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40、逃れられない運命*
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ハインツの病気は、医者に診せてもわからないと言われた。それらしい薬は出されたが、以前と同じ健康な身体には戻らなかった。
最初は無理をして仕事に行っていたが、やがてそれも難しくなり、今は家でイレーネの内職の手伝いをしたり、エミールに読み書きを教えている。息子の前では元気な父親の姿を演じているのがわかり、イレーネは見るたびに胸が痛んだ。
一度王都へ行って有名な医者に診てもらうことも提案したが、ハインツは首を横に振った。
「王都の医者は貴族や金持ちしか相手にしない。行ったって、診てもらえないさ」
元貴族であった彼の言葉には説得力があった。イレーネも口ではわからないと言いながら、内心は彼の言う通りだろうと思った。たとえ何の病気かわかっても、治す手段があるとは限らず、神に毎日祈ることが治療法だと述べる医者もいるくらいだ。
しかしだからといって、やはりこのまま何もせず諦めることはできなかった。もしかしたら、ハインツを治してくれる医者がいるかもしれない。
「……まだ少し、宝石が残っているわ。それを見せたら、どこかの没落した貴族だと思って診てくれるかもしれない。あなたが無理なら、わたしが頼みに行って――」
「イレーネ」
ハインツはイレーネの両手を握りると、噛んで含めるように言い聞かせた。
「今王都は、隣国とごたついているらしい。王都も物騒になっていて、治安もよくない。そんな危険なところに、おまえを行かせられるわけないだろう」
「でも、このままじゃ……」
イレーネが目に涙を浮かべると、ハインツは笑い、力強く抱きしめた。
「大丈夫。病は気から、って言うだろう? おまえとエミールに囲まれて毎日幸せに暮らしていれば、いつの間にか治っちまうよ。だから心配するな」
それは半分当たっていたかもしれないし、半分違っていた。
ハインツの病は治ることなく、だが大切な家族の前では以前と変わらぬ態度で振る舞うこともできたからだ。
しかしイレーネは、じわじわと確実にハインツに死が近づいていることを感じ取っていた。そしてそれは彼自身が一番よくわかっていたのだろう。もはやどんな名医にも自分の病は治せない。死神からは逃れられないのだと。
「――エミールは、寝た?」
夜。エミールを寝かし終えたイレーネは、夫婦の寝室へと入った。起きていたのか、ハインツがこちらを見て声をかけてくる。
「ええ」
イレーネが寝台に上がろうとすると、ハインツが手を取った。
「じゃあ、久しぶりにしたい」
「でも……」
「今日は、調子がいいんだ」
イレーネを感じたい、と言われ、彼女は顔を赤くした。いつまでたっても初々しい反応を見せる妻にハインツは目を細め、「脱いで」と優しい声で命じた。
イレーネは俯きながらも、言われた通り夜着を脱いでいく。夫の視線をじっと感じながら最後にシュミーズも床へ落とすと、白い裸体が仄暗い部屋に浮かび上がった。
「きれいだよ、イレーネ……」
熱のこもった声で言われ、イレーネは恥ずかしげに手で胸や秘所を隠してしまう。
「隠すなよ」
「だって……」
「おまえのえろい身体、きちんと見たい……」
「もう。またそんなこと言って……」
羞恥心から逃れるようにイレーネは掛布を剥がして、ハインツの下を寛げさせた。顔を近づけてちろちろと舐め始めると、すぐに硬くなり、さらに咥えて一生懸命射精へ導こうとすれば、ハインツははぁはぁと息を荒げながら、「待って」とイレーネにやめさせた。
「ん……どうしました? きついですか?」
やっぱり身体によくないんじゃないかと心配するイレーネにそうじゃないとハインツは首を横に振った。
「イレーネのも、舐めたい」
だから上に乗ってと言った。
最初は無理をして仕事に行っていたが、やがてそれも難しくなり、今は家でイレーネの内職の手伝いをしたり、エミールに読み書きを教えている。息子の前では元気な父親の姿を演じているのがわかり、イレーネは見るたびに胸が痛んだ。
一度王都へ行って有名な医者に診てもらうことも提案したが、ハインツは首を横に振った。
「王都の医者は貴族や金持ちしか相手にしない。行ったって、診てもらえないさ」
元貴族であった彼の言葉には説得力があった。イレーネも口ではわからないと言いながら、内心は彼の言う通りだろうと思った。たとえ何の病気かわかっても、治す手段があるとは限らず、神に毎日祈ることが治療法だと述べる医者もいるくらいだ。
しかしだからといって、やはりこのまま何もせず諦めることはできなかった。もしかしたら、ハインツを治してくれる医者がいるかもしれない。
「……まだ少し、宝石が残っているわ。それを見せたら、どこかの没落した貴族だと思って診てくれるかもしれない。あなたが無理なら、わたしが頼みに行って――」
「イレーネ」
ハインツはイレーネの両手を握りると、噛んで含めるように言い聞かせた。
「今王都は、隣国とごたついているらしい。王都も物騒になっていて、治安もよくない。そんな危険なところに、おまえを行かせられるわけないだろう」
「でも、このままじゃ……」
イレーネが目に涙を浮かべると、ハインツは笑い、力強く抱きしめた。
「大丈夫。病は気から、って言うだろう? おまえとエミールに囲まれて毎日幸せに暮らしていれば、いつの間にか治っちまうよ。だから心配するな」
それは半分当たっていたかもしれないし、半分違っていた。
ハインツの病は治ることなく、だが大切な家族の前では以前と変わらぬ態度で振る舞うこともできたからだ。
しかしイレーネは、じわじわと確実にハインツに死が近づいていることを感じ取っていた。そしてそれは彼自身が一番よくわかっていたのだろう。もはやどんな名医にも自分の病は治せない。死神からは逃れられないのだと。
「――エミールは、寝た?」
夜。エミールを寝かし終えたイレーネは、夫婦の寝室へと入った。起きていたのか、ハインツがこちらを見て声をかけてくる。
「ええ」
イレーネが寝台に上がろうとすると、ハインツが手を取った。
「じゃあ、久しぶりにしたい」
「でも……」
「今日は、調子がいいんだ」
イレーネを感じたい、と言われ、彼女は顔を赤くした。いつまでたっても初々しい反応を見せる妻にハインツは目を細め、「脱いで」と優しい声で命じた。
イレーネは俯きながらも、言われた通り夜着を脱いでいく。夫の視線をじっと感じながら最後にシュミーズも床へ落とすと、白い裸体が仄暗い部屋に浮かび上がった。
「きれいだよ、イレーネ……」
熱のこもった声で言われ、イレーネは恥ずかしげに手で胸や秘所を隠してしまう。
「隠すなよ」
「だって……」
「おまえのえろい身体、きちんと見たい……」
「もう。またそんなこと言って……」
羞恥心から逃れるようにイレーネは掛布を剥がして、ハインツの下を寛げさせた。顔を近づけてちろちろと舐め始めると、すぐに硬くなり、さらに咥えて一生懸命射精へ導こうとすれば、ハインツははぁはぁと息を荒げながら、「待って」とイレーネにやめさせた。
「ん……どうしました? きついですか?」
やっぱり身体によくないんじゃないかと心配するイレーネにそうじゃないとハインツは首を横に振った。
「イレーネのも、舐めたい」
だから上に乗ってと言った。
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