お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ

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言い訳

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 ――夫人に酷いこともされていません。

 嘘ばっかり。

 クロエは地下室の一室に閉じ込められていた。

 あの後こっそり屋敷に戻ったら案の定ラコスト夫人にばれており、きつい平手打ちを食わされた。いろいろ暴言を吐かれ、この地下室で反省するよう命じられたのだ。

(明日になったら出られるかしら)

 こうなるだろうとはどこかで予想していたのでそこまでショックはない。夫人の気が済むまで閉じ込めてくれていたらいい。

 とは言うものの、一筋の光も差し込まない室内は怖かった。暗闇で発狂する者がいるというのもわかる気がする。クロエは膝を抱え、目を瞑った。夕食を食べ損なったので眠気は訪れない。だから代わりに姉のことを思う。

(お姉さま、モラン様が会いに来なくなったらやっぱり悲しむかしら)

 アルベリクはクロエの無礼に怒ることもせず、何も言わなかった。というより呆気にとられていた。彼女はそんな彼を置き去りにして屋敷へと戻ってきた。

 彼が次にどんな行動をとるかわからない。

(いっそ腹を立てて来なくなればいい)

 その方が姉のためだ。あんな男、姉に相応しくない。

(どうして結婚なんかしなくちゃいけないんだろう……)

 誰かと添い遂げなくても、一生独身のままでも、子を産まなくても、友人や家族、大切な人と楽しく生きていければそれでいいじゃないか。

(お姉さまと、ずっと一緒にいたい)

 小さい頃。上の兄たちに酷い言葉を投げかけられ、庭で蹲って泣いていた子どもがいる。両親も使用人も気づいてくれない。ただ一人、その子を必死に探し回り、見つけだしてくれた女の子は言ってくれる。

 あなたは私が大好きよ、と。
 言われた子どもは泣きじゃくって何も答えられなかったことを今でも後悔している。あの時言えなかった言葉を、少女はずっと抱えて生きている。

 わたしもお姉さまが好きなの。


「――い、おい、起きろ」

 眩しい光に耐えきれず、クロエは手をかざした。扉から差し込む光。呼びに来たのは兄であった。彼はまだ意識のはっきりしないクロエに早く出ろと急かし、彼女はふらふらと立ち上がって出口へ向かう。

「もう少し上手く立ち回れ」

 彼女が出るやいなや、兄は簡潔に今回の不手際を責めた。はい、とクロエは返事をして謝る。彼はため息をつき、部屋に戻るよう命じた。

「クロエ」
「あ、お姉さま」

 廊下でエリーヌが駆け寄ってきてクロエの腕を掴んだ。

「あなた、昨日アルベリク様とお会いしたの?」
「え」

 クロエが地下室に閉じ込められていたことには触れず、姉は真っ先にそうたずねた。

「ねぇ、クロエ。どうなの?」
「……」

 嘘はつきたくない。でも本当のことを言う気にもなれない。答えないでいるとぎゅうっと腕を握る力が強くなった。

「答えて、クロエ」
「……アルベリク様がお帰りになる姿は拝見したわ。でもそれだけ。向こうはわたしに気づかずお帰りになられたわ」

 エリーヌは食い入るようにクロエの顔を見つめた。かと思ったらふいにふわりと微笑む。

「ね、クロエ。正直におっしゃい。本当はアルベリク様とお話したのでしょう?」

 あくまでも優しい問いかけがクロエの罪悪感を刺激する。エリーヌに対して、クロエは正直でありたかった。

「ごめんなさい。話したわ」
「どうして嘘をついたの?」

 嘘をつかなければならないことでも話したの?
 平坦な声に勢いよく顔を上げて、首を振る。

「違うわ。ただ……あの方が我が家に対してあれこれお聞きになるから……詮索されているようだと感じて不快だったの」

 嘘に真実を混じえて話せば、そうだと思った。クロエは嫌だった。何も知らない部外者であるのに平気で部屋の中を歩き回るような――無礼者だと思った。

「でもお姉さまやお義母さまは彼のことを気に入っていらっしゃるから……だから、言えなかったの」

 どうか許して、とクロエは姉に懇願した。

「……そう」

 姉は空いている手の方で、褒めるようにクロエの頬を撫でた。

「わかったわ、クロエ。正直に答えてくれてありがとう」

 掴んでいた腕を離し、やっと「お腹が空いたでしょう? 後で食事を運ばせるわ」と気遣う言葉をエリーヌはくれたのだった。

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