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意地悪な妹
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「ジュスティーヌお姉様」
いつもより柔らかな声音で呼びとめたのに、前を歩いていたプラチナブロンドの女性はびくりと肩を震わせる。振り返った顔立ちは白百合のように可憐であったが、可哀想なことに恐怖で怯えていた。
ミランダはそんな彼女を値踏みするように上から下まで目を通すと、不意ににっこりと微笑んだ。
「ね、お姉様。わたしの代わりにグランディエ国へ嫁いでくれないかしら」
「え?」
彼女が困惑するのも無理はない。
「ミランダ。それはあなたに来た縁談ではないの?」
「鈍いわね。わたしが嫁ぎたくないから、お姉様を身代わりにするのよ」
笑顔を消したミランダはそこまで言うと、自慢のストロベリーブロンドを後ろへ払った。
異母妹の言っていることを理解したジュスティーヌはサッと顔を青ざめさせる。
「いけないわ。これは国同士の決まり。嫌だからといって、断ることはできないのよ」
「断ることができないから、お姉様に行ってもらうんじゃない」
「私では意味がないわ……」
ジュスティーヌが辛そうに目を伏せたのは、己の出自を鑑みたからだろう。
彼女もまた王女であるが、ミランダと母親が違う。
彼女の母親は爵位の低い娘であった。本来なら妃に据えるには難しい女性であったが、儚げな容姿と可憐な声が当時王太子であった父の心を射止め、情熱だけで結婚を押し通した。それだけ父はその女性を愛していたのだ。
だがジュスティーヌを産むと、彼女は呆気なくこの世を去り、男児のいなかった父は再婚を勧められた。国王に即位することも踏まえて、今度こそ高貴な身分の女性を、と。当初気が進まなかった父であるが、異国から輿入れしてきた姫君――ミランダの母に心を奪われ、二度目の恋に落ちた。
ミランダの母も父のことを深く愛し、結果、ミランダや王太子となる男児を産んだ。父はミランダを目に入れても痛くないほど可愛がった。もちろん妻である王妃や王太子のことも。
最初の妻との間にできたジュスティーヌの存在を忘れてしまうほどに。
「お姉様だって一応お父様の血を引いた子なんだから、何ら問題はないはずよ」
「でも向こうは、あなたを指名しているのでしょう?」
「年頃の、メナールの姫君を、とね。お姉様は二十歳で、メナールの姫。十分条件は満たしているわ」
「それは……私の存在を向こうは知らないから……」
まだ認めようとしないジュスティーヌを、ミランダはばっさりと切り捨てた。
「お姉様がどうおっしゃろうが、わたし、もうお父様とお母様にお願いしてしまったの。そしてお二人とも、ぜひそうしましょうと承諾してくれた。だから、ね? わたしの代わりにグランディエ国へ嫁いでくださいまし」
ジュスティーヌは困った顔をしてミランダを見つめ、やがて諦めたように頷いた。ミランダはよかったと笑みを浮かべる。
「必要な物はすべてこちらで手配するから、お姉様は何もしなくてけっこうよ。あ、でも向こうへ行くにはそれなりに体力を消耗するだろうから、それまでにその痩せすぎの身体をどうにかすることね」
そうしないと国王陛下もがっかりなさるわ、というミランダの意地悪な言葉にもジュスティーヌは儚げな表情で頷いてみせるだけだった。
代わりに彼女の侍女がミランダの言葉にドン引きしていたが、気づかない振りをして「じゃあそういうことだから」と意地悪な笑みを贈って背を向けた。
そうしてジュスティーヌから見えなくなった位置でふと立ち止まり、「よしっ!」と王女らしからぬ声を上げてガッツポーズする。
(これでお姉様も、幸せになれるはずよ!!)
いつもより柔らかな声音で呼びとめたのに、前を歩いていたプラチナブロンドの女性はびくりと肩を震わせる。振り返った顔立ちは白百合のように可憐であったが、可哀想なことに恐怖で怯えていた。
ミランダはそんな彼女を値踏みするように上から下まで目を通すと、不意ににっこりと微笑んだ。
「ね、お姉様。わたしの代わりにグランディエ国へ嫁いでくれないかしら」
「え?」
彼女が困惑するのも無理はない。
「ミランダ。それはあなたに来た縁談ではないの?」
「鈍いわね。わたしが嫁ぎたくないから、お姉様を身代わりにするのよ」
笑顔を消したミランダはそこまで言うと、自慢のストロベリーブロンドを後ろへ払った。
異母妹の言っていることを理解したジュスティーヌはサッと顔を青ざめさせる。
「いけないわ。これは国同士の決まり。嫌だからといって、断ることはできないのよ」
「断ることができないから、お姉様に行ってもらうんじゃない」
「私では意味がないわ……」
ジュスティーヌが辛そうに目を伏せたのは、己の出自を鑑みたからだろう。
彼女もまた王女であるが、ミランダと母親が違う。
彼女の母親は爵位の低い娘であった。本来なら妃に据えるには難しい女性であったが、儚げな容姿と可憐な声が当時王太子であった父の心を射止め、情熱だけで結婚を押し通した。それだけ父はその女性を愛していたのだ。
だがジュスティーヌを産むと、彼女は呆気なくこの世を去り、男児のいなかった父は再婚を勧められた。国王に即位することも踏まえて、今度こそ高貴な身分の女性を、と。当初気が進まなかった父であるが、異国から輿入れしてきた姫君――ミランダの母に心を奪われ、二度目の恋に落ちた。
ミランダの母も父のことを深く愛し、結果、ミランダや王太子となる男児を産んだ。父はミランダを目に入れても痛くないほど可愛がった。もちろん妻である王妃や王太子のことも。
最初の妻との間にできたジュスティーヌの存在を忘れてしまうほどに。
「お姉様だって一応お父様の血を引いた子なんだから、何ら問題はないはずよ」
「でも向こうは、あなたを指名しているのでしょう?」
「年頃の、メナールの姫君を、とね。お姉様は二十歳で、メナールの姫。十分条件は満たしているわ」
「それは……私の存在を向こうは知らないから……」
まだ認めようとしないジュスティーヌを、ミランダはばっさりと切り捨てた。
「お姉様がどうおっしゃろうが、わたし、もうお父様とお母様にお願いしてしまったの。そしてお二人とも、ぜひそうしましょうと承諾してくれた。だから、ね? わたしの代わりにグランディエ国へ嫁いでくださいまし」
ジュスティーヌは困った顔をしてミランダを見つめ、やがて諦めたように頷いた。ミランダはよかったと笑みを浮かべる。
「必要な物はすべてこちらで手配するから、お姉様は何もしなくてけっこうよ。あ、でも向こうへ行くにはそれなりに体力を消耗するだろうから、それまでにその痩せすぎの身体をどうにかすることね」
そうしないと国王陛下もがっかりなさるわ、というミランダの意地悪な言葉にもジュスティーヌは儚げな表情で頷いてみせるだけだった。
代わりに彼女の侍女がミランダの言葉にドン引きしていたが、気づかない振りをして「じゃあそういうことだから」と意地悪な笑みを贈って背を向けた。
そうしてジュスティーヌから見えなくなった位置でふと立ち止まり、「よしっ!」と王女らしからぬ声を上げてガッツポーズする。
(これでお姉様も、幸せになれるはずよ!!)
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