わたしを捨てたはずの婚約者様からは逃げられない。

りつ

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ディートハルト

22、逃げた小鳥

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 ディートハルトはマルガレーテが王太子と背徳の逢瀬に溺れている間、イレーネを迎えに行き、妻を隣国へ掻っ攫われるというシナリオでもよかった。寝取られ男と呼ばれようが全くに気にしなかったし、イレーネを早く自分のものにしたいという気持ちの方が強かったからだ。

 しかしグリゼルダが許さなかった。

 彼女はイレーネを迎えるにあたって、きちんとマルガレーテと離婚してこの国から追い出すことをしなければ、隣国のどこにいるのかまでは教えないと脅された。

 国さえわかればあとはどうにでもなると思ったが、ここまできたら仕方がないと、ディートハルトは迅速に問題を片付けたのだった。

 マルガレーテも王太子も、実にあっさりと恋に落ちてくれたので助かった。それはディートハルトも驚くほどであったが、とにかくこれでイレーネに会いに行ける。彼はこちらへ帰ってきた際、司教たちに自分と彼女の再婚を認めてくれるよう、根回しをグリゼルダに要求した。

 彼女は嫌な顔をしたものの、とりあえず約束してくれた。その代わり、帰国したら馬車馬のように働くことを要求されたが安いものだった。

「ではしばらくの間、王都を留守にさせてもらいます」

 どうせディートハルトが属していた黒の騎士団は解散させられたのだ。裏切り者が出た白の騎士団も同じだ。 

 女王直属の騎士団として新たに設立された銀の騎士団に今所属しても、裏切り者だ何だと言われて面倒だ。追放というかたちでしばし王都から姿を消して、ほとぼりが冷めた頃で――自分が必要だと思われ始めた頃に復帰させたほうが周囲も納得するだろう。

 ディートハルトはそう述べて休みをもぎとったのだが、グリゼルダには「おまえが言うな」と冷たく言われてしまった。しかし帰ってくるなと言わないあたり、自分のようなものの手も借りたいのが伺える。

「イレーネが嫌がっても、無理矢理連れて帰ってくるつもり?」
「帰ってこなければいけないような状況があります」

 情に厚い彼女ならば、肉親の頼みを拒むことはできまい。死にかけの母親の願いならなおさらだ。

「可哀想なイレーネ。せっかく鳥籠から自由に逃げられたというのに……」

 グリゼルダが無表情で、呟く。

 そんな主をちらりと一瞥し、ディートハルトは部屋を後にした。

 籠の中の鳥は、ずっとマルガレーテだと思っていた。でも彼女は、ディートハルトが思うよりずっと図太く、逞しい女性だった。ディートハルトが世話してやらなくても、他の男の指にとまって、その可愛らしい歌声でもっと立派な籠を……何なら広い庭ごとプレゼントしてくれるだろう。

 ディートハルトはそのことに今はもう何も思わなかった。せいぜい自由に羽ばたいてくれればいいと思っている。彼の頭の中は、すでに別の小鳥のことでいっぱいだったから。早く鳥籠に戻して、その歌声も何もかも、誰にも聞かせないようにしなければならない、と。


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