下心があったというか……」

「へえ、それは初耳。そうだよな、俺を抱けたんだもんな」

 シャツの襟を持ち上げて、片胸を晒す。変わったところもない、ただの薄っぺらい男の身体だった。

 けれど、その瞬間に魔力がぞわりとするほどせり上がった。彼の瞳の奥に火を点けてしまったらしい。

「……勃てられそう、だな?」

「あまり煽るな。暴発しても知らないぞ」

 首筋に寄ってくる獣を、腕を開いて受け入れる。首筋に吸い付かれるとちりりと痛み、その場所に鈍い感触を残した。

 唇は首筋、胸元、と口づけを落とし、晒した突起に食らいつく。

「……く。──っん」

 漏らした声に、目の前の男は嬉しそうに唇を歪めた。

 切れ長の目元は、射貫かれて魔術式の脆弱性でも指摘されれば凍り付きたくもなる。その瞳が、愉悦を孕んでこちらを見ている。

 無表情だと思っていた男は、いちど寝てみれば感情豊かな男へ様変わりした。

 俺の何が面白いのか聞くのも恐ろしいが、俺と付き合いを持つアルヴァは、たぶん楽しそうなのだ。

 興味深くて、面白くて、俺を追うのが楽しいのだ。彼の興味があるものにのめり込む性質は、俺にも適用されるらしい。

「……う、ぁ、……ひ、っく…………」

 舌で先端を舐め取り、歯を立ててしゃぶりつく。初めてではない筈の愛撫は、俺がその場所で快楽を拾えることを知っている動きだった。

 指先で捏ねられ、反応したそれを口で嬲られる。勝手知ったる動きは、初心者には酷だ。

「……、俺、そんなとこ……っふ、感じな……」

 胸元で、アルヴァは舌を出した。ぺろ、と大振りに乳首を舐める。くすくすと近くで笑われると、息が掛かった。

「覚えてないのに、身体は二回目なんだな」

 指先で粒を跳ね、かぷりと甘噛みする。ぞくぞくとしたものが背を駆け上がり、目を閉じて力を込めた。

 触れる度に、魔力がねじ込まれ、妙な振れを送り込んでくる。魔力酔いに似ているけれど、意図を感じるほど繊細な波形だった。揺らされる度に、芯が甘く疼く。

 俺の身体を探れて媚薬の原理を理解しているのなら、同じ効果を齎すよう魔力を弄ることもできるのかもしれない。

 だとしたら、俺は本当に媚薬だけに狂わされたんだろうか。

「────なあ、アルヴァ。一度目のあの夜……」

 何かを誤魔化すように、開いた唇は男のそれで塞がれた。息を漏らし、流し込まれる唾液を飲み込む。

「ディノ」

 傾いた唇に、自分から吸い付く。口付けを続けている間に、男の腕が下の服にかかった。前釦を外し、閉じていた場所を下着ごと寛げる。

 すり、と掌で腹ごと撫でられる間も、言葉は封じられていた。

 まろび出た俺自身に、長い指が掛かる。湿った部分を指先でくじられると、こぷりと先走りが溢れた。

「……な、ん……ッ────く、ん……」

 解放された口で制止の声を出そうとすれば、また深く被さってくる。入ってきた舌で唾液を撹拌する音と、指先で高められている物の水音が重なった。

 口の端がすう、と乾いていく感触すら、悦さの弦を揺らす。竿に掛かった指先が、ずち、と音を立てながら擦り落ちた。

「っあ、……っく、ン……ぁあ……」

 頭がぼうっとして、声を漏らしながら唇がだらしなく緩む。

「一度目も、君はすぐ気持ちよさそうに身を委ねた」

「……っ、ん。……それ、嘘、じゃ……く、ンぁ、……ぁあ」

「嘘はない。まあ……、────」

 持ち上がった唇が、綺麗に弧を描いた。反応を示す俺を楽しそうに眺めては、魔力を操作する。

 弱点を教えたことなどない筈なのに、指先は性急に解放を促していた。

「さぁ、ディノ。こっちだ」

 身体が少し持ち上がり、膝立ちになって相手の肩に体重を掛ける。膝の下でソファの生地が沈んだ。

 アルヴァが手早く呪文を詠唱すると、後腔を見知らぬ感触が襲う。ぞわぞわと反射的に背が粟立ち、歯を食いしばった。

「……な、っに!? なん、の……」

「色々と準備をな」

 続いて完成した呪文に応じ、アルヴァの手に見知らぬ瓶が握られる。くるりと蓋が回されると、中からふわりと甘い香りが漂った。

 好きな香りの筈なのに、混乱した頭ではその香りを堪能する余裕もない。

 瓶が傾くと、とろみのある液体が掌に広がる。中身がまだ残った瓶はテーブルの上に置かれた。

 腕が背後に回ると、一度目を覚えていなくとも意図を察する。

「…………さ、触る……よな?」

「慣らさないとお互いに痛いと思うが……」

「そ……だよな……、ごめ、なんか混乱して」

 ふわりと落ち着けるように、相手の唇が頬に触れる。身体を委ねるように、首筋を抱き込んだ。

「負担を掛けて悪いな」

「……いいよ。でも、できるだけ優しくしてくれ」

 ふ、と耳元で笑い声が漏れた。梢が揺れる音のような、この男にしては珍しい柔らかな声音だった。

「難しいことを言う」

 指先が谷間に潜り込み、すぐに窪みに付き当たる。ぬるりとした指先がその場所に潜り込むと、堪えきれない声が漏れた。

 自分の身体の内側を、別の指で暴かれている。柔らかい部分を他人に委ねているのが心細くて、目の前の身体に縋り付いた。

「……──ひ、ぁ。ぁあああッ」

 彼の指が、その場処に辿り着く。

 指先でなぞられた場所から、未知の悦さがこみ上げた。まるで何度も押し潰され慣れたように、奥のその部分は過剰な快楽を届ける。

 記憶で覚えていなくとも躰は勝手に刺激を拾い、頭の芯を溶かしていく。

「……や、ぁ。そこ、……わか、な……ぁあン、ぁ……」

「覚えていないのが残念だな。ここで……」

 アルヴァが指を僅かに引き抜くと、逃がすまいとばかりに肉輪が指の胴を締め付ける。

「何度も吸い付いて、しゃぶって、気持ちよさそうに啼いていた」

「あ、ン……、ぁ、ぁあ、い……っく……」

 締め付けが緩んだ瞬間に、内壁を掻きながら突き上げる。撫でていた場所を押し上げられ、余裕のない濁った声が漏れた。

 は、と息を漏らせば、呼吸ごと揺さぶられる。

 前をなぞられた時より、その刺激は長くて重たかった。一生味わえないかもしれない場所で刺激を拾って、痛みでも不感でもなく、気持ちよさに身を捩っているのが、これが二度目だという何よりの証拠だった。

 頭は追いついていないのに、躰は慣れた指先に翻弄される。溶かされて、掻き回され、躰で快楽を拾っているのか、魔力で堕とされているのか分からなくなっていた。

 後ろから指が引き抜かれようとすると、また持ち主の困惑とは裏腹に指に追い縋る。ぞくぞくと身体を揺らしながら、抜かれていく指を感じていた。

 相手の腕が背を支え、ソファに横たえられる。体重を掛けて軋む音が耳元で聞こえ、ごくんと唾を飲んだ。

 アルヴァの手で服が下着ごと剥ぎ取られていくのを、消極的に助ける。相手の服にも手が掛かり、膨らんでいた服が寛げられた。

 茂りに隠れきれない、勃ち上がった肉棒が視界に入ると、少し頭が冷える。

「……ま、って。……それ、挿らない、んじゃ……」

 ずり、と身を引いて逃れようとした脚を腕が掴んだ。男が指先でそれを扱くと、先端が濡れて光る。

 てらてらとぬめる逸物が持ち上げられると、その質量にどっと不安が訪れる。けれど、アルヴァは平然と言う。

「何度か挿れた」

 ぐ、と続く言葉も消え、おずおずと脚を開く。褒めるように脚を撫でた腕が、抱え上げて腰を浮かせた。

 赤黒い砲身が凹地に当たると、ぬるりとしたものが外縁を湿らせた。塗り付けるように前後されると、男根を求めるように其処がひくつく。

 男は指先で自身を掴み、狙いを定めるように宛がった。

「不思議だな……。今のほうが二度目なのに、酔って自分から脚を開いたあの時よりも、初々しく感じる」

「……そりゃ。初めて、だし」

 睨め付けるように視線を合わせると、アルヴァの瞳に光が走った。縁に当たっているものがびくりと震え、膨れている場所とぴったりと触れ合う。

 動揺から掻いた脚も、食い込まんばかりに掴んでいる腕から逃れる術はなかった。

「────っ、あ」

 ぐぶ、と亀頭が輪を潜った。

 口の奥で声を漏らして、ただ唇を噛んだ。アルヴァは感触を楽しむように動きを止め、反射的な締め付けが止むとまた突き入る。

「……、ぁ、や。……ん、うあ……」

 腰を引かれ、ずぶずぶと剛直が埋まっていく。

 爪先を丸め、内壁を掻く刺激に声を漏らしながら身体を開く。指先よりもまだ長い竿は、指で撫で回した場所にもすぐに辿り着いた。

「────ひっ!? ──ぁ、あ……、や、まって。そこ、だめ……──!」

 腕が脚を抱え直し、少し引いた腰がその場所を狙って打ち付けられる。口を開いて喉を解き、言葉にならない長い嬌声を上げた。

 喉がからからと渇いて、触れる吐息すらも痛みなのか分からなくなる。

「もう、少し……、奥まで、挿れてくれ」

「……ん、い……、よ。………………ぁ、うあ……!」

 指で届かなかった場所まで、内壁を巻き込みながらずぶずぶと熱杭が埋まっていく。しばらくの間、男自身を受け入れていなかった部分は、久しぶりの逢瀬に悦んで纏わり付いた。

 痛みもない、身体は解れてただこの交わりを楽しんでいる。初めての感覚に戸惑って、怯えて、その上で初めての甘美を味わわされる心とは対照的だった。

「まだ、はいりきれて……っ、ア。……ぁ、あぁああっ……!」

 あと少し、で止まっていたのに、角度を変えた雄が、体重を推力にして全部埋まりきった。最奥にある塊を肚で食い縛ると、ぞくり、ぞくりと重たい痺れが鈍く、途切れなく襲う。

 アルヴァの掌が、腹の上に置かれた。

 じわりと皮膚越しに魔力が流し込まれているのが分かる。彼の唇は陶酔するように上がっていたが、俺は首裏でも噛まれているように動きを止めていた。

 びくん、と身体が跳ねる。

「……ぁる、アルヴァ。……なに、こ……れ……っひ、ぁ、や。おれ、……おかしく……──!」

「君、は……ちょっと気を許すと、魔力も身体も全部、……明け渡すんだな……!」

「ぁ、ああっ……! だめ、奥……さわ……た、ら……────!」

 アルヴァの掌が腹から離れ、にっこりと目の前の顔が微笑んだ。

 色素のない髪に相反して、瞳の色がぼうっと浮かび上がる。造りのいい顔立ちがその表情を創れば、ぞっとするほど美しく見えた。

 首筋に手を掛けられているどころではなく、この男は俺の魔力と繋げている。粘膜が触れ合っているこの状況で、俺をアルヴァ自身だと騙して、身体をひらいている。

 あの膨れきった長大な欲望を、痛みもなく、一度目から気持ちよく受け入れられたこと自体が可笑しな話だった。

 一度目もきっと、依存性のある甘い蜜だと知りながらこの雄を飲み込んだのだ。

「ぁ、……ひ、う。ぁああ、あ、あ、あ」

 引き抜いた質量が、体重を掛けて深くまで突き入る。抽送は重く、深く、撹拌する音を響かせた。

 魔術師は繋がると魔力が混ざる。境界が分からなくなって、相手に魔力を流してしまう。粘膜で繋がっている今は、なおさら自分と相手が分からなくなった。

 ぐぶ、と雄を飲み込む縁は膨らみ、太い胴をぎちぎちと締め上げる。

「……ぁあっ、ン、あ、……も、溢れ……て……」

「ああ。でも、もっと、……溢れても、受け入れてほしい」

 往復が速まり、感覚の無くなった脚を別の腕に委ねながら、ただ揺らされた。

 流れ込んでくる熱はもう身体に入りきれなくて、開いた口の端から、溢れた唾液が垂れ落ちる。

 ずっと大部分を引き抜かれた雄が、質量を増したように錯覚した。視線の先にある獣はぎらぎらと目を輝かせて、快感を食らっている。

 『ほんの僅かずつ流し込まれてきた精が、身体の中に溜まるほど注ぎ込まれたら』腹の奥がぞくぞくして、強請るように砲身を銜え込んだ。

「……っ、っく。だから君は、こうなったのに──!」

 苦々しげな声は、聞く余裕すらなかった。最奥まで大振りに突き入れられ、男の腰が強く押し付けられる。

「────あ、ぁあ。いっ……ぁあああああぁあッ!」

 持ち上がった腰を伝って、灼熱が奥まで届く。

 腹の奥を叩く感覚に、嬌声は尾を引いた。喉はひくついて、掠れた声が響く間、男の精は途切れることなく流し込まれる。

 倒れ込んできた身体を、感覚の薄くなった腕で抱き留めた。精を吐き出しきっても、擦り寄る身体をぼうっと受け止める。

 空腹の筈なのに、魔力は器の縁から零れんばかり、という理解できない感覚に腹を押さえて天井を見る。

「……へん、なの。お腹いっぱい、だ…………」

「ああ。仕事で割と使ったはずなのに、増幅、のような……? 魔力の源は生命力だと言われがちだが……、一概にそうでもないのかもな」

 ずる、と肉塊が抜け出ていく感覚に、短く声を漏らす。

 アルヴァは俺を担ぎ上げると、そのまま台所……ではなく寝室へ向かっていく。尻から垂れた液体が太腿を伝う感覚は生々しく、寒くもないのに身体が震えた。

 肩に乗せられながら、小さく尋ねる。

「なんで、寝室……?」

「さあな」

 しれっと誤魔化して寝室に入り、俺を寝台に下ろす。残っていた服は剥ぎ取られ、シーツの上に転がされた。

 覆い被さってきた身体を受け入れながら、身体を重ねて満腹になる症状がこれからも続いたらどうしよう、と不安を抱く。何かに熱中したとき、この男が一番先に削るのは食事を取る時間の筈だった。

「アル、ヴァ……俺、飯が……」

 呟いた唇が素早く塞がれる。視線を落とした先にある彼の分身は、もう起き上がり始めていた。

「ああ。満腹になってもまだ、食わせてやるからな」

 柔らかくなった場所は、簡単に男を受け入れる。

 執拗な抽送は夜中近くまで続き、魔力の多い人間は体力も多い、という事を俺は身体で思い知ることになった。











 アルヴァと付き合い始めて、徐々に恋人であると周囲に明かしていった。

 魔力は混ざっているものの、付き合っているかどうか話してくれない、という状況から課員も突っ込んで話を聞くことはできなかったらしく、話を聞いてみな安堵していた。

 アルヴァが言うには俺と付き合いだして『魔力の総量が増したように思える』らしく、結界を俺が張るようになったこともあり、彼の研究は加速している。

 彼が研究の話をしている横で、俺が実用化への案出しをするのだが、そうしているとまた嬉しそうに新しい研究の話を持ってくるようになった。俺がメルクに、課長に、と話を横流ししては、王宮の魔術式へと繋げている。

 アルヴァも恋人ができると変わるものだな、と本人にではなく俺に言われるようになったが、どちらかと言えば変わったのは、俺を含めた周囲の方だろう。

 風通しの良くなった職場で、今日もメルクの声が響く。

「ディノ。聞いてよ、アルヴァさあ……! 魔術式の説明してって頼んだら『その式の説明はディノの方が上手い』って丸投げするの!」

「まあ、メルク相手なら俺の方が上手いよ。式もっておいで」

「忙しそうだったからアルヴァの方に聞いたのにー!」

 そこまで忙しくないよ、と言ってメルクに式を持って来させる。アルヴァは俺の仕事量も把握しており、それでいて振っているのだから問題ない。

 式を辿りながら説明を加えていくと、メルクの顔が輝いていく。

「────ありがと。アルヴァの話を聞いても理解できないのに、ディノの話だと分かるんだよね」

「まあ、アルヴァが人にちゃんと魔術の説明するようになったの。俺に説明し始めた頃からみたいだしな」

「…………それってアルヴァ。ディノと話をする口実に魔術の説明をし出したってこと?」

 静かな室内にその声は響き渡り、課員の視線がアルヴァを向く。

 アルヴァの視線は魔術機の画面を向いていたが、流石に気まずくなったのか、こちらに向けて口を開いた。

「冤罪だ。きちんと学ぼうとする姿勢に絆されて答えただけだ」

 言葉自体は何らおかしいものではなかったが、彼らしくなく声は僅かに上擦っている。ふぅん、とメルクの声がしたが、彼以外も言わずとも同じような感想を抱いただろう。

「きちんと学ぼうとする姿勢が好ましくて、それを切っ掛けに好きになった、て言いたいんだろうけど。結局、卵と鶏だよねえ」

 強かな言葉に、アルヴァはぐっと言葉に詰まる。面白く見守っていたが、仕事中だし、と切り上げるべく助け船を出した。

「メルク。説明もういいのか?」

「……あ、まだある。待ってまって」

 一応、彼としては繋がりを持とうとしていたのだろうが、あの親切な助言に下心があったなんて、全く気づいてはいなかった。

 あの一夜がなかったら、いずれ恋人になれていたんだろうか。それくらいの関係だったから、彼はあんな切っ掛けの持ち方をしたんだろうか。

 家に帰ったら、聞いていなかった馴れ初めについて追及しよう。

 俺は降って湧いた幸せを噛み締めながら、あとは請け負うよ、とアルヴァに視線を送った。


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