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慰め合う
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夕暮れの時間帯にエルズワース国へ行く夜行列車に乗ることができた。
駆け落ちした時とは違い、狭く、決して豪華とは言えなかったが、当日に乗ることができただけでも十分だ。空いていたとレイモンドは言ったが、たぶん自分の身元を明かして融通を利かせたおかげでもあるのだろう。一刻も早く帰りたいと言ったグレイスの願いを叶えるため、彼は妥協しなかった。本当に、彼には感謝してもしきれない。
「グレイス。すまない」
だというのに、並んで座っていたレイモンドは申し訳なさそうに謝ってくる。
外の景色を見ながら物思いに耽っていたグレイスは不思議そうに彼の方を見た。
「どうしてレイモンド様が謝るのですか」
「……俺がきちんと侯爵を説得できていれば、今回のようなことは起きなかったはずだ。貴女を、辛い目に遇わせずに済んだ」
まるで自分のことのように胸を痛めるレイモンドの姿を見て、どうして責める気持ちが湧いてこようか。
「レイモンド様は何も悪くありません。わたしが、もっと早く父に本音をぶつけていればよかったんです」
そうすれば、あんな顔をさせず、互いに苦い別れを味わうこともなかった。
「貴女こそ、悪くないだろう。いろいろ理不尽な状況でありながら、貴女が我慢して頑張ってきたのは、ご家族のためであり……侯爵が願っていた気持ちと同じだったのだから」
そう。グレイスも自分がアンドリューの妃となれば侯爵家の繁栄に繋がり、父の力になれると思ったから。喜んでくれると思ったから。
お互いの幸せを願っていたはずだからこそ、余計に苦い思いが込み上げてくる。
(お父様……)
「グレイス……」
レイモンドが心配した様子でこちらを見つめる。
ふと、レイモンドもこんな苦しみを味わったのだろうかと思った。
いや、彼の方がずっと苦く、やるせない思いを味わってきたはずだ。
自由を手に入れるために夫ではない男性の子を身籠った母親。妻と離婚したくないためにまだ幼かった少年の髪を染めさせた父親。そこにレイモンドへのまともな愛があったとは、到底思えなかった。
(レイはずっと……)
「グレイス?」
気づいたらグレイスはレイモンドを慰めるように抱き着いていた。
「すまない。辛いよな……」
抱きしめ返すレイモンドの温もりが愛おしかった。
「ええ、辛いわ……だから、慰めて」
彼の掌がグレイスの後頭部を支え、首筋の匂いを嗅いだかと思うと、顎に唇が当たり、深く唇を貪られた。
「ん……」
グレイスはもっと欲しいと積極的に舌を絡め、身体を密着させた。
彼の苦しみも、今自分が抱えているやるせない気持ちも、互いに触れ合わせて、慰めたい衝動に駆られた。
「はぁ、グレイス……」
顔を近づけたまま、唇を離す。銀の糸が零れ、互いの乱れた呼吸が肌にかかる。それでもまだ足りないとレイモンドが啄むようなキスをしながら、グレイスの身体を弄る。
「グレイス……、貴女が連れ去られたと知って、生きた心地がしなかった……」
「んっ……ごめん、なさい……。でも、どうやって知ったの?」
慌ただしい出来事ばかりですっかり聞くのを忘れていた。
「まず侯爵の様子がいつもと違っていることに違和感を覚えた。やけに、俺を引き留めようとしていて……はぁ……そこに、俺の家の者と貴女の兄君が訪れて、貴女が孤児院からまだ帰ってきていないと聞いて……俺は、侯爵に詰め寄った」
レイモンドがグレイスの身体を持ち上げ、自分の膝の上に跨らせた。逞しい太股の上に臀部が当たり、官能をくすぐる口づけでグレイスは秘所を擦りつけてしまう。
「あぁ、グレイス……侯爵が貴女をアンドリューに差し出したと知って、頭が沸騰したようにカッとなって、気づいたら侯爵の襟元を掴んで……マーティンが止めてくれなければ、殺してしまっていたかもしれない……」
その後レイモンドは父から居場所を聞き出すと、王宮へ駆けつけてくれた。
「貴女を傷つけるアンドリュー、国王や王妃……王宮そのものが憎くて、身体中の血が逆流しそうで、俺の力ですべてを壊してやろうと思った……」
尻を捏ね回していたレイモンドの手にグッと力が込められる。指先が肉に食い込む感触と左右に割り開くような手つきに、グレイスの背が反り、喉元を晒す。
「レイ……」
目に涙を浮かべ、彼に呼びかける。
「グレイス。あの男に何もされていないか、この目で確かめさせてくれ。そうでないと俺は気が狂いそうだ……」
グレイスがこくりと頷けば、レイモンドは目を細め、彼女を抱き上げて寝台の方へ向かった。扉から離れた奥まった角際に窓と隣接する形で寝床のスペースが作られている。
てっきりそこへ寝かすと思っていたが、レイモンドは寝台の前、床にグレイスを下ろした。そのまま二人で立ったまま、向き合う。意図がわからず無言でレイモンドを見れば、彼は微笑んだ。
「立ったまま、脱いでくれ」
駆け落ちした時とは違い、狭く、決して豪華とは言えなかったが、当日に乗ることができただけでも十分だ。空いていたとレイモンドは言ったが、たぶん自分の身元を明かして融通を利かせたおかげでもあるのだろう。一刻も早く帰りたいと言ったグレイスの願いを叶えるため、彼は妥協しなかった。本当に、彼には感謝してもしきれない。
「グレイス。すまない」
だというのに、並んで座っていたレイモンドは申し訳なさそうに謝ってくる。
外の景色を見ながら物思いに耽っていたグレイスは不思議そうに彼の方を見た。
「どうしてレイモンド様が謝るのですか」
「……俺がきちんと侯爵を説得できていれば、今回のようなことは起きなかったはずだ。貴女を、辛い目に遇わせずに済んだ」
まるで自分のことのように胸を痛めるレイモンドの姿を見て、どうして責める気持ちが湧いてこようか。
「レイモンド様は何も悪くありません。わたしが、もっと早く父に本音をぶつけていればよかったんです」
そうすれば、あんな顔をさせず、互いに苦い別れを味わうこともなかった。
「貴女こそ、悪くないだろう。いろいろ理不尽な状況でありながら、貴女が我慢して頑張ってきたのは、ご家族のためであり……侯爵が願っていた気持ちと同じだったのだから」
そう。グレイスも自分がアンドリューの妃となれば侯爵家の繁栄に繋がり、父の力になれると思ったから。喜んでくれると思ったから。
お互いの幸せを願っていたはずだからこそ、余計に苦い思いが込み上げてくる。
(お父様……)
「グレイス……」
レイモンドが心配した様子でこちらを見つめる。
ふと、レイモンドもこんな苦しみを味わったのだろうかと思った。
いや、彼の方がずっと苦く、やるせない思いを味わってきたはずだ。
自由を手に入れるために夫ではない男性の子を身籠った母親。妻と離婚したくないためにまだ幼かった少年の髪を染めさせた父親。そこにレイモンドへのまともな愛があったとは、到底思えなかった。
(レイはずっと……)
「グレイス?」
気づいたらグレイスはレイモンドを慰めるように抱き着いていた。
「すまない。辛いよな……」
抱きしめ返すレイモンドの温もりが愛おしかった。
「ええ、辛いわ……だから、慰めて」
彼の掌がグレイスの後頭部を支え、首筋の匂いを嗅いだかと思うと、顎に唇が当たり、深く唇を貪られた。
「ん……」
グレイスはもっと欲しいと積極的に舌を絡め、身体を密着させた。
彼の苦しみも、今自分が抱えているやるせない気持ちも、互いに触れ合わせて、慰めたい衝動に駆られた。
「はぁ、グレイス……」
顔を近づけたまま、唇を離す。銀の糸が零れ、互いの乱れた呼吸が肌にかかる。それでもまだ足りないとレイモンドが啄むようなキスをしながら、グレイスの身体を弄る。
「グレイス……、貴女が連れ去られたと知って、生きた心地がしなかった……」
「んっ……ごめん、なさい……。でも、どうやって知ったの?」
慌ただしい出来事ばかりですっかり聞くのを忘れていた。
「まず侯爵の様子がいつもと違っていることに違和感を覚えた。やけに、俺を引き留めようとしていて……はぁ……そこに、俺の家の者と貴女の兄君が訪れて、貴女が孤児院からまだ帰ってきていないと聞いて……俺は、侯爵に詰め寄った」
レイモンドがグレイスの身体を持ち上げ、自分の膝の上に跨らせた。逞しい太股の上に臀部が当たり、官能をくすぐる口づけでグレイスは秘所を擦りつけてしまう。
「あぁ、グレイス……侯爵が貴女をアンドリューに差し出したと知って、頭が沸騰したようにカッとなって、気づいたら侯爵の襟元を掴んで……マーティンが止めてくれなければ、殺してしまっていたかもしれない……」
その後レイモンドは父から居場所を聞き出すと、王宮へ駆けつけてくれた。
「貴女を傷つけるアンドリュー、国王や王妃……王宮そのものが憎くて、身体中の血が逆流しそうで、俺の力ですべてを壊してやろうと思った……」
尻を捏ね回していたレイモンドの手にグッと力が込められる。指先が肉に食い込む感触と左右に割り開くような手つきに、グレイスの背が反り、喉元を晒す。
「レイ……」
目に涙を浮かべ、彼に呼びかける。
「グレイス。あの男に何もされていないか、この目で確かめさせてくれ。そうでないと俺は気が狂いそうだ……」
グレイスがこくりと頷けば、レイモンドは目を細め、彼女を抱き上げて寝台の方へ向かった。扉から離れた奥まった角際に窓と隣接する形で寝床のスペースが作られている。
てっきりそこへ寝かすと思っていたが、レイモンドは寝台の前、床にグレイスを下ろした。そのまま二人で立ったまま、向き合う。意図がわからず無言でレイモンドを見れば、彼は微笑んだ。
「立ったまま、脱いでくれ」
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