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匠と沙耶
ニ
しおりを挟む匠は香織も知る私の彼氏。
付き合って浅いが、私の数少ない理解者だ。
彼がいてくれなきゃ、一人で騒ぎ立てていたに違いない。
携帯の扱い方もろくに知らずに、証拠も掴めないままに電話は切れていただろう。
録音機能をしたのは匠で、私はそれを聞くのも、それを機能させるのも未だにわからない。
そうそう使うこともないだろうが……。
念のために後で聞いておこうかな。
「沙耶、香織ちゃんの声に混じって男の声が聞こえるよね?」
「………うん」
それはまるで携帯越しか、携帯に近づいてわざわざ私達に聞かせるみたいによく聞こえる。
「不気味な音も…聞こえるね……」
ザザザーっと言うノイズ音と、それに混じって複数の人の声。
「話してたときはこんなの聞こえなかったのに………」
気味が悪かった。
「……沙耶。俺、きさらぎ駅について調べてただろ?」
言いにくそうにして匠は口を開く。
視線は携帯に釘付けで。
「出てきたことには出てきたんだ」
「は?!検索して出てきたの?!」
驚いて彼を見れば、彼は眉を下げた。
「あぁ…だけど出てきたのはきさらぎ駅っていう都市伝説だ」
「………………都市伝説?」
コクリと頷く匠。
その面持ちは暗かった。
「検索で引っかかったのはどれも異次元駅っていう都市伝説だった。有名な駅の名がきさらぎ駅だった」
ゴクリと無意識に息を飲んだ。
普段なら笑えるのに…。
今は笑えない。
それどころか背中に冷たいものが伝った。
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