99 / 116
ディートハルト
22、逃げた小鳥
しおりを挟む
ディートハルトはマルガレーテが王太子と背徳の逢瀬に溺れている間、イレーネを迎えに行き、妻を隣国へ掻っ攫われるというシナリオでもよかった。寝取られ男と呼ばれようが全くに気にしなかったし、イレーネを早く自分のものにしたいという気持ちの方が強かったからだ。
しかしグリゼルダが許さなかった。
彼女はイレーネを迎えるにあたって、きちんとマルガレーテと離婚してこの国から追い出すことをしなければ、隣国のどこにいるのかまでは教えないと脅された。
国さえわかればあとはどうにでもなると思ったが、ここまできたら仕方がないと、ディートハルトは迅速に問題を片付けたのだった。
マルガレーテも王太子も、実にあっさりと恋に落ちてくれたので助かった。それはディートハルトも驚くほどであったが、とにかくこれでイレーネに会いに行ける。彼はこちらへ帰ってきた際、司教たちに自分と彼女の再婚を認めてくれるよう、根回しをグリゼルダに要求した。
彼女は嫌な顔をしたものの、とりあえず約束してくれた。その代わり、帰国したら馬車馬のように働くことを要求されたが安いものだった。
「ではしばらくの間、王都を留守にさせてもらいます」
どうせディートハルトが属していた黒の騎士団は解散させられたのだ。裏切り者が出た白の騎士団も同じだ。
女王直属の騎士団として新たに設立された銀の騎士団に今所属しても、裏切り者だ何だと言われて面倒だ。追放というかたちでしばし王都から姿を消して、ほとぼりが冷めた頃で――自分が必要だと思われ始めた頃に復帰させたほうが周囲も納得するだろう。
ディートハルトはそう述べて休みをもぎとったのだが、グリゼルダには「おまえが言うな」と冷たく言われてしまった。しかし帰ってくるなと言わないあたり、自分のようなものの手も借りたいのが伺える。
「イレーネが嫌がっても、無理矢理連れて帰ってくるつもり?」
「帰ってこなければいけないような状況があります」
情に厚い彼女ならば、肉親の頼みを拒むことはできまい。死にかけの母親の願いならなおさらだ。
「可哀想なイレーネ。せっかく鳥籠から自由に逃げられたというのに……」
グリゼルダが無表情で、呟く。
そんな主をちらりと一瞥し、ディートハルトは部屋を後にした。
籠の中の鳥は、ずっとマルガレーテだと思っていた。でも彼女は、ディートハルトが思うよりずっと図太く、逞しい女性だった。ディートハルトが世話してやらなくても、他の男の指にとまって、その可愛らしい歌声でもっと立派な籠を……何なら広い庭ごとプレゼントしてくれるだろう。
ディートハルトはそのことに今はもう何も思わなかった。せいぜい自由に羽ばたいてくれればいいと思っている。彼の頭の中は、すでに別の小鳥のことでいっぱいだったから。早く鳥籠に戻して、その歌声も何もかも、誰にも聞かせないようにしなければならない、と。
しかしグリゼルダが許さなかった。
彼女はイレーネを迎えるにあたって、きちんとマルガレーテと離婚してこの国から追い出すことをしなければ、隣国のどこにいるのかまでは教えないと脅された。
国さえわかればあとはどうにでもなると思ったが、ここまできたら仕方がないと、ディートハルトは迅速に問題を片付けたのだった。
マルガレーテも王太子も、実にあっさりと恋に落ちてくれたので助かった。それはディートハルトも驚くほどであったが、とにかくこれでイレーネに会いに行ける。彼はこちらへ帰ってきた際、司教たちに自分と彼女の再婚を認めてくれるよう、根回しをグリゼルダに要求した。
彼女は嫌な顔をしたものの、とりあえず約束してくれた。その代わり、帰国したら馬車馬のように働くことを要求されたが安いものだった。
「ではしばらくの間、王都を留守にさせてもらいます」
どうせディートハルトが属していた黒の騎士団は解散させられたのだ。裏切り者が出た白の騎士団も同じだ。
女王直属の騎士団として新たに設立された銀の騎士団に今所属しても、裏切り者だ何だと言われて面倒だ。追放というかたちでしばし王都から姿を消して、ほとぼりが冷めた頃で――自分が必要だと思われ始めた頃に復帰させたほうが周囲も納得するだろう。
ディートハルトはそう述べて休みをもぎとったのだが、グリゼルダには「おまえが言うな」と冷たく言われてしまった。しかし帰ってくるなと言わないあたり、自分のようなものの手も借りたいのが伺える。
「イレーネが嫌がっても、無理矢理連れて帰ってくるつもり?」
「帰ってこなければいけないような状況があります」
情に厚い彼女ならば、肉親の頼みを拒むことはできまい。死にかけの母親の願いならなおさらだ。
「可哀想なイレーネ。せっかく鳥籠から自由に逃げられたというのに……」
グリゼルダが無表情で、呟く。
そんな主をちらりと一瞥し、ディートハルトは部屋を後にした。
籠の中の鳥は、ずっとマルガレーテだと思っていた。でも彼女は、ディートハルトが思うよりずっと図太く、逞しい女性だった。ディートハルトが世話してやらなくても、他の男の指にとまって、その可愛らしい歌声でもっと立派な籠を……何なら広い庭ごとプレゼントしてくれるだろう。
ディートハルトはそのことに今はもう何も思わなかった。せいぜい自由に羽ばたいてくれればいいと思っている。彼の頭の中は、すでに別の小鳥のことでいっぱいだったから。早く鳥籠に戻して、その歌声も何もかも、誰にも聞かせないようにしなければならない、と。
563
あなたにおすすめの小説
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる