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53、軋む心*
イレーネはディートハルトの瞳を見つめながら、今自分の置かれている状況を、行き場のない思いをぶつけた。
「わたしはただ、あの子と静かに暮らしたいだけなのに……もう会えないあの人を想って、悲しみに浸りたいだけのに……なのにどうしてあなたたちは、それすら許してくれないの……どうしていつも、無理矢理奪って、自分のものにしようとするの……」
イレーネの人生なのに、彼らは勝手に自分たちの人生にして書き換えていく。こんな理不尽な仕打ちが他にあるだろうか。
「それはきみが弱いからだ」
ディートハルトはイレーネにそう答えた。
「弱い者は、誰かの力を得なくては生きていけない。きみが駆け落ちできたのは女王陛下の後ろ盾があったから。結婚して子どもを無事に育てることができたのも、働く夫がいて、他の男にとられないよう牽制していてくれたからだ。それがなくなったから、きみはまた他の者に狙われ始めた」
弱者は強者に食われるだけ。
この世界の真理を教えられ、イレーネの心はますます打ちのめされた。
「弱い人は、死ぬしかないの? ずっと誰かに、支配され続けるしかないの? 安寧は、もう一生得られないの?」
「死にたくないから、人も動物も強さを得ようとする。自分が思い描く自由を得るために、自分にはないものを身につけようとする。肉体的な強さだけでなく、金や名誉、相手の弱点を握ることも、それらのために必要な賢さだ」
「じゃあ、これからはそうする……強くなるわ……だから、わたしを解放して……あの子ためなら、何でもできるから……」
だめだ、とディートハルトはまたあの深淵を感じさせる瞳でイレーネを見つめた。
「きみはすでに俺のものになった。どこかへ行くことも、誰か別の男のものになることも、もう許されない」
「いや、そんなのいや、わたしは、んっ――」
それ以上言わせないというように口を塞がれる。体重をかけられ、胸の飾りや溶けきった花芯を刺激され、途切れ途切れに甘い声が漏れ出る。布地の上からぐりぐりと男の象徴を押しつけられているのがわかった。途中でもどかしげに服を脱ぎ、直接、肌へと触れてくる感触はあまりにも生々しく、イレーネを狂わせた。
「うっ、ぁっ、はあ、ぅ、ひっ……」
蜜口を滑るように挿入を避けていたかと思えば、いきなり吸いつき、ずぶりと中へ押し込まれて、彼女はまた我に返った。
「あっ、いやっ、やめて……!」
「はぁ、だめだっ」
二人は互いに肌をぶつけ、荒い息を吐きながら一つに繋がった。その痛みと圧倒的な存在を自分の中に感じたイレーネは、目を瞑って涙を流した。
(ごめんなさい、ハインツ様……)
彼との約束を破った。裏切ってしまった。
絶望するイレーネをおいて、ディートハルトは隘路をこじ開けて、イレーネの身体を揺さぶり始める。熱くて硬い肉棒はまさに健康な男の証であり、彼が生きていることを実感させた。
「ぁっ、んっ、ふ、う……あっ、あんっ……」
ディートハルトはイレーネの初めての相手だ。蕾が花開くように快楽を教えられ、肉欲に耽る行為の素晴らしさを――抗えない罪深さを刻みつけられた。死んでもいいほどの気持ち良さは時に地獄のような苦しみと表裏一体なのだとイレーネはディートハルトに思い知らされた。
「はぁ、すごく、きついな……子どもを産んだとは、思えないっ」
「んっ、ぁっ、あぅ……だめっ、おく、つかないでっ……」
男の圧倒的な力でねじ伏せられ、イレーネはただ憐れを請うように啼くしかない。せめてこれ以上ひどいことをしないでくれと下手に回って、相手の機嫌をとろうとする。
でもそれはかえって逆効果にもなる。ディートハルトもその一人だった。決して嫌だと言ったところをそっとしておいてくれない。執拗に攻め、さらに服従させようとする。それは雄としての本能かもしれない。
「あっ、あんっ、やぁっ、だめっ、もう、もう、んっ、んんっ――」
ずちゅっ、ぶちゅっ、と水音を立てて、イレーネは喉元を晒し、背中を弓なりに反らした。
「はっ、はぁっ、イレーネ……!」
痙攣するイレーネにディートハルトも後を追うように腰を激しく動かし、射精した。
(あぁ……)
流れ込んでくる。ハインツのではなく、ディートハルトに貫かれて最後まで抱かれてしまった。達した快感の微睡みに包まれながら、やがて熱が引いて待っている現実にイレーネは途方に暮れそうになった。
イレーネの心中をよそに、隣に倒れ込んでいたディートハルトはイレーネを抱き寄せ、うなじに唇を押し当て、乱れている呼吸を整えようと何度も熱い息を吐いた。掌が胸の前へと伸ばされ、忙しなく愛撫してくる。まだ物足りないような感じに、イレーネは身じろぎして振り解くと、起き上がった。
「今日はもう、これで終わりにしてください」
「――わかった」
だがディートハルトはイレーネの腕を引き、再び寝台へ引きずり込むと、自分の腕の中に閉じ込めようとしてくる。彼女はいや、というようにもがいた。
「もう、帰してください……」
「抱かれた身体でエミールのところへ戻るのか」
「それは……」
「ここで眠ればいい」
イレーネがどう答えるかわかっているディートハルトはそう言った。イレーネは諦めて、明日早く起きて部屋へ戻ろうと決めた。ディートハルトは逃げ出さないように手足を絡めてくる。もう抗う気力も残っていなかった。
(つかれた……)
これからずっと、抱かれ続けるのだろうか……。
「ディートハルトさま」
「なんだ」
「毎晩は、おやめください……いつかあの子に、ばれてしまうかもしれないので……」
「わかった」
ディートハルトが了承してくれたことでイレーネはほっとする。だがすぐに、自分が譲歩するかたちで彼の要求に承諾してしまったことに気づく。どうあってもディートハルトに逆らえない自分の運命にイレーネは目を固く瞑って現実から逃げ出した。
「わたしはただ、あの子と静かに暮らしたいだけなのに……もう会えないあの人を想って、悲しみに浸りたいだけのに……なのにどうしてあなたたちは、それすら許してくれないの……どうしていつも、無理矢理奪って、自分のものにしようとするの……」
イレーネの人生なのに、彼らは勝手に自分たちの人生にして書き換えていく。こんな理不尽な仕打ちが他にあるだろうか。
「それはきみが弱いからだ」
ディートハルトはイレーネにそう答えた。
「弱い者は、誰かの力を得なくては生きていけない。きみが駆け落ちできたのは女王陛下の後ろ盾があったから。結婚して子どもを無事に育てることができたのも、働く夫がいて、他の男にとられないよう牽制していてくれたからだ。それがなくなったから、きみはまた他の者に狙われ始めた」
弱者は強者に食われるだけ。
この世界の真理を教えられ、イレーネの心はますます打ちのめされた。
「弱い人は、死ぬしかないの? ずっと誰かに、支配され続けるしかないの? 安寧は、もう一生得られないの?」
「死にたくないから、人も動物も強さを得ようとする。自分が思い描く自由を得るために、自分にはないものを身につけようとする。肉体的な強さだけでなく、金や名誉、相手の弱点を握ることも、それらのために必要な賢さだ」
「じゃあ、これからはそうする……強くなるわ……だから、わたしを解放して……あの子ためなら、何でもできるから……」
だめだ、とディートハルトはまたあの深淵を感じさせる瞳でイレーネを見つめた。
「きみはすでに俺のものになった。どこかへ行くことも、誰か別の男のものになることも、もう許されない」
「いや、そんなのいや、わたしは、んっ――」
それ以上言わせないというように口を塞がれる。体重をかけられ、胸の飾りや溶けきった花芯を刺激され、途切れ途切れに甘い声が漏れ出る。布地の上からぐりぐりと男の象徴を押しつけられているのがわかった。途中でもどかしげに服を脱ぎ、直接、肌へと触れてくる感触はあまりにも生々しく、イレーネを狂わせた。
「うっ、ぁっ、はあ、ぅ、ひっ……」
蜜口を滑るように挿入を避けていたかと思えば、いきなり吸いつき、ずぶりと中へ押し込まれて、彼女はまた我に返った。
「あっ、いやっ、やめて……!」
「はぁ、だめだっ」
二人は互いに肌をぶつけ、荒い息を吐きながら一つに繋がった。その痛みと圧倒的な存在を自分の中に感じたイレーネは、目を瞑って涙を流した。
(ごめんなさい、ハインツ様……)
彼との約束を破った。裏切ってしまった。
絶望するイレーネをおいて、ディートハルトは隘路をこじ開けて、イレーネの身体を揺さぶり始める。熱くて硬い肉棒はまさに健康な男の証であり、彼が生きていることを実感させた。
「ぁっ、んっ、ふ、う……あっ、あんっ……」
ディートハルトはイレーネの初めての相手だ。蕾が花開くように快楽を教えられ、肉欲に耽る行為の素晴らしさを――抗えない罪深さを刻みつけられた。死んでもいいほどの気持ち良さは時に地獄のような苦しみと表裏一体なのだとイレーネはディートハルトに思い知らされた。
「はぁ、すごく、きついな……子どもを産んだとは、思えないっ」
「んっ、ぁっ、あぅ……だめっ、おく、つかないでっ……」
男の圧倒的な力でねじ伏せられ、イレーネはただ憐れを請うように啼くしかない。せめてこれ以上ひどいことをしないでくれと下手に回って、相手の機嫌をとろうとする。
でもそれはかえって逆効果にもなる。ディートハルトもその一人だった。決して嫌だと言ったところをそっとしておいてくれない。執拗に攻め、さらに服従させようとする。それは雄としての本能かもしれない。
「あっ、あんっ、やぁっ、だめっ、もう、もう、んっ、んんっ――」
ずちゅっ、ぶちゅっ、と水音を立てて、イレーネは喉元を晒し、背中を弓なりに反らした。
「はっ、はぁっ、イレーネ……!」
痙攣するイレーネにディートハルトも後を追うように腰を激しく動かし、射精した。
(あぁ……)
流れ込んでくる。ハインツのではなく、ディートハルトに貫かれて最後まで抱かれてしまった。達した快感の微睡みに包まれながら、やがて熱が引いて待っている現実にイレーネは途方に暮れそうになった。
イレーネの心中をよそに、隣に倒れ込んでいたディートハルトはイレーネを抱き寄せ、うなじに唇を押し当て、乱れている呼吸を整えようと何度も熱い息を吐いた。掌が胸の前へと伸ばされ、忙しなく愛撫してくる。まだ物足りないような感じに、イレーネは身じろぎして振り解くと、起き上がった。
「今日はもう、これで終わりにしてください」
「――わかった」
だがディートハルトはイレーネの腕を引き、再び寝台へ引きずり込むと、自分の腕の中に閉じ込めようとしてくる。彼女はいや、というようにもがいた。
「もう、帰してください……」
「抱かれた身体でエミールのところへ戻るのか」
「それは……」
「ここで眠ればいい」
イレーネがどう答えるかわかっているディートハルトはそう言った。イレーネは諦めて、明日早く起きて部屋へ戻ろうと決めた。ディートハルトは逃げ出さないように手足を絡めてくる。もう抗う気力も残っていなかった。
(つかれた……)
これからずっと、抱かれ続けるのだろうか……。
「ディートハルトさま」
「なんだ」
「毎晩は、おやめください……いつかあの子に、ばれてしまうかもしれないので……」
「わかった」
ディートハルトが了承してくれたことでイレーネはほっとする。だがすぐに、自分が譲歩するかたちで彼の要求に承諾してしまったことに気づく。どうあってもディートハルトに逆らえない自分の運命にイレーネは目を固く瞑って現実から逃げ出した。
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