お姉さまは最愛の人と結ばれない。

りつ

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おまけ 犬と猫

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「あなたって犬みたい」

 アルベリクにそう言うと、彼はわずかに身じろぎした。今彼の頭はクロエの膝の上に行儀よく乗っている。

「犬?」

 下から顔を見上げられるが嫌で、見ないでと命じれば素直に従う。忠犬である。

「ええ。帰って来ると真っ先にわたしの所へやってきて、褒めてくれっていう顔でわたしを見るんだもの」

 今もクロエに髪を撫でられて、心地よさそうにしている。仕事での地位も偉く、もういい年した成人男性なのに威厳も何もあったもんじゃない。

(子どもたちには絶対見せられないわ)

 せめて愛する子どもたちの前だけでは仕事のできる父親を演じきって欲しい。……まぁ、もうだいぶ手遅れかもしれないけれど。

「俺が犬ならあなたは猫だな」

 むくっと起き上がると、彼は体勢を変えてクロエを腕の中に閉じ込めた。彼女はあまりべたべたするのは好きではないので、ちょっと顔を顰めてしまう。

「ほら、そういうところは猫っぽい」

 犬ではないだろうなと思う。

「どんな猫かしら」
「警戒心の強い、毛並みの綺麗な家猫だな」
「気に入らない人間を容赦なく引っ掻く野良猫かもしれないわよ?」

 逞しい胸板に頭を預け、彼の手を弄ぶ。爪が伸びて、やや荒れているのを見て、後で手入れしてあげなくちゃと心に書き留めた。

「あなたの引っ掻きなら喜んで受けるが」

 夫の言葉に呆れて顔を上げる。

「アルベリクさま。そういうこと、くれぐれも子どもたちの前ではおっしゃらないで下さいね」
「あの子たち以外の前ならいいのか?」
「そんなわけないでしょ!」

 以前義兄と義弟が遊びに来ている時、うっかり彼なりの愛の言葉を囁いている所を聞かれ、顔から火が出るほど恥ずかしい思いをしたのだ。今でもたまに思い出して悶絶する。

「夫婦と言えど、節度ある行動をお互いに心がけるべきです」
「……わかった」

 間のある返事に、クロエは疑いの眼差しを向ける。

「本当にわかりましたの?」

 頬を両手で挟み、暗い青色の目をじっと見つめる。ふと悪戯心が起こった。

「ね、犬ならばきちんとお返事して下さらないとわたし、困りますわ」
「犬? ふむ……」

 夫はクロエの期待に応えようとしばし黙り込んだ。そして……

「バウッ」

 と吠えたのだった。夫の返事にクロエは数度瞬きを繰り返した。

「……わん、ではないの?」
「俺が犬と仮定した場合、わんではいささか迫力にかける気がした」

 確かにリアルではあったけれど。

「ふふっ、もう。あなたってほんと、変な所で真面目ね」

 おかしくてクロエはつい笑ってしまった。

「次はあなたの番だ」
「え?」

 口元を押さえて笑みを零す妻に、アルベリクがそっと正面を向かせる。とても真剣な表情である。

「俺もあなたの猫の鳴き声をぜひ聞きたい」
「ええー……いやよ」
「俺だけにやらせておいて、不公平だ」
「不公平って……もう、仕方ないわね」

 こうなっては、夫は意外と頑固である。諦めてクロエは夫の耳元に口を寄せると「にゃーん」と鳴いたのだった。鳴いた途端、びくりと彼の身体が震える。

「……」
「……はい、おしまい」

 恥ずかしくなって、離れようとすると、ガシッと腰を掴まれた。

「頼む。もう一回言って欲しい」
「いや。今ので終わりです」
「俺も同じ回数だけ言うから」
「なによそれ!」

 頼む! いや! というのを繰り返す夫婦の会話を、部屋の外にいる使用人と子どもたちは「またやってる……」と呆れた表情で見守るのであった。

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